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その日、彼女は悪夢を見ていた。
皆との楽しい昔の情景を顧みる夢を見るのが常だった。
悪夢、見れば人は飛び起きる。彼女もまた、例外ではなかった。
そして同時に、珍しく"彼女"の温もりを感じられなかった。

当の"彼女"は愛機・AC鈴鳴のコクピットの中。
マリアはリウェッタをグリニング・デーモンに預け、ホームを後にした。
勝手な行動に出た姉弟を呼び戻す為、彼女は砂漠へと進んで行く。
道中、見知らぬACとすれ違ったが彼女は特に気にかけない。
"そんなことより"早く姉弟を呼び戻さなければ。
ホームは今、壊滅の危機に瀕していた。

その日の朝、朝食時には既に姉妹の姿は無かった。
屋敷の中を探しても見当たらない。
そこでフォッカーが一つの結論を出した。
あの二人は自由を好み、何かに束縛される事を望まない。
悪く言えば二人とも自己中心的な人間だった。

昨晩の会話の中で登場した一人のレイヴン、ディオに全員が興味を持った。
昨晩以前から彼らはディオの存在を知っていた。それこそ、あの日から。
ハンスとフォッカー、そしてあの二人は接触を望んでいた。以前から、だ。
彼らが追い続ける"彼"と対峙し、唯一生き残ったレイヴン。
何より、誰より"彼"に最も近い存在と言える。
"彼"を欲す彼らにしてみれば、ディオは"彼"への道しるべだった。
そこへ二人の突然の消息を絶つ行動。
フォッカーが結論を出すのは実に容易い事だった。
仲間とも一定の距離を保ち、観察眼に長ける彼なら尚更だろう。
「二人は、ディオに会いにいった…いや、戦闘さえ行う可能性もある」

これだけならばただの[抜け駆け]で話は済んだろう。
仮にディオを殺害ないし、それに近い状態にしても"彼"の情報だけは得るだろう。
速いか、遅いかだ。
もっと言えば、本当に抜け駆けだろう。誰もが彼に会いたかったのだ。
直にディオから"彼"の情報を得たかったのだ。
グリニング・デーモンことグーと、マリア。そしてリウェッタを除けば。
しかし、事態は思いもよらぬ展開を見せた。
あまりに突然に、彼らのホームをスタードラゴンが襲撃した。

突然ホームを襲った激しい揺れと爆音、そして崩れ行く建物の音。
彼らは急いで地下シェルターへと降りて行った。
彼らのACもそこに保管してある。だが5機しか無い。
フェリアルギアスとヴェルギリアスのACだけ無い。俊狼と烈鬼が。
「やはりか…そして、これは…"彼"か?」
フォッカーが崩れ落ちる頭上、ホームを見上げて言った。
「誰だって関係無いだろ!とにかくだ、どうにかしないと!」
いつもの陽気加減がまるで失せた緊張感の塊という声。ハンスのものだ。
≪どうしよう≫
グーの手話の意味はハンスだけが理解したが、特に皆に伝える気は無い。
突然、マリアが口を開いた。未だに眠っているリウェッタを抱きかかえたまま。
「二人を連れ戻しましょう。」
それだけ言い終えると、グーにリウェッタを預けた。
グーは驚き、マリアをみつめる。だが、声を掛けるにも喋れない、手が使えない。

半ば押し付けるようにリウェッタを抱かせると、マリアが強く優しく言った。
「こんな状況じゃ、ACの中が一番安全じゃないかしら?」
考え込み、頷く男性二人。グーはリウェッタを胸に抱え、オロオロするばかり。
「貴方の閃花が一番速かったと思うんだけど、間違いないわよねぇ?」
リウェッタを抱えて逃げろ、皆はマリアの意思を即座に理解した。
理解し、そしてグーはすぐに自分のAC閃花へと乗り込む。
基本的に一人用のコクピットに小柄とはいえ人を抱えてはまともに戦えない。
彼女は自由の利かない(眠っているだけだが)リウェッタを避難させる。自分も。
残った3人もそれぞれ自分のACへと乗り込む。
「じゃあ、俺達は無礼な来客者をおもてなしだな」
中量二脚型AC・神楽からハンスの声。
「二人が戻る迄の時間稼ぎだけでもしておきたい所だ、相手が"彼"ならな」
重量二脚型AC・天月からフォッカーの声。
「急いで二人を連れ戻します。場所は解りました」
四脚型AC・鈴鳴からマリアの声。
軽量二脚AC・閃花からは反応がない。ACで手話は不可能だ。
代わりに通信機から何かを叩く音が1回、彼女の肯定を意味する合図。
リウェッタの逆間接型AC・碧王を残し、5人は地上へ昇って行く。

