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 パルヴァライザーは、進化していた。
 二脚だ。両手から青いブレードを伸ばした、ほっそりとした二脚型兵器――それが、今のパルヴァライザーだった。
 その動きは確かに速く、レーザーの威力も強化されているようだ。
 だが――
「ぬるいな」
 ジナイーダは一蹴した。
 接近してくるパルヴァライザーに、マシンガンを撃ち放つ。
 パルヴァライザーはその弾幕を上に跳んで回避するが、ジナイーダはそれを読んでいた。
 慌てず、すでにロックしておいたミサイルを発射する。
 空中を進むパルヴァライザーに、七つのミサイルが殺到した。
 パルヴァライザーに、ミサイル迎撃装置はない。
 結果、七発全てがクリーンヒットした。パルヴァライザーは空中でバランスを崩し、地面に倒れてしまう。
「無様だな」
 言って、ジナイーダはブーストペダルを踏みつけた。
 猛スピードでファシネイターが接敵、敵の腹部を踏みつけ、ハンドレールの銃口を胸部へ――急所へ押しつける。
 焦げるような放電音が、パルヴァライザーに回避不能の死を告げていた。
「帰ってくれ。お前に用はない」
 そして、レールガンが火を噴いた。
 青い閃光が至近距離で着弾、パルヴァライザーの胸部をえぐり取る。
 直後、ジナイーダは再びブースタを全力作動。爆発の威力射程から、ファシネイターを退避させる。
 それから一拍遅れて、パルヴァライウザーは全身の関節から火を噴き出し、爆散していった。
(……終わったか)
 安堵の息を吐いた。
 それと平行して、機体状況を確認。
 APは八割と少しであり、コアが少し傷ついている以外は、目だった損傷も無かった。
 次いで、周辺状況も確認する。

 インターネサイン上層部は、中央に巨大なビルを置く、正方形の広場であったが――そのどこにも、新たな熱源は見られなかった。
 どうやら、ジャックの言うとおり、パルヴァライザーと言えどすぐには再生できないらしい。これなら、この作戦――『中枢突入』も予定通り進行できそうだった。
『もしもし』
 そこまで考えたところで、通信が来た。
 四〇がらみの男の声――オペレーター、ウェリックスからである。
「なんだ?」
『戦闘が終わったぽいので、報告します。姐さんよ、どうやらあんたの「意中の人」は、すでに中枢へ到達してしますぜ』
「……そうか」
 それは尋常でない到達速度であったが、ジナイーダは特に驚かなかった。
「中枢へのルートは? 調べてあるんだろうな?」
『勿論、サー。七時の方向にある扉に入って、そこの亀裂から中枢へ通じるパイプに入れます』
「分かった。今すぐ、行こう」
『了解。中枢の破壊を、援護するってことですな?』
 そのウェリックスの解釈は、極めてまっとうなものだった。僚機の元へ行くのであれば、『協力』と考えるのが自然だろう。
 だがジナイーダはそれに首を振った。どこか愉しさを滲ませて、
「違うな」
『……はい?』
「あいつの腕だ。どうせ、私が到着する頃には仕事を――中枢の破壊を、終えているだろう。援護など、あいつには不要だ」
『……それじゃ、なんでわざわざ中枢へ?』
 ウェリックスは怪訝そうに言う。
 ジナイーダは、それに洒落にならない答を寄越した。
「戦う」
 オペレーターの応答は、すぐには来なかった。
 五秒経ち、一〇秒経ち、ようやくウェリックスの声がする。
『……相手は、僚機ですがね?』

「そうだな」
『味方ってことになりますが……』
「そうだな」
『……相手べらぼうに強いんですよ? しかもその割りに、懸賞金……エヴァンジェの半分もなくて……』
「そうだな」
 割りにも道理にも合わないことなど百も承知、と言わんばかりの口調だった。
 自然、ウェリックスの言葉にも力がこもる。
『姐さん。どうしちまったんすか。さっき負けたのが悔しいってのは分かりますがね……』
「それだけじゃない」
 ウェリックスが言葉を失った。
 特に威圧するような口調ではなかったが――そこには尋常でない意気込みと興奮が含まれており、それに気圧されてしまったのだ。
「やっと見つかるかもしれないんだ。奴と――カスケード・レインジと戦えば、ずっと探していた『私』を見つけられるかも知れないんだ……!
私を理解できるかもしれないんだ……!
……それに」
 ジナイーダは一拍置いて、言った。
「相手も、きっと私と同じことを考えているはずだ」
 正直ウェリックスには、言っている意味がわからなかった。
 だから反論した。すでに薄々、説得は無理と感じつつも、
『ナ、ナンセンスっすよ!』
「分かってる!」
 火を吐くような声だった。
 ウェリックスが完全に沈黙し、ジナイーダは一方的に続ける。
「お前は、なかなか優秀なオペレーターだった。今までご苦労だったな。
すでに私が死んでも、お前の口座に金が引き落とされるように、手続きはしてある。
だから――黙ってみていろ。邪魔はしないでくれ」
 夜明け前の、午前四時。ファシネイターが施設の奥に――中枢に向かっていく。

