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永い間、悪夢を見ていた様な気がする。
瞼に閉ざされた眼球がぴくりと痙攣し、微量の涙を排出する。
しばらくの間、目を開きたくなかった。ずっと微睡んでいたかった・・・
恐らく、悪夢をみていたのだろう。夢の中ではなく、目を開いた先―現実で

(嫌だ)

瞼の裏側に断片的な光景が浮かび上がる。閃光と爆発、崩壊する都市。
蹂躙される軍隊、浮かび上がる絶望のシルエット―
それは巨大な人の形をしている。
神話のサイクロプスだ。
赤い巨大な瞳が敵意を浮かべてこちらを睨み付けている。
悪魔だ、悪魔だ悪魔がやってきた、あくまが―


酷い頭痛がした。
気怠い体を起こし、辺りを見回す。
飾り気のない部屋だ。寝ているベット以外ほとんど調度品はない。
無機質なコンクリートの壁、私の部屋だ。
私は溜息をつくとベットの横にある時計を見た。6:25―早朝だ。
まだ依頼の時間まで余裕がある。少し眠らなければならない。

(まだ夢に見るのか、私は―あの時の事を・・・)

今でも脳髄にこびりついているあの声、悲鳴、轟音、映像
守るべきものだった。死なせるわけにはいかなかった。
あの死んだ者の、亡霊の感触、ぬくもりも冷たさもない。魂のない肉の塊―


   *
         o
               + 吐き気がする。酷くあたまがいたい・・・



9:12―冷たい雨が降っている。
耳元からオペレーターが訊ねてくる。
『レイヴン、今回の作戦について説明します。』
「ああ、頼む」
私は機体の最終チェックをしながら返答を返す。
『今作戦は武装勢力の鎮圧、現在第3管区市街地を襲撃中です。
護衛のMTもいますが・・・時間の問題でしょうね」
「敵の勢力は?」
『確認できただけでMT12機、戦闘ヘリ10機』
「ほう」
『レイヴンを雇ったとの情報もあります。』
「成る程・・・助けないワケにはいかないな」
『他に質問は?』
「ああ、ひとつだけある」
『なんでしょう、レイヴン」
「その地区に、教会はあるか?」


「作戦領域到達」
赤と白に分けられたツートンカラーの機体。
両腕に異なる種類のブレード。
両肩ではチェインガンが自らが踊る出番を待ち、沈黙している。
中世の甲冑を思わせる機体が市街地に投下された。
機体投下と共に舞い上がった噴煙が視界を一瞬覆い、一瞬で晴れた。
『敵反応、確認。距離715』
「了解」
戦場に舞い降りた私は住宅区画を移動し始めた。
ジェネレーターから送り出されるエネルギーが蒼い炎となって
機体を前へと進めていく、心地よい振動を感じる。
レーダーに2機の敵影が映る。MTのようだ。
私は速度を落とさないまま区画を曲がり、視界にMTをいれた。
(2機か、楽勝だな)
そのままの速度で一機に斬りかかる。
高出力のエネルギー刃が装甲を紙のように切り裂き、破砕する。
「敵襲!?ACかっ!!」
残りのMTのパイロットが声を荒らげる。
MTの機銃とロケットランチャーを苦もなく避わし、二太刀、三太刀と斬撃を繰り出す。
いとも簡単に装甲を切り裂き、動力部を引き裂く。
二機のMTの残骸が瞬く間に私の目の前に転がる。
あっけない、人の命とは酷く軽い。

私の脳裏にモノクロームの映像が映る。
古い小さな教会だ―屋根の上で作り物の風見鶏が風を待っている。
鐘が夕刻を知らせている。
教会の敷地内で、小さな子供達が遊んでいる。
それはまるでひとつの絵画の様に、綺麗にそこにある。
ゆっくりと息を吸う。苦い空気が肺を満たす。

そう―全てはそこから

神父様 いったい、な にがあった、のです

     ぼくのまちは どこに―

  しん ぷ さ    ま―

「・・・!!」
吐き気を憶え、手で口を押さえる。
気配が伝わったのか、オペレーターが訝しそうに訊ねてくる。
「どう・・・しました?」
失語症に憑かったように、私は沈黙した。舌が口腔の中でちぢこまっている。
数分、或るいは数秒かの沈黙を挟み、私は答えた。
「神に祈りを―捧げていただけだ。」
「はぁ・・・?」
くだらない解答をした後、私はいたく後悔した。


その後の戦闘は簡単に終わった。
機銃掃射をするヘリにチェインガンを撃ち返し、MTをブレードで破砕する。
冷雨が降る住宅区画に、黒煙を上げる残骸が増やされていく。
見た所、住人の避難が迅速だったのか、市街地に人気はない。
(あの日もこの様に・・・対応ができていれば)
一度収まった頭痛がまた復活の兆しを顕わす。

