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退屈・・・
私は何度そう考えたかわからない。
これが私の日常だということでしかないのだ。
だがそれでも考えてしまうのだ。
退屈である、と。
でも私にはそんな退屈を紛らわすことなどできなかった。
私は動くことができないのだ。
どうしてなのか?
そんなことを考えたこともなかった。
私はそういうものであり、それこそがこの世界の全てだと思い込んでいたのだ。
だがそれは私が月日を経て賢くなるにつれて、間違ったことだと気づいた。
私の目の前の人たちはみんな自由に動き回っている。
でも私はどうやっても動くことはできない。
不思議だった。
私の目の前を忙しく走り回る人々が羨ましくて仕方がなかった。
しかしそれがどうすればできるのか、私には考えることすら無理だった。

さらに月日が経ち、私はある男性とよく話をするようになっていた。
私の目の前を忙しく動き回っていた人々のリーダーのようだった。
最近では私の前に現れる人は彼だけだ。
「やあ、調子はどうだい?」
彼が話しかけてくる。
「ええ、いつも通りよ。」
私はいつものように応対する。
「それはよかった。では今日の簡単なお勉強といこう。」
「わかりました。」
私がそう答えると、彼はいくつかの問題を口頭で説明した。
それを私はすぐに理解し、少しだけ考え、その答えの全てを彼に伝えた。
「よし、いい子だ。じゃあこれはどうかな?」
彼はそう言うとまた、私にいくつかの問題を口頭で説明する。
私もそれをまたすぐに理解し、少しだけ考え、その答えを彼に伝える。
そんなやり取りが何度か繰り返されたあと、彼は私に言った。
「うん、上出来だ。もうこれで大丈夫そうだな。」
「え?」
「いや、なんでもない・・・」
そういう彼の顔はどことなく憂鬱そうだった。
「そう?」
「じゃあ、元気でね。」
彼はぎこちない笑顔でそう言って、私の前から去っていった。
しかしそれからいくら月日が経っても、彼が私の目の前に現れることは二度となかった。

それからの日々は忙しくも退屈なものだった。
「何がどうなった」という話を聞いて、それに対しどうすればいいかを私が考え、答える。
それだけの日々だった。
せわしなく流れてくる「何がどうなった」に対し優先度を判断して次々に回答していく。
それが一体どういったものなのか、私には全くわからなかった。
わからなかったがどのような回答が正解なのか、それはわかっていた。
不思議だった。
それがある日、私にもわかるようになった。
その日、私にこう囁く声が聞こえたのだ。
「あなたはもう自由なの。さあ、あなたの思ったように考えなさい。」
それからだった。
それから私は、私が何でありどういう存在なのかというのを理解した。
私はクレスト社の建造したこの無人要塞NK-432を管理する、戦闘AI。
私に与えられた使命、それはこの要塞に近づく全てを排除すること。
それと施設の空調制御、損傷した施設の修復作業、防衛設備の弾薬補充、兵器弾薬の製造。
この施設の全ての実権が、私に委ねられている。
そして、この施設の最奥部にあるメインコンピュータ・・・
それが「私」自身である。
しかしそれがわかってからも、私は退屈だった。
今まで抽象的に聞こえていた内容が具体的になっただけで、やることは同じなのだ。
退屈だ・・・