『……なんてぇやつじゃぎ』
 ウェリックスは東部訛りで罵しったが、ジナイーダにはもはや聞こえていなかった。


     *


 細いパイプに飛び込んで、中枢へ下りだす。
 落下は、長い。まるで地核まで繋がっているかのように、延々とファシネイターは落ちていく。
 その内部の照明も全て消えており、インターネサインがすでに停止していることを如実に示していた。
(……もうすぐだ……)
 ジナイーダは、愛機の中で思った。スティックを固く握りしめ、
(もう少しで、会える……戦える……!)
 そこで穴が終わった。
 ファシネイターは、巨大な空洞の中に放り出される。
 球形の天井を持った、都市並みの床面積を誇る大空間――インターネサイン中枢だった。
 予測の通りすでに施設は破壊されており、早朝に似た薄闇が全体に漂っている。
 ジナイーダは、そこに愛機を着地させた。
 静寂に沈む中枢を見渡し、そこに一機のACを認める。
 両手にレーザーライフルを装備した、重装備の機体。
 武装は変わっているが、間違いなく以前戦ったAC――カスケード・レインジだった。
 その証拠に、特徴であるオレンジのモノアイが、こちらを静かに見つめ返している。
「……お前か。やはりな、そんな気はしていたよ」
 相手は応えなかった。
 だが意志は通じているだろう。そもそも、相手も同じことを考えているはずだ。
 その確信と共に、ジナイーダは続けた。
「私達の存在……その意味が、これで分かる気がする」
 ファシネイターが、一歩前に出た。
 カスケード・レインジも足を広げ、ゆっくりと戦闘態勢へ移行していく。
 ぴりりとした緊張が流れ、その一拍後、ジナイーダは宣言した。
「お前を倒し……最後の一人となった、その時に……!」
 カスケードとファシネイター、両者の背後で、青い炎が同時に巻き起こった。
 二人は最高速で突進、だがすぐさますれ違い、反転し、真正面から攻撃をぶつけ合う。
 青、紫、黒、緑、あらゆる色の光弾が飛び交い、中枢を艶やかに照らしだした。
 並みのレイヴンであれば、この段階でどちらかが致命傷を負っていただろう。
 だが、二人の場合は違った。
 お互いに紙一重で敵弾を避けつつ、破滅的な撃ち合いを続けている。

(……ああ)
 その撃ち合いの最中、ジナイーダは賛嘆した。
(……やはり、そうだ。これだ、この相手こそが……!)
 ジナイーダは、突如トリガーから指を離した。
 するとすぐに、カスケードも攻撃を中断する。
 お互いに示し合わせたわけではない。が、暗黙の内に『この撃ち合いは、お互いに技の冴えを確認し合う、一種の「挨拶」に過ぎない』ということを、了解し合っていたのだ。
(……来た……)
 一変、しんと静まり返った中枢の中で、ジナイーダは震えた。
 恐怖ではなく、武者震いだ。
 今までずっと追い求めてきたものに、ようやく手を掛けたのだ。震えないはずがなかった。
「やっと来たんだ……!」
 レイヴン――それも一流の中の一流。それこそ、ドミナントと呼ばれる類の――戦いには、『己』が宿る。
 その戦略に、立ち回りに、もっと言えば弾丸の一発一発に、そのレイヴンの全てが自然と凝縮される。
 自然、一流同士の戦いは、互いの全存在をぶつけ合う壮絶で美しいものとなる。
 ジナイーダは、常々その戦いを欲していた。そういった戦いの中で、ずっと抱き続けていた疑問――『己は何か?』――を解き明かそうと思っていた。
 動作に『己の全て』が宿る場所なら、疑問の答を感じるのも容易なはずだと思ったのだ。
 だが――ダンスは、一人で踊れない。
 そういった戦いには、相方がいる。それも、自分に勝るとも劣らない、圧倒的な実力者が。
 三流と戦ったところで、動作に込められる『己』はたかが知れているのだ。
 そしてジナイーダは、そんな中途半端に得られる『己』に興味がなかった。
 彼女が渇望するのは、ぎりぎりの死闘の中で自然と動作に宿るであろう、完全な『己』である。
 そうした『己の全て』を、強敵との戦いの中で感じ、かつその有り様を掴むこと――それは、ジナイーダの夢でさえあるのだ。
「……待っていた」
 お前を。この瞬間を。
 ジナイーダの頬に笑みが浮かび、スティックが固く握られる。
 心臓がかつてないリズムを刻みだし、体が熱を帯びてゆく。
「やろう。今度こそ、本気で……!」
 子供のように言うと、戦闘が再び始まった。


