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 王小龍はBFFの重鎮だ。ネクストのコンセプトや武装の方向性などにも発言力がある。
そんな彼だからもちろんリンクスも彼自身が選定する。自分の求める最高の人材は自分で掘り当てるしかないのだ。
 しかし、焦りを感じていた。自分の歳もだがコジマ汚染で先が長いとは思えなくなってきている。
メアリー・シェリーを失ったダメージは大きい。BFFが倒産、というよりは霧散してしまったのも痛手だ。

 そして彼は一縷の望みをとある機関に賭けた。リンクスの選定からネクストの戦術まで、近頃はネクストの開発まで着手したらしいアスピナ機関に。
ネクストやコジマ技術というよりはAMS技術に重きを置いている研究機関であるが故に適正の高いリンクスを掘り当てるには都合のいい場所だ。
 そして彼はひと通りカタログに目を通し決意を固めた。望みのリンクスがいなければ、『造ればいい』のだと。

 「私としてはメアリー・シェリーに匹敵・・・いや人造するのだからそれすら超える逸材を欲しいのだがね」

 王小龍は思い切って切り出す。アスピナ機関員が返す。

 「遺伝子操作なんてのはサイボーグ手術とか、そういうものじゃあないんですよワン代表。頼まれれば作りはしますがね、結果までは保証できませんよ。」

 「結構だ。それにしても・・・よもやこんなことを受け入れるとはな。『世迷言を、狂ったか老人め。』とでも言われると思ったが。」

 自嘲気味に嗤う王小龍に、機関員が食い気味に答える。

 「我々としても疲れたのですよ。スカウトや、説得に。一から作れれば話は速い。粗製だろうとなんだろうと、ね。
  この戦争でどれだけ多くのオリジナルが失われ、それがどれだけ粗製と言われたアナトリアの傭兵に消されたか・・・
  リンクスはもはや人材ではなく、貴重な資源なのですよ。それを作り出すことはなんら不思議ではありません。かつてのアナトリアが秘匿していたコジマ技術のように。
  いくら強いACがあっても乗り手がいないでは話は進まんでしょう。ネクストを動かすのはコジマ粒子でもなければ油でもない。リンクスですよ。」

 「それで、具体的にはどうすればよいのだ。事前に話していた通り、いくつかサンプルは持ってきているが」

 王小龍の傍らにはクーラーボックスやアタッシュケースが適当に置かれている。
そのクーラーボックスを開いた研究員が顔色一つ変えずに王小龍に説明を求める。

 「血液検査の過程で取った血液の冷凍保存。髪に骨。サンプルとしては申し分ないですね。この三名のサンプルですべてですか?」

 「そうだ、ウォルコット姉弟とメアリーのものだ。血液の方にはラベリングしてあるからすぐ分かると思うが・・・
  遺髪や遺骨は擱座した機体や部屋から採取したものでな。髪は明確には三名のものかは不明だ。骨は遺体を焼いてやる前に切り取らせ、冷凍している。」

 もっとも、コジマ汚染でどこまで正確なデータが取れるかは分かったものではないが。と付け加える。
最近の技術はそれくらいの誤差、埋めてくれますよ、と研究員は返す。

 「恐らく私以外の方にも言われたと思いますが、貴方が求める完璧な逸材になるかどうかはまだ分かりません。
  結果が違っても我々を襲撃しないでくださいよ。アクアビットやレイレナードみたいになるのはごめんだ。」

 「何を馬鹿なことを・・・今やBFFはお前たちアスピナの足元にも及ばんほど疲弊しておるよ。
  それに結果が出ないにしても何らかには役立つだろう。ノーマル乗りでもやらせればいいのだ。いざとなれば臓器取りにでもする。」

 それは、恐ろしい。心底軽蔑するような目を研究員が一瞬見せたが、すぐに生気を失ったかのような目で王小龍に問う。

 「メアリー・シェリーを超えるとなると、やはり、女性ですか。」

 「そうだな・・・私としては男でも女でも構わんが、やはりメアリーの再来とするならば女がよかろう。
  気丈なる女傑か、アイドルか。そんな宣伝も打てるだろうな。まあ、我々が批判されかねんが・・・」

 最近はクレイドル計画なる選民思想の元で運営される清浄なる世界で人々の安寧を守る計画が進んでいる。
極端なまでにパイロットとしての適正がなければ、彼の権限でその計画の慰安役にでもする気でいた。

