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手負いとなった蒼い狼。
復讐に燃える、純白の若きレイヴン。

両者は小高い公園の丘を挟んで向かい合い、お互いの出方を探りながらの攻防戦を繰り広げる。
敵レイヴンは、「彼」に向けて、家族と恋人を失った哀しみと怒りに身を任せて、とにかく死を恐れずに攻撃する。
しかもそれはただの向こう見ずな突撃などではなく、憎悪に満ち溢れてなおかつ、冷静沈着な攻撃を仕掛けてくる。

――目の前のレイヴンは復讐に燃えて必死に強くなってきたのだろう。
同じように仇を討つためにレイヴンになっていくつもの修羅場を潜り抜けてきた……「彼」のように。
向き合っている敵と、自分の過去の境遇が、どうしても頭の中でチラつく。
こんな大事な状況で非情になりきれない自分を「彼」は呪った。

憎しみの連鎖は、早々切れるものではない。
殺したから殺し返して、さらにその先で憎悪を撒き散らして、また殺し始める。
「彼」も、若いレイヴンも。その連鎖の中に身を投じてしまった、そしてその連鎖からは抜け出すことは無い。

―――追い求めていた……探し続けていた……僕の家族と……ヘレナを殺した貴様を……!!!
―――レイヴンになり、あの人の、そして孤児院のみんなの仇を取る…復讐をするんだ・・・!

「彼」の頭の中で、ひたすら対峙している敵の言動と昔の自分の思考とがダブる。

『貴様が……僕の街にさえ現れなければ……僕の家族は……』

――レイヴンなかが来なければ……孤児院の皆は死ななかったのに!!―――……

『僕の恋人は……ヘレナは……貴様が街を焦土にしたせいで、亡骸すら見つけてやれなかった……!!』

――おいッ、てめえ!!院長先生が…見つからねぇとか…嘘だよな?…・・嘘だろ…うそだァァァァッ!!!!―――……

『友達も皆…皆、街と共に消えてしまった……貴様が壊した街といっしょになぁッ!!』

――てめえの……てめえのせいで、俺はひとりぼっちになっちまんだ、あの世に行った孤児院の皆に死んで詫びろ!!いや、ただ死ぬだけじゃ許さねぇ!!!―――……

『ヘレナと僕は、あの日結婚するはずだったんだ……それなのに……それなのに貴様が現れたからッ!!!』

――ボウス、ピアノの稽古はこれくらいで終わりだ…お前明後日からアカデミーの入学試験だろ?
あぁ?おまえそんな顔するなよ。おまえがちゃんとアカデミーの入学試験に合格したら、また俺がピアノを教えてやるよ。
まあ俺も仕事があるから……そうだな、2週間後くらい、だな。まあちょっと長い間が空いちまうけど、それまでお互いがんばろうぜ……ボウズ。
いや、もうボウズって年でもないか。―――……

『貴様が現れたからッ!!僕の全てが壊されたッ!!!許さない、絶対に許さない!!!!』

――俺はレイヴンという存在が憎い…!!レイヴンは、俺が全員ぶっ殺してやる。一人残らずな!!―――……

――やめろ……やめてくれ……

「彼」の攻撃は、次第に消極的になっていく。
撃とうとする瞬間、胸の中が締め付けられるように痛み、雑念に取り憑かれる。
自分のしてきた報い、相手に向けての同情や、そういったモノが今まで「彼」が潰してきた命に変わって押し寄せてきた。

いざ“復讐”が終わってしまえば、そこにはただ虚しさだけが残る。
自分は今まで何をしてきたのか、誰の、何のためにこんな道のりを歩いてきたのか。
孤児院の皆の、自分の師の仇のため?
違う、自分はただ憎しみを世界に撒き散らし、垂れ流してきただけだ!
誰も望んじゃいない、ただの自己満足の復讐劇を繰り広げてきただけ。
そして「彼」がここで倒れれば、目の前の若きレイヴンへと、この憎悪のバトンが渡ることになる。

……そうしたら………その次には、今度は、あいつが…

「彼」は唯一の家族である、目の見えない少年のことを思い浮かべた。
少年にとってかけがえの無い、たった一人の“家族”が無残に殺されたとしたら、どうなる?

自分は、孤児院の皆と、ピアノの師が死んで、その仇の存在を知ったとき、どうした?


彼の中で最悪のシナリオが出来上がった。


少年が視力を失ったのは、事故だと聞いた。
後天的な視力の消失は、莫大な資金と引き換えに手術をすれば回復することが可能だ。
そして、「彼」はこの最後の戦いに備えて、もしもの為に弁護士にある依頼をしていた。
「彼」が死亡したとき、全ての財産は少年に託すように、と。

自分のしたことがあまりに馬鹿馬鹿しくて、「彼」は自分に呆れて笑いがこみ上げてきた。
自分は、復讐までの道を少年に作ってしまった。
そしてこの道は「彼」が目の前のレイヴンに殺されることによって完成する。
その事実が、「彼」を覚醒させた。

――つまり俺は死ねないってことか……あるいはコイツを生かしてちゃいけねえってことかよ!!