   *
         o
               + 私はそれ以上のもの思いを思考の奥底に沈める事にした。

『予想よりも早く終わりそうですね?』
オペレーターから通信が入る。
「ああ・・・しかし何か、違和感があるな」
『?』
オペレーターが疑問符を浮かべる。
「敵が出てくるのが散発的過ぎる。とてもACに対しての対応とは思えない。」
『確かに・・・そうですね』
私は周囲を警戒しながら移動を続ける。
時折ビルの陰から飛び出すMTを軽くあしらいながら進む。
いつの間にか市街地の壁側まで来ていたようだ。
『周囲一帯の敵反応、消滅』
「・・・杞憂だったか」
私はレーダーとモニタを注意深く見つめながら呟く
(ACはどうしたのだ・・・?それに護衛のMTも)
刹那、脳裏に警戒信号が点灯する。
『レイヴン!』


オペレーターの声よりも早く―私は全速力でその場を飛び退いた。
膨れ上がる閃光、圧倒的な熱量。
ちょうど機体が立っていた場所にグレネードが着弾した。
『敵AC!?そんな今の今まで反応なんか―』
ビルの上に―
「可能なんだよ、オペレーターサン」
サイクロプスの様な一つ目が敵意を持ってこちらを睨み付けている。
骨の様な細身の機体、二本の牙の様にアームグレネードが飛び出ている。
黒とベージュにカラーリングされた機体。
両肩には、得体のしれない装置を装着している。
「こんにちわ、カテドラル」
小馬鹿にした様な男の声が響く。
「賞金をもらいにきたよ?神にお祈りはいいのかい?」
私はにやりと笑う、相手の自信を感じる。
「やあ、こんにちわ」
EOを展開し、ブレードの内部タービンを唸らせる。
「名前も知らぬ弱小レイヴン殿、墓碑銘は何がいいかね?」
男の声が不機嫌を帯び、揺れる。
「黄泉風、宗派が違うね」
「それは残念」
敵AC「黄泉風」がアスファルトを砕きながら着地する。

「さようならだ」


オペレーターの緊迫した声が脳髄に響く。
『敵AC「黄泉風」、機体名「コート・G・ヴアォール」!』
一瞬ノイズで声が途切れる。
『軽量機に腕部グレネードを搭載、詳しい情報は明らかではありませんが、
一般に使用認可されていない特殊装備を携行しているとの事、十分に警戒して下さい!!』
恐らく両肩の得体の知れない機器の事を示唆しているのだろう。
私は機体を左右に動かしながら距離を詰める。
それに「黄泉風」も呼応するかの様に高速で肉薄する。
(特攻して砲撃を繰り出すタイプか?)
私はステップしながら一気に敵の横へ回り込む。
「黄泉風」は空中へ逃げ、こちらへサイトを合わせようと旋回する。
(もらった!)
タイミングを測り、ブレードの必中距離まで肉薄する。
「無駄だ」
「!?」
モニタに映っていた「コート・G・ヴォアール」が消える。
背後に回り込まれた、上空に逃げられたという事ではない。
まさに「消えた」のだ。
私は操縦桿を殴りつける様な勢いで横に倒す。
機体が空中で揺れる。
刹那、爆音と共に火球が虚空に出現し―横を通り過ぎる。
機体が激しくシェイクされ、危なげに機体が軋む。
《腕部損傷:被害軽微》
完全に回避できなかった事に舌打ちしつつ私は地上に着地する。
「ははは、どうだい?見えない敵と戦うのは?」

「小手先芸だな」
私は旋回し、「黄泉風」から距離を取る為に後退する。
後方から聞こえる不気味な滑走音を感じ、すぐにビルの陰へ隠れる。
間髪入れずグレネードが地面に着弾し、いびつなクレーターを形成する。
私は「黄泉風」を挑発する。
「姿は消せても・・・ちゃんと当たらなければどうという事はないぞ?」
怒りに軋んだ声が聞こえる。
「貴様・・・」
(EOが反応しないな―永続型のECMか?)
蜘蛛の糸の様な市街地を移動しつつ考えを巡らす。
幾多の戦闘経験から最良の戦闘スタイルを計算する・・・。
(敵の射撃の腕はたいしたものじゃない。射撃の瞬間さえ見逃さなければどうということはない・・・問題はこちらの攻撃か)
視界のすぐ前を大火力の砲弾が掠める。
着弾したビルが崩壊し、ガラスの砕片と瓦礫を撒き散らす。
破片が機体に降りかかる。「コンヴィクション」の装甲が甲高い悲鳴をあげる
舌打ちし、すぐにその場から離脱する。
(いらいらする相手だ、正面きって戦おうとしない。面白みのない戦いだ。)
戦闘とは古来の騎士の様に正々堂々と行われるべきではないのか。
戦場にも神はいる。そして神は戦場での卑怯は許さない。
卑怯な戦いは神への冒涜だ。
―私を苛んでいた偏頭痛が消え、頭が冴えていくのが分かる。
不均衡に対しての、背徳に対しての怒りだ。
(姿を見せないのならば、「視」えるようにするだけだ)

