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『皆さん、準備はよろしいですか?まもなく開始します』
事務的な女性の声が通信機から聞こえてくる。
ACガレージのすぐ外、周りには他にも味方のACが居る。
そして、この先広大に続く大地の各地に様々なレイヴンがいる。
これから始まるであろうレイヴン同士の壮絶な戦い。戦慄が走る。
『これより、第一回サバイバルアリーナを開始します』
この言葉を、開始の合図を聞いた時。
今更だが俺の中に少しの後悔が生まれ、次の瞬間には消えていた。

事の始まりを説明しよう。
まず、俺の名は偽・ワイズ。レイヴン・企業の情報を扱うリサーチャーだ。
だが、そんな事はどうでも良い。
これから起こる事はリサーチャーとしての俺はまったく関係ないのだから。
俺がそのメールを受信したのは、数日前の早朝。俺は仕事に疲れ、寝ていた。

五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い…。なんだ、俺の眠りを妨げるな阿呆。
「あぁー!五月蝿い!!」
数分前からずっとメール着信を告げる音声を出し続ける通信機、俺の仕事道具。
本来ならこんなもので目を覚ます事はない。
音声なんて一回鳴って終わりだし、音自体もそんなに大きくはない。
ただ、それが何度も続くとなると話は別だ。五月蝿くて仕方が無い。
「一体何がどうなって何度も何度も…!」
ベッドから飛び起き、通信機に向かい独り言をぶつくさ言いながら操作する。
メール受信数はおよそ60個、しかも送信者も一人なら内容も全て同じ。
【ヴァネッサ=ウィリアム】
【とりあえず目を覚ましなさい、起きたら返信しなさい。】
こんな内容のメールが60個、そして今、61個目が届いた。
普通なら呆れを通り越し怒りを覚える状況だが、あの女に常識は通じない。

何度も何度も同じメールを送りつけられるのが続くのは流石に嫌気がする。
とりあえず返信しなければならない。そうすればこの嵐は止むだろう。
【相変わらず非常識の固まりで出来てやがるな、何の用だ。】
【おはよう、ワイズ。早速だけど仕事の依頼よ】
【ここまでされててめぇの依頼を受けるつもりはない】
【とりあえず今から送るものを見て頂戴、返事はそれから】
数秒後、すぐにメールが届いた。添付ファイルが二件。
長ったらしい文章が数十行にも及ぶなんとも事務的なメールが添付されていた。
その時、まったく同じ件名のメールが61個の中に入ってるのに気づいた。

長過ぎるので要約すると、内容はこうだ。
三代企業クレスト・ミラージュ・キサラギの合同新企画だ。
その三代企業が技術の粋を集めて作り出したVRシステム。
広大な敷地の中にレイヴンを放り込み、様々な状況でトレーニングできる。
砂漠・密林・山岳・海岸等ありとあらゆる場所を一つのVRシステムに配置。
システムとは言えあまりにも広大。AC30機くらいなら同時に入れる。
その新システムを利用し、レイヴンを使ったイベントを開催するとのこと。
5人でレイヴンチームを作り、全5チームでのサバイバルバトルをする。

正直言って俺には興味の涌かないメールだった。
確かに素晴らしいモノを作り上げたのは認めるが、何故今更こんな事を。
第一、あいつはなんで俺にこんなものを見せたんだ?
そもそも俺自身に届いている、これも謎の一つだ。俺はレイヴンじゃない。
どう答えれば良いか解らないまま送られて来たもう一つの添付ファイルを開く。
中身を見て俺は驚愕した。それはもう声を出し、少し叫び声を上げた。

【言いたい事は良く解った、俺に何をしろと言うんだ?】
【そうね、私に協力して貰おうかしら。色々と私だけじゃ無理だしね】
【解った、手伝おう。良し、今すぐその子を自由にしろ】
俺は急いでメールを送った。その画面には添付されていた画像が表示されている。
嫌な微笑みを浮かべるヴァネッサと、その横にあるベッドで寝てる王猫天。
どういう経緯かは解らないが、脅迫に使うという事は無事だという事だ。
この時、生まれて初めて幼なじみである奴が同性愛者だと言う事を恨んだ。

ドアをノックする。勿論彼女、ヴァネッサの部屋のドアだ。
あれから急いでこの部屋に来た。王猫天を救出する為に。
「早かったわね、大丈夫よー。なんにもして無いから」
「何もしてないなら何故お前の部屋のベッドで寝てるんだよ」
「…まだ、気づいてないの?貴方にゃんにゃんの事になると変わるわね」
「なにを…言っている」言いながら俺は部屋の奥のベッドを見た。
確かにそこには人が寝ていた、だが王猫天ではない。
彼女のオペレータ兼現恋人のルミエだった。
「気づいた?あれ、合成なのよ。しかももの凄く簡単な。」
俺はその場にうなだれ、全ての気力を失った。


