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レイヴン連続殺害事件。
それは既に民衆に知れ渡り、またレイヴンにもその危機的状況は通達された。
最も震撼を覚えたのが企業である。
依頼をこなすレイヴンが居なくなると、企業は大きく傾く。
特定企業に加担するレイヴンが狙われているわけではないが、早々に犯人を捕まえて欲しい限りである。
そんな中、アリア=リーフオルトは捜査団の中心人物にしたてあげられてしまった。
レイヴン・ローレンとアリアの元恋人カールもまた、渦中に身を置く。

少女クレリス・ワス・カリムは色々と驚いた。
まず、アリアを見送った後すぐにプリマがクレリスの元(アリア宅)を訪れたのである。
有無をいわせずプリマはクレリスを引っぱり、連れ回した。
彼女にはアリアからクレリスの世話をまかされたという大義名分があった。
おかげでクレリスは今日もまた、ずるずると日々を過ごす事になってしまった。
しかし、彼女に平穏は訪れなかった。

常の泣きそうな顔に派手な格好(どこぞのお姫様みたいである)に身を包むプリマ。
彼女と一緒に出歩くとスムーズに街中を歩く事が出来る。
この奇妙な美女に、皆は自ずと道を明け渡すからだ。
そんな中、表情とは裏腹に図太い神経の持ち主であるプリマは気にせず堂々と歩き続ける。
平均的豊かさを持つ胸を張り、街中を闊歩する。少女の手を引いて。
クレリスは突然引っ張りだされたので、彼女をの目的を知らない。
これがもし誘拐だとしたら。等と大変失礼な事を考えながら、それでも平然と聞く。
「一体何するの?」
「何がしたい?」
質問を質問で返され、言葉に詰まるクレリス。
どうやら何も考えずに自分を連れ出したようだ、と推測する。同時に、困った事になった。と沈み込む。

クレリスは何がしたい?という質問に、とりあえず答える。
それは自分がしたい事ではなく、彼女にさせたい事であった。
「貴方の家に行こう」
怪訝な顔つきでクレリスを見つめるプリマ。首をかしげ疑問の声を出す。
「私の?何がしたいの?」
とりあえず、と切り出し答える。
「着替えて欲しい。目立って仕方が無い」
先日こそ気にならなかったが、二人きりだと非常になんだか複雑な気分にさせられるのだった。

そして二度目の驚きである。
プリマの自宅は、見るからに高級ホテル。しかもその中でもとりあえず一番高そうな部屋なのだ。
彼女の人生背景を知らないクレリスは驚いた。
そして、もしかしたら本当にそういう格好を常にしているような身分のお方なのではないか、とまで思った。
「適当に座って」
とプリマは少女を促すが、とりあえず立って部屋を眺めてみたい衝動に駆られたクレリスである。
(家賃…いくら、あ…買ったの…かな)
「貴方、何者?」
思わず聞いた。無表情なんてとっくの昔に崩れている。
「えー?ただの民間人、ちょっとお金持ってる家に生まれただけだよー」
ちょっとじゃないだろ、と思わず突っ込みたくなったクレリス。
そしてその割に幸の薄そうな顔立ちの女性である、大変美しい事に変わりはないのだが。
「着替えて欲しい、って言ってたけど。ファッションショーでもするの?」
真顔で問うプリマ。といっても彼女の表情はどこまでも泣きそうなのだ。
本当にやりかねなかったし、それだけの衣服をもっていそうだった。
故にクレリスは、冗談抜きで真面目に答えた。
「民間人の格好をして下さい」