もはや退路は無い。少年に若き自分と同じ過ちを犯させないためには、目の前の敵を倒さなければならない。
あいつに復讐なんてものは似合わない。ピアノだけ弾いてたほうがよっぽど幸せだ。
絶対に……負けてはならない!!
防戦一方だった凍狼が前に出た、そして右手に持っているバズーカを発射した。
押し続けていた白いACは、突然の攻撃に反応しきれず、その弾頭をコアに受けてしまった。
一瞬ひるむ、だが純白のACは重2脚、重コアを中心とした高い防御力を誇る構成をしている。
バズーカの1発や2発で倒れるほどやわじゃない。
凍狼は続けて第二、第三の弾頭を撃ち続けた。だが、死を恐れない敵レイヴンは、決して弱くないバズーカの砲弾を受けながらも前に出る。
左手には強力な威力を誇るレーザーブレードが装備されていた。
硬い防御力を生かし、確実な必殺の一撃でとどめを刺すつもりなのだろう。

既に「彼」のACは度重なる激しい攻撃でボロボロだった。中でも致命的だったのは脚部の二次破損。
本来のスピードの半分もでない凍狼が追い詰められるのも時間の問題だった。
だから「彼」はあえて退かず前にでる。そして右肩に積まれているレールガンを構えトリガーを引く。
エネルギーチャージが進み、敵ACに標準をあわし続ける。
レールガンが発射される瞬間――純白のACは凍狼の目前に迫った。
そして、左腕のブレードからは強力なレーザーガスが展開され、振り下ろした。

ブレードがコアに向かって来る前に、凍狼はわずかに姿勢をずらす。
ギリギリの際どい状況の中、致命傷となるコアへの攻撃を、何とか避ける。
――代償として、頭部、右肩のレールガン、持っていたバズーカが切り落とされた。

一方、ブレードを振り下ろした純白のACは、蒼いACを切りつけた瞬間に今までに無い衝撃を受ける。
ブレードがレールガンを切り落とすほんの数コンマの差でレールガンは発射され、あろうことかその一撃で右腕を溶解させてしまった。
右腕に装備されているKRAW以外、このACに射撃武器は搭載されていなかった。

お互い、自分の手数を減らされる。だがこの時点で既に勝敗が付いたようなものだった。
純白のACは、まだ左にレーザーブレードがある。
しかし凍狼には……インサイドにしか武器は残されてはいない。

「もうすぐ…もうすぐだよ、ヘレナ……もうすぐ、君の仇、取るからね……」

うわ言のように繰り返す、若いレイヴン。
もう武器は残されていない。今からこのレイヴンに勝つのは無理だろう。かといって、もはや逃げることも出来ない。

通信を通して、相手のつぶやきを聞きながら、「彼」は最後の足掻きをする。

死に体の凍狼は、オーバード・ブーストを起動させた。
コアパーツの背中が開き、エネルギーを溜め、周囲の空気を吸い込む。
すでにコアは一次破損を起こし、乗っているパイロットにも影響を及ぼしかねない温度へと加熱する。

「彼」は覚悟した。自分が「死ぬ」という瞬間を。
だが、ただ死ぬだけではダメだ。死ぬなら……目の前のコイツも道連れにしなければ!

虚空にさまよう恋人の魂に語りかけている敵レイヴンは、死にかけていた凍狼の蒼いACがOBを発動させていることに気が付かなかった。
そしてその見落としが、彼らの運命を決めた。

正面から蒼いACが、純白のACに衝突、そのまま引きずられてビルの壁に押し付けられる。
ブレードを滅茶苦茶に振り回してなんとか逃れようとするが、凍狼は4脚を巧みに操り、ついには壁に貼り付けられてしまう。
だが、この状況でどうあがいても、ヤツは何もできない。
若いレイヴンはそう考えた。そして、引き剥がすための強い力を……純白のACもOBを起動させる。

コアからエネルギーが充填され、この状況から打開するためのオーバード・ブースト。
その瞬発力を生むブーストの炎をコアが噴くのとほぼ同時に、凍狼のインサイドから吸着地雷が発射された。

――悪いな、アイツの為にも、アンタを生かしておくわけにはいかねえんだ。勝手なこと言ってると怒ると思うが……俺もアンタも一緒に地獄に行きだ。

なにを勝手なことを言って……言い返そうとしたが、その前に地雷はブーストの炎に炙られ、爆発した。
その爆発は、凍狼のインサイドに残っていた吸着地雷へと引火し……

蒼いACは大爆発を起こした。まるで自分の最期を、知らせるかのように。
同時に、純白のACはその爆発に巻き込まれ、各パーツがバラバラに分かれたまま、コアパーツだけがOBの力で大空へと飛んでいく。
大空へ飛んだ純白のコアは、空中分解をしながら爆散し、復讐という鎖に囚われていたレイヴンと共に散っていった。