「どういう事だ、今更俺がお前に協力するとでも思ってるのか?」
「協力…ね。別にしなくても良いけど。あんた変な所真面目でしょう」
「これは明らかにあんたの負け。こういうの気にするじゃない?」
「ああ…確かに俺はそういう細かい事を気にする。」
「まぁ…だからこうすれば何もせず協力するんじゃないかなー。ってね。」
「悪いが、気が変わった。違う方法で落とし前を付けさせて貰う。」
イスをから立ち上がり。彼女を少し睨め付けるように俺は言った。
「俺もこれに参加しよう。お前も参加するんだろう?」
「本気で言ってるの!?あんたレイヴンじゃないでしょ?」
「レイヴンじゃなくてもACには乗れるんだよ、しかもVRシステムだ。」
「だからって…」あきれかえった様子で彼女が言うが、俺は無視する。
「チームだったな…良し、悪いが勝たせてもらうぞ。」
「言うじゃない、面白そうね。受けて立つわ」
この俺が起きてから数時間でこのようなやり取りが行われた。
正直、この時普通に彼女に協力していれば良かったんだ。

「まずは…チーム。そうだな…あと4人集めないと」
俺は自室に戻り、それなりの友好関係を持つレイヴンを当たる。
これからは正直、色々あった。だが一人一人の経緯を話すと凄い時間がかかる。
かくかくしかじかで俺は4人の仲間を得た。
同時進行で、俺は自分の搭乗するACを組み上げた。王猫天も手伝ってくれた。
出来上がったACは王猫天が「無敵要塞WA・I・ZU」という名を付けた。
操縦法法は彼女から一応教わったが、俺には到底レイヴンにはかなわない。
よって、この機体は複雑な操縦法法を廃し、火力で力勝ちする構成だ。
レイヴンから言わせれば酷い機体構成と言えなくもないのだろうが、方法が無い。


VRイベントの詳細が決定。そんな内容のメールが届いたのはそれから数日後。
参加するレイヴンは全部で30人、6チームだ。
VRシステム内に設置された様々な場所に1チームが固まって配置に付く。
制限時間は2時間。AC同士の戦闘で勝敗が決するのが数分だという事を考えると
いささか長く設定された制限時間である。
場所が広いだけにすぐに交戦状態にはならないと考えたのだろう。
制限時間を過ぎた状態で最も生き残った人数が多いチームの勝利。
生き残った人数が同じ場合は撃墜したACの数によって優劣を決める。
或いは他の全てのチームを倒し、最後のチームとなったものの勝利。
おそらく各チームが固まって行動する事が予想される。
5対5の混戦が繰り広げられ、どちらか一方の最後の一機のみが残るだろう。
全部で6チームという事を考えると制限時間以前に優勝チームは決定だ。
以上の事を俺が集めた4人のレイヴン。俺のチームメンバーに話した。

「はいはい。」王猫天が手を挙げる。
「制限時間まで逃げ回ってれば負けないんじゃないですか?」
「それもそうだな」彼女の兄、王虎天が同意する。
「全てのチームがそういう行動を取った場合、そういう事になる」
「そういう事になる、ってそれじゃ意味ない…」
肥満気味のレイヴン、グルマンディーズがしおれた声を出した。
彼もまた俺がメンバーとして選んだレイヴンだ。
お世辞にも決して強いレイヴンとは言えない。が元々リーダーが俺だ。
要するにレイヴンじゃない奴に付いて行く奴なんてそうそう居ない訳だ。
王兄妹は何も考えず協力してくれたようなもんだ、だが彼は報酬が目当てだ。
報酬とは優勝賞金等ではなく、俺が個別に用意したものだ。
要するにモノで釣った、と言う言葉が正しいだろう。それ以外に方法が無かった。
自分でもヴァネッサに仕返しをする為だけに馬鹿げた事をしているとは思った。

「解決手段といえるかどうか解らないが…」
「30分間チーム内で一機も敵ACを撃破しない状態が続くとその時点で負けだ。」
焼き付け刃のようなルールだが、意外と恐ろしいルールだ。
「戦い続けろ、ということね。逃げ回ってたらそれだけで負けかぁ…。」
彼女が最後のメンバー、ソロ=ルイだ。
恐らくメンバーの中で最も実力のあるレイヴンと言える。
彼女には以前情報を提供したレイヴンで、要するに貸し借り云々で引き込んだ。
「このルールのおかげで逃げ回るチームは無くなるだろう」
「だが、30分か…短いと考えるべきか、長いと考えるべきなのか…」
王虎天が不安げな声を出し、グルマンディーズも似たような事をつぶやく。
「まぁ、出るからには優勝を目指したいよね。」
王猫天が言った言葉を聞き、皆がそれに同意した。
俺だけは…ヴァネッサのチームにさえ勝てればそれで良かった。


