「――機は熟した」

男の声が響く。

「これ以上待っては熟れ過ぎて実は落ちてしまう。
 戦力も十分、今はこれ以上にない好機だ」

スピーカーを通して、何人がこの声を聞いているのか。

「まずは揺り篭を吊る紐を切る作業から始めよう。――ブリーフィング通りだ。
 革命のため、人類の未来のためだ、武運を祈る」

「最悪の反動勢力、ORCA旅団のお披露目だ。
 ――諸君、派手に行こう」


///



GAが保有するアルテリア施設「アルテリア・ウルナ」。
クレイドルへ動力を補給する、クレイドルにとってのまさに「動脈」である。
アルテリア施設にしては警備は厚いが、企業の重要施設としてはやはり薄い警備だ。
それもそのはず、アルテリアを――クレイドルを攻撃することなど、常識では考えられないからだ。
だから、彼らは安心しきっていた。

帰ったら冷えたビールを飲もう、とか。

ただつっ立っている仕事も楽じゃない、とか。

そんなことを、考えていたのだろう。



「――GAらしい、実に鈍重な物腰だ。喉元に刃を突きつけられていることに、
 どうやらあなた方は気付いていないらしい」



彼らを、緑色の光が包んだ。

///



「……あっけない、これが本当に戦場ですか。ここがアンデスなら、彼らは既に3回は死んでいる」

ひと仕事を負え、PQはそう一人ごちる。
まるで鴨撃ちだ。
無駄弾もなし、損害もなし。
戦いではない、これはただ単純な虐殺行為である。

PQ「まあ、お空では更に多い人数が死ぬのでしょうがね」

多くの人間の命を奪ってきた。
カウントが1つ進むことに、今更何の後悔も感慨もない。
だが、このワンカウントには意味がある。
戦いとはもともと何かを変えるためのもの――これも例に漏れず、だ。
自分に何かを変えようという気概はないが、何かを変えようとする人がいる。
ならば、その尖兵となることの意味は確かにあるのだろう。

PQ「……おっと、いけません。少々浸りすぎていましたね」

さっきまで騒々しかった下が静かだから、ついつい考え込んでしまった。
下の処理はブッパ・ズ・ガンに任せてある。
その隙に自分が、という手はずではあったが、そんな区分すら不要だったかもしれない。
帰還するため、ブッパ・ズ・ガンと合流するため。
PQは鎧土竜を断崖へと近づかせる。

「――見ィっつけ、たあッ!」

PQ「――ッ!?」

この断崖を登ってきたネクストがいる。
しかも、それはブッパ・ズ・ガンのビッグバレルではない。
混乱の中、PQは言葉を紡ぎ出す。

PQ「あなた……そうですか! 企業連のリンクス!」

その機体は重厚で、GA系のパーツが多く見て取れた。
腕にはライフルと拡散バズーカを、背部にはスナイパーキャノンと近接信管ミサイルを装備し、
まるで全身そのものが銃火器であるかのような印象を受ける。
そして、PQが一番舌を巻いたことは――

そのネクストが、臙脂色をしていたことだった。

///



時間軸は少し戻る。

ローディー「――というわけだ。今動けるリンクスは、トーマ、君以外にいない。
      私には色々面倒なものが付きまとい、ここを離れづらい身なのでな」

トーマ「……ええ」

アルテリア・ウルナが襲われたという報せを聞いたとき、正直なところあまり驚きはなかった。
その首謀者が誰か――いや、どういう奴らかというのも、目星は付いていた。
それを企業連に知らせなかったことには、確かに非があるだろう。

でも、少しだけ期待を抱いていたんだ。
あいつが本当にそんなことをするのか、信じられなかった。

でも事実として起こってしまった、現実という壁が目の前に立ちはだかる。
ならば進まなければならないのだろう。
せっかく見えた俺の道だ、邪魔すんじゃねえ。

トーマ「行けます。新しい機体、使っていいんですよね」

ローディー「……本当ならテストなり何なり、『慣らし』が欲しかったところだがな。
      仕方あるまい、君と、BFFの整備主任を信じるしかないだろう」

今日初めて乗る機体。
恐らく、相手はリンクス――腕前も、並ではないだろう。

トーマ「大丈夫です。あの機体なら、何だってできる気がするんです」

自分でもこんなビッグマウスが出たことが不思議だった。
ローディー先生もそれを聞いて面食らった表情をした後、やれやれといった風に首を振った。
なぜこんなことを言ってしまったのか、理由は単純。

実際、何だって出来る気がしたからだ。

///



『まず、機体通しての主兵装となるのが右腕武装の051ANNRっス。
 オールレンジに対応できるという意味で、063ANARよりこちらを選択しました。
 精度にはBFF、自信があります。常に垂れ流す気で撃っていいかと』

元々のスペキュラーの右腕武装もコレだった。
変わらず、イメージを結果へと結び付けてくれる精度と信頼性を兼ね備えてくれる。

『次に、重装機ということで接近され、インファイトをされることもあるでしょう。
 そんなときはGAN02-NSS-WBSを使っていただければ問題はないっス。
 軽量機ならカスらせでもすれば動きを止めることもできますし、強引にワンチャンスを
 作り出すだけの装甲を、この子は持ってますよ』

