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僕は、特徴のないレイヴンだった
名前はアップルボーイ。ACはエスペランザ
基本に忠実で堅実な攻撃と回避を行う
そんなふうに僕は評されて、アリーナで頑張ってきた
でも、ハッキリと言ってしまえば、僕は弱いレイヴンだったんだ
ロイヤルミストやBBの戦いを見たときは体が震えた
エースやエグザイルの戦いを見たときは涙すら出てきた
それは感動なんかじゃない
僕もいつか戦場に出るようになれば、こんなレイヴンと戦わなくちゃいけないのかという、恐怖からだった
だから僕は引きこもった
アリーナの底に引きこもった
子供の頃に見たACに憧れてレイヴンになった、あの頃の情熱はもうどこかに行ってしまっていた

「おい、あいつまた負けたってよ」
「元々弱小レイヴンだったが、さらに落ちぶれたな」
「レジーナやコールハートにもランクを抜かれたらしいぜ」

そうなると僕は、もっともっと落ちていった
それでもいい
アリーナなら、命の取り合いはないんだ
死なずにすむところならどこでも良かったから



「君達が何を求めているのか、我々にはわからない」

じゃあ、どうして僕はこんなところにいるんだろう?
下降するエレベーターに乗る僕のコクピットに、数度聞いたことのある声が響く

「秩序を打ち壊すことで何が得られると言うのか」

そうだ、これはクレストの代表者を名乗る女性の声だ
ほんの数回しか戦場に立った事のない僕でも知っている

「だが、我々にはもう君達を止められない」

きっと彼女は僕に話しているんじゃない
僕の隣に立つAC,そのレイヴンに話しているんだ
僕はあくまでもおまけに過ぎないんだろう



「行くがいい」

突然現れたレーザービットを彼がマシンガン、僕がライフルで破壊する
この仕掛けはこの場所に多く配置されていたから、すっかり慣れてしまった

「そして、君達が為したことが何を生むのか、それを見届けるがいい」

彼女の言葉が終わると、エレベーターは音もなく最下層に到達する
この先には、アレがいる
そう思うと僕の心はアリーナの底辺でくすぶっていた日のように萎えてくる
恐ろしい。死ぬのは怖い
でも、僕は機体の足を進めさせる
今ここにいるのは僕だけじゃない。彼もいっしょにいるから
だから、きっと大丈夫なんだと、自分に言い聞かせた


彼は、本当に謎の多い男だ
登録期間は僕と同時期なのだけれども
その卓越したアセンブルセンスと操縦技術によって、あっというまにトップランカーの座を勝ち取った
前人未到のアルカディア・タイラントを相手としたエキストラアリーナ制覇
そしてついには裏のトップランカー、エグザイルをも倒してしまった
そんな彼は、アリーナのソロ以外いつも一人の相棒を連れていた
………なぜか、それは僕だった

「レイヴンは裏切りの危険が常に付きまとう。私はそれが怖くて怖くて仕方がない
 でも、試験中に見た君だけは信じられる。なぜかそんな気がした」

弱い僕なんかをどうして相棒にしてくれたのか、その答えは完結だった


彼に引っ張られてなのは否定しないが、それから僕のランクはめきめき上がっていった
もちろん陰口も叩かれた。虎の衣を借る狐。コバンザメ。臆病者。その他たくさん
そんな時、彼は僕にアリーナにもう一度挑戦することを進めてくれた
ソロで戦い勝ち進めば、そんな陰口も無くなると
自信はなかった。でも、彼はいつも練習に付き合ってくれた
アリーナのトップが弱小レイヴンの特訓に付き合うなんて聞いたこともなかったけど、彼は進んで僕を鍛えてくれた
そのせいもあって、今の僕はCランクトップランカーのファウストに並ぶまでになった
僕は満たされていた、確かに幼い日の情熱を取り戻していた
恐怖を忘れてしまいそうにもなっていた

あのメールを、彼から受け取る日までは


「今まで、私のパートナーとして一緒に来てくれて本当にありがとう
 しかし、この依頼だけは君自身の判断に委ねようと思う。来るも来ないも君の自由だ
 私は明日、ユニオンの依頼により管理者破壊に赴く
 この依頼を受けた私もこの選択が正しいのか否か分からない
 レイヴンは傭兵であり、物事を考えるべき者ではないとしてもだ
 返信は要らない
 ××××時の出撃用トレーラー前に来るか否か、君の選択を待っている」

