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人類が居住を放棄したさいはての地。
そこに深々と突き刺さった3本の大剣――衛星軌道掃射砲、『エーレンベルク』。
ORCA旅団のクローズド・プラン。その要となるそれは、期を今かと待つ。
荒野を吹き抜ける風の音だけが響く中、銀灰色のネクストは一点を凝視していた。
「メルツェルの小僧めが……きつい仕事を押し付けおる」
老齢のリンクスが、そのコクピットの中で緩く口角を上げた。

――ピコン。

そのネクスト――月輪のレーダーに、遠方からこちらへ向かう2つのネクストの反応があった。
マーカー色は赤、敵機である。
「長年培ってきた感覚が、あれが一筋縄でいかんことを伝えよるわ。全く、難儀なことよ」
銀爺と呼ばれたリンクス、ネオニダス。
ORCA旅団の長であるテルミドールから彼に言い渡されたのは、エーレンベルクの護衛だった。
「老兵の最期に相応しい戦場、手向けに貰うぞ……BFFの小娘よ!」
マーカーと重なって表示された機体名に、ネオニダスの心は躍った。

辛うじてその姿が視認できるほどの距離に、そのネクストたちは降り立つ。
月輪に、通信が入った。

「――こちらは企業連、掃射砲を破壊します」

対話など無駄。
分かり切っているがゆえの、簡潔な宣戦布告だった。

///



「ブリーフィング通りだ、リリウム」
感情を感じさせない、老人らしいしわがれた声。
スピーカーを通して聞くそれは、リリウムにとっては聞き慣れたものだった。
「はい、王大人」
しかし、彼がネクスト――ストリクス・クアドロを駆って戦場に現れるのは、彼女の知る限り初めてのことだ。
いつもは作戦室にいる彼が近くにいるという感覚は、新鮮で居心地の悪いものだった。
企業連の重役たちの顔色を伺ってのことなのか、と考えたところで、リリウムは我に返る。
――いけない、彼の口の悪さが伝染ったか。
無意識に緩む口元に気づかぬまま、リリウムは続ける。
「ネクスト反応は1機、月輪のみです」
「宜しい、私が衛星掃射砲を破壊する。貴様はあれの足止めをしていろ」
「はい」
危険な役回りであることは言うまでもない。
王大人と比べるまでもなく、ずっと。
――そういうことなのだろう。
彼が綺麗なストーリーをなぞるための、私はただの登場人物。
ここで敵の1機でも道連れにすれば、それはきっと脇役としては良い働きなのだろう。
――ならばきっと、『そういうこと』なのだろう。
届かない夢を見た。
震えそうになる声を押さえつけ、リリウムは台本に書かれた台詞を読んだ。
「……こちらは企業連、掃射砲を破壊します」

///



機械のように正確なサイティングで、早々と周囲を囲むノーマルを撃破する。
最期の1機を撃破すると同時に、ハイレーザーライフルの弾がアンビエントの腕をかすめた。
「あまり速く動かんでくれ。年をとると動きが鈍って適わんよ」
「……ッ! ご冗談を……!」
すぐに向き直り、月輪と正対するリリウム。
月輪の構成はハイレーザーライフルにプラズマライフル、背部にはよく分からないものというイロモノ構成だ。
正統派の機体に、言うなればメタを張っているアンビエントとは相性が悪い。
「王小龍の繰り人形か。……腕は立つと聞く、楽しませてくれよ?」
ハイアクトミサイルでは火力に不足すると判断したリリウムは、ECMを展開してダブルトリガーによる機動戦に持ち込む。
こちらの攻撃は命中し、あちらの攻撃は当たらない――のだが。
一向に縮まる気配のないAPの差が、リリウムを焦らせる。
リリウムは勝負を急いた。
機動力に任せて頭上を取り、そのまま後ろを取ろうとするアンビエント。
しかし、一瞬の隙をハイレーザーが捉えた。
「……くぁっ!」
一撃でごっそりと減ったAPに、リリウムの焦りは大きくなる。
続けて撃たれたプラズマ弾は回避したものの、残留したプラズマに大きくPAを削られた。
「児戯だのう、お前さん。まるでよちよち歩きだ」
慌てて距離を取り、体勢を立て直す。
「滑稽、滑稽。若さだけでは戦場を生き抜くには足りんよ」
次ぐ攻撃を必死になって避けなければならなくなっている自分を、リリウムは理解した。
圧倒的に経験が違うのだ。
精神力の差、と言っていいかもしれない。
一連の攻防で明らかなものとなる、彼我に横たわる決定的な溝。
「ランク2というから期待したが、やはりこんなものか、持ち上げられた女王様は。
 これならまだメアリーの方が……だな」
「私は……あの人とは違う!」
「だろうな、王小龍がそう育てたのだから当然か。……どちらにしろ、傀儡よ」
傀儡。
人形、か。
……冗談じゃない。
「――冗談じゃない」
「む?」
王大人の言われるまま生き。
王大人の言われるまま彼を追い出し。
王大人の言われるまま、死ぬ?

そう、何もかも、彼の掌の上。

「……くふっ、あはははははははははははははっ!」
ここで私が意地を見せて、この局面を切り抜けて。

そうして死ぬのすら台本どおりなら、私は大した役者じゃないか!

「本当に……何なんでしょうね……私は……」
「……哀れな」
静かに、月輪は銃口をアンビエントへ向ける。
ロックされているのも理解しながら、アンビエントはそれでも動かない。
「この老兵に、まだ死なせてはくれんか……。難儀なのは、世界の方よな」
歩いて距離を詰める月輪。
既にそのハイレーザーライフルは、アンビエントのコアに接している。
「嫌な時代だな、小娘よ……」
きっとここで自分が何もせずに死んでも、王大人のシナリオには何も支障はないのだ。
「喜べ、これで晴れて自由になれる」
「……自由?」

自由、か。


自由って、何だっけ?


ああ、そういえば。
こんなことが前にもあった。
あの時もこんな感じで。
そう、あの時も、こんな風にレーダーにマーカーが――

「……あれ」

――走馬灯か。
そのマーカーの上に表示された機体の名前は。
見知った名前で。
彼の機体の名で。
そう、臙脂色の――

――ピコン。

「リリウム・ウォルコット、こちらは友軍だ。企業連に雇われて、これよりそちらの援護に回る」

「……嘘」

「バァカ。助けに来たっつってんだよ、ちったあ嬉しそうにしろっつの」

久々に聞くその声は、ぶっきらぼうで、口汚くて。
それでもどこか、優しくて。

「スペキュラー、トーマ・ラグラッツ! これより戦線に出る!」




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