作戦はすぐに決まった。私は反撃を開始した。


「コート・G・ヴォアール」のパイロット「黄泉風」は完全に怒り狂っていた。
グレネードが一撃も当たらないばかりか、二度も挑発されている。
ランカーACだかなんだか知らないが、許せたものではない。
幸い―いや当然だがこちらの光学迷彩は有効に作用している。
流石に危険な「取引」を行っただけはある。
(あいつは永遠に俺を見つけることはできまい・・・油断した所を破壊してやる。)
かさかさに乾燥した唇を舐める―空気が苦い。
(グレネードの装弾数はあと25発、十分に殺し尽くせる。)
「黄泉風」はゆっくりと行進する。
間違ってもブースターを使用してはいけない。
光学迷彩はブースターの噴射光までは完全に隠し通す事ができない。
通常の戦闘なら気兼ねなく使うだろうが、敵はかの「カテドラル」だ。
接近戦を極めた手練れだ。警戒するにこした事はない。
レーダーが近くに敵を捉えた、零距離から一気にケリをつけてやる。
静まり返ったビル街をブースターの噴射音が一定のリズムで震わせる。
「カテドラル」はすぐ近くまで来ている。恐らくビルの向こう側だろう。
「黄泉風」はビルの壁面に機体を預け、標的が現れるのを待ち続ける。
(動かなければ、おまえは俺を見つけられまい)
地面を擦る―悲鳴の様な音が聞こえた。
「・・・来たか!!」
見えた―西洋の甲冑の様なACがこちらへ近づいてくる。
手に握った操縦桿が汗で滑る。引き金に指を掛ける。
刹那―
「カテドラル」が、チェインガンを発射した。


肩に鎮座する大口径のチェインガンが砲火を放つ
1秒32連射の効力射が無骨なリズムを奏でる。
着弾したビルは一瞬で蜂の巣になり噴煙と共に倒壊する。
「ぬうっ!?」
「黄泉風」の狼狽した声が聞こえた。
私は狙い通りの結果に笑みを浮かべつつその場で停止する。
「確実に当てるには・・・静止して標的を待つのが確実だから、な」
私はゆっくりと行進する。
「特に見通し易い広い街路、そして敵が不注意になる方向転換の瞬間」
一刹那、言葉を止める―その意味を考えながら
「予想はできるんだよ―あとは、偶然」
噴煙は数秒で収まっただろうか―噴煙の中からシルエットが現れる。
「貴様・・・」
「黄泉風」の声は怒りに震えている。
「光学迷彩というのはデリケードなようだな?砕片と噴煙ですぐ故障する。」
「・・・っ!!」
完全に激昂したようだ―突進するような速度でこちらに接近してくる。
私はそれに応えるべく、身構える。
至近距離でグレネードが発射される。
だがサイトの狙いが甘いのか、見当違いの場所に着弾する。
素人じみた射撃の腕だ。

(神はおまえを震わせるだろう)

私は「黄泉風」に接近する。
接近と同時に繰り出されたブレードが「黄泉風」のアームグレネードを
斬り飛ばす。その衝撃で「黄泉風」の機体が大きく揺れた。
近づき過ぎた事に気づいたのか―後退しようとする、だが、遅い。
「馬鹿な・・・!!」
射突ブレードの内部機構が複雑に作動し、炸薬が装填される。
ACの頑強な装甲を易々と突破し、内部機器を破壊する槍が―

「コート・G・ヴォアール」のコアに深々と突き刺さった。


多少機体が痛んではいたが―問題なく作動する様だ。
私は溜息をつくと先刻まで戦闘を繰り広げていた敵の残骸を見た。
生命反応はない。当然だろうコアを破壊したのだから。
陰鬱な感情が胸に広がる。
3年前に、あるレイヴンが私の住んでいた居住区画を襲撃した。
その襲撃の理由は曖昧模糊として分からない。
さる企業の秘密の実験場があったともいうし、研究所から重大な情報を持ち出した
研究者が潜伏しているという情報があったともしていた。
だが真実がどうであれ、街は破壊された。
その辺りの記憶は定かではない、私は過去を封じ込めてしまったのだ。
憶えているのは、かつて私が聖職者であり街の教会にいた事。
そして襲撃の際に教会は―
『レイヴン!?応答して下さい!レイヴン!!』
突然のオペレーターからの通信に私ははっ、とした。
『無事ですかレイヴン!?状況を報告して下さい!』
朦朧とする頭を整理しながら通信に応える。
「ああ、襲撃したレイヴンは撃破した。少々市街地に被害がでてしまったが・・・」
『気を付けて下さいよ、報酬が悲惨な事になっちゃいますから』
「あ、ああ・・・悪いな」
どうにも私は普通に人間と話すのが苦手らしい。
特にオペレーターの様な悪意のない、善良なタイプが苦手の様だ。
『護衛のMTの無事も確認できましたので、帰還して下さい。』
「了解」
私は機体を立ち上げる。陰鬱な感情は多少収まっていた。
目の前に横たわる「黄泉風」を見て、小さく呟く

「アーメン」

私はゆっくりと帰還を始めた。




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