自分の部屋にいる4人のレイヴンを見ながらヴァネッサは色々考えていた。
このメンバーを良く集められたものだ、とかやっぱりコルセスカだ、とか。
彼女はまずロビンフッドに声をかけ、
そこから彼女の姉であるジャンヌダルクまで引き込む事に成功した。
ジャンヌダルクはかなりの実力を持つレイヴン、戦力としては多いに期待できる。
後に前々から違う意味で目をつけていたコルセスカに接触。
彼女と仲の良いクレアもついでに引き込む事に成功。
ヴァネッサはいとも簡単に実力派メンバーを集める事に成功していた。

クレアとコルセスカは戦闘に向かない性格だが、VRシステムなら問題はない。
彼女達の優しすぎる性格が邪魔する事は無いだろう。
元々アリーナの延長のようなものだから、彼女達も心置きなく戦える。
ヴァネッサは静かに勝利を、ワイズを返り討ちにする確信を得た。


一方、チーム桃白々達はこの企画を喜び、参加を即決した。
「ついに、俺たちの時代がやってきたんだ!」彼らは口々にそう叫ぶ。
3号が多きな地図を取り出し、自分たちのスタート地点配置を確認する。
密林地区、そこが彼らのスタート地点。
彼らの優勝へ向けての作戦会議は深夜遅く迄続いた。

狭い、何度も思って来たが。何度乗ってもそう思う。
なんだってACのコクピットってのはこんなに狭いのだろうか。
しかもすごく暑い、コアがオーバーヒートしたら焼け死ぬんじゃないか。
そんな事を考えながら機体の最終チェックをしていた。
「ワイズさん、そろそろ始まるみたいですよ」王猫天からの通信だ。
同時に通信機から酷く事務的な口調の女性の声が聞こえて来た。
『これより、第一回サバイバルアリーナを開始します』
サバイバルアリーナ、そんな名前。今初めて聞いたぞ…。

「始まったわ、どうするの?ワイズさん」
ソロ=ルイの声が通信機から聞こえてくる。
同時にグルマンディーズからも似たような言葉が出て来た。
「そうだな、まずは高い場所へ。」
「これだけ広いとレーダーと肉眼両方で索敵する必要がある。」
「一番高そうな場所は…あそこらへんかな」
王虎天が右腕をのばした方向には大きな山があった、山岳地区だろう。
足場は悪そうだが、その分下から探す分には見つかりにくい場所と言える。
だが、山岳地帯からスタートしたチームがいないとも限らない。
「運の問題じゃないッスかね?」
グルマンディーズが気楽に答えた。それもそうだ、と皆が納得。
俺たちは山岳地帯を目指しスタート地点ACガレージ地区から移動を開始した。


砂漠地区のど真ん中、かなり見晴らしの良い所に一つのチームが居た。
プリンセス777とヴァンダム、アクティブ・ジョー、アップルボーイ。
先ほど迄インディスクリミネイターが一緒に居たはずだった。
しかし、彼は目的がある、とだけ言い残しチームを外れ単独行動に出た。
リーダーであるヴァンダムは特に気にかける様子もなく彼を見送った。
チームの人数が減るのは忍びないが、彼ならAC数機を道連れにするだろう。
これがヴァンダムからみたインディスクリミネイターの評価だった。
因みに、彼が単独行動に出た途端、アップルボーイが安堵の声を漏らした。

ヴァネッサのチームはチームを2つに分けて行動を開始した。
ロビンフッド姉妹と残りの3人で個別に行動し、互いに定期的に通信を入れる。
別段作戦があっての事ではないが、どちらか1小隊でも残れば優勝も狙える。
ヴァネッサとクレア、コルセスカの3人は見晴らしの良い山岳地区へ。
ロビンフッド姉妹は単純に見てみたいという気楽な理由から海岸地区へ向かった。

見晴らしが良い、という事は敵に見つかりやすく、また敵を見つけやすい場所。
どうやらヴァンダムチームは運に味方されたらしく、敵を見つける側だった。
密林地区へと進んで行く赤めのフロート機体、桃白々FIVE号の機体を見つけた。
「一機か…妙ですね」アップルボーイが不安げに言う。
「単純に味方とはぐれたという見方も出来る」
アクティブ・ジョーが仮説を立ててみたがプリンセス777が言葉を挟む。
「スタート地点が同じなのにはぐれたりするかしら?」
「黙っている訳にもいかない、30分ルールもある」
行くしか無い、これがリーダー・ヴァンダムの下した結論だった。