白シャツに黒パンツという先ほどの格好とは月とスッポン並の格好で再度現れたプリマ。
それだけだが、素材そのものはやはり見るからに高そうである。
しかし、これがまた似合っていない。
先ほどまでの格好に既に慣れてしまっていたため、違和感を覚えてしまうクレリスだった。
さっきよりは客観的に見ればマシ。と自分の心を無理やりに納得させる。
その時、右足に何かが触れた。見ればそこには—
「猫…」
真っ白い、これまた立派な(本猫には悪いが高そうな)猫である。
「あー、私の飼い猫。名前はモチ」
「餅?」
「うん、モチみたいに真っ白でしょ?」
せめて真っ白なら雪とかでも良いんじゃないか、と思わずにはいられなかったクレリス。
彼女には一切の常識が通じない事、自分のものさしではかるにはあまりに規格外な人間だという事。
その二つを2日、それも一緒にいたのはたった数時間。それだけで理解した。
故に彼女は、飼い猫の名前には触れない事にした。
足下で鳴き声をあげるプリマの愛猫・餅には、そこはかとなく同情の念が涌いたが。

「さて、それじゃあ」
プリマの言葉と同時に、彼女の携帯電話が連絡受信を激しく主張した。
詳しく知らないが、恐らく最新型か、もしくは会社の試作型か。そんな所だろうと暢気に考えるクレリス。
それよりもまず、この電話の内に今後どうするかを考えなければいけない。
素直に彼女と一緒に楽しく過ごせるよう計画を立ててみるか、それとも…
「…」
聞くだけ聞いて、何も話さないプリマ。
電話とは通常、互いの意思通達を遠距離で行うものではなかろうか?なんて考えだす始末。
それが先ほどから聞いているだけの本物のお嬢様(だと先ほど判明した)プリマ。
「解った」
と最後に短く言って、電話を終えたプリマ。
一方的に聞いているだけだったので内容がまったく把握できていないクレリス。
足下で餅が1回にゃあ、と鳴いた。猫にもかかわらず、綺麗な鳴き声だった。

「うーん…と、ごめんねクレリスちゃん。用事が出来ちゃった」
内心、ちょっとだけ嬉しく思ったクレリスだが。勿論表情には出さない。
「でもアリアから世話を任せてるから…どうしよう」
そういうことか、と自分が引っ張りだされた理由を今更知る。
「別に私は構わないけど…」
「うん、ちょっとついて来て」
手招きと同時に、歩き出すプリマ。向かった先は、(これもまた高そうな)机。
大きめの通信機が一つ、その机の大部分を占めていた。周りに機器まで揃っている。
その中の一つをなにやら操作しはじめたプリマ。クレリスは黙って傍観していた。
「この部屋、入るのに指紋認証が必要なの。入る時見てたでしょ?」
「そういえば、そうだった」
「今からクレリスちゃんのも登録して、今日一日自由に出入り出来るようにするから」
この部屋を自由に使っても構わない、という意味でもある。
クレリスはこれは素直に喜んだ。彼女の当初の目的が此処なら容易に果たせそうだった。
「それじゃ、これに人差し指を当てて」
黙って一差し指をかざすと、赤い光が指先を照らし、すぐに画面に認証完了の文字が出た。
「凄いね…」
「そう?」
凄いよ、と言いかけたが止めた。なんだか不毛な気がしたのだ。

本日二度目の見送りをすませたクレリスは、すぐに先ほどの机へと向かった。
椅子に座ると、その膝に餅が丸まって寝始めた。随分人懐っこい猫である。
邪魔ではないので、かまわず目の前の通信機を操作する。
「あれ?」
思わず声が出た。
レイヴン統括機関に直接繋がるようになっていたのである。
彼女はこれからそこへつなげる為の、いわゆるハッキングを施そうとしていたのだが。
これだけの財力、そしてこの通信機へのレイヴン関連の情報。
(さっきは民間人って言ってたし、レイヴンじゃなさそうだけど)
一体何をしている人なのだろう、と思案したが直ぐに止め通信機をいじくり回す作業に戻った。

