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少女と出会ってから、何度目の朝だろう。
長い時が経っているようで、実はそんなに日数は経っていない。
今日もまた、少女と共に目覚める。
気分は、あまり良くない。これからの事を思うと、良くなるはずもない。
これから少女は、まるで尋問のような扱いを受けるのだろうか。
犯人について知っている事。レイヴンとして今迄やって来た事。
第一、彼女がレイヴンだと信じてもらえるのだろうか。情報に、信憑性はあるのだろうか。
そんな事を、クレリスに言ったら彼女は真剣に答えた。
「クリフを連れて行く、勿論、彼が拒否しても絶対」
そして無理矢理に連れてこられた男、自称天才クリフ。他でもない彼女のACの管理をしていた人物。
アリアとは、初対面ではなかった。

「お、あん時の姉ちゃんじゃねぇか?」
「あん?何?」
が、アリアは彼の事を覚えてなかった。
クリフに(半ば脅迫めいた言葉で)指定した公園でのやりとりである。
「もの凄いおっかねぇ顔でエレベーターに突っ込んだろ?覚えてねぇのか?」
「…居たような、居なかったような」
必要な事しか覚えない、そしてその判断を下すのは自分。それがアリアの基本思考回路。
そしてアリアがクリフに下した判断は、不必要。
「まぁ、いいか」
クリフもまた、それを気にかけない。天才はくどくど考えないのだ、とは彼の弁。
「アリア、それで私は何処に行けば良いの?」
「あ、うーん。二人には別々の部屋で話を聞くって」
噴水を背に、そのまわりに腰掛ける三人。
あたりにはそれなりに人が多く、ベンチや芝生の上で朝食を取る人も居る。
周りはビルばかりでお世辞にも良い眺めとは言えないが、これはこれで壮観である。
「別々に聞き出して同じ事を言ってれば信憑性あり…って事か?面倒だなぁ、おい」
クリフが本当に面倒くさそうに欠伸をした。

「とりあえず、クレリスはカールが応対する…はず」
最後の言葉が下がり気味だったのを、二人は気づいたが問わない。
此処に居る3人全員が、細かい事は気にしない。そういう人間なのだ、偶然にも。
二人に各々場所を説明し、先へ行っててくれと告げてアリアはその場を後にした。
偶然にもその公園の端に見覚えのある人物が店を構えていたからだ。
別段用は無かった、が何故か会っておきたい気分だった。
訳の分からない事を自分に言い残した、その意味をもう一度聞いておきたくもあった。
アリアは、占い師カヅコ・ホリキの前に立った。

「…あんた、そう…あんたに言いたい事があってね」
自分より先に、いや、元々自分にも何か言いたい事があったわけではないのだが。
彼女はアリアにそんな事を言った。アリアは短く答えて、それを促した。
「実はねぇ、前の占い。なんか違うみたいなのよ」
「協力者が…なんとか?」
「そうそれ、あんた忘れてたのかい?」
図星である。
「だって意味が解らないんだもん」
すねてみても、カヅコはそれを放っておく。
「それでね、再度占い直したらとんでもない結果が出たのよ」
「とんでもない…?」
「良い?言うわよ?」
確認をしてみるが、前回同様やはり答えを聞かずに話し始める。

「協力者は、トロイの木馬。そしてあんたは、動じちゃいけない。何事にも、冷静に対処しなさい」
短い、結果報告だった。
(トロイの木馬?)
トロイの木馬、そういう伝説があるのは知っている。
要するに無害を装う有害なもの、とこの場合はとっても構わないのだろう。
「私に、これから何が起こるって言うんですか?」
「さぁ、所詮は占いだからねぇ…」
その割に、気味の悪い事を言う占い師だ。とアリアは思わざるを得なかった。
「協力者って…誰だろう」
「…あんたと、やっぱり、親しい人間だね」
「それが…トロイの…木馬?っていうか、敵?」
短い沈黙、後にアリアは信じられない言葉を聞いた。

