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右赤腕URUGUと左青腕CHAOS
これは通称であり、畏怖と共に名付けられたものである。
機体の一部の特殊なカラーリングを元に名付けられたこの二機のAC。
一時期巷を賑わしていた二人組のレイヴン。
にもかかわらず、この二機を操るレイヴンについて知られている事はあまりに少ない。
通称と機体名だけが有名になり、レイヴン名は知れ渡っていないのだ。
神出鬼没のこの二機は目的も不明。ただただ圧倒的な力を示す。
ある時はレイヴンの手助けをし、またある時はレイヴンをその手にかける。
行動理念がまったくもって理解出来ない。目的など解りうるはずもない。

それが民衆の、レイヴンの目に映った彼らの姿である。
そしてその二人こそ、他でもないクレリス・ワス・カリムとルークだった。
目的はただ一つだった。レイヴンでありながら、平和を望んでいた。
しかし、自惚れであったのかもしれない。
世界に害為す危険な意思を持つレイヴンを排除し、自分達と少なからず同じ意思を持つレイヴンを助ける。
より良いレイヴンのみ選定し、世界を善き方向へと導いて行く。
それだけの力を、二人は持っていた。それが出来ると、信じていた。
でもやはり、自惚れであったのかもしれない。
天罰を下す神が如きその高慢な意思で、他者を善悪二つに大別する。
或いはそれこそが二人に降りた、天罰だったのかもしれない。

クレリスは敗れた。一人のレイヴンに。実力からすれば決して負ける筈のない相手に。
彼女は自分の奢りを少なからず感じていた。その所為かもしれない。
自分達が善い、と判断したレイヴンを助けた。協力をした、勝手にその意思も伝えずに。
その助けられたレイヴンがとった行動は、助けた彼女を襲うというもの。

既に二人に助けられたレイヴン、そしてやられたレイヴンは多い。
助けたと思わせておいて自分を殺すつもりではないのか、レイヴンはそう考えたのだ。
彼らは自分達の意志を明かしていなかった。疑われるのも仕方が無い。
なにより、こんな意思をあかせようものだろうか。
それこそ狂っている。といわれても可笑しくない。そんな気持ちが二人にはあったからだ。
かくして彼女は重傷を負い、それでも逃げた。しかし傷は、深かった。
ルークは負傷した彼女を、特殊な装置に隠しその回復を待った。
その期間、約一年。その一年の間に、彼女の知らない間に、何があったのか。

ルークとクレリスは普通のレイヴンだった。
そう、表面上はレイヴン・ルークとレイヴン・カリムという普通のレイヴンなのだ。
なんてことない普通の機体を操り、普通の依頼をこなす本当に、平凡な、ただのレイヴン。
要は、普通のレイヴンを偽装していた。彼らは裏でその意思の元それぞれの本当の愛機を駆っていた。
目的は遂行されずに、クレリスの負傷という事態によって断念される。
この時を境に、右赤腕URUGUと左青腕CHAOSは活動を停止した。
だが、この二人に疑いがかけられる事は無かった。彼らの偽装は完璧そのものだった。その現れである。
レイヴン・カリムは任務中に死亡という形で処理し、レイヴン・ルークは何喰わぬ顔で活動を続けた。

ルークは彼女を…本来なら死んでいてもおかしくないその身体を回復させる為、装置へ預けた。
それから一年の月日が経った。
回復したクレリスはアリアという女性に身を預ける事になった。本来ならルークの役目である。
そしてそのルークが、変わり果てていた。一年の間に、まったくもって変わり果てていた。
レイヴン・ルークが存在していなかったのである。今や彼は、レイヴンとして活動していない。
何があったのか、それはレイヴンとしての地位が邪魔であり。必要なくなったと言う事。
彼が行っているのは、やはり平和を望む為のもの。
以前の彼らとはまったく違う方法で、彼はクレリスにその方法を提示した。
クレリスは、それを拒否した。彼女の望む、平和とはほど遠い行為であった。認める事は、出来なかった。

