荒野で対峙する二機のAC
右赤腕URUGUを駆るクレリス・ワス・カリムと狩人フェイのアンフェスバエナ。
寂れた倉庫の中で対峙する二人
レイヴン殺しの1人レオンとアリア=リーフオルト捜査官。
図らずも、両者の戦闘は同時に始まった。
フェイとレオンの攻撃から。

拳。
目の前に一瞬だけ映ったそれを、しかしすぐに視界から消す。
レオンにとっては牽制も何もない。この一撃で不毛な戦いを終えるつもりだった。
が、アリアはそれをいとも簡単にかわしてみせた。
隙だらけ油断だらけの右ストレートをレオンの懐に飛び込むようにして回避。
お返しにと、右膝蹴りをレオンの腹にお見舞いする。
「うっ…」
小さく唸るレオン。しかしアリアは攻撃を止めない。
両手を組み、少しだけ屈んだレオンの頭に槌のごとく振り下ろす。
(痛ッ!)
レオンも痛かっただろうが、アリアの拳もまた痛い。
後頭部に衝撃を受けたレオンは、それでもアリアを振り払い、飛ばした。

「…ふ…ハハ…なんだ、出来るのか…」
レオンが今度はアリアに向かってじりじりと距離をつめる。
最初の一撃のような油断は無い。アリアもそれを感じ取った。
(さっきのでどうにか出来るとは思って無かったけど…ほとんど効いてない…?)
距離をつめるレオンに対し、あとずさるアリア。
しかし後ろには壁がある。ずっと逃げているわけにもいかない。
両者の拳銃もまた、遠くは慣れた場所に転がっている。
(銃を手に入れない限りは…なんか無理そうだなぁ)
ただでさえレオンは大柄で力では到底かないそうもなかった。
だから考える。どうやって彼を足止めし、銃を手に入れるかを。
壁まで、おおよそ残り3歩。

銃弾、銃弾、銃弾。
銃弾の嵐が目の前に広がる。
その後ろで今も狩人のACアンフェスバエナが二丁のマシンガンを放っている。
右方向に全速で移動し、なるべく被弾を抑える。
が、左肩に容赦なく銃弾が直撃。無数の銃痕を残す。
お返しに左手のハイレーザーライフルをお見舞いする、がいとも容易く命中した。
これにはクレリスも少々驚いた。回避行動をフェイがまったく取ら無かったのである。
命中した、といっても苦し紛れの反撃なのでアンフェスバエナの左肩の一部をかすり、焦がした程度。
そんな事を考えている間に、マシンガンの嵐が止んだ。
マガジンが尽きたのである。同時に、アンフェスバエナは跳躍、同時に距離を取る。
クレリスはこの機を逃さない。ここぞとばかりにレーザーライフルをもう一発。
最中、しっかりとミサイルのロックオンを開始する。

フェイは機体を左右にふり、青い破壊の光線を回避。
右手のバズーカを撃ってこないあたり、ミサイルに転じていると予想。
(ミサイルは…直撃するとマズイな。まぁ、させないけどさ)
マガジン装填に時間のかかるマシンガンである。持続的な攻撃は見込めない。
彼女は強化人間である。クレリスもそれを肩に積んでいたリニアガンで判断していた。
そのリニアガンで跳躍と後退、そこにさらに攻撃を加える。
リニアガンを一発。独自の軌道を描き、右赤腕URGUへと一直線へ進む。
後方へ小さくジャンプすることで彼女はリニアガンを避けた。
お返しに大量のミサイルが飛んで来る。フェイも二発目を発射。
向かって来るミサイル。直撃すれば多大な被害を被る事に成る。直撃は、許されない。
空中で着地地点をずらす、本来着地するはずだった場所をミサイルが一斉に襲う。

