「片羽の月光」


『その力を… 何のために使う気だ…』

結局彼の言葉に対する返答が喉を越えることはなかった。もっと言えば、思考の隅から形になることさえも。
持ち腐れた力だ。跪き、私を見上げる彼にそう言ってやれる勇気もなかったのだ。
それに、彼の言葉には続きがあった。

『企業の起こす争いは何を生んだ? 高度な古代文明は人類に何を齎した? それを奪い合った結果は人々に何を残せただろう?』
『その争いに加わった私達レイヴンは加害者か? それとも被害者だろうか』
『変えたいんだ そんな世界を 一部の支配者が理想を語るだけの世界を』

そんな彼は、もうこの世界に存在しない。
私と戦い続け、私を奮わせた彼はもう……。
…………
………
……


『私はただひたすらに 強くあろうとした…』
『そこに私が生きる理由があると信じていた…』
『やっと追い続けたものに 手が届いた気がする…』

『レイヴン… その称号は お前にこそ相応しい…』

その言葉を最後に彼女は、ジナイーダはその搭乗機ファシネイターと共に消えていく。
彼女が残した言葉と、薄れていく黒煙が何故だがどうしようもなく悲しい答えでしかないと。そう思えて仕方がなかった。
<これで終わったのね…>
通信の向こうで私を支え続けた女性、シーラもそれをどことなく、言葉にするでもなく感じ取っていたようだ。
そう、終わりだ。これでまた半年前と同じ企業が幅を利かせる世界が戻る。
ただ、企業とてこの戦いには疲弊していた。その力を取り戻すまでは少しばかり落ち着いた日々を送ることもできるのかもしれない。
保障はできないが僅かな間、多くの人々が望んだ世界が訪れる。私はそうであること願い中枢を抜けていく。

<待って……コレは?>
シーラの言葉と共に私にも確認ができた。謎の熱源が頭部索敵に引っ掛かるのを。
場所はサークシティの遥か上空、その熱源はまるで待ち構えるように。ひっそりと。
<敵かどうかはわからないけれどこのタイミングよ。充分に注意して>
肯きは彼女に届かない、だがブースターを吹かし上昇速度を上げるだけで理解してもらえただろう。
長い戦闘の後であることを思い出す。炉の限界まで残り5分。

『力の使いみちは見つかったか? レイヴン』

シティを抜け、空を仰ぐ私に囁いたのはまごうことなき彼の言葉だった。
地上も、そして見上げる空さえも白いこの平たく何もない空間で、彼の言葉は何度も私の中をこだまする。
<そんな…半年前の特攻兵器進攻で死亡が確認された筈なのに>
エヴァンジェは再びその姿を私の前に現した。
白の世界を背に、吹かせる推力の灯火からは青の粒子を混ぜながら。
<!?…インターネサインの一部機能が再稼働、特攻兵器の反応多数、それに熱源が彼の機体から確認できるものと同一!>
彼のACの胸部には青の印が目立つ。

<超高出力の粒子加速を確認!レイヴン避けてっ!!>
機体の傾かせ僅かに逸らせた位置に鋭い閃光が通り過ぎる。その瞬間そこにあったものは空気であろうと焼け切られるのを確認できた。
それがエヴァンジェの乗るACの左手に輝くイレギュラーナンバーから放たれのであることも同時に。
<敵機の分析を急ぐわ それまで持ち堪えて!>
彼女の言葉を最後まで聞くでもなく、全力で吹かせたブースターが機体高度と速度を押し上げる。
音を抜けると同時に正面の彼がすぐ横を通り過ぎ、その衝撃波を機体の揺れで感じとる。すぐさまセンサー感度を上げ彼の位置を追いながら自身の機体もソチラへと動かしやった。

『ドミナントってのは 戦場に長く居た奴の過信だ お前のことだよ レイヴン』

通信の向こうから聞かされる彼の言葉は懐かしい。
死んだと思った相手からならば尚更だ。とても戦闘中とは思えなかったが、彼と戦ったのもアリーナでの事だ。むしろこれでいいのかもしれない。
私の放つ弾をコチラに背を向けながら交わす辺り腕に衰えはないようだ。
<確認したわ 彼の放つ熱源はまさしくパルヴァライザーと同じかそれ以上の出力のもの 理屈はわからないけれど 彼が特攻兵器の起動を握っていると見て間違いない!>
通信の間際にも彼からの攻撃が身を掠った。亜音速弾頭をひり出すリニアキャノン。この機体速度で直撃すれば死が覗くだろう。
しかし身震いはない。さらに速度を高めつつ機体を安定させる。