その彼女の、クレリスの愛機・右赤腕URUGUは静かに主人の帰りを待っている。
平和の意思を、決して最善とは言えない、それでも一途なその意思を込められた『兵器』
一人の男が、かかさず整備を一年間続けて来た。いつでもクレリスの意思、その想いのままに、動ける。

朝目覚めると、すぐ側で寝息をたてていた筈の少女が居ない。
部屋を探しても、居ない。ホテルのロビーへ、売店へ、何処へ行っても少女は居ない。
プリマは泣きそうな顔を更に憂いと悲しみに満たせ、それでも泣かなかった。

「…馬鹿な子じゃないし、その内戻ってくる筈…うん、そう…大丈夫。貴方の所為なんかじゃないわ」
携帯電話片手に、椅子に腰掛けるアリア。
出社して直ぐ、こんな連絡をプリマから受け取った。クレリスの姿が無い。
「ほらほら、貴方にも立派な仕事があるんだから。シャキッとしなさい!」
或いは彼女よりも、自分の方が落ち込んでいるのかもしれない。
自分と彼女、両方に向けて厳しく言い放ったアリア。
「それと、また変な仕事しないでよね。私貴方を捕まえるのは嫌よ?」
プリマが電話の向こう側で、小さく唸った。
「はいはい、解った解った。そう、心配しないで。…ああ、もう…切るよ!」
乱暴に携帯を閉じ、そしてしまう。
その一連のやりとりを目の前でみていたレイヴン・ローレンは苦笑した。
「厄介ごとを抱えてるみたいだな、相談になら乗るよ。話を聞くのは得意なんでね」
相変わらず淡い光を点す緑色の目を、アリアは見据えて言った。
「お言葉に…甘えようかしら」

古く寂れた、形だけを残す大きな建物。
どこぞの誰かが戯れに作ったのか、以前はしっかり動いていたのか定かではない。
ただただ古く、ところどころ崩れ落ちてそれでも原型を保っているAC規格で作られた建物。
その高くそびえる壁を見上げて、クレリスは思わず苦笑した。
中に居る人物と、もう一つ、中にあるであろうものを胸中に抱いた。
これまた古く、錆びたドアゆっくりあける。不快な音を立てて、ゆっくりと。
開けた大きな空間。薄暗く、淡い小さな光でうすぼんやりと全景が見える。
外見からは想像もつかない、手入れの行き届いた真新しい…ガレージ。
その中心にそびえ立つ一機のAC。右腕の一部だけが、赤い。

「久しぶりでぇ、カリム…?」
どこからか、声がした。陽気なべらんめぇ口調の男のものだった。
しかし声は疑問のものである。クレリスは気にしない。声の方向から、1人の男が現れた。
久しい顔。無精髭を生やした、いかにもエンジニアな男。格好もエンジニアのそれである。
「これ…貴方一人で管理していたの?」
目の前に広がる立派なACガレージを見やり、クレリスは問う。
疑問を胸中に抱えながらも、男は答えた自信たっぷりに。胸を張って。
「おうよ、俺を誰だと思ってやがる。天才クリフ様だぞ!」
気が向いたら、クリフを訪ねろ。先日のルークの言葉だ。
クレリスは気が変わって等居ない。ただ決心を、硬い意思を定めただけだ。
ルークを、止める。

(自称)天才クリフは我が子のように目の前のACを嬉々として解説した。
「構成はかえちゃいねぇ、まんまだ。お前の愛機、右赤腕URUGUでぇ」
かつての愛機、本当の愛機を見上げその手入れの行き届き加減に満足げに笑みを浮かべるクレリス。
本当に…変わってないな、とクレリスは感動を覚えた。
「右手にバズーカ、左手にゃあカラサワ。詳しい説明は不要だな、まったく怖いくらい良い機体だ」
クリフに愛機を褒められた、がこれは彼女に笑みを運ばなかった。
正確に、56回目の彼の「良い機体」という感想だったからだ。
先端のとがったコアから伸びるいかつい両足。細腕に握られた高火力の武装。
全体的に黒いカラーリング、右腕の一部だけが僅かに赤い。右赤腕たる通称の証だ。
機械と、オイルの混じった風の匂いが懐かしく思えた。

