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何故、この世界にアーマード・コアという兵器が誕生したのか。
この疑問を抱く人は殆ど居ない。
知っていたとしても、また知らなかったとしても表には出さないしその必要も無い。
現実。兵器として存在しており、またそれは世界を動かす大きな力の一つとして働いている。
ただの事実であり、そんなものの根源を今更問うなど不毛もいい所である。
しかし、ごく少数この疑問を抱く人物が現れる。
この男のように。

静かに吐息だけをもらしながら、微動だにしない。
少々のクセで飛び跳ねた金髪から、獲物を狙う鷹のような目をギラつかせる。
深青色の両目が見据えているのは「的」であり「敵」である。
目の前に拡大表示された「的」が見える。彼はトリガーに静かに指をかける。
コクピットの座席に座ったまま、しかし全集中力を持って照準を「的」に合わせる。
しっかりと、狙う。狙いを定める。微妙な動きさえも過敏に反応する照準。
より精密な動作の為、ほんのわずかのブレも許されない。
システムの補助を受けてはいるが、やはり本人の力による所が大きい。
彼は通信機から突然連絡が入っても、集中を解かない。研ぎすまし続ける。
「首尾はどうだい?」
声の奥底、とても表面とはほど遠く深い、しかし根底に狂気を感じる男の声。
「調整は済んでる。今度は二羽だ」
照準を微動だにせず、まったく動じず答える金髪クセ毛の男。
「二羽か、気づかれたらどうするつもりだ?」
「気づいても、俺には気づかないさ…」
まったく何かをしたというそぶりを感じさせず、でもしっかりと彼は会話の途中でトリガーを引いた。

謎の美少女クレリスはロングストレートの艶やかな黒髪を踊らせる。
ただ小走りに(黙っていれば)美女・アリアの元へと進んでいるだけなのだが、彼女の黒髪は踊る。
踊りつつ朝日を、少々例えが悪いが、ピカピカに磨いた上にワックスをかけた床のように反射する。
要するに、美しいのだ。
その割に例えは悪いが、やはり鏡とまでは反射できないのである。
「行ってきます」
簡素な格好と化粧で靴を履き、スラリと立つ女性・アリア。
クレリスはそんな彼女があからさまに意気消沈している事を察しながら、頷く。それにあわせて髪も踊る。

行ってらっしゃい、という言葉を期待するだけ無駄だと悟ったアリアは自室を後にした。
途端、いきなりため息をつく。まったく若々しさの感じられない、感心できない行為である。
でもやはり、当然それにはれっきとした理由がある。
これから彼女は自己の失敗を報告する。それが出社してから行う本日一番最初の仕事なのだ。
別に彼女が能力不足だったわけではない、しかし、失敗は失敗である。
「くよくよしてても始まらない…っと!」
両手で自分の頬をパシッと叩き、毅然と歩き出すアリア。
年相応の、それ以上に若々しさと凛々しさを感じさせる行為である。

レイヴン・ローレンはその日、まったくいつもの日常を過ごしていた。
彼の日常とは戦場という、一般から見れば非日常に値する場所での事だ。
そして今日も彼はレイヴンの仕事。企業の依頼を請け負っている。
茶色い四脚型の愛機を駆り、傍らに同じく二脚型の愛機を駆る相方の方を見やる。
「随分と簡単な依頼だったな、本当に二人必要だったのか疑わしいぜ」
相方の聞き慣れた声に、いつもの調子で答えるローレン。
「保険の意味もあったんだろ、そういうことだってあるもんだ。我が相棒アルフレッド」
「保険をかける程のもんだったのか、って事だよ。奇妙な相棒ローレン」
彼らは笑い声をあげながら、ダム内部から出口へと向かう。

「そうだ、新作のマジックがある。戻ったら見せてやるよ」
「おめぇのは見たってわかんねぇからつまんねぇんだが。手品師ローレンさんよ」
手品好きの相方に愚痴をこぼすアルフレッド。
「わかったらつまんないのだろうに、それこそ…[わかってない]ぜ」
「もちっと簡単なのはねぇのか、俺は見破るのが好きなんだよ」
相方の言葉に、今迄彼に見せた手品を思い返す。
(結構簡単な奴だったんだけどな)
初歩中の初歩、手慣らし程度のマジックだったのだが。
面白くねぇ、の一言でばっさり切られてしまった事を思い出す。
第一彼は観察眼に劣っているのである、レイヴンとして致命的ですらあるといえる欠陥だ。
実力だけはあるレイヴンなので、こうして自分とコンビを組んでいるわけだが。
そんな彼に見破るのが好きだ、なんて言われては見せる側としては非常に困る。
故に、なんとか上手くこれを返す。
「見破られたら俺がつまんないだろ、俺の気持ちくらい見破れよ」