「俺は此処だぁな、しっかりやれよカリム」
手をひらひら馬鹿みたいに振って最後に声をかけたクリフ。
「貴方じゃないんだし」
と返すも、既にクリフの姿は無かった。
暫く歩いて、扉の前に立つ。2回、ノックをすると声が返って来た。
男の声だ、若い。警察のお偉いさんだと、若くはないと思って居たクレリス。
扉を開けると、そこにはやはり若い男が一人。物憂げな顔で椅子に座っていた。
アリアの元恋人・カールがそこに居た。

アリアはまた走った。
(最近走りっぱなしだな…って、そんな暢気な事言ってられないか)
ここから本社はそこまで遠くない、トロイの木馬の正体は、既に解っている。
信じたくはないが、仕方が無い。思い当たるのは一人だ。
ただの占い。たったそれだけだが、疑う気持ちはまったく無かった。
信じざるを、或いは得なかったのである。
そういう何かを、彼女は持っていた。
勿論、思い過ごしであればそれで良い。いや、その方が良い。
アリアは走った。

「君が…クレリス…レイヴン・カリム?」
憂いを帯びたたままの顔で、カールは聞いた。
クレリスはこの反応を怪訝に思ったが、気にせず答えた。
「ええ、私がクレリス・ワス・カリムです」
「そう…いや、まぁ良いか。君からは色々と話を聞かなきゃいけない」
(まぁ良いか?)
どうも言動が引っかかる、一体この男は。
やっとクレリスは思い出す、彼がアリアの元恋人であると。
そしてその彼が、思いも寄らない事を言ってのけた。
「まぁ、これは僕の苦労話なんだが、いやぁ本当に苦労したよ…」
オーソドックスな応接間でカールが、淡々と語り始めた。
クレリスの話を聞くためだったはずの彼が、自分の「苦労話」を。

「一体何を…?」
クレリスは疑問を声にしたが、カールは堂々と無視して話しだした。
「こんな所に入り込んで、色々細工して、それでもやっとレオンを始末するよう仕向けた」
奇妙な男だ、なにより、話している事が奇妙だ。
「レオン…仕向け…」
この男は、知っている。何もかも、そして今「苦労話」をしている。
クレリスは自分が危機的状況にあると、今やっと理解した。
「大体フェイがしくじるからいけないんだ。だから僕がこんなやっつけ仕事をしなきゃいけない」
大げさに芝居がかった台詞とともに呆れるように手を広げる。
憂いを帯びた顔は、既に狂気を帯びていた。
再会したときの、ルークの顔がクレリスの脳裏によぎる。
(まずい…)
思わず椅子から立ち上がる。が、目の前に銃口が突きつけられた。
「こういう仕事は僕に向いてない。いや、まったく。だからさっさと終わらせよう」
口元が奇妙に歪み、笑みともとれる形を作った。

『協力者は、あんたと非常に親密な人物だ。例えば、家族、恋人とか』
先ほど迄のカヅコの言葉が脳裏をよぎる。
『あんたにこうして占いの結果を告げる。そうすれば良い、それが私自身を占った結果なの』
なんだろう、やっぱり当てはまるのは彼しかいない。
捜査上重要な立場にいて発言権を持ち、自分に親密な人間。
なにより彼はレイヴンに精通した情報屋である、言ってしまえば彼の情報の信憑性は殆ど無い。
そして彼の提示した情報で自分はレオンを追いつめた。
だが結果はどうだ、彼は死んだ。それも完璧に用意されていた自殺とも言える方法だ。
もちろんそれを行った人物はまったく解らない。
だが場所はここ本社の隣である。結構簡単に行き来が出来てしまう。
此処に居る場所の多い彼ならできない事ではない。
やっぱり、当てはまるのは彼しか居ない。
信じたくも疑いたくもないが、捜査官として確かめないわけにはいかない。
部屋に入り、ただクレリスの安否を確認。いや、ただ側で一緒に話を聞けば良い。それだけで良い。
アリアは走った。着替えなんてしてる筈も無い。
廊下をまがり、階段を駆け上がり、クレリスの居る応接間へ。