地上へと出た彼らを迎えたのは"彼"ことスタードラゴンだった。
否応無しにライフルを発砲、神楽と天月が応戦。
閃花はスタードラゴンと距離を取り、すぐに遠くへと消えて行った。
鈴鳴も遠く、砂漠地帯を目指してブーストを吹かす。
幸い、ここから砂漠地区へはそれほど時間はかからない。
2対1の状況となったが、2人は決して油断しない。
相手はずっと追い求めて来た存在にして伝説のレイヴン。最強のレイヴン。

ディオを無視し、二人の元へと進むマリア。
(こんな時に…ティラさん?どうしましょう)
二人はACと交戦中だった、相手の機体はデモリッシュ。現トップランカーだ。
「フェリアルギアス!ヴェリギリアス!止めなさい!」
普段の彼女からは想像もつかないような声。優しさの欠片も無い、威圧の声。
二人はその言葉に思わず攻撃を止める。
ティラは思わぬ闖入者に驚き、攻撃を止めた二人と新たなACを傍観する。
「貴方達に通信は無意味でしょう、直接連れ戻しにきました。」
マリアの言葉にフェリアルギアスが反応する?
「…何があったの?」
ただならぬ彼女の気迫に押され、素直に用件を聞く。
「ホームが"彼"に襲撃されています、ハンスさんとフォッカーさんが応戦中です」
それだけ聞くと、二人は即座に機体を旋回させホームへ向かう。全力で。
残ったティラにマリアはいつもの優しい声で告げる。
「私たちを…追いかけますか?」
何も言わず、ティラは静かにその場を去った。

「ははっ!やっぱ強ぇ!」
驚きと歓喜と少しの畏怖と恐怖を忍ばせ、声を発するハンス。
スタードラゴンは二人を相手に互角以上の戦闘を展開していた。
銃撃を鮮やかに躱し、絶妙なタイミングで反撃。
(可能性として考えてはいたが、人間でこの動き…まさか本当に)
人間は搭乗していないのではないか、最後の一言を押し殺すフォッカー。
「…ハンス、どう思う?」
思わず隣の男に聞いた。勿論ハンスは何のことだかわからない。
ただただその言葉を現状をどう見るか、という問いかけだと判断し、答える。
「どうって…まずいことこの上無いだろ、ここまで強いとは思って無かった」
ハンスを含め、セヴンビークス全員、AC操作の腕に自信があった。
Ⅰ対1でも相応の戦いが出来ると思っていたのだ。
(自惚れだったか、にしても強い。強過ぎないか?ディオすげーなぁ…)
フォッカーとは違い、ある男を心中褒め、讃えた。

二人の機体損傷率は程々、スタードラゴンと同等程度。
しかし、2対1でこの状況は"彼"の圧倒的な強さを示すものだった。
ここで漸く、現状を打破する要因が到着した。
マリアがフェリアルギアスを連れ戻し、ホームへと帰還。
タンク型AC・烈機に搭乗するヴェルギリアスは速度の関係で帰還していない。
彼はグリニング・デーモンとリウェッタを追いかけて微速ながら前進を続ける。
到着するや否や、2人はスタードラゴンに猛攻を仕掛ける。
AC4機からの一斉攻撃を前に、スタードラゴンは見る間に装甲が吹き飛ぶ。
銃弾の嵐の中、スタードラゴンが空高く飛翔した。
次いで、全ての武装を空中で解除し勢い良く後退。
丁度ホームの後ろにそびえ経つ山の影へと着地する。
山と言う壁を前に、全員が一旦攻撃を止める。

「もう一息…いや、もう武装は無いから大丈夫じゃないの?」
フェリアルギアスが追撃しようと山を隔てた向こうの"彼"に標準を合わせる。
「…なっ!?」
突然、彼女は驚愕の声を上げる。
そして皆が同時に彼女の驚愕の意味を悟る。
山を隔てた向こうが側、10の反応、レーダーにも10の赤点。
スタードラゴンと思しき一つを除いて、9つの[敵]が山を飛び越えた。

漆黒のまったく同じACが9機。
全身黒一色の二脚型AC。両手に強力なレーザーライフル・カラサワを備えている。
「…あれは…!」
皆が絶句する中、フォッカーだけが驚きで崩れた声を出す。
同時に、全員の頭部AIが正体を告げる。
『敵ACを確認、アルーシャスです』
(何故奴が此処に居る!いや、何故"彼"に味方する!?)
フォッカーは常の冷静さを失っていた、態度に表しこそしないが。
そして最も残酷な答えだけを冷静に、しっかりと自分の中で出した。

