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一人の上機嫌な男が居た。名はハンス。
以前から興味を持っていた男を会話した、たったそれだけの事なのだが。
彼はいつになく上機嫌だった。
我が家、というには広すぎる屋敷の廊下を彼は歩く。
此処には仲間が居る、彼らが一同に住まう場所[ホーム]

大広間へと繋がる扉を押し開ける。
目の前に一人の女性が居た。
長く艶やかな黒髪を持つ、可愛らしい女性。
彼女は胸の前で手を複雑に動かす、目はハンスを見据える。
≪おかえり、ハンス≫
これが今彼女の行った複雑な手の動きの意味。手話だ。
彼女は話せない。先天的なもので、彼女の声を聞く事は無い。
「ただいま、グー」
幸い耳は聞こえるので意思を捉える事に苦労はしない。
だが、彼女の手話を理解できるのはハンスだけだった。
彼が居ないと彼女は意思の疎通が困難になる。
故に、彼女は常に筆談するための道具を持ち歩いている。

≪何か見つかった?≫
先ほどから終始微笑を浮かべながら手話をする彼女。
「いーや、なんにもない。その代わり、面白い奴に会えたさ」
≪面白い?≫
彼女の表情が微笑みから変わった。不思議がる表情だ。
「"彼"からの唯一の生き残り、ディオストラーダって奴」
彼女が一瞬驚きの表情を見せた。
「色々想像と違う奴だったけど、まぁ、それなりに面白い奴だった」
実際、彼とディオの間に特別おかしな事は無かった。
だが、ハンスはディオに何かしら奇妙な感覚を抱いていた。
彼なりに解釈すると、それは興味からくる面白みだったのだろう。

ギィ、と鈍い音を立てて扉が開く。
ハンスが開けた扉とは反対側の扉から女性が一人、顔を出した。
その腕には一人の少女が抱きかかえられている。
丁度、お姫様抱っこと呼ぶべき体勢で少女を抱きかかえる女性。
そして、抱きかかえられている少女は静かに眠っている。
両手が塞がっているため、器用に足だけで扉をこじあける。
あまり行儀が良いとは言えないが、彼女の容姿は行為とは打って変わり、上品だ。
手話の女性、グーと同じく。彼女もまた顔に微笑みを浮かべている。

「あら、お帰りなさい。ハンスさん」
「ただいま、マリアさん」
名前と容姿がぴったりだ。彼は名前を呼ぶ度いつも思う。
≪リウェッタは相変わらず寝てるよ≫
抱きかかえられた少女の方を見て、ハンスは頷く。
「そう…ええと。フォッカーさんを知らないかしら?」
帰って来たばかりのハンスは知るはずも無い。
傍らでグーが手を動かす。ハンスはそれを見逃さない。
≪書斎の方に行くのを見ました≫
「…書斎の方に行くのを見たらしいですよ」
「そう、ありがとう。」
彼女はそれだけ言い残すとリウェッタを抱えたまま来た扉を開け、引き返した。

大広間のソファにハンスが腰掛ける。テーブルを挟んで正面にグーも座る。
手話の都合上、正面に座った方が都合が良い。
先ほどのように隣にいてもハンスには手話が理解出来るが、正面の方が簡単だ。
≪どんな人だったの?≫
と微笑みながら手話を続ける。
「んー…良くわかんないだよなぁ。とにかく面白そうな奴だった」
言い終えるとまた扉の開く音。
大広間だけあって広いこの屋敷でも通行人は多くなる。
扉の奥から一人の少年が入って来た。美をつけるに相応しい容姿の少年だ。
「あ、おかえり。ハンス」
「おぅ」と短く返す。すると、また違う扉の開く音。

今度は背の高い男が出て来た。左目に眼帯をし、小脇に本を抱えている。
近くに居る少年を目にすると直ぐに声をかけた。
低く、静かな声。だが強さがある。
「ヴェルギリアス、フェリアルギアスが探していたぞ。」
「姉さんが?何処に居るの?」
「多分…部屋だ」
それだけ聞くと、少年は男の隣を抜け進んで行った。
「フォッカー、お前もマリアさんに探されてたぞー」
ハンスが声をかける。フォッカーは少し沈黙したが、すぐに答えを出した。
「…彼女は何処へ?」
「書斎に向かう所をグーが見たらしいからそれを伝えた。多分書斎だ」
フォッカーもまた、来た道を戻って行った。