彼女が調べているのはレイヴンについて。
とあるレイヴンの情報を探ろうと思っていた、がそれより前に気になっていた事があった。
(レイヴンが…殺されてる、か)
調べれば、すぐに出て来た。詳しい内容もかなり掲載されているようだ。
犠牲者の人数、判明している手口と犯人像。クレリスはくまなく調べ回る。
やはり気になるのはその手口だった。狙撃と言う犯行手段である。
(一体何を使えばこんな事が出来る…?)
現在、最も高攻撃力を持つ射撃兵器は両肩大口径キャノンと通称されているものである。
正式名称をCR−WBW98LXと言い、その破壊力は凄まじい。
だがこれはまったくもって狙撃というレベルの代物ではない。
巨大なレーザーを射出すると言ういわば破壊に向いた兵器である。ピンポイント狙撃など出来よう筈が無い。
なにより、これを持ってしてもACで最も頑丈に作られた部分・コアを一撃で射抜くのは無理だ。
確かに数発直撃させれば原型を留めない程の破壊が可能ではある。
しかし、事実狙撃は一発。それも恐らくは実弾兵器である。
(ACじゃ…無い?何か特殊な狙撃砲か何か…でもそんなものが)
もしあるとすれば、そんな技術をAC規格に起用しない筈が無い。
ACに起用しない、ACに関連しない企業がそれを作り出す事など到底考えられない。
しかし、あり得ない話ではない。
強大な力を秘密裏に作り出し、それを使ってレイヴンを排除する…企業?

彼女は思わず自分の考えた馬鹿馬鹿しさ加減に苦笑を漏らした。
そんな力があったら、何故秘密裏に行う必要がある?表立ってその技術力を広めれば良い。
そうするだけで現在の3大企業と肩を並べる事が出来るだろう。
でもやはり、万に一つというごく僅かな可能性を捨てきれない。
(レイヴンに恨みを持つ…隠れた企業…)
あるとすれば、そういう立場にある企業だ。
そしてそのレイヴン排除という目的はよっぽど強い意思の元なのだろう。
(これは…そう簡単に捕まえられそうにないね。アリアも大変だこと)
等と暢気な事を考えながら、気楽に感じていた。
どうせ今の私には関係のない事だ、そう思いながら、それでも過去を捨てきれない。
そうして彼女は一人のレイヴンについての情報を調べ始める。
そしてその時、プリマの部屋に一人の訪問者が現れた。
呼び鈴を鳴らし、部屋内に声が響く。内部と外部をつなぐ連絡手段だ。
「カリム。探すのに、苦労したぞ」
彼女はまったく無自覚に、事件の中心へと巻き込まれていた。

聞き覚えのある声、そう、今まさに調べようとしていた男の…懐かしい声。
最後に聞いたのは、いつだったか。
勢い良く椅子から立ち上がり、身を震わせる。落とされた餅がにゃあ、と不満げに鳴く。
「ルーク!」
振り向き様に、叫んだ。どうやらドアの前の訪問者にもこの声は届いていたらしい。
「嬉しいね、覚えててくれたか。いや…忘れるはずがないよな」
クレリスは走った。玄関に一直線に、艶やかな黒髪を踊らせながら。しかし、朝の時のような美しさは無い。
壁に設置されている画面。ドアの前に立つ男の姿が綺麗に映し出されている。
少々のクセで様々な方向に無造作に飛び跳ねた金髪。
深青色の瞳。クレリスの澄んだ瞳とは対照的な、塗りつぶしたような青。
柔和な笑みの中に、僅かに、だが確かに狂気を浮かべる。
スーツに身を包んだ、細身・長身の男・ルーク。

「ルーク…なんでここに、待って…何を…しに…」
画面のスイッチを押し、震えた声で語りかける。ルークにはその声が届く。
「言ったろ?探すのに苦労した。って…」
「探して…私を見つけて…それで…どうするつもり?」
「決まってるだろ?迎えに来たんだよ、カリム」
聞き慣れた声、懐かしい声。だがこんなに…こんな狂気を彼は声に忍ばせていただろうか。
「ビックリしたさ、目覚める日を確認して。迎えに行ったら居ないんだからな」
「…」
ルークは続ける。クレリスの身体は一つの恐ろしい仮説を前に、震えていた。
「さあ、一緒に行こう。前と変わらず、一緒にさ。…開けてくれよ。立ち話もなんだしさ」
「駄目…駄目…」
常の無表情はどこへやら、その顔は恐怖に歪んでいる。
この男が恐ろしいわけではない、会えて嬉しいはずなのだ。
会う為に、1人になりたかった。彼について調べ、そして今どうしているのか知りたかった。
予定外の人物に拾われ、記憶喪失を装い。それでもチャンスをうかがっていた。
ようやく会えたのだ。嬉しいはずなのだ。でも、彼女の中で今全てのものが繋がっている。
椅子の前の通信機に映し出されている文字『レイヴン:ルークの検索結果。0件』