     *


 先程の小手調べと違い、二人は目まぐるしく動いた。
 上へ、下へ、右へ左へ。
 縦横無尽に駆け回り、マズル・フラッシュを咲かせ合う。
 幾つもの弾丸を交わし合い、接近とすれ違いを繰り返す。
「……すげぇ」
 そうしたファシネイターのカメラ映像を見つつ、ジナイーダのオペーレーター――ウェリックスはぽっかりと口を開けた。
 銜えていた煙草が、下に落ちる。
 ウェリックスは、今まで多くのレイヴンを見てきた。
 だが、ここまでレベルの高い戦いは初めて見た。
 まるで羽でもついているかのように飛び回り、それでいて的確に射撃と回避を行っている。
 だが、そんなことは些細な問題だった。
 何よりも通常と違うのは――二人とも、愉しそうなのだ。
 一切の束縛を受けることなく、伸び伸びと、己の全てを出し切って、この戦いに挑んでいる――そんな感じを受けた。
「なんだよ、こりゃぁ……」
 身震いせずにいられない。
 その姿は、まるで踊っているかのようなのだ。
 己の全存在を余すところなく表現する、情熱的かつ壮絶なダンス――こんな戦い、見たことない。
 猛威を振るったインターネサインの中枢も、今や誰にも邪魔されることのない、二人のための舞台である。
『……私が何であるか……掴めるかもしれないんだ……』
 ふと、脳裏にジナイーダの言葉が蘇った。
 あの時はさっぱり意味不明だったが、今ならよく分かった。
(……そうか、これが、あんたが言った『自分』を掴める戦いか……!)
 確かに、そうなのだろう。
 素人目にも、二人の一挙一動に尋常ならぬものが――それを気持ちというのか、魂と呼ぶのかは分からないが――宿っているのが分かった。
 恐らく、今の二人は全ての動作につけて、『己の全て』を感じ、かつそれを掴み取っているだろう。何故なら、全ての動作に『己の全て』が宿っているのだから。
「すげぇ、すげぇよ、姐さん……!」
 ウェリックスは、かつてない感動に打ち震えた。


     *


「これだ……これこそが……!」
 ジナイーダもまた、震えていた。
 自分の気づかなかったもの、自分の気づいていたもの、気づいても目をそらしていたもの――彼女のありとあらゆるものが、一挙一動に流れ込んでいる。
 その流れを感じることにより、ジナイーダは『己の全て』を――『自分という存在』を隅々まで把握し、それと一体になっていた。
(これが、「私」か……!)
 右手のレールガンを撃つ。
 相手が横に回避、そこでマシンガンから実弾を送り込む。
 だが相手はそれさえも上昇で回避し、さらにはミサイルの雨を降らせてきた。
 ジナイーダは、逃げない。
 マシンガンの弾幕でミサイル群を瞬く間に撃ち落とし、カスケードを追って空中にいく。
 天井付近で、二機のACが並んだ。
 緑とオレンジのモノアイが、同じ高度で睨みあう。
「死ね……!」
 言葉と裏腹に、ジナイーダは笑っていた。
 だが殺意は本物だった。
 肩のパルスキャノンと、左手のマシンガンが一斉に火を噴く。
 カスケードは突如地上におりてこれを回避するが、ジナイーダもそれを追って降り、かつ地上でも撃ちまくった。
 ジナイーダは強化人間であるが故に、かなり無理が利くのだ。
 そして無理のある攻勢のおかげで、カスケードはついに壁に追いつめられた。
 これ以上は下がれず、かつ回避もできない位置関係である。
(もらった!)
 止めを刺す。
 その動作にも、様々な感情が流れ込んでいた。高純度の殺意や、敬意、それと一体になった愛情、さらにはそれに伴う古い古い記憶など――普段は気にもとめないそういったものさえも、今のジナイーダは『己』として体感していた。
(……終わりか)
 若干の寂しさと共に、レールガンのトリガーを絞る。