≪このお屋敷、広くて人を捜すの大変だよね≫
そうだな、と笑って答えるハンス。ホームで人を探すのは結構大変だった。

その夜、食堂でハンスは今回の報告をした、主にディオについて。
「なんだ、そいつがリーダーだと思ってた」
昼間は会わなかった女性。美少年の姉・フェリアルギアス。
弟もだが、姉も美を着けるに相応しい容姿を持つ。
「違うみたいなんだよなぁ、てっきり一番強い奴かと思ってたのにさー」
「何か複雑な事情があるのかしらねぇ?」
優しい声を出すマリア。
食事の最中なので少女を抱えては居ない。
が、少女リウェッタは隣の席で相変わらず眠っている。料理こそ用意してあるが。
「…今一番"彼"に近い男、か…」
フォッカーが小さく呟いた。
「でも、僕達はまだ一人も彼と対峙していない。」
ヴェリギリアスがフォッカーの呟きに反応する。
≪気長に待ちましょうよ≫
手を休め、手話に変えるグー。
「気長に待て、とさ」
訳し、皆に伝えるハンス。これでディオの話題は終わりを迎えた。

ディオがスタードラゴンと遭遇してから数週間が経った。
新しく隊長となった桃白々一号はそれなりの統率能力を見せ、隊員から信頼を得た。
元々レイヴンチームを率いるリーダーである為、統率能力は高かった。
だが、スタードラゴンに関する大きな情報は入手できていない。
第一に、マグナを襲った後はスタードラゴンの出現が確認されていない事。
そして、その事実をふまえて調査団はハンスの組織について調べている最中だった。
スタードラゴンに繋がる少ない情報源であり、また謎の存在。
彼らの目的を探るとともに、スタードラゴンに関する情報も同時に調査。
そんな事がここ数週間繰り広げられていた。

こちらの成果はそれなりにあった。
組織名セヴンビークス、だが公の組織ではなく、一種の同盟に近い。
所属する人員は全部で7人、その全員の名も調査により明らかになった。
グリニング・デーモン、ハンス、フォッカー、マリア、リウェッタ、
フェリアルギアス、ヴェリギリアスの7名。
だが、結局解ったのは名前だけで個人の素性は一切明らかになっていない。
羅列された名前を見る限り、本名の線は薄く。これ以上の事は見込めなかった。

多少の成果を上げた数週間の調査。
肝心のディオはその間、毎日のように戦闘訓練を繰り広げていた。
クーゲルシュライバーの隊員、主にチーム桃白々との模擬戦闘。
彼には経験が不足していた。特にACを相手にする戦闘において。
スタードラゴンと交戦し、唯一生き残ったのは事実だが。実際はまぐれに近い。
模擬戦の相手をしたレイヴンも彼の才能は認めては居たが、実力は程々。
彼が生き残ったのはまぐれだという真実が白日の下に晒された。
しかし、生き残ったのは事実。そしてセヴンビークスが彼と接触したのも事実。
彼は狙われる立場にあるだろう、そうでなくとも訓練は必要だった。

『コア損傷』冷たいAIの音声が響く。
「おおぅ!」
揺れるコクピットの中、ディオは混乱する。
つい先ほどまで目の前に居たACホアーの姿を完全に見失う。
(あれ?どこだ?)
直ぐにレーダーを確認するディオ。
赤い光点の位置を確認する。自機の真後ろだった。
機体を大きく飛翔させ、王猫天の頭上高くへ自機を移動させる。
そのまま後ろに向かって進みつつ自然落下、ついでに目下へ向かって発砲。
王猫天は飛び上がったディオの捕捉を一瞬誤り、だがすぐに機体を後退させた。
ディオの放ったリニアライフルの一発は空しく地面に着弾。
ディオの後退する速度以上の速度で後退する王猫天のACホアー。
「はい、終わり」
王猫天が小さく言い放つと、ディオの機体は集中砲火を浴び、崩れた。