「貴方…今何してるの?」
クレリスの問いに、ルークは平然と答えた。
「何って、再会を純粋に喜んでいるだけだけどな」
「そうじゃなくて…なにやってたの?」
画面に映る、ルークの顔が奇妙に歪んだ。まったく気味の悪い笑顔だった。
「解ってるんだろう?」
少女は思わずその場に崩れ落ちそうになった。
彼はレイヴンであった筈だ、自分と同じ、レイヴンであったはずだ。
それなのにレイヴンとして活動していない。そしてレイヴンとして彼が得意とするものは…狙撃だった。
「何を!貴方は何をしてるの!?」
画面のマイクに向かって思い切り叫ぶ少女。ドアの前にいる男の他に、この声は聞こえていない。
周りに人が居ないだけだが、居たとしたらマズイ事になるだろう。
「何って…俺が望んでるのは平和だよ。それより、開けてくれないのか?」
「平和…平和って何…人殺しが平和なの?」
ルークの顔が、また奇妙に歪んだ。見たくない、こんな彼の笑顔は見たくない…。
彼の笑顔は自分を安らかにさせてくれた、好きだった。彼の笑顔を見る事が何より嬉しかった。

「まさか、レイヴンが居るこの世界が本当に平和だと思っているのかい?」
「…」
「彼らは兵器を操っているんだ…傭兵、戦争の道具だ。そんな者が居る世界がどうして平和になる?」
クレリスは言い返そうとして、挫折した。
現状民間人はこの世界を平和だと、そう錯覚している。
勿論彼らには直接的な害はないし、レイヴンという特定存在だけが世界の実情を知っている。
「企業が、兵器があるからこんな世界なんだ。そして今は何もなくてもこの先何が起こるか解らない」
「…レイヴンがいなくても、何が起こるかなんてわからない。人間だけでも…争いは起こる」
「それも確かだろう。でも…わざわざより危険な存在を野放しにする必要があるかい?」
危険因子を事前に排除する。聞こえは良いが、彼のやっていることは犯罪であり、殺人である。
認める事など出来ない。出来るはずもない。
愛した男の、その変貌ぶりが何よりも彼女を恐れさせた。
「さて、本題だ。言ったよな、迎えに来たって」
「私に…協力しろと言うの…?」
否定の意味をこめた質問に、ルークの顔には憂いが降りた。
「…残念だ、実に。君なら解ってくれると思ったのに…カリム。いや、でも…そうだ」
ルークは一瞬にして元の顔に戻り、そしてくるりと向きを変えた。去り際に一つだけ言葉を残して。
「気が変わったら、クリフを訪ねろ。さようなら、カリム」

クレリスは去りゆくルークを、変わり果てた彼を見つめ…それから力無く踵を返した。
餅が足にすり寄って来るが構っている気力は無かった。
眠っていた一年間の間に、彼の身に何があったのだろう。
何故、彼をおいて一年もの間眠らなければならなかったのだろう。
尽きぬ事の無い疑問と後悔を胸に、彼女はソファに身を落とした。
悶々と自己問答を繰り返し、そして最後に決心した。自分にとって最も取りたくなかった選択肢。
そしてそのまま彼女は、眠りに落ちた。餅と一緒に、深い深い夢の中へと降りて行った。
帰宅したプリマは、その姿を見てアリアに彼女を一晩預かると連絡した。
アリアも大分疲れているようで、それを快く承諾した。

こうしてクレリスはその日、今度はプリマと一緒に眠る事になった。
今度は以前と違った気持ちで、思わず人肌を、プリマを抱きしめた。
(あったかいな…)
流れないと思っていた涙が流れたのを感じた。
涙を流せるのかと、驚いたが素直に流し続ける事にした。
翌朝、クレリスは何も言わずに部屋を出た。




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