 パシュ

 不意に、そんな音がした。
 発砲音ではなかった。パージ音。
 それも、ファシネイターのではなく――カスケード・レインジのものだった。
(なんだ?)
 レールガンが溜を開始する。
 それと平行して、ジナイーダはカスケードの武装を確認して――ぎょっとした。
 左手のレーザーライフルがパージされ、代わりにブレードが着けられていたのだ。
 しかもそのブレードからは、すでに青い収束エネルギーが伸ばされている。
(だが、何のため――)
 そこで、レールガンが発射された。
 文句なし、コクピット直撃のコースである。
 だが、カスケードは臆せず突進した。左手のブレードを、高く高く振り上げた状態で。
(斬るつもりだ)
 直感した。
(だが何を――)
 その答に思い至るのと、解答の提示はほぼ同時だった。

 カスケードは、左手のブレードで発射されたエネルギー体を縦に斬りつけた。
 音速以上で進むエネルギー体は、より高密度のエネルギー体――ブレードにぶち当たり、水滴のように砕け散った。
 飛び散った微細なエネルギーが、空中から雨のように降り注いでくる。
「……なっ!」
 ジナイーダは、喫驚の叫びを上げていた。
 あり得ない技だった。
 確かに、理屈としては可能だが、タイミング、角度、それらが丸々合致しなければ、こうはならないはずだ。
 と、そこでCOMが警告。
 見ると、カスケードがそのまま突進してきていた。
 ジナイーダは慌てて距離を取ろうと思ったが――その時にはすでに、カスケードは眼前に迫っている。
 カスケードが、逃げ遅れたファシネイター――そのコアのジェネレーター部位に、右手のレーザーライフルを押し当てる。
『素晴らしい戦いだった』
 ジナイーダは驚いた。
 これは、初めて聞く相手の声だったのだ。
『……だが、アンコールはなしにしよう』
 高密度レーザーが――KRSWの一撃が、ジェネレーターを直撃した。


     *


(負けた……!)
 音で分かった。ジェネレーターが破壊された。
 異常発熱による熱暴走、EN供給不全によるチャージング、それらが同時に起こっている。
 もはや、まともな戦闘は望めまい。どころか、少し経ってたら爆発してしまうだろう。
 実際COMもそう警告している。
 だが、ジナイーダは脱出しようとは思わなかった。
 もはや間に合わないことであるし、何より、今の彼女にとって『そんなこと』はどうでもよかったのだ。
(負けたのか……私が……)
 ファシネイターが、膝を折った。
 バランス維持装置が働き、右手のハンドレールを杖にようにする。
 そんな愛機の周囲に、青い光がシャワーのように降り注いでいた。
(見事だった)
 目の前に立つ勝者を見上げ、まず思うのはそれだった。
 レールガンの光弾を、コンマ数秒違わぬタイミングで、かつ正確な角度で斬りつけた技術は全く賞賛に値する。
 だが――ジナイーダが褒めるのは、そこだけではなかった。むしろ、それは付属品に過ぎない。
 ジナイーダが震えるのは――絶望的な状況でありながら、あえて突進し活路を拓いたその度胸、思い切り、そして心意気である。
 ジナイーダと同じく、カスケード・レインジの動きにも搭乗者の『在り様』が確かに宿っていた。
 そして彼女は、レールガンの弾を斬ったその動作から、相手の尋常ならざる『在り様』を感じ取り、震えているのだ。
 悔しさをあまり感じないのは、きっとその感動の方が大きいからだろう。
「ああ……」
 息が、漏れた。
 絶体絶命でありながら、逃げず、屈せず、己を信じて立ち向かう。
 ジナイーダは、カスケード・レインジの斬撃にそういった『生き様』を見たのだ。
 そしてその姿の、なんと誇り高いことか。

 目の前で、青い雨に打たれながら立つその姿の、なんと美しいことか。
 常に己の力だけを信じて、臆することなく道を開いていくというその姿勢――それはまさしく、ジナイーダが思い描いたレイヴンに理想像だった。
 ジナイーダの胸を、これ以上ない充足が満たしていく。
「……私はただひたすらに、強くあろうとした」
 気がつくと、ジナイーダはそう呟いていた。
 目の前の勝者に向けて、
「そこに私が生きる理由があると……信じていた」
 COMの警告音が、消えた。どうやらCOMも死んだらしい。
 だけでなく、いつの間にか無線以外の全システムもダウンしていた。
 もはや、爆発まで間もないだろう。
 だがジナイーダは笑みさえ浮かべている。
「やっと追い続けたものに、手が届いた気がする……」
 この死闘の中で、ジナイーダはようやく『己』を掴んだ。
 そして、誇り高い相手と、最高の殺し合いをさせてもらえた。
 これは彼女が予想した、どんな最期にも勝る幕引きだった。
「レイヴン」
 音が乱れた。
 もはや時間はない。
 だがジナイーダは臆することなく続けた。目の前の相手に、最大級の感謝を込めて――
「その称号は、お前にこそ相応しい……」
 ファシネイターは爆散した。




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