レーダーに突如映った4つの反応を見て桃白々FIVE号が通信を入れる。
「リーダー、来ました。でも一機少ないですね。四機です」
「手はず通りに頼む、仲間割れでもしたか一人だけ別行動か」
「どちらにせよあんまり問題にはならないんじゃない?」
二人の会話にⅣ号が言葉を添える。

「フロートは流石に早いな。追いつけないか…」
密林に入って行くFIVE号の機体を見ながらヴァンダムが思わず漏らした。
「仕方が無いわね、視界が悪くなるけど。」
4機のACが続けて密林の仲へと入って行く。
FIVE号が突然急旋回し、プラズマライフルを固まっている4機に撃ち込む。
突然の攻撃ではあるが距離があったため、4人は難なく躱す。
「当たらない攻撃程醜いものはないわね…。」
ヴァンダムとプリンセス777が声を揃えてFIVE号に向かって叫ぶ。
『我々の美しく華麗で、かつカッコイイ戦いの前に敗れ去るが良いッ!』
アップルボーイは一人静かにため息を付いた。

無駄とも思える自分なりのカッコイイ動きを取り入れつつFIVE号に攻撃する。
自分に酔いしれながら攻撃する2人と、黙々と追撃する2人。
だが、アクティブ・ジョーが異変に気づいた。
「やはり罠か、囲まれてる!」周辺に4つの反応が現れていた。
「フフフ…密林仕様明細ヴァージョンのチーム桃白々の参上だ!」
一号のかけ声とともにどこからともなく銃弾が飛んでくる。
レーダーで大体の位置はつかめるが視認が非常に困難。
視認が容易な囮役のFIVE号はフロートの機動力を生かして逃げ回る。
完全に策にはまったヴァンダム達は苦戦を強いられていた。
数の上でも不利な上に、まともに敵の位置を把握出来ない。


数分銃弾とミサイルが飛び交う状況が続いたが桃白々が勝負に出た。
ここで彼らに勝利を収めても残り時間はかなりある。
被弾こそ少ないが、現状であまり装甲を削られるわけにもいかない。
「皆、行くぞ!」「了解!!」
「くそッ、囲まれてちゃここを抜け出せもしないッ!」
イライラしながら戦うアクティブ・ジョーの目の前に桃白々3号が飛び出した。
同時にアップルボーイの真横に2号が飛び出す形となる。
『必殺!ど ど ん ぱ ! !』両者が同時に叫ぶ。
密林の中に轟音が鳴り響き、2機のACはもろくも崩れ去った。
「馬鹿…な」「そんな、これじゃまるで…出オ…チ」
「これがどどんぱの威力よ!」得意げにⅣ号が言う。
その言葉を聞いて残りのプリンセス777とヴァンダムの動きが急に止まる。

突然停止したACを前に思わず動きを止めてしまった一号と2号。
どどんぱの準備をしていたが、ただならぬ2人の気配に気圧されたようだ。
「ひ…必殺技ですって…?」プリンセス777の震えた声。
「馬鹿な…我々でさえ…」ヴァンダムも震えた声をしている。
「そ…そうだ、俺たちチーム桃白々の必殺技だ」一号が律儀に答える。
突如、2機とも両腕をだらしなく下げ、戦意を喪失した様子。
「我々でさえ…華麗なる戦いの境地。そう…必殺技を持たないというのに…」
「貴方達は…既に必殺技を…」二人とも消え入りそうな声でつぶやく。
『我々の…負けだ』二人はあっさり負けを認め。ACの機能を停止した。
「なんだか良く解らないけど…ラッキー…?」2号がささやく


山岳地帯を目指していたワイズ達の目の前に突如としてACが現れた。
「うおッ!?」思わず素っ頓狂な声を上げるワイズ。
彼の実戦経験は無いに等しい、よって初めてレイヴンと対峙する事になった。
しかし、相手側のレイヴンも「きゃあ!!」と声を上げた。
どうやら相手側のレイヴンはチームとはぐれてしまったらしい。
5対1という圧倒的な状況の前に相手側レイヴンは負けを覚悟したようだ。
だが、負けを覚悟したからといって降参するわけではない。
覚悟を決め、一機でも道連れにと突撃して来た。