管理者を破壊する
ユニオンがそんな目的で動いていることくらいは僕でも知っていた
でも、逸れはあくまで遠い話であって、彼と組んでいたとしても僕には関係のない話だと思っていた
それが、自分がその当事者になろうとしている
恐怖が蘇る。死に最も近い戦場が僕を待っている
それでも、僕はトレーラーに向かっていた
裏切りが常な傭兵の世界
その中で彼は僕を信頼して、僕を成長させてくれた
そんな義理で死に赴くなんてお人よしを超えたバカだ
たぶん今グローバルコーテックス内では僕らはそんなふうに言われてるんだろう
それでも後悔はない
僕はこの人についていくんだと、心に決めていた


「来ないかと思っていた……すまない」

発進前、メールではなく彼から聞いた久々の言葉は、短い謝罪だった


レーダーが反応して光点が現れる
AC反応。進んだ先にいたのは似たようなフォルムの二機
グレネードにブレード、EOコア。違うものは背中のミサイルとツインレーザーキャノン
管理者の特殊部隊。おそらく、いや、間違いなく僕よりも格上

「2分だ」
「えっ?」
「二分、ツインレーザーを背負ったACを抑えてくれ」

たったそれだけ言って、彼は戦場に飛び出した
OBを使用しながら敵の周りを飛び回り、集中的に敵の脚部に弾を集中させる彼のアリーナの得意戦法
けれども、それは僕がもう一機をしっかりと抑えていなければできないこと
僕は背中を任されている。最強の男の背中を任されている。それが嬉しくて、一瞬だけ死の恐怖を忘れることができた




結果は、散々なものだった
僕のライフルは切断、ミサイルは弾切れを起こし、装甲も穴だらけ
それに対して敵の被害と言えば、脚部の軽損傷だけ
アリーナであればもうとっくに降参してしまっているレベル
でも、ここは戦場だ
死ぬか生きるか、ここにあるのはそれだけ
やっぱり僕はここにいるべき人間じゃない
アリーナの底で引きこもっているのがお似合いだったんだ
ほんの一瞬、そう考えた


「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

でも、今の僕は違う
アリーナのトップランカーは僕を信頼してくれた
こんな僕を信頼して、こんな大舞台に連れてきてくれた
その事実が、負け犬に戻ろうとしていた僕を動かした
最後に残された武器、MLB-LS/003
威力は低いが最軽量で扱いやすい左腕ブレード
それを大きく振りかざし、僕は敵ACに向かって最後の突撃をかけた


相打ち、と言うのは自画自賛だろう
僕のブレードは、ダメージが蓄積された敵ACの左脚部を切断した
しかし、同時に肉薄する僕に対し敵が放ったツインレーザーは、右腕と頭部を吹き飛ばしていた
APはすでに二桁
しかもサブカメラの向こうでは、横たわった敵機が僕に向けてグレネードを構えている
ブースターを吹かそうにも、ジェネレーターはレッドラインをオーバーしてしまっている
十数秒あればまた動かせそうだが、そのころには僕は燃え尽きているのだろう
後悔は無い
むしろ高揚感だけが残っている
僕を相棒に選んでくれた彼のために、敵機を中破させた
管理者部隊に対し逃げずに立ち向かった。それは僕の最後の誇りだ

「さよなら・・・・」
「その言葉を言うのは、まだ早い」

赤と黒を基調とした、見慣れたACが急に僕らの間に割り込む
と同時に爆発
それは敵機が放ったグレネードの炎に間違いなかった

「ありがとう。君のおかげだ」

割り込んだACはただそれだけ言って、OBを吹かせた

数秒後、そこに残っていたのは、青白い刃によって胸部から分断された管理者部隊AC
そのすさまじい切断はイレギュラーナンバーブレード、MLB-MOONLIGHTによるもの
それは、僕の相棒の愛剣だった


―――それから、地下レイヤードで何が起きたか、知る者は少ない

ただそこにある事実は、地上へのゲートが開かれたということ
その中心に一羽のカラスと、一つのリンゴがあったということ

そして、その後に繰り広げられる[沈黙の境界線]をめぐる戦いにも
その二機の姿があったということ

ただ、それだけである





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