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「はぁ…はぁ…くそっ、なんなんだよ。一体」
ACのコクピットの中、一人の男が息も絶え絶えに声を出す。
解らない、何が起きているのかが。自分が今どんな状況に置かれているのかも。
ただ周りは黒く、暗闇に包まれている。
ボロボロになったACの目の間に、毅然として立ちふさがる一体のAC。
「こんなことが…」
呟きながら、男は静かに自らの命の終焉を迎える。
崩れ落ちるAC、頭部パーツが盛大な音を立てて地面へと落下する。
衝撃でAIが壊れたのか、ノイズ混じりの音声で先刻と同じ言葉を告げる。
『…敵…ACを…確…スター…ド……ン…』
言い切る途中でACの大きな足が、頭部パーツを無惨にも踏みつぶす。
そびえ立つ、青色のACスタードラゴンMk-Ⅲが。

同時刻。一人の男が自室で目覚める。
つい最近レイヴン試験に合格し、晴れてレイヴンとなった男。
彼の名はディオストラーダ、長ったらしい名前の為ディオと呼ばれる事が多い。
「あーぁぁぁぁぁ…」
目覚めたのはベッドから転がり落ちた衝撃の所為だった。
うめき声を上げながらゆっくりと体を起こす。
窓から朝日が差している。だが、朝日は酷く汚された部屋を一層目立たせた。
彼はレイヴンだ、ただの、レイヴンだ。
世界がどう回っているか気にもかけず、日々を生きるただの人。
彼は何も知らない。全てを知る術も持たない。
だが、世界は此処に、彼を中心に回り始めた。静かに。ゆっくりと。

彼は目覚め、身支度を住ませるとすぐに自分のACガレージへと向かった。
此処へ来たのは今迄も数えられる程しか無い。
思い出せばレイヴンとして仕事をした事もあまり多くはない。
何を隠そう彼が今迄最も厄介な仕事はレイヴン試験だった。
厳密には試験だから仕事ではないが、彼は試験以上に危険な仕事をした事が無い。
内容は武装勢力の排除。レイヴン試験としては最も一般的なものだ。
既存のレイヴンに回せないごく小さな依頼を試験と称し、行わせる。
だが、彼にとってはこの小さな依頼が想像以上に大変なものだった。

「稀に見る才能の持ち主だ…とか言われたっけ」
試験終了後に試験官から送られた言葉をふと思い返す。
世辞ではなく、彼は初めてACに乗ったとは思えない動きを見せたのだった。
新米レイヴン・ディオは確かに類い稀なる才能の持ち主だった。
しかし、彼が今迄その才能を発揮させたのはレイヴン試験の時だけ、
最近請け負った依頼はごく簡単なもので才能云々の問題ではない。

「何ボーっとしてんの?」
自分のACを見上げるように柵によりかかっていたディオに声が向けられた。
振り返ると、そこには彼のオペレータ鈴の姿があった。
小柄な女性で肩まで伸びた栗色の髪。凛々しい顔立ち。
そして、脇に何かのファイルを抱えている。恐らくは仕事の資料だろう。
「…別に、なんとなく。で、どんな依頼?」
聞くと、彼女がはい、と抱えていたファイルを差し出す。
「またテロリストの排除、なんだか最近多いらしくて。」
「またか…いいかげんレイヴンに鎮圧されるってのを覚えないもんかなぁ」
レイヴン試験を含めれば、これが4度目のテロリスト排除の依頼だった。

アイザールダム上空、AC輸送用の輸送機。
「作戦領域に到達、ACを投下します」
何度めかの着地時の衝撃。続けざまに鈴が注意を促した。
「目標のダム施設に付く迄に水に落ちないようにね。」
解った。とだけ短く返し、機体をジャンプさせる。
最高点に達した時に両肩の先に付けられた特殊なブースターを機動させる。
一定高度を保ちつつ滞空する事の出来るホバーブースターだ。
「これなら大丈夫だろ」
滞空状態のまま、目標のダム施設へと急ぐ。

「あれ?なんだこれ?故障か?」
レーダーから次々と赤点、敵の反応が消えて行く。
「こちらでも確認したわ、どういう事かしら?既に何者かが排除を開始してる?」
「仕事を横取りされてるって事か?勘弁してくれよ…」
全速力で移動し、ダム施設の目前まで来た頃。残る敵反応は僅かだった。
「俺の仕事を横取りしてるのはどこのどいつだ!」
ダムの先端、丁度U字型になっている所の真ん中あたりに着地する。
目下、爆発が起きた。何者かによって何かが撃破されたようだ。
"撃破された何か"の破片がこちらへ飛ばされて来た、ACの頭部パーツだ。
「AC!?ACが居たのか。いや…でもこれは…」
何者かが居る場所に視点を落とす。
そこには粉々に爆散するパーツの中に、一体のACが居た。
青い二脚型のACだった。

「何者かしら?それより、ここで一体何が…」
鈴が不安そうな声を出す。
青いACがこちら側を見た。正確には体をこちら側へと向けただけだが。
「やるのか…?」
ディオはこれが初めてのACとの対峙だった。
青いACが右手をこちらへ向け、ライフルを発砲。
同時にブーストを吹かしつつ、こちらへと向かってくる。
「わっ!」
情けなくも初めての対AC戦闘で回避行動すら取れずに被弾するディオ。
慌てている内に青いACは眼前にまで迫っていた。ブレードを展開させている。
「うおっ!?」
全力後退することで振り抜かれたブレードを紙一重で躱す。
「ムーンライト…同じ奴か」
ブレード本体の形状を見たディオが思わず声を出した。
振り切った腕が元に戻り、一旦後退してから青いACがまた切り掛かって来る。

