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「今の私にできること」


二月程前、絶対なる力を振り翳していた私を打ちのめし、頂点に立った男が死んだ。
依頼の最中、味方だと思っていた同業者に背中を刺されたらしい。
この業界では珍しいことではない、裏切りなどというのは最早悪ですらないのだ。
だが、あの男がこうも簡単に逝ったのが、私の中では信じられなかった、否、信じたくなかったのだろう。
齢、人というもの総てに与えられた病魔に抗う術を我々は知らない。
医療用のナノマシンによって遠ざけることはできる、何倍何十倍という期間。だが、それでも精神という領域への侵入は不可避なのだ。
彼もそうだった、心の隙間は存外簡単に埋まる。伴侶、子、友、仕事、力、誇り。
彼にとっては……背中を預けるという烏にとっての命綱とも蜘蛛の糸とも言えるものがそうだったのだろう。
だからこそ、命を落としたのだ。散って逝ったのだ。そして、消えてしまったのだ。

では、〝彼も〟とは?

含まれるのは無論私のことだ。
己の脆さが浮き彫りになるのを感じた。
人を遠ざけていた私が、何時しか人を求める様になったのだ。
それでも尚、寄りつく者どもを振り払う、此処じゃあない。私が求める者がいるのは此処ではないのだから。
だからこそ、感謝している。あの男が死に、再び頂点に戻った私に、求める私の心の隙間を埋める様に群がり這い寄る者達が来たと。
そんな者達が来るべき場所に戻れたと。


普段のアリーナでは比べられない程の歓声も幾分温い。それは、この戦いは久々に興奮する、あの男を思い出すものだから。
舌に触れる血は生暖かい。
呑み込む血反吐はそこらの酒よりも咽喉を焦がす。
一度引いてダッシュボードからペインキラー、首筋に突きたて圧力注射の感覚を味わうのだ。私は痛みが好きなワケではない。
眼前の敵は強い、確かメビウスリングと言ったか。
コチラの機体に使われているものよりも型番の新しいものが見られる正に新時代。
そう、これで良い。古きは駆逐され新しきが上へ。それが企業の統率する世界の常。だが、私もただではやられん。
奴のグレネードと左腕は付け根ごと削いだ。危惧すべきは右腕の主兵装か、惜しむらくはコチラが撃ち合いに付きやってられる程、弾も装甲もないということ。
既に右腕と頭部を失い、彼奴の正確な目視からの偏差射撃によって背中の重機関銃を破壊された。バランサーの数字も狂い出している。
今グレネードを使うのは危ういだろう。
となと残るは左腕の剣のみか。だが結構、大いに結構。
衰えた勘、落ちた読みでは勝てないことなどわかっている。だからこそ、思い知れ、貴様が倒す前王者を。その執念を。その折れかけた牙を。
灯れ剣よ。私の名を彼奴の心の一片にまで刻み込もうとも。
今の私にできること……それは〝エース〟という名が刻み込まれるまでアイツを刻むこと!!




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