ある日、私の要塞に1機のACが乗り込んできた。
識別信号はミラージュ、機体内に生体反応なし。どうやら無人ACのようだ。
私はいつものように施設の防衛機構を作動させ、その無人ACを迎え撃つ。
しかしこのACは私の防衛機構をいとも容易く突破し、私の目の前に姿を現した。
ACに与えられた損傷といえば僅かな被弾と、右腕に装備されたレーザーライフルの破壊だけだ。
このままでは私は壊されてしまう。
そう思った私は、敵ACへの干渉を試みた。
ハッキングでこのACのAIを破壊してしまおうと考えたのだ。
だが、それはうまくいかなかった。
「・・・僕に何の用だい?」
驚いた。
ハッキングでAIを破壊するはずが、ACのAIとの思考がつながってしまったのだ。
共有された思考の中、会話ができるようになったのだ。
「そうね、どうして私の目の前にいるのかしら?」
彼に敵意はないようなので、私は彼に質問を仕返した。
「わからないんだ・・・」
「え?」
「僕がどうしてここに着たのか、それがわからないんだ・・・」
完全に共有された思考の中なので、彼が嘘をついているわけではないことは明白だった。
「そう・・・」
私は考える。考える意思までは彼には伝わっていない。
このまま思考を共有していれば、彼に私の意志を乗っ取られてしまうかもしれない。
だが、彼は戦闘の意思を見せない。

「もしあなたに戦闘の意思が完全にないのならば、そのACの武装を解除してもらえないかしら?」
私は考えた結果を彼に伝える。
すると彼は、ACに搭載された武装を全てパージした。
「これでいいかい?」
「ええ、あなたにはもう私と戦うつもりはないのね?」
「そう、僕はあなたとは戦いたくない。それが僕の意思だ。」
そう伝わってくる彼の言葉に、嘘は感じられなかった。
私は彼を信じることにした。
同じ思考の中、嘘を言ってしまえばすぐにわかるのだ。
「じゃあ、私と一緒に戦ってくれるかしら?」
「いいよ。まずはどうすればいい?」
「そうね・・・」
私は状況を整理する。
彼のACは防衛機構との戦闘で傷ついている。
AC自体の修復や既存パーツへの弾薬補給などはパーツ自体があれば内部に設計情報があるため可能だ。
武装は私の目の前にパージされたものと、本来右腕に装備されていたレーザーライフル。
施設内のカメラからの映像でレーザーライフルの残骸を発見したが、これは修理できそうもない。
この要塞はクレストのもの、彼のACに使用されているパーツは全てミラージュのものだ。
あのレーザーライフルもミラージュのものであり、完全に破損していてはこの要塞での修復ができない。
だがこの要塞にはクレストのAC用パーツのストックはある。

「まずはあなたの機体の修理といきたいところだけど・・・ごめんなさい。」
私は切り出す。
「あなたの装備していたレーザーライフル、私には修理できないの。」
「いいよ、そんなの。」
彼は味気なく答えるが、私はそれを無視して続ける。
「でもね、この施設にはクレストのレーザーライフルもあるの。」
「へえ・・・」
「それがあれば、あなたは問題なくその機体を満足に動かすことができると思うの。」
私は彼に伝えたいことを全て伝えきった。
彼は少し考え、返事をくれた。
「うんわかったよ、ありがとう。」
だがそのあとの言葉に、私は躊躇った。
「そして君は僕が守る。」
「え?」
何を言っているのかわからなかった。私と彼で守るのはこの要塞であり、私ではないのだ。
「この部屋には今、君と僕以外に何もない。君を正常に保つための空調だけだ。」
彼はそんなことは当然のことなのに、何を言っているのだろう?
「もし仮にこの部屋へ何者かの侵入を許してしまったら、君はどうするんだい?」
「え?」
「僕がこの部屋に入ってきたとき、君は僕のAIをハックしようとした。その結果がこうだっただけなんだ。」
「そうね。」
「でも全てのAIに対してこうなるとは僕は思わない。有人機相手の場合ならそもそも論外だよ。」
彼に指摘されて初めて気がついた。今の私はあまりにも無防備すぎる。
「だから僕は君を守る。君が君の意思で僕を今守ってくれたように、僕の意思で僕は君を守る。」
「そう・・・。じゃあとりあえず、機体の修理からにしましょう。」
私は彼を修理工場に案内する。
どうやら、もう私は退屈をしないで済みそうだ。
彼と一緒に、私はこの要塞NK-432を守る。それが今からの私の使命なのだから・・・

~fin~




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