不足だと感じていた瞬間火力が、十分すぎるほどに補われている。
遠近と距離を選ばず使うことができるし、確かに「汎用性の高い武装」だ。

『左背部武装、051ANNRとクロスする形になるのが049ANSCっス。
 051ANNRの射程を生かし、少し遠めの撃ち合いにアクセントとして使ってください。
 キャノンということで気になる反動っスけど、ギリギリロックがブレないように
 フレームは調整してあります』

精度のBFFとはよく言ったものだ。どの距離でも、針の穴を通すような射撃ができる。
加えて威力も申し分なく、こいつがあるだけで撃ち合いにおいてのアドバンテージを作り出せる。

『そして右背部武装、DEARBORN2っスね。肩部連動のNEMAHA01との併用を
 私としては是非お勧めします。049ANSC、GAN02-NSS-WBSのどちらとクロスさせても
 火力の底上げが図れます。弾数に少し難がありますんで、開幕ラッシュとして
 お使いいただければ、苦労するだろうPAもごっそりっス』

至近距離の自爆にだけ気をつければ、命中性と火力のバランスはかなり高い。
多角的な戦闘も可能になるし、「底上げ」どころじゃない火力が手に入った。

――以上。
時間軸をもとに戻してみる。

トーマ「おぉらッ!」

既に周囲はコジマカーニバル、スペキュラーも鎧土竜もPAは剥がれている。
そんな中で拡散バズーカが全弾命中でもすれば、そりゃあとんでもないことにもなる。

PQ「まだです……私の、私の鎧土竜は!」

トーマ「コジマミサイルにゃあ嫌な思い出があんだよ、悪いが容赦しねえ!」

飛べなくなった重逆脚、これほどいい的もない。
宣言どおり、中途半端な高さにジャンプした鎧土竜をスナイパーキャノンの弾丸が捕らえた。

PQ「くっ……そんな、私の鎧土竜が!?」

下にいた緑色の四脚は倒した、とトーマが言ったとき、PQはさほど動じなかった。
革命に犠牲はつきものだ。犠牲のない革命など、あった試しはない。

だが、自分のこの苦戦に、PQは大きく動揺していた。
自分が、他の誰でもない自分が負ける。そんなイメージが、PQには見えていなかったのだ。

PQ「私が……鎧土竜が……!? ありえません、ありえませんよ、そんなこと!
   まだまだです、まだ、まだぁ!」

鎧土竜は背部武装を両方ともパージし、一気に速度を上げる。
必要十分に距離を取り、アウトレンジからの引き撃ち戦法を試みた。

トーマ「ちッ、逃げんな!」

スペキュラーも同じようにスナイパーキャノンを使った撃ち合いを挑むのが上策なのだが。

トーマは両腕の武装を投げ捨てた。
背部武装もパージし、丸腰に――いや。

鎧土竜のスナイパーライフルが機能しないショートレンジまで詰め寄り、
格納していたハンドガン2挺によるラッシュを鎧土竜へ撃ち込む。
瞬間火力というなら拡散バズーカ以上である。

PQ「ぐッ……これは……ここまで、ですか……」

もともとAPが削られていた鎧土竜にとって、これは勝敗を決する一撃となった。
何かを悟ったのか、落ち着いた様子で、PQは虚空へ独り言を漏らす。

PQ「旅団長……人類に、黄金の時代を……ッ!」

トーマ「どいつもこいつも、革命革命って……死にたがり共が」

黒煙を上げて機能停止する鎧土竜を見下ろし、トーマは深く溜め息を吐く。
何かが始まった、でかい事が起こる。
破壊されたアルテリア施設を見ると、否応なくそんなことが予見できた。

トーマ「さあて、これからどうすっかねえ……」

見上げた空には揺り篭が飛んでいる。
だがそれは「まだ」の話だ。

トーマ「……とりあえずは、勢いでパージした武器拾って帰んねえとな」

///



ほぼ同時刻、ローゼンタール所有アルテリア施設「アルテリア・カーパルス」。

ここでも、戦闘行為が行われていた。
――いや、終わっていた。

攻撃性能だけを重視したような軽量二脚型ネクストと、象徴的な背部のマルチレーザーを装備した
HOGIREフレームのネクストが、その姿を鉄塊へと変えていた。

「あっけない。ランク4とランク3って、こんな感じなわけ?」

片方はジュリアス・エメリーの「アステリズム」。
もう片方は、破壊天使とも謳われたジェラルド・ジェンドリンの「ノブリス・オブリージュ」である。
それを見下ろすネクストが1機。

「何が破壊天使だっつーの。その肩のレーザー、重めのスタビライザーかと思ったよ。
 しかもジュリアスさんの方も、『最初の五人』って言うから期待してたのにさあ」

立っている。
それは、傍目からも分かりやすい「勝利」の証だった。

「これでランク繰り上がったりしないかなあ……。まあ、どうでもいいけどさ」

「彼」に、もうオペレーターは付いていない。
あまりにも大きい、あまりにも深い「彼」の中身に、畏怖を感じたのだ。

「そのうち、あいつと戦る機会もあるんだろうなあ。かははっ、超楽しみ」

彼に名はなく、機体の名前も「迷い猫」だ。
だが、そんな彼も居場所を見つけた。戦うための、大義名分を見つけた。
彼に名はない。
だが、人は彼を「ナナシ」と呼ぶ。

ナナシ「人類に黄金の時代を――ってね。かははっ!」





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