(大丈夫だ…ACだからって何か特別な事があるわけじゃない!)
ディオも左手のブレードを展開、青いACと正面から斬り合う形となる。
ブレードの刃同士が接触、そしてはじき返す。
同時に頭部AIの音声『敵ACを確認、スタードラゴンMk-Ⅲです』
あが、この音声はディオの耳に届いていなかった。それどころではなかったから。
はじき返し、お互いの間に微妙な距離が開いた。
すかさずスタードラゴンはもう1回切り掛かろうとブレードを展開。
ディオは即座に右側へと小さく機体を浮かせた、ダムのU字側の内側へと落ちる。
落ちながらディオもブレードで切り掛かる。
スタードラゴンのブレードをギリギリで躱す。
落下しつつ、振り切ったその腕に向かってブレードの刃が容赦なく襲いかかる。
鈍い音を立てながら、スタードラゴンの左手に装備されていたブレードが砕ける。

(良しッ!やったぞ)
落下しつつブーストで後方に下がるディオ。
だが、ブレードを吹き飛ばされたスタードラゴンも後退した。
一瞬だけ滞空し、またこちらを見る。
(なんだ…?)
後退しつつ、スタードラゴンに違和感を覚えるディオ。
しかし、スタードラゴンはすぐに後ろを向き飛んで行った。
遠く遠く、川を超え、ディオが最初投下された場所の方へと進んで行った。

ガレージに帰還した彼はオペレータに今回の件について話を聞いた。
「あそこで何が起きてたのか、あいつは何者なのか…解らないか?」
聞かれた鈴は一瞬だけ躊躇うと、渋い顔をして答えた。
「それについてはまだ調べてる最中…でも、一つだけ解ってる事があるの」
「なんだ?」
「あの青いAC、そう…スタードラゴンについて」
「俺を襲った奴か、知ってるなら話は早い。なんなんだあいつ」
また一瞬の沈黙。ディオが怪訝な顔をする。
「なんだっていうんだ?」
「彼は…スタードラゴンの搭乗者は…もう死んでるはずなのよ」
(死んでる…?いや、居ただろ。確かに、あそこに。俺、襲われたよな?)
「ど…どういうことだ?」
「解らない、だから困ってるの。搭乗者アルスは既に死んでいるはず。」
「俺は死人を相手にしてたって事か?」
「そういうことになるわね」
何がなんだか解らない。さっきの出来事は嘘だったとでも言うのか。
既に死んでるはずのレイヴンのAC?

暫くその場で考え込んでいたディオが口を開く。
「死んだレイヴンの機体だからって…乗ってるのがそのレイヴンとは限らない…」
「そうね、実際搭乗者の確認は外見だけでは不可能よ」
「誰かが…そう、誰かがきっと…」
「なんにせよ、あの場で何が起きていたのかを知らないと」
「…」
「…とりあえず、お疲れ様。無事だっただけ良しとしましょう」
「ああ…俺、そういえば初めてACと…まぁ、勝ったわけじゃないけど」
最後の一言を付け加えてがっくりと肩を落とすディオを見て鈴が言う。
「搭乗者がアルスだとしたら、あそこまでできれば上出来どころの話じゃないわ」
「どういうことだ?」
「伝説のレイヴン、史上最強のレイヴン。それがスタードラゴンのアルス」

彼は混乱していた。
自室へと戻る足取りも重い。長く広い廊下をずるずると歩く。
すれ違う人々は彼のことなど見向きもしない、それが日常。
(相手は死んだはずのレイヴンの機体…最強のレイヴンの機体)
ふと、一つの事実を思い出す。
(あ…!あそこに居たACは…爆発…死んだんだ、俺の目の前で…)
(俺と同じレイヴンが…スタードラゴンに…やら…れた)
ドン、と考えを遮るような音がした。人とぶつかったのだ。
よろめきながら体制を立て直すと、目の前に人が倒れていた。
あまり激しくぶつかったようではないが、目の前の人は派手に転んだようだ。
「あっ…すいません」
改めて見てみるとぶつかった人というのは随分と小柄だった。
次いで目に入ったのはその格好、全身真っ黒の服。
フードまでかぶっているせいか、肌の露出は無いに等しい。
子供か、小柄な女性か。とりあえず手を差し伸べる。

自分の手を取ったのは包帯だった。正しくは包帯で巻かれた人の手。
一瞬ギョッとしたが、格好を考えると普通の人ではないのかもしれない。
等と随分失礼な事を考えながら体を起こす。
自分の肩くらいまでしかない身長、見下ろす形なのでフードの中までは見えない。
しかし、どこか大きな存在感を感じた。何か特別な存在のような。
彼の得意技、ボーっとする。を披露している内に彼?はどこかへ消えていた。

大きく、広い廊下でただひとり立ち尽くす一人のレイヴン。
彼はまだ何も知らない。だが、ここから世界の回転は加速する。
何も知らない彼を中心に、静かに、ゆっくりと加速する。




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