「さて、とこれから俺は仕事があるんだぁな」
クリフが気楽に言い放った。
「仕事…?」
「おうよ、俺様の天才的技術力が欲しいっていう会社があるんだ…名前は忘れたが」
自分の興味の働かない部分を記憶しない、そんな性格に変わりはなかった。
「人工衛星って奴だ、それに俺様の技術を利用したい、って奴が居てな?」
そんなニュースをどこかで聞いたな、程度の感想しかクレリスには無い。
まさかそれに知人が関わっている等と予想はしていなかったが、それもまた、特に関係無い。
「それより、ルークから何か無い?」
彼女は彼の自慢話を遮る意味も込めて、核心を突いた。
機体を用意させていたのだ、ルークが何も用意していないはずはない。

「…エリア48に向かえ。そこで話を聞くらしい」
クリフがなんとも気の抜けた声を出した、しかし何処か真剣味がある。
それと、とクリフは続ける。
「悪いが、俺にはもう立派な仕事がある。それだけ俺は認められた。お前達が居なくても…もう困らない」
彼は全てを知っている。クレリスは言葉からそれを感じ取った。
ルークの事も、自分の事も知っているのだろう。だが、聞いた所で答えはしないだろう。
今の言葉は、そういう意味も込められている。
お互いが潰し合う事になっても、もうクリフは困らない。流れに身を任せようというのだ。
「そう、ありがとう。あとは…何か無い?」
顎に手をやって、暫く思案するクリフ。そしてすぐにおっ、と声を出す。何かを思い出したらしい。
「オペレーターを雇った。大丈夫だ、なんか変な姉ちゃんだったから情報が漏れる心配はねぇ」
「変な人にオペレーターを頼んだの…?」
「仕方がねぇだろ?普通の奴なんて雇えねぇじゃねぇか。だってお前、今レイヴンじゃないだろ?」
「確かに、そうだけど…で、どんな人なの?」
「とにかく…まぁ色々と凄い姉ちゃんだったぜ。なんせ格好がすげぇ!」

クリフの最後の言葉に嫌なものを感じ、それでもAC輸送機へと足を運ぶ。
彼女の愛機URUGUは既に輸送機の中。そして一緒にオペレーターと、操縦士。
輸送機の中へ入るのを暫く躊躇い、しかし拉致が空かないので、やはり入った。
嫌な予感はバッチリ当たった。嬉しさなんて微塵も無い。思わず崩れ落ちそうになった。
「…クレリスちゃん!?」
変な姉ちゃん、格好のすげぇ姉ちゃん、部屋にレイヴン関連の情報が入った端末を持つ姉ちゃん。
(だから…レイヴン関連の…オペレーター…確かに…あの格好は…声には関係無い…か)
一般のオペレーターの服装に身を包み、やはり泣きそうな顔のプリマが、そこに居た。

「どうして突然出て行ったりしたの?」
少々的外れな事を聞くプリマ。まずは彼女がここにいる事を問うべきだろう。
「見ての通り、私はレイヴンだから」
開き直ったクレリスは、最早動じない。
プリマの方が、彼女の開き直りっぷりに動じていた。
「…そう…それで、貴方は何をしようと…」
「私の名前はクレリス・ワス・カリム。機体は…見てないみたいだから言うけど、名前はURUGU」
プリマは驚いた。オペレーターであるからレイヴンに詳しいのは当然。
レイヴン・カリムの事は知らずとも、右赤腕URUGUの事は良く知っている。
「クレリスちゃんが…?そんな…嘘—」
「—そんな冗談言うわけないでしょ。」
プリマの言葉を、クレリスは同じ言葉で遮った。
プリマは全てを諦め、それでも一つ彼女が断れないように最大の気力を持って提案した。
「知ってる事を話して。私は貴方のオペレーターです」
泣きそうな顔はどこへやら、意思の強さを表した少し怖い顔だった。