――もう少し、オマエの成長を見ていたかった……
――オマエは俺なんかとは違うまっとうな人生を歩き、立派に生きてくれ、そして、俺の教えたピアノを弾き続けてやってくれ。
――あの世からオマエのことずっと、ずっと見守ってるぜ、じゃあな……


    ―――…………たった一人の弟……俺の大事な、かけがえの無い弟……


激戦区から遠く離れた住宅街の一角にあるマンション。
シトシトと雨が降るなか、そのマンションのベランダにいた少年は、空が――目は見えないが、光ったのを感じた。
それを感じた瞬間、少年の見えない両目からは、大粒の涙が零れ落ちていた。

― ― ― ― エピローグ ― ― ― ―

凍狼と、その命狙うレイヴンとの戦いが同時討ちという形で決着が付いた頃、戦局はクレスト側の勝利で終わった。
最強の手駒であったハズのレイヴン3人が倒され、この地を制圧することは不可能と判断、ミラージュはこの地の鉱山を諦め、撤退していった。

結果から見ると「彼」の功績は非常に大きい。凍狼が……「彼」がこの街を守りきったのだ、その命と引き換えに。


戦闘があった次の日、少年の元に初老の弁護士が現れた。
「彼」の死と、「彼」がレイヴンとして稼いでいた莫大な遺産が少年に対して託されることを伝えに。
少年は、「彼」の死をすでに直感していたが、直接戦死したことを告げられるとやはり――その小さな体では悲しみに耐えられず泣き崩れてしまった。


しばらく、すすり泣く声が家中に響いていたが、何とか気を落ち着かせる。
少年は、これからの自分の身のふりを決めなければならない。

弁護士は、まず膨大な金額の遺産の相続のサインを求め、それに少年はおぼつかない、震えた手つきで署名した。
そして、弁護士は生前の「彼」から説明するように頼まれていた事項を述べる。

遺産の使い道は、少年の自由だということ。
少年の両目の手術をすれば、両目の視力を回復することができるということ。
その両目の手術に使うためのドナーも、「彼」によってすでに手配されているということ。

そして……それらの決定は、少年が自分で考えて決めてくれ、とのことだった。


少年は、弁護士から説明を聞き、しばらく考え込んだ。

長い沈黙……少年は顔を上げ、自分の考えを弁護士に答えた。


「僕は……そのお金で、ピアノを購入したいです。他には何もいりません。」

弁護士は、その言葉に驚き、耳を疑った。

「残りの余ったお金は、僕のように恵まれない人達へ寄付してください。
……僕はもう十分に恵まれています。だから、そうしてください。」

目の手術についてはどうするというのだ?
弁護士のその問いに、少年はこう答える。

「僕の両目は……このまま見えないままでいいです。目が見えなくなってしばらく経ってからわかったのですが、
変なこと言ってると思うかもしれないですが……目が見えないほうが色々なモノが“見えて”くるんです。
人の気持ちとか、感情とか、綺麗なものや汚いもの……そんな感じのものが、より近くに感じられるようになったんです。

だから、僕は……このままでいいです。僕に使うはずだったドナーも、他の目の不自由な方へ提供してあげてください。
僕は……このまま「兄」と共に過ごしてきた思い出と一緒に、これからも生きていきます。」

――――――――――――――――――――――――――
その後、少年の希望通り、残りの遺産は全て世界中の孤児院や貧困地、先の特攻兵器の被害から復旧がなかなか進まない地域へと送られた。
そして「彼」が使っていたピアノと、家財道具一式は全て燃やされた。
この世ではない、死後の世界の彼へと届くことを願って。


全てが終わった次の日、少年は「彼」と出会ったパブでピアノ弾きとして通うようになった。
パブの老マスターは、少年の「この店でピアノを弾きたいんです!」という熱意に快く承諾した。

少年のピアノは、この後さらに研ぎ澄まされる物となり、その評判は盲目であるという事実以上に、その心にそっと手を差し伸べら得るような、
繊細な演奏をすると、人から人へと斜面を流れる水のごとく伝わった。

少年は……若きピアニストは今日も鍵盤を叩いている。
ピアノを弾くこと、それが彼の運命であり、また彼が望んで決めた道であった。
そして、それは少年と共に過ごした「彼」の望んでいた道でもある。


少年は、その後立派に成長し、伝説のピアニストとして世界にその名を残した。
少年の閉じられたまぶたの下には、いつも「彼」がいた。

少年は一人ではない。少年はいつも、「彼」と共にピアノを演奏している。


今日もまたパブからは、少年が奏でる軽快な音楽と共に、人々の安らかな笑い声が漏れていた。
夜は少年が演奏する、楽しい時間と共にふけていく……――

――Fin――――




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