そんな問答を繰り返し、それでも笑い合いながら彼らはダムを出た。
眼下には止めどなく水が溢れかえり、そして流れている。
清水、とは言えない川の流れを下に、彼らは高く跳躍する。
ダム施設の上に、騒音を響かせ着地するAC二機。
「いやー、楽な仕事だった」
思わず声を漏らすローレン。やはり、簡単な仕事である事には変わりない。
「帰還するまでが仕事だぜ…一応はな」
珍しく真面目な言葉を吐いた相棒に、ローレンは思わず吹き出す。
「ハッ!何言ってんだよ、らしくないな」
「…うるせぇ、撃つぞこの野郎」
右手のリニアライフルを、ローレンに向けて言い放った。勿論冗談である。
しかし実際、銃弾は放たれた。撃ったのは、彼ではない。しかし撃たれたのは、彼。
そしてまた、レイヴン・シルフィードに一発の銃弾が撃ち込まれたのも、この時である。

アリアは重く沈んだ気持ちを完全に払えぬままに、職場へと足を運ぶ。
そしてやっと、目的のビルへと到着する。静かなそして大きいビルだ。
ふと、後ろを振り返る。明らかに、何かがあった。大勢の人の声が聞こえる。
人だかりである。ビルの前に。
もしやまた事件では、と思わず身構えるアリア。だが、それもいらぬ心配だった。
ビルの持ち主はコスモス・カンパニーという会社で、最近ではちょっとばかり有名になっていた。
多目的人工衛星、というなんだか凄さだけが無駄に伝わって来るプロジェクトの所為である。
朝の出がけにみたニュースを思い出す。
(組み立てが最終段階に入ったんだっけ…)
しかし、空しくもこの会社をあげての一代プロジェクトはすぐにその存在を忘れられてしまう。
他でもない例のレイヴン事件によるものである。

普段は滅多に使用しない大会議場を慌ただしく職員が駆け回っている。
椅子、テーブルを運び込む者。様々な機器を運び込む者。そして次々現れる見た事もない人々。
出社して直ぐに、彼女は着替え上司の元へと向かった。
生憎と電話での応対中だったので、しばらく目の前で空しく突っ立っていたアリア。
とりあえずの口上報告は後にして、先に詳しい報告書を仕上げてしまおうか。
そう思って、離れようとした矢先に目の前の女性は電話を切った。
(ピッタリ…)
苦々しげに彼女との苦手な会話(報告だが)を覚悟した彼女は、思いもよらない言葉を受ける。
そして、この現状である。
一連のレイヴン殺害事件の捜査本部が、彼女の部署に出来上がったのだ。
他でもない、犯人からの声明が何よりの理由だった。

『初めまして、レイヴンと愚かな民衆諸君』
挑発的な言葉と共に、犯人の声明は始まった。機械で声を変えた犯人の声明を録音した音声の再生。
『言う事は1つ、そして、諸君らに望む事も1つだけだ』
耳障りな声が続ける。
『ご存知の通り、レイヴンが次々と死んでいる。勿論、我々が犯人だ』
大会議場の隅の方で、アリアは気分が滅入るような声を我慢して聞き続けた。不快な声だ。
『この世界に害なすレイヴンを、我々は排除する』
そして、と機械は最後の一言を付け加える。
『民衆諸君、真実を受け入れろ。レイヴン諸君、命が惜しくば活動を辞め給え』
音声が、途切れた。

長い大会議が始まった。会議というか、捜査の一環だが。
声明と捜査により、ある程度の事実と推理がなされた。
我々、と名乗っている事から複数人であると言うこと。
今迄殺された5人のレイヴンに共通点が無く、声明通りのレイヴンというくくりだけで標的を決めている事。
その中でACに搭乗した状態で殺された2人のレイヴン、その1人の死を間近に見た人物が居た。
レイヴン・ローレンである。彼は捜査に協力したレイヴンの1人である。
彼の話を纏めると、手口は二段階に分かれている。
まず、第一の行程・狙撃。
長々遠距離からの狙撃。破壊されたACの残骸から一発の銃痕が発見された。
その場所はコアであり、搭乗していたレイヴン・アルフレッドの身体を半分以上吹き飛ばし、貫通した。

「現状、ACのコアを一発で貫通出来るような銃器はありません」
目の前に座る、若い男が熱く語る。彼こそ、レイヴン・ローレンである。
輝く淡い緑色の瞳が、皆を見据える。強く、内に怒りを少し覗かせて。
合同捜査会議の後に、アリアは別室へと案内された。
直接犯人を身近に見ているのはアリアだけであり、貴重な情報源でもあるからだ。
通されたのは普通の会議室。人数も多くはない。
ローレンとアリア、その上司と見た事も無いお偉いさんが数人。そしてもう一人若い男。
「あったとしても、それはACで扱う規格外のものです」
お偉いさんの1人、初老の男性が返す。
「犯人は…レイヴンでは無いと?」
「少なくとも通常のACを使った犯行ではないでしょう、兵器としては凡庸を誇りますが狙撃には向きません」
合同会議で決まったのは結局大まかな今後の方針が殆どであった。
企業には必要最低限の依頼を出すよう要請し、単機での依頼遂行をレイヴンに警告・自重させる。
そして捜査員はレイヴンに恨みを持つもの、またはレイヴンそのものをしらみつぶしに当たって行く。
決定的な事件が起きたのが昨日である、突っ込んだ話をするのに最低限の人員をここに呼び寄せた。
ここでの話し合いを、後日の会議で発表、詳しい犯行の内容を発表するというものである。