勝敗は数十秒で決してしまった。
圧倒的火力を持つ無敵要塞を筆頭にレイヴン5人が相手ではなす術が無い。
相手側のレイヴンを確認する暇もなく袋だたきにしてしまった。
ワイズにとっては少し心苦しい展開であったが、レイヴンの厳しさも知った。
『敵ACを確認、ヤクシニです』遅すぎる頭部AIの音声。
彼らがリンチのごとく瞬殺したのはレイヴン[強化人間297]だった。
ワイズだけでなく他の4人の胸がかなり痛んだ。
しかし、どうして彼女が仲間と逸れたのか。ワイズのみが全うな理由を知る。
こうして彼らは山岳地区のひときわ高い場所へ辿り着いた。
そこで彼らは少し離れた場所にある海岸でレイヴン同士の戦闘を見た。
相談した結果、彼らは漁夫の利を狙うという少々セコイ行動へと移る。


「これは…明らかにACの足跡…よね?」
私が二人へ問いかけると、肯定の返事が返って来た。
「ここにACが居たというのは事実でしょう」クレアが冷静に続ける。
こういう状況では地面のACの足跡はかなり役に立つ。
同じような形状の足跡からして二脚と四脚…そしてタンクのようね。
足跡の大きさで大体脚部が絞れてくる、かなり良い判断材料になった。
追うべきか否か…少し相談してみる事にする。
「でも30分まで残り時間も少ないです」
コルセスカが言い終わると同時くらいに通信機から声がした。
「時間なんて気にしなくていいぜ、お前達はここでリタイアだ!」
「敵!?二人とも注意して!」私は声を張り上げる。

『敵ACを確認、ガ・チャピーン・Over=Q・リザードヘッドです』
厄介な相手ね…最初の2人なんか特に。
「ガチャ…ってあの?」「みたいねぇ…」
二人の言葉が聞こえて来たけど、どうでも良いような事。
第一、彼らの能力は詳しくは知らない。単純に強いか弱いかさえも知らない。
ナメてかかると必ず痛い目を見る、レイヴンとしての経験が物語る。
「距離をとって暫く様子をみましょう。」
レールガンを撃ち込みながら二人に注意を呼びかける。
直後、レールガンから放たれた銃弾がガチャ・ピーンの機体に直撃した。
「クッ…やるじゃないか。だがこれからだ!」
「大丈夫?私は暫く休戦するから宜しくね」
「何だと!?お前まだ何もしていないだろう、真面目にやれ。死にたいのか!」
「む…ここじゃ死にませんよ。それに、もう色々汚れちゃってるんです!」
緊張感のない奴らだった。私は途端になんだか悲しくなってきた。
「二人とも…聞こえる?正直イライラしてるんだけど、どう?」
「あえて手を出さないで逃げるという事も出来ます」
コルセスカらしい答え、無駄な争いは避けたいという所かしらね。


結局、バズーカとレールガンを数発撃ち込みつつ後退した。
数秒後、私の後ろを行っていた二人の驚いた声が聞こえた。
迂闊だった、人数が3人という所になんの違和感も覚えなかった自分が馬鹿だ。

『敵増援を確認、馬鹿力・ジャミングワーカーです』
AIの音声を聞いて思う。増援も…変わり者を集めたチームなのかしら?
でも、レイヴンはレイヴン。数で圧倒的不利になってしまった。
クレアとコルセスカは元々腕は良いが実力をフルに発揮できる事は少ない。
相手が死なないアリーナではある程度実力は発揮できるだろうけど…。
「どうしましょう!?」応戦しつつクレアが叫んだ。
5対3。この状況じゃどううまくやっても相打ちが限度。
残る選択肢は敵前逃亡しか無かったが、増援とで挟み撃ちにされている状況。

「私が囮になります、その隙にお二人は逃げて下さい」
コルセスカが言い終わるや否や、彼らに向かってブーストを吹かし、進んで行く。
彼女の決断に関して、今はとやかく言ってる場合じゃない。
二人はコルセスカとの後方を追い、増援の二人の間を縫うように逃げさる。
追いかけようとするパズルギミック・田中健にコルセスカが応戦する。
振り返らずまっすぐ山岳地帯を目指し全速力で移動する私とクレア。
身を潜める場所を見つけるのと同時にACジュニアスの反応がレーダーから消えた。


同時刻、ワイズ達が見つけたのはAC二機、そしてその二機に向かって進むAC。
交戦状態になるのは容易に把握出来た。
彼らは戦いが終わり生存したACを叩く、という作戦に出た。
娯楽性の強い今回の企画だが、だからと行って手を抜く必要はない。
戦場で実際にこのような状況に居合わせれば、レイヴンなら当然の行動だろう。