(そうだ…クレリス…真実を知る人間が此処に…居るんだ)
既に自分の中で決意は固まった。彼は、彼は…
着いた。
此処をあければ全てが明らかになる。自分が馬鹿だった、とそう思えるかもしれない。
ドアノブに手をかけ、回した瞬間。部屋の中から一発の銃声が聞こえた。
消音装置を使った、小さい音。ドアの前に居たアリアだからこそ、その音が解って、そして絶望した。
彼女は、銃を構えドアを思い切り蹴り開ける。同時に、叫ぶ。
「クレリス!」
銃をカールに向ける。目でクレリスを確認しない。
カールだけを見据える。銃を持ったカールだけを。
それでも視界の隅に、横たわる少女の背中が見えた。

「アリア…?なんで君が此処に居る?」
「何言ってんのよ!あんたこそ何やってんの!」
叫んだ。が周りに人は居ない。クリフの居る部屋もまた、遠い。
カールは飛び込んで来たアリアにも銃口を向けた。
アリアもまた、カールに銃口を向けている。硬直を招く状態。
「…後始末だ」
「っ!」
思わず引き金を引きそうになった。元恋人と言えども、少女に発砲した男に。
彼女はチラリと少女の姿を見た、そして確認した。
(…どう、すれば良い…?)
「アリア、銃を下ろせよ」
嫌な笑みを浮かべて無理な事を言ってのけるカール。
「あんたも…下げなさいよ。拉致あかないでしょ…」
「やだよ、下げるのは君だ」
本当に、拉致があかない。

(どうする…?気を…引けばどうにか)
カールはしっかりと銃を構えている。隙は、どこにもない。
油断させるか、何かに気を引かせるかしなければ成らない。
ふと、自分の格好を見る。ブラウスとスカートだけ。熱いから、という理由の軽装。
(ベルトで叩き落とす…いや、そんなことしたら…あ、そう…か)
ニヤリと、彼女は思わず笑いそうになったところを無理矢理変えた。
苦痛の笑みに、カールには見えた。
「前の傷が…痛むのか?さて、この状態をどうする?」
「あ…はは。ただの…生理痛」
右手で銃を構えつつも、左手で腹部に手を添える。そこから、ベルトに触れる。
「アリア、君が現れるのは予想外だった。適当に偽装しようと思ってたのに…これじゃあ」
「いいざまよ…馬鹿やるからこういう目に…」
彼女は行動に出た。

誰もが予想し得ない行動。誰もが、驚かずにはいられない行動。
アリアが求めていたのは、カールの一瞬の躊躇、あるいは戸惑い。
彼は、気づいていない。何も、気づいていない。
彼女は手にかけたベルトを外し、緩めた。
(自慢の)細いウエストからベルトでかろうじてとめられたスカートが抵抗を失い、落ちる。
まっさかさまに、落ちる。
銃を構えた人間が、いきなりスカートを脱ぐ、もとい、ずり落とす。
床にパサリと落ち、勿論アリアは下半身下着姿となる。
常人には、驚きしか生まないこの行動に、やはりカールは驚いた。
「…なっ!?」
一瞬、その一瞬で全てが動いた。

まず、カールが驚いた。アリアの姿に驚いた。
アリアは何もしない、今更羞恥心も無い。ただただ真顔でカールを見る。間抜けな格好ではあるが。
全ては、少女クレリスだった。
カールは気づいていなかった、撃ってすぐにアリアという思いも寄らない闖入者のせいだ。
彼は彼女の状態を確認していなかった、気づいたのはアリアだけである。
彼女は一切血を流していなかった。
つまり、生きているのである。動く事が、カールから銃を奪う事が出来る。
その為の彼の一瞬の迷いを、アリアは生んだ。それを知ったクレリスが、動く。
「う…わっ!」
少女に脚を掴まれた引っ張られたカールはあっけなく、転んだ。
銃をもった手は、あらぬ方向を向いている。
アリアは、スカートなどほったらかして足を囲む邪魔なそれを靴を脱ぐように外す。

嘘だ、これは嘘だ。何かの間違いだ。
僕はしっかりと頭を打ち抜いた。何故こいつが生きている。
頭に銃口を押し付けて直接撃ち込んだんだ、生きている筈が無い。何故動く。
ほら…やっぱり、あるじゃ…ないか頭に、穴が空いてるじゃないか。
なんで、なんで血が出ていない?なんでこいつは動いてる?
なんでこいつの頭から損傷したACのようなスパークが出ているんだ。
「く…そぉ!」