(今日迄で…58戦24勝34敗か)
パーツが組み替えられて行く自機を見上げながら戦績を思い返す。
新人レイヴンとしてはかなり上出来な結果と言える。
無論、最初はまともに戦うことすらできなかったが今では随分成長した。
強化合宿のごとく毎日のように模擬戦を繰り返すうちに、彼はそれなりに強くなった。
今日は王猫天にあっさり負けたが、彼女とは先日2勝Ⅰ敗の結果を残している。
どうやらディオには発揮出来る実力にかなりの揺れがあるらしい。
見違える程動きが良かったり、呆れ返る程動きが悪かったりするのだ。

「オッケェーイ、心配しなくても大丈夫。俺がバッチリ大・修・理フォゥー!」
ラモンがいつも通りの奇声を発しながらやって来る。
初対面の時こそ異常なテンションとその奇妙な言動に驚いたが、既に慣れが来ている。
「ああ、頼むよ。ラモン」
実際、彼の整備士としての腕は一級品だった。
なによりACを修理する速度が速かった、おかげで一日に何度も戦う羽目になるが。
(奴と…また会う時には、生きて帰れる保証はないんだよな)
今更ながら、自分が対峙したACについて考え直す。
元は伝説のレイヴン、最強と呼ばれたレイヴン。
「おーい、ディオ君。」
王猫天に呼ばれてディオは振り向き、彼女の元へと小走りで駆け寄る。
後に彼はこれが大した用ではないことを知る。
そしてその後、彼は3度模擬戦をこなし。3連敗することになる。

夕食後、セヴンビークスのホームにある一室で一人の女性が通信機と格闘していた。
彼女の名はフェリアルギアス、昼にフォッカーに弟を知らないか、と聞いた女性。
「あーん…うん?出来たっぽい?」
キーを叩く手を休め、出来上がったモノを見つめる。
と、横から弟・ヴェルギアリアスが顔を出す。
「姉さん、それ完成じゃない?」
「だよね?良し、出来たから寝よう」
言うと彼女は席を立ち、ベッドへと進んで行った。
「送らなくて良いの?」
と弟が聞くが、彼女は既にベッドの上。
「明日の朝にする…」
呟くように言葉を出すと、すぐに寝入った。

その、翌日。
以前とはまるで違う様子の部屋—といってもただ片付けただけなのだが—
で目覚めるディオ。
朝日は彼と綺麗に片付けられた部屋を照らす。
「ふぁー…」
間抜けな声と共にベッドからゆっくり起き上がる。
同時に、部屋の机の上の通信機に一着のメールが受信された。
彼はすぐに内容を確認し、その中身を見て一瞬で眠気を吹き飛ばした。

メールの送り主はセヴンビークスと書かれていた。
実に簡潔に、時間と場所そして追記に一人で。とだけ書かれていた。
彼は隊長である桃白々と直に相談したが、結局はメールに従う事にした。
彼は一人で砂漠へと飛び立った。オペレーターさえ居ない。
時間より少々早めについたからか、砂漠にはディオ以外は見当たらない。
(ただ騙されたって可能性もあるし、第一どう考えても呼び出しは罠だよな)
ディオが待つ事数分、二機のACが砂漠に降り立った。
『ACを確認、俊狼、烈鬼です』
てっきりハンスが現れると思っていたディオは軽く期待を裏切られた。

「…あんたがディオ?」
フロート型AC俊狼から女性の声が聞こえて来た。
「そうだ…で、セヴンビークスの…誰だ?」
「フェリアルギアス」
彼女は短く答えた。続けざまに隣のタンク型AC烈鬼からも少年の声が送られる
「ヴェルギリアス、弟」
彼もまた、短く答える。
(スナイパーフロートに…大口径キャノンのタンクか。交戦したら死ぬな…これ)
「えーと…で、俺に何の用?」
聞かれた問いに、二人は暫く沈黙した。