ACアルーシャス9機が佇む中、フォッカーが静かに口を開いた。
「逃げるぞ」
一言だけ、皆に伝えた。
瞬間、フォッカーを除く全員が後退した。同時にアルーシャスも攻撃を開始。
「フォッカー!」
アルーシャスに只一人応戦する仲間を見てハンスが声を上げる。
「俺の機体は遅すぎて逃げられないし、この状況じゃ足止め役は不可欠だ。」
アルーシャスのレーザーライフルを数発被弾し、天月の左腕が吹き飛ぶ。
「ハンス!何ボサっとしてるの!逃げるよ!」
「ハンスさん、駄目です。彼の意思を無駄にしてはいけません。」
「…そんな…フォッカー!おい、フォッカー!」
言いながらも逃げるハンス。どんどんフォッカーとの距離は離れて行く。
遠く、上空から青いレーザーが18本、同時にフォッカーに向かって放たれる。

上空から自分に降り注ぐ青いいくつもの光。
自分に確実に死を与える光。
だが、それは死の光景としてはあまりに美しくもあった。
(こんな光景が最後なら悪くない)
ただ、と自分の心に付け足す。
(読みかけの本と、あいつらの事が心残りだな)
通信機から自分の名を呼ぶ声がする、ハンスのものだ。
「…喚くな、みっともない」
通信機が拾い、3人に伝えた。これが最後の彼の言葉だった。

————悪夢から数時間————
人里離れた山の麓に5機のAC。
佇む巨大な兵器の足下に、6人の男女が集う。
リウェッタは眠っている。彼女を抱きかかえるマリアの顔は悲しみそのもの。
ハンスとヴェルギリウスはそれぞれ地面に座り、顔を伏せたまま。
ハンスの横で眠るグー。擦ったまぶたは赤く、頬には涙の後。
フェリアルギアスはACのコクピットから出てこようとしない。

彼らは仲間以上に、全てを失った。
"彼"を追い求めるという意思。それがまず一つ。
"彼"の味方をする形で現れたACアルーシャス。
彼らは皆、この機体を知っている。良く知っている。何度も何度も見て来た。
そのアルーシャスが"彼"を味方した。という事実。
彼らの中で"彼"は追い求める存在から、討つべき存在へと変わった。
否、元より討つべき存在だった。彼らは知らなかっただけ。真実を。

後日、彼らはフォッカーの弔いを各々済ませた。
静かに、とても小さく。世界から見れば本当に小さく、ちっぽけなものだった。
彼らは意思を固めた。
今や明らかになった"彼"という存在を討つための意思を。

クーゲルシュライバーの本拠地、広大なACガレージの中で一人の男が叫ぶ。
拡声器を持ち、ただでさえ大きな声をより大きくして叫ぶ。
「敵・襲フゥー!」
彼は整備士として働く傍ら、この本拠地のセキュリティをまかされた。
いわば見張り番である。その彼が敵襲を告げた。少々可笑しな方法で。
(敵!)
ディオを含め、所属する隊員、隊長全員が各々ACに乗り込む。
既に別任務で出払っているレイヴンも居るが、それでも結構な数だ。
「似たような色のACが5機、こちらへ向かってきますよーぅ!」
「バッチコーイ、返り討ちフォー!」
整備士ラモンは叫び続ける。

隊員、10近いACがずらりとガレージを囲む。
丁度ディオの居たあたり、南西の方角から白黒のACが5機現れた。
ディオは先頭の機体に見覚えが会った、いつかあった。あの彼の機体だ。
「あれは…神楽…まさかハンス!?」
この言葉に隊長桃白々一号が反応する。
「何?セヴンビークスか!」
ガレージを囲んでいた隊員達が一斉にディオの元へと集まる。
目の前に、5機のACが静止する。様々な脚部の機体だ。
『ACを確認、閃花、神楽、鈴鳴、俊狼、烈鬼を確認』
(ん?まただ…[敵AC]じゃない…)
ずらりと並ぶACの前で、五機のACが次々と武装を解除した。
次いで神楽からハンスの声。
「よーぅ、ディオ。久しぶりだな。」
「ハンス…一体…何がしたいんだ?」
目の前の異様な光景を前に、ディオが訪ねる。
今度は女性の声。鈴鳴から聞こえて来るマリアの声。
「貴方達に協力する為、ここへ」

世界は急激な変化を見せる。
中心となるディオに、偏る。だが同時に"彼"の脅威もまた強くなる。
ここから世界は胎動を始める。少しづつ、鼓動を早めながら。




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