(狩人…ね、流石にその名は伊達じゃない、か)
ミサイルを躱した彼女に、素直な賞賛を送る。
切り替えた右手のバズーカさえも、彼女は躱してみせた。
着地する迄と直後に放って来たリニアガンも全て回避しているのでお互い様という所。
恐らく、時間からしてそろそろマシンガンの攻撃に変えてくるのだろう。
ここで彼女の理想とする戦いを分析する。彼女なりに、ではあるが。
近距離でのマシンガンで一気に装甲を削り取るのを主体としているらしい、その際被弾は気にしない。
撃ち合いになったところであの銃弾の嵐の前では火力負けしてしまうだろう。
被弾を厭わず、確実に相手にダメージを追わせて行く。
そして持続しないその攻撃の合間に、相手の動きをとめる時間稼ぎも可能なリニアガンでの中距離射撃。
主に中距離での高火力武器で押すクレリス。
(さぁ、どうしようかな)
右肩を、リニアガンが霞めた。バズーカとレーザーが、跳躍したフェイの右足の装甲を削り取る。

壁まで残り2歩、そろそろ限界の見えて来たアリア。
レオンがニヤリと口元に笑みを浮かべた。そして、懐に手を伸ばした。
(まさか、まだ銃を!?)
反射的に倉庫の中心部分へ向かって小さく横に飛ぶ。
カッ!
鋭利なナイフが、アリアの後ろの壁に刺さった。
手を伸ばせば、そのナイフを取る事が出来る。だがレオンはそんな事はさせないだろう。
レオンは?そう、そのレオンはどこだ?
一瞬だけとはいえ、ナイフに気を取られたアリアはレオンを見失った。
彼女は左に小さくとんで、右側に刺さったナイフを見た。
消えるわけがない、居るとすれば死角。自分の、更に左側。
レオンの渾身の左フックが、彼女の脇腹を襲った。
「…う、あぁ!」
痛みとともに、距離を取る。衝撃とは反対側に小さく飛ぶ。
ついでに、しっかりと、壁に刺さったナイフをいただいておく。

また距離を取ったレオンとアリア。
脇腹が悲鳴をあげているが、かばっている余裕は無い。
ナイフを手に入れる事ができたものの、彼女はナイフを扱えない。
(痛い…痛い…痛い…)
呪いの声のように、心中叫びを上げる。レオンにきつい睨みを送る。
左手のナイフを、どう扱うか。これを間違ってはいけない。
レオンは距離を詰めようとも、離そうともしない。彼女の出方を伺っている。
(どうする…どうしよう…)
ナイフの投げ方など知らない、適当に投げて当たるとは思えない。
彼女は左手から、ゆっくりと、ナイフを落とした。

また、アンフェスバエナが迫って来る。
マガジンはもう再装填されている。直撃すると、流石にマズイ。
AC同士の戦闘ではいくら互いに強い装甲をもっているとはいえ、それ以上の武器を持つ。
両手を吹き飛ばされでもしたらそれは敗北を意味する。
(とにかく、向かってくるのなら!)
再度、向かって来るアンフェスバエナにミサイルを放った。
流石にこれは回避する。だが、それでもフェイは引かない。進みながら、回避した。
その動きを予測していたクレリスは、回避出来ない状態のフェイにレーザーを打ち込んだ。
コアに直撃、無惨な状態になった表面は熱により焦げている。
だが、これは決定打にはならない。
「それで!?どうするつもりさ、右赤腕!!」
アンフェスバエナが、マシンガンを構えクレリスの眼前に、迫った。

「派手に、吹き飛べ!」
フェイが叫ぶ、同時に数えるのも嫌になる銃弾の嵐がURUGUを襲う。
「な、にッ!?」
フェイは思わず驚嘆の声を上げた、クレリスがこちらへ向かって来たのだ。
もちろん、その前には銃弾の壁。URUGUのコアを中心に、いくつもの銃痕が次々出来上がる。
とがったコアの先端に至っては原型を失い、銃弾によって奇妙な形に無くなっている。
それでもアリアは、全速でアンフェスバエナへと迫る。
フェイも思わず後退する、だが、間に合わない。
右赤腕が、その腕がしっかりと握ったバズーカの先端がアンフェスバエナの頭部を貫く。
銃弾ではなく、銃器そのものを使って頭部パーツを破壊。
銃弾を発射しなかったのは、ミサイルに切り替えていた所為。
それに気づいたフェイは後退しようとしたが、クレリスが張り付いている。
懐に飛び込んで来たACに、マシンガンでは対応できない。
「く、は…離れろぉおおおお!」