クレリスは事のいきさつを話した。
自分がレイヴンとして活動していた事、もう一つ右赤腕としての活動もしていた事。
そして一連の事件の犯人であるルークを、自ら追う決心をしたこと。
今から向かうのはその彼が指定した場所であるということも、全部。
プリマはレイヴン・カリムについて詳しく知らなかった。姿も声も、知らない。
だが、こんな少女が、あの伝説のACを駆るレイヴンだったとは驚きも一層である。
「なんで1人で追うなんて事…」
「説得で済めばそれにこした事は無いし、それに、今みたいな説明を延々してる時間がまず惜しい」
民間のそれに協力した所で、ルークを簡単に捕まえられる保証は無い。
事実彼らは犯人であるルークの事をまったくもって知らない。
それを教えた所で、結局の所名前くらいしか解らないのもまた事実。
「とりあえずは指定された場所に行くだけ。オペレート、お願いね」
それだけ言うと、彼女は席を立ち愛機の元へと進んで行った。
「…」
プリマは無言のまま彼女を見送った。

「到着、ACを投下する。一定距離を保ち、そこからオペレートを開始します」
プリマの声が、通信機から聞こえて来た。短く、了解とだけ返す。
右赤腕URUGUはけたたましい音と砂塵を巻き上げ、着地した。
「早速だけど、熱源反応あり。近づいてきます…ACでしょう」
プリマが切り替えの早い人で良かった、と安心するクレリス。しかしすぐに、迫るACに集中する。
レーダーを確認、しかしすぐにそれは肉眼で確認出来た。
どうやらオーバードブースト(OB)でこちらへやってくるらしい。
もの凄い速度で迫るAC、左青腕CHAOS…ではない。ルークでは、ない。
「あ…!あの機体は…狩人の…」
クレリスには見覚えが無いが、プリマには解ったようだ。
彼女の回復中、その一年間で現れたか、名を上げたレイヴンなのだろう。
(狩人…か、成る程。そういう名前があれば、レイヴン殺しも納得)
それはレイヴンがレイヴンを殺すと言う稀に起こる状態、それを行うレイヴンに付けられた名だろう。
それを偽装してルークはこの狩人を仲間に引き入れ、レイヴン殺しを遂行していた。

「あんたが、右赤腕URUGU…というか、ルークの言う、カリムね?」
狩人と呼ばれたレイヴンは、意外にも女性だった。
「そう、でも私は貴方を知らないんだけど」
挑発的な口調で狩人に言葉を告げるクレリス。狩人は動じない。
「狩人フェイ。この子はアンフェスバエナ」
なんとも律儀に自己紹介までしてみせ、機体名までも教えてくれた狩人と呼ばれる女性。
(まずは脚…COUGAR2に…両手NIXか、肩に…強化人間か、リニアガンとは厄介な…)
目の前にそびえ立つ紫色の二脚ACの武装を分析するクレリス。交戦した場合の準備だ。
しかし、またも律儀に狩人フェイは説明を開始した。
「私はあんたの意思を聞くように言われただけ…勿論答えによっては…」
あんたを殺す。という言葉を言わないだけで、クレリスにもプリマにも理解できた。
「彼女は、すんごく強いらしいです。武装は見てわかるよね、戦闘じゃ私は何も出来ないから」
プリマがしおらしくクレリスに伝えた。
苦笑して、彼女は答える。
「大丈夫、そこまで望んでない」

「さて、と。伝言をそのまま伝えるとしますか。ルークからの言葉は一言だけ」
ルークというその言葉を聞くだけで、クレリスは静かな怒りが込み上がるのを感じた。
彼女に対する嫉妬だろうか、彼に対する純粋な怒りなのだろうか。
そんなクレリスを置いて、フェイはゆっくりと確かに聞く。
「答えは?」
短い、それだけだった。ルークらしい、ともクレリスは感じ取った。
でも、もう答えは決まってる。わざわざ指し示すのさえ面倒だ。
だから彼女は、ゆっくりと右手のバズーカの銃口を、フェイに向けた。
「…嬉しいね、実はあんたとは戦ってみたかったんだよ!」
両手のマシンガンを構え、ブースターが点火する。

狩人フェイのアンフェスバエナと右赤腕URUGUのレイヴン・カリムの開戦の合図だった。
クレリスは勿論、フェイもまた負ける気はなかった。
そして彼女は、また遠く離れた場所で一つの戦いが同時に始まった事も、当然知らない。




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