海岸地区に居たAC二機、ロビンフッド姉妹。
コルセスカの脱落をヴァネッサから聞き、ロビンフッドが肩を落とす。
しかし、彼女らには仲間の脱落に悲しむ暇も無かった。
ジャンヌダルクがレーダーにACの反応を確認し、妹に注意を促す。
「ロビン、ACが一機。こちらへ向かって来てるわ」
「一機?チーム丸ごとじゃなくて?」「何かしらねぇ…」
向かってくるACに応戦体制を整えるシャーウッドとディヴァインメイデン。
ほどなくして一機のACが目の前にブーストを吹かしつつ降り立った。

「攻撃してこないとは…余裕だな」降り立ったレイヴンからの通信。
「お互い様でしょう、なにより貴方は一人だわ」ロビンが答える。
だが、レイヴンはロビンを無視しジャンヌダルクに通信を送る。
「レイヴン…ジャンヌダルク。だな?」
「そう…だけど。あなたは…インディスクリミネイターね?」
「手合わせ願いたい」「手合わせ?これはチームアリーナだけど?」
「そんなもの俺には関係ない。ただ貴様と戦う、その為だけに参加した。」
暫く黙っていたジャンヌダルクにロビンが不安げに聞く。
「…どうするの?姉さん」
ジャンヌダルクは答えた「いいでしょう、受けて立ちます。」
その言葉を合図に二人は戦闘を開始した。ロビンフッドはただ行く末を見守る。


このアリーナが行われてから既に一時間が経過している。
ちょうどそんな時刻、とある研究施設に一人のレイヴンが居た。
彼の名はケルビム。彼は今、新型兵器のコクピットに座っていた。
「レイヴン、これが最終テストになるだろう。思う存分暴れてくれ。」
「準備はできてる、いつでもいいぜ」
漆黒の巨大なMTともACともつかない兵器を前に、一人の研究者が立つ。
「ハッキングを開始しろ」彼の言葉とともに側にいた数人が何かを操作し始める。
『システムオールグリーン。[セラフィム]起動します」


「強い…これが…」呟きながら目の前のACを追うインディスクリミネイター。
彼のACセルフィッシュはかなりの被弾で装甲はかなり削られていた。
ジャンヌダクルクの搭乗するACディヴァインメイデンも又、随分と損傷している。
彼らの実力は互角とも言えた、既に消耗戦だった。
ロビンフッドは姉に加勢したい気持ちを抑え、ただただ見守るだけだった。
どうにもならない状況を前に、ただ立ち尽くす自分。
だが、この状況は誰もが予想だにしない打破の仕方を起こす。
『緊急事態です!システムがハッキングを受けました。』
『現在解析を急いでいます、戦闘を中止してください。プログラムは中止です』
打って変わって酷く取り乱した女性の声が通信機から聞こえて来たのだった。

ハッキング…?三代企業が合同に制作したプログラムに?
一般人には到底できない芸当だ、一体…誰がなんの目的で…。
混乱しつつも考えを巡らせていた俺にグルマンディーズの声が聞こえて来た。
「あれ…なんですかね…?」
見晴らしの良い場所に居たから気づいたのだろう。
海岸地区…先ほどまでACが交戦していた場所の奥、海のど真ん中に何かが居た。
「なに…あれ?」メンバー全員が不思議そうに見つめる中、物体が進行を続けた。
海岸地区のレイヴンは気づいていない様子だった。
このままじゃマズイ、アレが何かは解らないが。このままだと接触する。
「皆、通信が届く範囲まで近づくぞ。あのレイヴン達は気づいていないようだ」


全速力で彼らの元に近づいて行く。
どうやら主催者からの通信のおかげで戦闘は止めたようだ。
滝の上から飛び降り、彼らのすぐ近くへと着地する。この距離なら通信が出来る。
「ロビンフッドにジャンヌダルク、お前達か。俺だ、ワイズだ。」
「ワイズさん?なんで此処に…ってさっきのは一体?」
ロビンフッドが不安そうに訪ねるのを聞いて王虎天が答える。
「なんだかヤバそうなものがこっちに近づいて来てる、とにかく離れた方が良い」
「この先に砂漠が広がっている場所がある。とにかくそこを目指そう。」
言うが早いか、俺は砂漠地区を目指して進んで行く。
皆が後ろに続く中、姉妹と一緒に居たレイヴンが空高く跳躍した。
おそらく彼はアレを目視しただろう、案の定彼から声が漏れた。
「これは…一体…。」