ナイフが、回転しながら落ちる。
レオンはナイフを捨てた事に驚いた。しかし勿論、それこそがアリアの狙いである。
そして当然、ナイフは捨てたのではない。
右足を大きく後方に投げ出した、サッカーのシュートを決める要領で。
(女は…度胸!!)
落下するナイフ、そのナイフの柄めがけて渾身の蹴りを放つ。
失敗すればナイフは彼女の足に突き刺さるだろう、或いは、切り裂くだろう。
アリアの靴は、しっかりとナイフの柄を射止め、ナイフはレオンへとまっすぐに吹き飛んだ。
硬直していたレオンは、ナイフが自分の肩に深々突き刺さって、やっと事態を把握した。
「…ぬ、くぁ!」
まったく予想していなかった事態。レオンは体勢を崩した。

その機を、アリアは逃さなかった。
ナイフをしっかり蹴る事の出来た感動と安心などすぐに振り払って、駆け出した。
向かうのは、自分の銃がある場所。
それを見たレオンは、ナイフを引き抜き、アリアへと投げつける。
予期していなかった事態、そして銃を手に入れられてしまうという不安。
そんな精神状態で放ったナイフがしっかり当たる筈もなかった。
が、ナイフはアリアの脇腹を霞め、そして裂いた。
その痛みも気にしてられない。アリアは銃の元へ走る。
レオンもすぐに走る、銃を自分も得る為に。
そう遠くない、目視できる場所に銃はある。飛び込んで、銃を掴む。
その右手が、銃を——

「狩人フェイ、貴方は強い。でも貴方以上に無謀な女が、此処に居ただけの事」
まるで最後の褒め言葉とでも言うように、クレリスは告げる。
そこで、ACの動きを止める。アンフェスバエナは後退を続ける。
刹那、フェイが避ける間もなく肩から多量のミサイルが放たれた。
それらは全ては一直線にアンフェスバエナへと直撃。
コアへと致命的なダメージを与えると共に、右肩から先を全て吹き飛ばした。
「畜生!貴様、殺す!!」
左手一本のマシンガンと、残ったリニアガンを発砲。
共に避ける事の出来ない攻撃だったが故に、URUGUへとまともに直撃。
だが、これでもURUGUは立っている。まさにギリギリの状態で。

狩人フェイは見た、叩き込んだ攻撃の中で右赤腕の左腕、その手が先の銃口を掲げたのを。
次いで見た、青白い光がこちらへ向かってくるのを。
避けられなかった、距離は近い。直撃まで、数秒も無い。
あっけなく、それは彼女の乗るコアを揺らし、砕き、また熱で焼いた。
動かない、トリガーを引いても、何度引いても銃弾が放たれない。
長い時間のように感じられた。何度トリガーを引いたのか解らない。
目の前に映るのは右赤腕URUGU、そのボロボロの、しかし毅然とした姿。
(ああ…)
全てを、彼女は理解した。それでもトリガーを引き続ける。
「あんた、本当に強いねぇ…」
それが彼女の、狩人と呼ばれ恐れられたレイヴンの、最後の言葉だった。

——ついさっきまでそこにあったはずの銃が、自分の銃が無い。
聞こえて来たのは、一発の銃声、そして次いで目の前の銃が視界から消えた。
銃が、撃たれた。そう、考えるしか無い。
レオンは半ば諦めの要に、その飛び込んだ身を起こし、目の前の女性を見た。
銃を構えた姿、その脇腹が出血により赤く染まっている。
よくよくみれば、美しい。あまりに美しい姿だった。
その唇が、開いた。
「はぁ…はぁ…まだ、何か…ある?」
目は、強く輝いていた。
苦笑を浮かべたのが解る。そして、両手をあげた。

