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「幻想世界に夢を見た」


『今回の依頼は第八コロニー全域を作戦領域とします』
ぼやけた思考を耳の小型端末を介すオペレーターの声が刺激する。
彼女の言葉はこんなにも尖っているのに集中できないのは何故だろう?そう思う男の目の前に、既に廃墟と化したコロニーが広がっている。
人の姿はないし忙しい人工物も見当たらない。貨物運搬レールの上はぼうぼうに生い茂る草、建築物が纏う種類のわからない蔓の群。
最下層となる足場は誰も使わぬ生活水か、はたまたコロニーを被う天井の亀裂から漏れ滴る雨なのか、数mという深さで水没した道や建物には車や家具がそのまま。
さらには水草の浮いた水面の下に魚が泳いでいるのがわかる。
依頼遂行のためと止められていた無人発電所は再稼動、人の居なくなったこの空間に再び電気を送りやるのだ。
そのためボロボロのネオンは火花を散らしながらに発光。
名前も知らない桃色の花弁を微風に揺らす木が照らされているのが凄く奇麗だった。
「…」
言葉もないってこういうことだったのか。
簡単な感想もでないのは自分が口べたなせいではない、と言い聞かせる男を端末からの女性が引き戻す。
『聞いてます?』の声は落ち着いたものだったがこれは怒っていそうだ。と、あてずっぽうな勘。
適当な相槌と共に男は歩いた。
コートの下に覗くゴツいプロテクター付きのコードや機器が視界に煩い灰色の服は、衣と繋がったブーツが地面や小石を叩く度に耳にも喧しかった。
『指定されたポイントへ急いでください、ACの到着まで残り十分をきりました』
そんなに急かさないでくれよ。
それは返事ではない、男の心の中で愚痴に過ぎなかった。
少しだけ小走りに急ぐ最中、男の耳はオペレーターのソレとは違う音を掴んだ。壁の隙間から水が零れる音ではない。虫の鳴き声とも違う。
耳の向こうの女性に怒られるだろうと、そんなことも承知で男は今歩いている草だらけの路線から道を外れた。
音の方へと小気味良くブーツの底を叩く。
聞こえるソレは次第に大きく、そしてそれがなんとも心地良いものであることがわかる。
あと少し、あと少し。辿り着いたのは壁の崩れたベッドルーム、ランプの灯りに照らされた蒲色の壁紙と擦れたような歌声。
入ってみて気付いた、レコードだ。くるくると回る蝋でコーティングされた木製の円盤を針がなぞり、そこから落ち着いた初老男性の歌声が響いている。
『気は済みました?』
立腹を通り越し呆れたような声でオペレーターは遠まわしに仕事しろよと男に告げた。


コロニーの外から坦々と続く物資搬送用の大型列車用路線。
幾つかある内のひとつの防護扉の近くまで行くと植物に侵食されず生き残ったコンソールがちらほら。
教えられた手順でそれらを叩くと蒸気と共に分厚い扉が解放、むせかえる中ですぐ横を通過する運搬列車の梯子を掴んだ。
荷台部によじ登り列車の運んできた物が丁寧にシートで被われているのを目にした。頑丈なロープで固定されている部分の一部を解くのに苦戦しながらも、男はやっとこシートの下に潜り込む。
数十秒という沈黙の後で響くような唸り声と共に保護シートを突き破って出てきたのは、真っ赤なフレームに青の瞳を煌々とさせる重量級人型兵器。
肩部装甲に駒のエンブレムが静かに覗く二脚型AC戒世の姿。
「システムは敵が来るまでの間弄らないでおくよ、あんまり煩いのも此処では似合わない」
ロマンチストなんですね、なんていうオペレーターの皮肉も笑って返す。
ACという大型兵器の眼を通して見るこの廃街も、なんと味のあるものだろうか。と、レイヴンであるハングマンは同じくレイヴンであった何処か東洋のレイヴンが言っていた褒めの言葉真似てみるのだった。
路線を離れ街並みの方へ、下層に踏みいれた脚先は機械の神経を通してもわかる冷たい水。藻を踏み締めたようにヌルリと揺れる度、水面は慌しく波紋をたて、魚達が逃げていく。
こんな場所で撃ち合いになるのか、そう考えるとなんだか残念で仕方ない。物憂げな表情だけなら耳の向こうの女性にも怒られないかなと皺を寄せる。

『……さんざ気を張った物言いをして申し訳ないんですが…』
どうしたと聞きやると、女性はどもりながらも続けた。
『こないかもしれません……敵部隊』
どうやら作戦目標は他所の部隊とぶつかって交戦真っ只中のようで、言い訳と焦りで早口に、ごにょごにょと漏らす謝罪の言葉を並べるオペレーターが可愛らしい。
ACまで持ち出したにも関わらずだが、こんな結果も悪くない。そんな表情で相手を許した気になるも、少しばかり我侭を言ってやろうとハングマン。
「申し訳ないと思うなら、もう少しだけさ…ここの電気通しておいてくれ」
勿論ですともの女性の言葉も聞かずに戒世のコックピットから這い出るハングマン。ACの出入り口となるゴツい可動装甲を元の位置に戻すとそのままACの上で眠るように寛いだ。
撫で行く風の匂いを楽しみながら、レイヴンは愛機と共に幻想世界の夢を見る。





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