『ここから都市部が見えるか? 企業やレイヴンという存在は俺達に何をくれた?』
『全てをやり直す そのための「特攻兵器」だ』


『時間だ』

地上に僅かばかりの点が覗いた。白い景色の中で黒く深い点が幾つか。
そこから群を成して吹き上がるのは白を塗り潰すような赤、あの赤だった。
<ダメよ!特攻兵器が起動したっ!!>
シーラの言葉に続くように口を開くエヴァンジェ。

『惜しかったなぁ レイヴン』
『歪んだ存在(イレギュラー)は一度リセットするべきだ この特攻兵器で全てを〝ゼロ〟に戻し 次の世代に未来を託そう』

そう言って彼の乗る機体は加速する。白と赤の混ざる中その青は鮮やかに。
そうして再び私への攻撃を再開した。はっきりと映し出されるリニアライフルとリニアキャノンの軌道は気付けば自機に近い。
だが私には当たらない。そう動いているのだから。
<聞いてレイヴン 敵機「オラクル」は企業の新鋭パーツで固められたフレームを中心に 炉にはパルヴァライザーから取り込んだと思われる物が積んである>
<この機体はリミットを解除した防御スクリーンシステムで護られていてあらゆる攻撃が無効化されるの 唯一と思われる弱点は常時強制排熱を行っている前方のエアインテーク>
<正面角度から攻撃してオラクルを撃墜して 今この世界に彼を止められる存在は貴方だけよ>

<〝ラストレイヴン〟 ……幸運を祈る!>

あの頃からそうだった。
『私とお前は鏡のようなものだ 向かい合って 初めて本当の自分に気付く』
力しかない私は志を持ち力を求め続ける君を見て奮えた。
僅かに力及ばない君は理想と現実を知るも私を追い続けた。
『似てはいるが 正反対だな』
そして今もそうだ。
彼を、エヴァンジェを正面に捉え加速する。向こうも私と同じようにそのままぶつかるかの勢いで加速。
青の中に紅を流す線の様に、オラクルがそのライフルとキャノンを構え急接近し、景色に溶け込みそうな薄い灰色の中で紅を煌々とさせる自機、カスケードレインジに右手の主力火器の出力上昇と銃身安定を命ずる。
槍のように伸びるハンドレールキャノンの銃身に蒼の煌き。それは自分の視界さえも潰す程の濃度だ。だが問題はない。私には視えている。
その向こうから届くのはリニアの弾頭。機体に衝撃を与え装甲を確実に抉った。動くなと私は叫びたくなる衝動を抑え銃身の位置を安定させる。
もう撃てる……だが、引き金が尋常じゃなく重い。ちらと横目でみた炉の活動限界まで残り30秒を切った。
引いてくれ。引き金を…!!
『ここで全てが決まる』
そうだ。だからこそ、心の隅で先に私を撃墜してくれと願った。私が生き残ったところでそれは―――


『撃て!! 臆病者っ!!!』


  撃 て ぇ っ ! ! ! !


私の放つ弾頭が彼を貫いた。煙とも炎ともとれるものをコアから吐き出しながらオラクルは極音速でカスケードと見詰め合うように横をすり抜ける。
にも関わらず、その瞬間がまるで時計の針でも止まったかのように、一瞬が脳に焼きついたのだ。

あとは頼んだぞ レイヴン

そんな言葉さえ聞こえた気がした。
後方からオラクルの爆発音が耳に届く、だが私は振り向かない。出来なかっただけなのかもしれないが。それと同時に空埋め尽くす赤は端からその機能を停止、落下する最中に爆発し消えていくのがわかる。
炉の出力限界が秒読みの入る頃に、システムを通常モードへ。着陸までの時間はどうやら稼げそうだ。
<彼の伝えたかったこと… なんとなくだけど 私にもわかる気がする…>
<レイヴン…ヘリを手配した 帰りましょう 皆待ってるわ>





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