「逆に言えば、狙撃に特化した何かなら…可能ということですね?」
若い男がローレンに質問する。
アリアは実のところ、この重要会議に集中出来ていなかった。全てはこの男の所為である。
彼こそが、アリアの元恋人にしてこっぴどく彼女を振った張本人・カール。
本業は情報屋兼リサーチャー。その筋では有名であり、この会議に参加していても不思議は無い。
(浮気した挙げ句…夢の邪魔になるとか…なんとか)
彼の最後の言葉を思い出す。整った顔立ちの中にある瞳を思わず見つめる。
別れるつもりは無かった、ずっと一緒にいられると思ってたのに…。
そんな彼女の場違いな想像、妄想をローレンの強い口調の言葉が遮る。
「そんなものがあるのなら、可能ですね。俺は聞いた事もありません」
「…」
皆が黙った。暫くの沈黙が流れる。

「もう一度、お話お願い出来ますか?」
カールがローレンに向かって主語を省いて言う。アルフレッドの事しかないのだが。
頷いて、ローレンは話し始める。
「最初は何が起きたか理解できなかった…」
突然、アルフレッドの動きが止まった。リニアライフルをローレンに向けたまま。
とりあえず銃を下ろせ、の一言に何も反応しない。奇妙に思ったその瞬間だった。
「さっきの狙撃の後、今度は大量のミサイルだ」
レーダーに映った、数十個のミサイルの反応。すべてアルフレッドに向かって飛んで来る。
回避しないアルフレッドの機体にむりやり自機をぶつけ、回避させる。
しかし、大量のミサイルは容赦なく降り注いだ。
「なんとか…できなかった。奴の機体は、バランスを崩して…落ちた」
落ち行く相方の機体。ブーストを起動させない、可笑しい。ローレンは異変に凍り付いた。
「第二段階のミサイル…更にその2回目だ」
全てのミサイルは落下したアルフレッドの機体に命中。彼の機体は無惨に爆散した。
「ある程度の方向は解ったが、反応は何もなかった。何もない場所からの…攻撃だ」
相方を殺した犯人を、彼は結局見つけられなかった。
ミサイルの飛んで来た方向には何の反応もなかったし、本当に何も居なかった。
或いは移動の出来る砲台かなにかなのだろうか、と彼は最後に付け加えた。

ローレンの後に、アリアも犯人像の質問攻めにあい気疲れしていた。
元恋人カールに話しかける気力も無く、休憩室で休む彼女。
その向かいの席に、先ほどのレイヴン・ローレンが座る。
背もたれに身をもたせる失礼な態度を直す事もせず、なにより…何もしない。
「あれだけの質問をされちゃ、疲れるのは当たり前だな。良く解るよ」
同じような質問攻めにあったローレンが同情の言葉を投げかける。
「はぁ…」
だらりと前方に腰を曲げ、相変わらず失礼な態度を取り続けるアリア。
「気分じゃないと思うが、その気分転換に手品はどうかな?俺の気分転換にも…なるんだ、一応」
顔を上げたアリアの前で、トランプを持つローレンの姿があった。

結局、アリアはローレンご自慢の手品をいくつか楽しむ事になった。
確かに気分転換にはなっただろう。お互い少し笑顔を取り戻していた。
「あー…凄い凄い…いや本当。タネなんてわからないもん」
アリアが素直な褒言葉を贈る。ローレンは少しだけ微笑んで解説した。
「手品の初歩でな。例えば…右手でタネをしかけるなら、見せる側には左手に注目させる」
へぇ、とアリアは声を出す。同時にそんなものにひっかかってたのか、と少し嘆く。
「そして、今度は同じようにやってみる。そしたら注目させようとする反対側に注目する」
ああ、まあ…と気のない返事をする。ローレンは気にしない。大体皆がこういう反応なのだ。
「ま、その時はそれを利用して堂々と左手でタネをしかける」
勿論、とローレンは得意げに続ける。
「右手に半分、左手に半分で片方だけに注目させる。そして…どっちにもタネがなかったりもする」
どっちもタネだったりも、な。と付け加えるローレン。
「まぁ、俺のは趣味だから今のを真面目にとられても困るんだけどな」
ハハハと笑いかけるローレン、アリアにも自然に笑みがこぼれていた。

暗闇の中で、声がする。
「二羽は無理だったのか」
「邪魔が入った、後始末は2回分しか用意されてないからな」
それより、と声の一つが聞き返す。
「奴らは、どう出るつもりなんだ?」
「変わらないさ、レイヴンに拘束なんてものは無駄だろう。企業にも、だ」
クックと笑い声が漏れる。
「どこまでも、愚かな存在だ…」
足音が一つ、暗闇にこだまする。
「…どうした?」
足音に、声をかける。足音は止まずに、音を続ける。
「見つけたんだ、やっと。迎えに行って来る」
それきり暗闇には、やはり暗闇しか訪れなかった。




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