「レイヴン、ハッキングに成功した。ここからは君に任せる」
「了解、っと、海の真上か。酷い所に出たな…いや、そうでもないか」
遠くに広がる砂浜にACが3機。これは予想外に良い偶然だと言える。
「[セラフィム]か…こいつで1時間自由に暴れて良いんだよな?」
「ああ、問題ない。寧ろこの場にいる全てのレイヴンを撃破してくれて構わない」
「我々が今欲しいのは[セラフィム]の実践データだ」
「VRシステムじゃ本物には影響でないしな、テストには好都合ってわけか。」
彼はセラフィムを前進させた。新型の起動兵器の最終テストの為に。


砂漠地区へと到着した俺達は各々ジャンプを繰り返し、様子を見た。
「近づいて来てる…第一あれは一体何?」ソロ=ルイが言う。
「おそらく、だが。あれがハッキングの影響の何かだろう。」
「不法侵入したと考えるのが妥当だな、そして目的は多分レイヴンにある」
「にしてもデカイ…む、胸のあたりにやたらデカイ砲台があるぞ」
王虎天がいくつかの特徴を発見した、結果戦闘型兵器だとの結論に達した。
「巨大な砲台が一つ…と左右4つずつの砲門が計8つ。完全な武装だよなぁ」
砂漠地区を抜けるにはまだ時間がかかる、どうするべきか俺は悩んだ。
どうすれば良いのかは解らなかったが、大体の見当が付いた。
俺と全く同じ結論に達したであろうインディスクリミネイターが皆に伝えた。
「ハッキングの原因は十中八九アイツだ。ならば、破壊するしかあるまい。」
彼の言葉を受け、俺が続けた。
「だろうな、外側…管理側からの手助けは正直期待出来ない。」
「事実侵入を許したわけだからな、奴を排除し、正常な状態に戻す必要がある…」
「そんな事しなくてもVRシステムなんだからやられれば帰れるんじゃないの?」
王猫天が言ったが、ジャンヌダルクが遮った。
「こんな状況でやすやすとやられるわけにも行かないんじゃない?」

皆、覚悟を決めた。ACの移動を止め、旋回し、兵器を迎え撃つ格好。
暫くして巨大兵器の進行が止まり、同時に搭乗者と思わしき男の声が聞こえた。
「よーぅ、逃げるのはヤメにしたのかい?ま、何もしなくても追いついたがな」
「人が乗ってるとはな、お前の目的は何だ?何をするつもりなんだ!」
通信の声に向かって叫ぶも、男は笑いながら言葉を返す。
「簡単だよ、このセラフィムでお前達レイヴン相手にテスト、それだけだ」
言い終わると、先ほどまでとは見違えるスピードでこちらへと進んで来た。
「ふざけるなよ、何がテストだ。めちゃくちゃにしやがって!」

「さぁ、ショータイムだ!!」男の声と同時にセラフィムが攻撃を開始する。
大量の、50発近いミサイルが一斉にこちらへ向かって飛んでくる。
皆、それぞれに回避行動を取りつつ、反撃を行うが。目に見えてダメージは無い。
「ハハッ、やっぱレイヴンにミサイルなんて効かないか」
「だが、お前達の攻撃も俺には効かねぇんだよ!!」
左右4つの砲門がそれぞれグレネードを発射。
8発もの連続で飛んでくるグレネードを前に、驚き、回避が遅れる。
着弾したのはグルマンディーズと俺。だが、不幸中の幸いか酷い損傷ではない。
反撃に両手のカラサワを撃ち込むも、大した損傷は見受けられない。
代わりに胸の巨大な砲台から恐ろしい速さと大きさのレーザーが放たれた。
「ワイズさんッ!」レーザーから俺を守るように王猫天が盾になる。
俺は何事かを叫んだが、凄まじい着弾音でかき消されてしまった。
目の前に残ったのは崩れ落ちるホアーの姿だけだった。

「王猫天!!」メンバーが口々に叫ぶも、次の瞬間には彼女の機体は消え失せた。
死んだ訳ではない、恐らくはシステム外に、つまりは脱落しただけだろう。
だが、ずけずけと入り込んで来た不届きものにやられた怒りは相当なものだ。
「集中攻撃だ、まずはあの忌々しい砲台を狙え。」
インディスクリミネイターが通信と同時に砲台に向かってミサイルを放った。
皆も俺も砲台に向かって集中攻撃を仕掛けた、これで砲台を破壊出来る。
しかし、全ての銃弾・レーザーは砲台へ届く前にバリアに衝突し消え失せた。
「嘘だろ!?」思わずグルマンディーズが叫んだ。
「バリアまで装備してるとは…」ソロ=ルイも落胆した調子でささやく。
「あー、悪い悪い。さすがに主砲は簡単に落とす訳にはいかないんでね」
絶望という言葉をこの時俺は初めて身をもって体験する事になった。