 「しかし、実際どうなのだ。私としては、このようなゴミを処分できて助かるといったところだが。」

 三人の遺品のことをゴミと称する彼は、研究員に尋ねる。一体、アスピナになんのメリットがあるのか。
そこがリンクスであり、企業勤めでもある彼が気になるところだった。階段を下りながら研究員が答える。

 「我々としても人体実験は初めてですからね。実績、とでもいいましょうか。我々はそれを得る。
  万に一つもないとは思いますが、貴社は失敗作の可能性の残る試作品を得る。まだ現物ができてませんからどうとも言えませんが。」

 重そうな扉が軽い音を立てて開いた先には、大きめの四角い培養槽がいくつも並んでいた。
培養液の色は薄い緑色だが、それがなんとなくコジマを思い起こさせ、王小龍がたじろぎ微かに嗤う。

 「慣れないものだ・・・戦場で我々がまき散らし、少なからず口にしているものだろうにな。」

 「コジマの濃縮液ですか・・・ぞっとしますね。」

 研究員は言われてから気づいたといった感じで、かすかに笑いながら答えた。
この世界の人の生活圏で、もはやコジマ粒子に汚染されていない場所などありはないのだ。
深海か、宇宙か、高空か・・・いずれも人が住まうには過酷すぎる世界にしか安息はない。

 「さて、サンプルはすべてお預かりしても構いませんか?今からでもとりかかれますが。」

 「ああ、頼む。遺伝子操作がどのような物になるのかは分からんが、期待している。」

 踵を返す王小龍に、研究員が結果を出してみせますよ。と言い、その背中を見送った。

 あれから半年ほどが経ち、BFFもそろそろ再建の目処が立ってきたときに、アスピナから連絡が入った。
内容はもちろん遺伝子操作ベビーの件だ。アスピナへ愛機、ストリクス・クアドロで駆ける。

 「待ちわびたぞ、この時をな。それで、どうなったのだ。成功か、否か。」

 興奮を抑えきれない王小龍に、研究員が自信満々といった表情で答える。

 「ご覧のとおりです。胎児にまで育ちもう安定していますよ。あと半年もしない内にお渡しできるでしょう。
  ですが、メアリー・シェリーの遺伝子は損傷が思ったより激しく、思うように取れませんでした。一応混ぜてはみましたが・・・
  ですので、フランシスカ・ウォルコット、ならびにユージン・ウォルコットの細胞から受精卵を造っています。」

 「そうか・・・メアリーのクローンでも良いと思っていたが、ウォルコット姉弟がベースか。
  まあ、二人とも優秀であることに代わりはない。それに、人は造りだせるということが知れただけで十分だろう。」

 王小龍は別の培養槽の中にもう一体、胎児が浮かんでいることに気づいた。
心なしか、先ほど見たものよりも水の純度が低いような気がする。

 「おい、これはなんだ。」

 「ああ、それは間違えて男の子になってしまったので、我々が実験に使っているんです。
  もしかすると、このような状態でコジマ粒子を微弱でも当てていれば耐性が付くんじゃないか・・・
  もしかすると、そちらの子を上回る適正を持つのではないか・・・などといった感じで。」

 やはり、私のような意見を受け入れるような組織だ。根っからのマッド・サイエンティストといったところか。
彼は心中穏やかではなかった。今すぐにでも自分の手で培養槽の中の胎児を引き取りたい気持ちに駆られた。
しかし、そんなことをしてもどうにもならないということも分かっていた。我々の施設に育てられる場所など・・・

 「まあ、我々の方のに手を出さなければ、なんでもいい・・・。」

 「それはご心配なく。そろそろ時間です。また、ご連絡致しますので、今日のところはこのへんで。」

 彼はその後、アスピナ機関から連絡を受け、一人の女の子を連れ帰る。
汚染さえなければ、というどうにもならない念を込め、この季節に咲くであろう花の名を付けた。
彼女の名は、リリウム・ウォルコット。後に、メアリーの比ではないと太鼓判を押すほどの逸材となるリンクスだ。

 そして、もう一方の男の子は、アスピナがそのまま育てている。
箱のような培養槽で生まれ出た人工生命・・・故に名をCUBEとした。
幼少より様々なテスト、試験の被験体となり、ついには専用機とも言えるアスピナの技術の結晶。
X-SOBREROをベースとする『フラジール』を与えられることになるリンクス。

 アナトリアでの大規模戦闘が終わったあとの、束の間の平和。
そのひとときに、戦争をするための道具、平和を破壊するための道具として彼らはこの世に生を受けた。





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