沈黙を破ったのはフェリアルギアスだった。
「ハンスに会ったんでしょ?あいつと理由は殆ど同じ、ただ見てみたかっただけ」
「…なんだ」
ガッカリと肩を下ろすディオ。見世物みたいな扱いが最近多い。
(じゃあ…色々質問して聞き出した方が良いよな。)
「それじゃあ…」
と言おうとした途中、彼女が言葉を遮る。
「でも、なんか気が変わった」
「…え?」
ディオは心の底から湧き出て来たとある可能性に恐怖した。
そして、残念な事にその恐怖は現実のものとなる。

「なんだか回りくどいからあんたを連れて帰る事にする」
この言葉を聞いて、ディオは困惑する。
(俺自身が欲しいのか?こいつら)
だが、悠長に考えている間にAC二機はディオに攻撃を開始した。
「貴方が素直に受け入れるとは思えないので、実力行使です」
両肩の大口径キャノンの発射と同時にヴェリギリアスが言う。
「…畜生ッ!」
ディオはその一撃を躱すが側面からのスナイパーライフルの銃弾は避けられなかった。
(まずい!どうにかして逃げよう。いや、降参するって手もあるか)
考えてる内に、二人からの猛攻は続く。
応戦しながら、二機ものACを相手にできないことを悟る。
ついでに、この二人に「待て」といっても通じなさそうな事も悟り、降参を諦める。

『AP50%機体ダメージが…』
AIが言い終える前に、頭部パーツEYE3が吹き飛んだ。
『頭部破損』
(やばいっ!死ぬ!)
連れて帰る、とは言ったものの攻撃に容赦が無い。
必死に逃げようとする彼の目に、さらにもう一機のACが見えた。
(嘘だろ!)
現れたのは、二脚型のAC。左手に巨大なレーザーライフルを携えている。
どこから出しているのか、頭部AIの声が聞こえて来た。
『ACを確認、デモリッシュです』
(なんだって!?デモリッシュ…ティラ!トップランカーじゃないか!)
ディオは生まれて初めて絶望というものを味わった。

(なんでこんなところにティラが出て来る?)
攻撃する手を止め、フェリアルギアスが思案する。
(そういえばこいつ…2機以上のACを狙うとかなんとか)
彼女は考え、そして結論づけた。
今はディオよりもこいつを優先すべきだ、と。
「ヴェル、目標をティラに変更。ディオは諦める」
「…確かに、そいつでも十分かもしれない。」
ヴェルギリアスが彼女に同意する。同時にディオへの攻撃も止める。
二人はディオそっちのけでティラへの攻撃を開始した。

(な…なんかよくわかんないけど。助かった!逃げよう)
直ぐさま二人を後にし、砂漠地帯から逃げるように去るディオ。
機体はもおうボロボロだ、頭は無く、いたるところが損傷を起こしている。
全力で逃げる彼の目の前にまたACが現れた。
(くそっ!まだ…)
リニアライフルを新たに現れた四脚型ACに向け放つが、躱される。
『ACを確認、鈴鳴です。』
頭部AIの音声を聞いてディオはあることに気づく。
(そういえば、さっきもACって。敵じゃないってことか?)
確かに、AIは名前だけ告げてそれ以上の分析をしない。
しかし、先ほどの二人は結局は敵になった。
実際はレイヴン登録されていない機体なのでデータがないだけなのだが。

(とにかく、どうにかして逃げないと)
焦るディオに向かって進んで来る鈴鳴。
すれ違い様にブレードで斬りつけようと思ったが、それも躱される。
すぐに機体を旋回させ、鈴鳴の方に向き直る。
だが、鈴鳴はディオの事など気にもかけず、そのまま進んで行った。
交戦中の3機のACの元へ進んで行く鈴鳴を見ながら、ディオは安堵する。
(た…助かった)
彼は急いでその場を後にする。

彼はその後。結局罠で、死にかけました。と桃白々に報告。
ラモンに機体の修理を頼むとすぐに自室へと戻り、ベッドに倒れ込む。
(詳しい報告は…明日にしよう)

今日もまた、世界は著しい加速をした。
中心である彼さえも酔わせるほどの爆発的な加速を。
彼は絶えなければならない。
彼という重心を無くした世界は破滅への道を歩むだけなのだから。




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