[PM 12:00 ウォルター資材保管区]

 今から約1時間前、戦術部隊とバーテックスとの間で小競り合いが起こった。
 お互い、MTと航空戦力のみの戦いで、単純な数と数のぶつかり合い。
 しかし、バーテックス陣営の戦力が明らかに少なく、その上部隊全体が不審な行軍を行っていた。
 自分からアライアンス側の陣地に突っ込み、そのまま特に目的も果たさずに後退しているのだ。どう考えたってその意図は丸判りになる。
 戦術部隊の本隊をおびき寄せる作戦であろうことは、容易に予想できた。

 戦術部隊長のエヴァンジェは考えた。この罠を逆手に取れないものかと。
 その結果、部隊全体は敵の後退先まで追い詰め、たどり着いた先の本拠地は単独の戦力…つまりACクラスの武力で制圧すればいい、と。しかも、どうやら撤退する先はウォルター資材保管区のようだ。
 資材保管区は、地上から地下へと大きく長く網の目のように伸びており、さらにその先から敵が現れる為、バーテックス本拠地であるサークシティにも直接繋がっているとも考えられていた。

 エヴァンジェは、この時ちょうど近くに駐屯していたトロットに指令を送った。
 『わざと取り逃がした敵リーダー機を追跡、資材保管区を調査しつつ敵の戦力を削れ』と。


 トロットは再び戦場へと立った。
 今度は死なさずに追いかけなければならない。トロットは頭の中で、ウサギを追いかけるシーンを思い浮かべた。
 そして、自分はそのウサギをわざと殺さずに、隠れ場所である巣穴へと導いてもらうわけである。

 地上からのゲートが開かれ、ウォルター資材保管区への入り口が開かれる。
 白いAC、バリオス・クサントスは、白い天馬のごとく、地下へと口を開いている保管区へと舞い降りた。

 『メインシステム、戦闘モードを起動します。』

 いつもどおりレーダーを確認、するとそこに映るのはウジャウジャといる敵の防衛部隊。
 明らかに外にいた数よりも多い。
 (奴等は、窮鼠猫を噛むという言葉を知らないらしいな。)

 とにかく、敵リーダーを見失うわけには行かない。バリオス・クサントスは四脚を動かし前進を始めた。
 おそらくは、通路の要所要所に防衛部隊が待ち構えているのだろう。いつでも応戦できる準備をしなくては。

 バリオス・クサントスは、肩のリニアキャノンを構えながら注意深く行軍を開始した。


――――――――――――――――――――――――
 順調に進軍を始めてから、約30分後。
 途中、何度かグレネードの砲弾や小型無人MTのラットの機関銃などの妨害を受けたが、そのたびにMTを物言わないスクラップに変えて追い続けた。

 そして敵リーダー機の動きが止まった。つまり……本拠地が近いか、待ち伏せがしやすい大きな部屋――ターミナルエリアがある。
 レーダーの動きを見ると、どうやらご丁寧に、トロットが付いてきてくれるのを待っているようだ。

 (馬鹿げた連中だ、こんな浅い罠にかかる奴がいる、とでも思っているのか?)

 トロットはブーストを吹かし、一気に移動スピードを上げた。


 追手の移動するスピードが上がったのに驚いたのか、MTは慌ててゲートを開き、その奥へと入っていった。

 『バカめ、これが罠とは知らずに付いてくるとはな……こんな罠にかかるなんざ、戦術部隊も大した事ないなッ!』

 バカはお前だろう、と半ば呆れ顔のまま、トロットはMTが逃げ込んだ部屋に足を踏み入れた。
 その先は案の定広い部屋……ターミナルエリア(中継ポイント)だった。
 しかし……ここに来てトロットは不思議に思った。これだけの大きな部屋だ、数なり、ACなりで待ち伏せするならもってこいの場所だ。
 なのに……なのになぜか、この部屋に入ってきた彼ら以外には何者もいないのだ。

 不気味なほどに静まり返った部屋。
 (何かの罠か…!?)
 そう思ったトロットは、何かされる前に敵リーダー機を破壊しようと、身構えた。だが――

 『なっ、み、味方部隊は!?』

 明らかに動揺した、敵MTのパイロットの声。どういうことだ?
 『おい、誰か!誰もいないのか?!お、おおおいッ!!ち、ちくしょうッ話が違うじゃねぇかっ!!』
 半ばヤケになって上ずった声が、虚しく通信回線に響く。

 ……こいつは味方に見捨てられでもしたのか。ならば、敵はこのMT一人。
 行動不能にしてパイロットを生け捕りにでもし、拷問でも自白剤でもいいから、バーテックスの内情を語ってもらうことにでもするか。
 そう考えたトロットは、行動に移した。
 武器腕レーザーキャノンを高攻撃力モードにチェンジし、敵MTの足を狙って発射……
 する前に、上からガオォォンという轟音と共に、高出力のレーザーが敵MTに放たれ、その機体を貫いた。
 「なッ…!?」
 突然の奇襲、そして地面に着地し、現れたのは、白い重装AC――フォックスアイ。
 バーテックスのリーダー、ジャック・Oがなぜこんなところに…・・・いや、そんなことより、
 (なぜ現れたのに気づかなかった、レーダーは……!?)
 トロットは、慌ててレーダーを見て気が付いた。
 (ECMレベルが2000を超えているだと…?)
 部屋の天井に目をやると、やや大型のECMメーカーが浮遊していた。その影響で、バリオス・クサントスのFCS、レーダーは使い物にならなくなっていた。