「そう…これで終わり?…ふぅ、良し!」
気合いを入れたのか、だからこそか、構えた銃は下ろさない。
「えーと…あっ!」
何かに驚いたようだ、だがどことなく喜びの色が感じられた。
直ぐに自分にも理解出来た。足音だ、無数の。こちらへ向かって来る。
彼女の応援か、ついに自分はここまでだろう。良く働いた、悔いは無い。
だが、最後にやらなければ成らない事がある。始末を、後始末をしなければならない。
ゆっくりと、歩を進める。当然の事ながら、彼女は声を張り上げる。
「動かないで!」
「お日様を、拝ませてくれよ。最後に」
そうだ、最後だよ。それだけで良いんだ。

ゆっくりと、また歩を進める。
彼女は、俺の足を撃って動きを封じようとはしない。
そこまで頭が回らないのか、いや、そうだろう。今更発砲を躊躇う事も無い。
だが、もう此処で良い。この場所だ。

「クレリスちゃん…大丈夫?」
プリマからの通信、つい先ほど、アンフェスバエナが爆発した。
(我ながら、随分無茶な事したな)
クレリスはプリマになるべく(得意ではないが)優しさを込めて答えた。
「大丈夫。さ、帰ろう」
「…うん、帰ろう」
プリマもまた、優しい声で答えた。

ガレージへと戻ったクレリスはまったく予想通り、プリマに怒られた。
何故勝手に出て行った、とか。色々なんで黙ってた、とか。
泣きそうな顔なんて何処にも無い、ただただ本気で怒っていた。
或いは、我が子を叱る親の気持ちだったのかもしれない。
(叱られる子供の気持ちには、なれないな)
一段落ついて、アリアの元へ戻ると約束した後。クレリスはURUGUを眺め、苦笑した。
「これ、誰が直すの?大事なもの…なんでしょう?」
「クリフが直す。自称天才の整備士。ルークも私も、彼以外に機体を任せない」
「その人は、今何処に?」
クレリスは一瞬悩んだ、単純に彼の最後の言葉を忘れていた。
ようやっと思い出し、泣きそうな顔に戻っていたプリマへ告げる。
「…仕事?」
自信が無いので、疑問系になってしまった。

レオンが立ち止まった。壁際で。
アリアは最大限の警戒と緊張を身体に走らせた。
足音が迫って来ている。応援はもうすぐここへ到着する。
(お日様…?)
レオンの言葉が脳裏をよぎる。
ここには、光は差し込んでいない。所々天井等が錆び付いて穴があいてはいるが。
お日様なんてものは、拝めない。窓は全部、閉まっている。
(窓を…あける?)
そう思った瞬間、レオンが壁にあった何かを押した。彼の後ろの窓が、空いた。
眩しい、非常に眩しかったが。目を瞑るなんて馬鹿な事はしない。

ドカドカと捜査員が数人、倉庫に入って来た。
入って来るなり、銃をレオンへ向ける。
レオンは太陽の光がまるで後光が挿すようだった、だが、何もしない。
光が頭の丁度全部を覆うようにさしている、逆光で顔がぼんやりとしていて解らない。
レオンが、捜査員の中のアリアを見据えて言った。
「お前、名前は?」
アリアは、その声に何かを感じ取った。しかし、それが何であるのかは解らなかった。
諦めのような、そんな印象を受けた。確かに状況は諦めざるを得ないものである。
「…アリア=リーフオルト」
名前を聞いたレオンは笑った。逆光で良く解らなかったが、確かに笑った。
そして彼は死んだ。
頭を後ろから射抜かれ、死んだ。
自ら開けた窓の向こう、その先から銃弾を受け、死んだ。
最後の彼の言葉に込められていたものが、なんであったのかこの時やっとアリアには解った。
彼は自分が死ぬと、解っていた。だからこそ、最後に笑った。アリアの名前を聞いた。

目の前の男の死を見てすぐに、彼女は走った。
彼を狙撃したと思われる、窓の向こうに見えたビルに向かって走り出していた。
胸の中に叫びを抱え、脇腹に傷を抱え、それでも走った。ただひたすらに、走った。





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