「バリアか、厄介ね。でもノーリスクでは展開できないでしょう」
ジャンヌダルクが冷静に解析した。
あえほどのバリアを展開するには相当のエネルギーが必要なはず。
そう何度も続けて、かつ長時間は展開していられないと判断した。
案の定、バリアは数秒で解けた。が、代わりにミサイルとグレネードの嵐だった。
圧倒的な物量で皆、簡単に避ける事が出来ない。数発は被弾が続く。
一方的にやられるわけもなく反撃もするが、目に見えてダメージはない。
「空中に浮遊しているということはそういう装置があるということだ」
セルフィッシュが螺旋を描きながら上昇し、華麗にミサイルを躱す。
着地と同時にブーストを目いっぱい吹かし、最大速度で進んで行く。

「おお?何する気だ、お前。諦めてやられに来たのか?」
足下に急接近するセルフィッシュを前にケルビムが笑い声を上げる。
兵器の腕と思わしき部分から銃弾が雨のようにセルフィッシュに降り注ぐ。
恐らくは大型化したチェインガンを仕込んでいるのだろう。
予想だにしない攻撃にセルフィッシュは手痛いダメージを負う事になった。
だが、彼は被弾を最小限に抑えつつ、セラフィムの真下へ潜り込む事に成功。
「随分粗末な作りだな」
外見上解らなく作ってあるつもりのブースターを眺め、彼が皮肉る。
「後は任せたぞ、レイヴン達」
ブースターに向かって攻撃し、破壊。同時にセラフィムが轟音と共に地に落ちる。
真下へ潜り込んだセルフィッシュはセラフィムの巨体に埋もれる形となった。
レーダーからインディスクリミネイターの反応も同時に消え去る。

「くそっ、阿呆共め。もう少し頑丈に作るとか考えなかったのか!」
今や、身動きがとれず。ただ攻撃するしかないセラフィムに怒りを覚える。
旋回もままならない現状では後ろに回り込むAC達の攻撃を受けるがままだ。
上半身・下半身と分けるならば腰のあたりで旋回は可能だがいかんせん遅い。
飛び回るAC達を前に主にミサイルを使って攻撃を繰り返すセラフィム。
「一体どれだけ弾を積んでるの…」
ロビンフッドが信じられない、というような声を上げるが。攻撃は止まない。
セラフィムの損傷は激しかった。もはやただの的状態である。
8門あったグレネードの砲門も今やほとんどが潰され、機能を停止している。

「もう終わりだ、全ての攻撃手段を絶たせてもらう!」
ワイズが叫ぶと同時に、一斉に攻撃を仕掛ける。
だが、バリアを展開し、セラフィムにダメージは通らない。
「いつまでその状態が続くかな?」
バリアを展開するセラフィムを前に、皆、一旦攻撃を止める。
「無駄にデカすぎる、そんなんで俺達に勝とうってのが間違いだな」
グルマンディーズがセラフィム搭乗者に向かって挑発する。

『バリア展開限界まで残り5秒です、4…3…2…』
セラフィムのAIが事務的な声を出す。
「くそッくそッ!こんな奴らに、畜生。もっと…頑丈に。もっと…強く」
ケルビムはどうにもならない兵器を前に腹を立て、操縦桿を殴りつける。
バリアが切れ、目の前のACから一斉攻撃を受ける。
確実に主砲に向かって進んでくる銃弾を前にケルビムは叫ぶ。
「ちくしょおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!」


攻撃手段を失い、事実上敗北したセラフィムは後に自爆し、消滅した。
その巨大な爆発と轟音で参加していたレイヴンが集まって来た。
皆、何があったのかと口々に聞くが詳しい話はしない方が良さそうだ。
ただ、俺は俺でアレを調べる必要がある。
VRシステムに侵入したということは実物があるということだ。
しかも男はテストだ、とも言っていた。改善・強化するつもりだろう。
今回はインディスクリミネイターの捨て身でどうにか勝利した。
が、現実に命を投げ捨てて迄あのような行為はできない。
実物が存在しているという事実、これはかなりの脅威となる。

そんな事を一人黙々と思案していると、ヴァネッサから通信が入った。
「何があったのかは詳しく聞かないわ、その方が良さそうだし…」
「ああ…そうだな。」
「ねぇ、当初の目的覚えてる?」
「そういえば…お前への仕返しが参加の動機だったな。」
「どう?決着つける?」
俺は一人苦笑して通信機に向かって言った。
「いや、できればもうACには乗りたくもない。遠慮しておくよ…」
俺は、レイヴンにはなれそうもないなぁ。リポーターで十分だよ。




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