今から二週間前、バルガス空港がゆっくりと世の中から抹消され始めた。
近隣区域は閉鎖され、情報規制により報道の類すらされずに、確実に世界から『隔離』されていった。
「全ては理想のため、進化のため……」


マネージャー、ヒールの突然の訪問により、半ば強制的に受諾させられた依頼。
直接レイヴンと顔を合わせて依頼の説明をしたい、との依頼主の希望により足を運んだのは、
セントラルオブアースのとあるカフェ……以前『フリー』退治の時、依頼主と顔を合わせたあのカフェだった。

相変わらずマネージャー同伴で、ひたすら依頼主を待つ。
暇を持て余し、辺りを観察していると、一人の女性が目に止まる。
(……ん?あの子、どっかで……)
つい先程店に現れ、席に座ると書物を取り出し、読みふけっている女性。
見た所20代前半と言った所か。ナンパなどをするような歳でもないため、何故見覚えがあるのかが全くわからない。
左頬にかすかに見える傷跡が、ひどく痛々しく見える。

「お前さん、あんな子がいいのかい?」
プロジェクターの視線の先に気付いたヒールが茶化す。
先程まで落ち着き無く顔を動かしていたのに、急に止めてしまっては気付かれもする。
首を横に振るだけで否定の意思を表すと、リアクションの薄さに興を削がれたのか、ヒールの言葉は続かなかった。

「……来たか」
小さな電子音と共に、ヒールの携帯端末に一通のメールが届く。
どうやら依頼主から連絡があったらしく、二人は指定された店の個室へと向かった。

『関係者以外の立ち入りを禁ず』と書かれたゲートを通り抜け、奥の個室へと向かう。
部屋の中心に置かれた小さなテーブルと、椅子が4つあるだけの殺風景な景色は、取調室のような雰囲気だった。
それだけでもあまり良い印象が無い上に、無人。依頼主から連絡があったというのに、だ。
訳が判らず呆然と突っ立っているプロジェクターとは対象的に、ヒールは早々と椅子に腰を下ろした。
「座れ。じきに来る」
居心地の悪さを感じながら、ヒールの指示に従う。

「うぇぇ~、お茶の間に見せたらクレームで回線飛ぶぞこりゃ」
レミントンのいるキサラギ反対派の前線基地へと合流したジョーとスウィフトは、
自分たちが排除しなければならない相手の姿を、この時始めて見る事になった。
その、あまりにも醜悪で放送コード違反確実の醜さに、ただ圧倒される。

「……で、こんな化け物、俺達にどうしろと?」
目標のあまりの正体不明ぶりに、やや投げやり気味にスウィフトが尋ねる。
よくぞ訊いてくれました!と言わんばかりの様子で、ウィルソンは身振り手振りの大解説を披露するが、
能力の解説ばかりで、肝心の攻略方に入っていかない。
早く本題に入れと急かすスウィフトに、「面子が揃ってからだ」と返答を先送りにする始末。
三人の『不安』という心の霧は、次第に濃さを増していく……

個室にいい歳した男が二人、という居心地の悪い環境の中、五分程待っただろうか。
何か知っていそうなヒールだったが、全く取り合ってくれなかった。とにかく、「じきに来る」の一点張り。
締め上げて吐かせようか、などという荒っぽい思考は、扉の向こうから響く足音にかき消されていった。
「来たか」
まるで、この部屋に近付く者は他にいないとでも言うようなヒールの態度に、自然と視線が扉に向かう。

「へ?」
扉の向こうから現れたのは、先程目に止まって仕方が無かったあの女の子。
予想外の展開に、思わず素っ頓狂な声がプロジェクターの口から漏れた。
彼の妙な言葉に、彼女は扉を半分程開けたまま固まっていたが、ヒールが丁寧に招き入れた。
「じゃ、始めますよ」
一人で仕切り始めたヒールに説明を要求すると、いいから黙って聞け、と制される。

複数のレイヴンが強力してあたる任務である事。
依頼主の詳細を、レイヴンズアークが把握しきれていない事。
プロジェクターは、本来この依頼に当たっている組織に『補充要員』として雇われた事。
『補充要員』の人数は四名であり、自分はその一名である事。
その組織は、とある企業のバックアップを受けているらしい事。

ヒールの長い解説よりも、目の前の女の子の事が頭から離れなかった。
のど元に何かが引っ掛かっているような……そんな、思い出せそうで思い出せない記憶が、気持ち悪い。
あまりにもジロジロと見つめ過ぎたのか、私の顔に何かついてますか?と言われてしまう。
その上、声を聞いても思い出せなかった。益々気味が悪くなっていく。