蹴り飛ばす。吹き飛んだ。

『奴は簡単に死なない。文字通りだ』
ルーク、ルーク。ルークが僕を騙したのか。
何も教えられてない。こいつが人間じゃないなんて僕は知らない。
レオンを、あいつは役目を終えたから僕が始末するよう仕向けた。
こいつらも、僕の言う通りに馬鹿みたいに動いた。ルークも、ルークもそのはずだ。
でもまずはこいつを殺さないと、こいつを殺さないと。

銃を再び少女に突きつけ、引き金に指をかけた。

鮮血。

血が、血が、血が。
僕の血が、なんで僕が血を流してるんだ。
撃たれたのか、誰にだ、こいつにか。違う、こいつじゃない。
誰だ、君か。君なのかアリア。君が、僕を、この僕を、撃ったのか。

「ア…リア」
短く最期の声と共に、カールは息絶えた。
蹴り飛ばされたクレリスと、銃を構えたままのアリア。
銃口を突きつけられ今度こそ殺されてしまうと焦ってあまり、カールを撃ってしまった。
その事実を今更のように認識して、彼女は崩れ落ちた。
手から、力なく銃が落ちる。自分の両手を見つめるアリア。そして、カールを見つめる。
「…あ…あぁ…」
崩れたアリアに、クレリスが近寄った。プリマ並に、泣きそうな顔だ。
でもそれも一瞬、クレリスを見たアリアはその表情を驚きに変えた。
クレリスはやはり撃たれていた、だが死んでも居ない、血も流れていない。
穴から見えたのは、機械。

「え…?クレ…リス?」
パチパチ電流が流れる額を手で覆うクレリス。
「改めて、言うわ。私はクレリス・ワス・カリム。今年で23歳になる」
見かけせいぜい10歳におまけした程度の要望の少女が、少女の格好をした何かが、告げた。
恋人を撃ち殺した事もどこかへ消えた。目の前の現実にただ驚くだけのアリア。
「貴方が私を出したあれは、私をこの身体に移す為のもの…らしいの」
「どういう…事?」
「重傷を負った私を…ルークがあれに納めた。脳核を残して、私は子供の機械の身体に移された」
「ロボット…?」
「身体はね。ちゃんと脳が機能してる。私は本物のクレリス、器が違うだけ」
理解しがたい内容だった、が彼女の姿を見る限り疑う余地はない。
「アリア、とりあえず人が来ちゃうから…スカートはかないと」
アリアは、未だに下半身下着姿だった。

様々な混乱が、この後にあった。
応接間の死体。操作に協力していた人間の死体。
アリアは責任を問われなかった、が責任を感じていたのはクレリスだった。
自分が銃では簡単に死なないと彼女に伝えていれば、或いは彼を殺さずに済んだのかもしれない。
元恋人を自分の手で殺す、なんて事をさせずに済んだかもしれない。
彼女は混乱が治まった後に、アリアに謝った。
アリアは、心なくそれを制した。
過去は、変えられない。もし知っていてもやはり撃った可能性も、また無いとは言えない。
それより、自分が死ぬような場所に撃たなければそれで良かった。とアリアは言った。
クレリスは流せると以前知った涙を、思う存分流してアリアに謝った。
彼女もまた、昔愛した人間をこれから追う立場に居る。或いはレイヴンとして殺さなければならない。
アリアに対する謝意なのか、これからの自分における悲しみなのか、もしかすると両方なのかもしれない。
涙の理由は色々思い当たる節が多すぎて、どうして流しているのか解らなかった。

クレリスとクリフ、そしてカールの死が示す今迄の情報操作の痕跡。
それらを元に、捜査は急展開を見せる事になる。
クレリスとアリアは一日中様々な所へ引き回されたが、結局最期は自由の身になった。
アリアは刑事責任を、クレリスはレイヴンとしての過去を、それぞれ問われなかった。
だからこそ、二人は共にこの乱れた世界を正そうと決めた。
ルークもまた、違った解釈と方法で世界を正そうと決めた。
どちらが正しいのかは、もう誰にも解らない。




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