 だが……これはチャンスだ、今やつを倒せれば、ここで終わる。

 各種計器はまともに機能していないが、バリオス・クサントスは臨戦態勢に入る。
 目標は……ジャック・O――フォックスアイ。

 トロットがこの現状で自分と戦おうとしているのを見て、ジャックは冷静に語りかけた。

 『この状況で、私に勝てると思うのか?……トロット・S・スパー君。』
 「馬鹿にしてくれるな、貴様こそ、護衛もつけずにノコノコと……おめでたい奴だな。」
 言うが否や、バリオス・クサントスはフォックスアイに襲い掛かった。
 空中にすばやく跳んだバリオス・クサントスは、標準を自力で敵ACに合わせ、レーザーを発射した。
 が、その前にフォックスアイはオーバード・ブーストを起動させていた。
 赤い閃光は、フォックスアイの居た場所に虚しく落ちた……それだけならよかった。

 「…!、グッ…!!!」
 『脚部破損、ブースターに障害発生、推力35%にダウンしています。』

 オーバード・ブーストの瞬発移動と共に、フォックスアイは右手に持つハイレーザーライフルと、左手に持つグレネード砲を同時にバリオス・クサントスに放った。
 目にも止まらぬ雷光と灼熱。その攻撃を、バリオス・クサントスは両方とも脚部に直撃させられてしまった。

 (クソッ、現役時代よりは腕は衰えたと聞いていたが……まさかこれほどとは…)
 基本的な、レイヴンとしての根本の強さが違う。
 そしてそれらは、トロット・S・スパーの強さを遥かに凌駕している。

 『まだ、無駄な足掻きをするかな?』

 静かに質問してくる、ジャック。まるでトロット自身にはまるで興味を失ったような感じがした。
 …それがトロットの癪に障った。

 「黙れッ!!」
 そう叫ぶと、肩のリニアキャノンを目の前のACに発射させる。が、ECMの影響でまったく命中しない。
 そもそも、バリオス・クサントスは脚部に異常をきたし、旋回もろくに出来なかった。

 『……まだこの場所は使い道がある。あまり暴れられては困るな。』
 誰とでもなく、そう言ったジャックはバリオス・クサントスに銃口を向けて……発砲。

 『コア破損、腕部破損、右肩武装破損、AP10%、危険です。』
 糞真面目に頭部COMの電子音がACの現状を淡々と読み上げる。
 (弄り殺すつもりか…ッ?)
 屈辱だった、こんなにも力の差を見せ付けられるとは。
 そして、ゆっくりとすでに動けなくなったバリオス・クサントスのコアにハイレーザーライフル、KRSWの銃口が合わせられた。

 『…………』
 「くっ、殺すなら……早く殺せッ!」
 『……いや、ひょっとしたら………』
 「……………?」
 『ひょっとしたら、この数時間の間で化ける可能性も無くは無い……か。』
 独り言のように呟くジャック・O。トロットは蛇に睨まれた蛙のように、成り行きを見守ることしかできなかった。

 合わせられていた死の銃口は、ゆっくりと下ろされた。

 『彼に……エヴァンジェによろしく伝えといてくれ。』
 それだけを言うと、フォックスアイはゲートを開き、その奥の通路へと消えていった。
 彼が行った先のゲートが完全に閉じ、彼のACが見えなくなるまでトロットは息が出来なかった。

 (これが……“カリスマ、ジャック・O”………クソッ!!)

 トロットは、その強大な相手に立ち向かい、命こそはあるものの敗れた。
 自分は、敵のあまりの強さに……屈服したのだ。

 悔しさが、自分への侮蔑が、彼の頭を駆け巡る。

――――――――――――――――――――――――

 トロット・S・スパーは、自分の力の未熟さを思い知らされた。
 そしてこの事が、後の数時間後の彼の運命を変えるのだった。

 死ぬか、生き残るか、残ったレイヴン達を中心に、死のサバイバルは進んでいく。
 次にその身を亡骸へと変えられてしまうのは、いったい誰か……

 運命のその時まで、刻一刻と迫る。


【アライアンス戦術部隊 -リサーチ報告-】

  • 11:04 戦術部隊所属レイヴン、プリンシバル戦死。
護衛に飛行部隊を引き連れるも、バーテックス側の雇ったレイヴンに撃破された。
なお、このレイヴンは先のファザード前線基地を強襲したレイヴンと同一人物である可能性が高い。

  • 12:09 ジャウザーが、武装組織に鎮圧に成功。
戦術部隊遊撃軍のレイヴン、ジャウザーが武装組織の鎮圧に成功した。
この戦闘にて武装組織のリーダーでもある、レイヴン「ホット・スパー」も同時に撃破。
武装組織は全員粛清、保管されていた物資を回収した。

  • 12:50 バリオス・クサントス撃破、トロットは健在。
本人の報告によると、資材保管区にてジャック・Oと接触したとのこと。
戦闘になったが強力なECMが予め配備されており、惜しくも取り逃がした。
なお、彼のAC「バリオス・クサントス」は、ほぼ完全に撃破されたが、パイロットであるトロットは奇跡的に無傷だった為、戦線に復帰。





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