「……以上だ。コラ、モニター!ちゃんと聞いてたのか?」
もちろん半分以上聞き逃している。

輸送ヘリに揺られている間に、ヒールが語らなかった(聞き逃した)事を少しでも知ろうと、
同行しているあの女の子に尋ねると、彼女は快く話してくれた。
彼女はまず、己の素性を話せる範囲で説明してくれた。

「へ?お宅、レイヴンなの!?」
「そんなに驚かなくても良いじゃないですか。レイヴンの資質に性別は関係ありませんよ」
もっともな話だ。むしろアリーナの上位、それも後ろ暗い噂が無いランカーは、女性の割合が多い程だ。
同業者であるという事がわかると、自然とそれまで彼女に抱いていた印象が変わっていく。
痛々しく見えた頬の傷跡も、むしろ勇ましい勲章のようにさえ見える。

「おいレイヴン!お前のガレージはここで良いんだな?」
ヘリパイロットの言葉が、彼女との会話を断ち切るように機内に響く。
「あ~悪ぃ、ちょっと違うんだが……まぁ問題無いからいいや。降ろしてくれ」
曖昧な返事を返し、一度ヘリを降りる。向かう先は、いつものジャンク屋。
アークから支給されるレンタルガレージの維持費をケチる為に、よく店のガレージを借りているのだ。

「おお、帰ってたのか。整備は一応終わっとるぞ。一応な」
店のガレージに向かうと、作業着姿の店主が迎えてくれた。相変わらずガラクタを組み立てているらしい。
ガレージの一番大きいハンガーへ目を向けると、緑と灰色の巨人が空手で佇んでいた。
店主の言った「一応」の意味が人目でわかる。腕部武装、肩武装、EX全てが取り外されていた。

階段を駆け上り、コアの搭乗口へと向かう。ACに火が入り、ジェネレーターの駆動音がガレージ内に響く。
ACをアッセンブルモードに切り替え、各部稼動チェックの終了を告げる電子音と共に、操作室からの通信が入る。

「なぁ、さっきからあそこにおる娘は誰じゃ?お前さんの知り合いか?」
そう言われて店主の指し示す先に目を向けると、
ヘクトと名乗ったあの女の子が、ガレージの入り口からACを見上げていた。
「そんなもんだよ。それより、アームは任せたからな!」
説明よりも先にやる事がある……そんな意思をこめて、やや強い口調で店主を急かせる。

(大きいな……ジョーのA&Jと同じタイプなのかな?)
(両腕にライフル、肩には……なんだっけ、アレ?左はミサイルみたいだけど……)
壁面から運ばれてくる武装を一つ一つ装備してゆくACを見上げ、己の薄っぺらな知識を総動員させて分析する。
自分と仲間以外のACをじっくりと見るのは、これが始めてだった。
共同戦線を張るレイヴンの機体は把握しておきたかったし、何より好奇心を抑えられなかった。

紫色の頭部カメラが点灯し、ACの周りから整備補助アームが離れていく。
(終わったんだ……)
このままヘリへと向かう筈だ。ならば置いて行かれないように急ごう、
そう思ってACに背を向けたヘクトの耳に、ACの外部スピーカーを通して、プロジェクターの声が届く。
「お~い。なんでここにいるのか知らないけどさ、走って戻るのは、流石にしんどいだろ?」
「乗れって、ことですかぁ~?」
ACへと駆け寄りながら、大声で返事をした。こうしないと、聞こえない。
「似たような物さ。左足の内側にワイヤーのスイッチがある。ハッチを開けて押すんだ」
ACの、人間でいえばブーツにあたる場所の装甲に小さなハッチがあり、
それを開けて中の小さなボタンを押すと、コアの側面から一本の取っ手の付いたワイヤーが静かに降下してきた。
「あ……」
「上のやつを手で握って、下に足を乗っけるんだ」
いつの間にか、操縦席から抜け出したプロジェクターが、コアの側面から顔を出している。
言われた通りにワイヤーを握ると、ゆっくりと上昇して行った。

手を引かれてコアによじ登ると、命綱らしきロープを手渡される。
「え?これって……」
「コクピットは複座じゃないんだからさ、頭にでもへばり付いといてくれ」
そう言って、プロジェクターはさっさと操縦席へと戻ってしまった。
(ヘリで大人しくしてればよかったかも……)
自分で考えた末の行動だったとはいえ、流石にこのような目にあうとは思っていなかった。
しかし、最早手遅れ。
ACの頭部にしがみ付いた彼女は、凄まじい振動と時折稼動する頭部に振り回され、
絶叫マシン顔負けのスリルを、じっくりと味わう事になった。

「うぅ……」
「いやいや、お待たせしました。そんじゃ出して良いぞ」
やけに衰弱しているヘクトが気になったが、言われた通り、ヘリパイロットはヘリを離陸させた。
二人のレイヴンと、一体のACを乗せたアークのヘリは、合流地点へと向かう。





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