「ドクター、私は不死身なんだ」
「ラインアークの戦いで唯一生き残ったあなたなら、
不死身を名乗ることもできるでしょう」
「そういう意味で不死身と言ったわけじゃない」
「ふぅむ、では吸血鬼や仙人のように傷口がたちどころに
塞がったりする文字通りの不死身なのですか?」
「私のケースはそういったファンタジーとは違うんだ。
あえて分類するならSFになると思う」
「SFですか……。どうぞ、詳しく話してください」
「どう話すのがいいだろう。ドクターは私の仕事をある程度は把握できていると
考えてもいいのかな? ラインアークのとこを知っているようだし」
「ええ、あなたが出撃したミッションの概要は全て知らされています。
あくまで概要だけですが」
「それなら話が早い。私のこれまでの仕事を
ドクターならどう評価するか聞かせて欲しい」
「難しい質問ですね。軍事はわたしの専門分野ではありませんから」
「素人意見で構わないんだ。聞かせてくれないか?」
「ふぅむ、これまでにあなたが上げた戦果は凄まじいものだと思います。
予行演習のない一度きりのミッションを全て高評価で成功させている。
不測の事態が起こってもあなたの対処には無駄や隙がない。正直に言うと
信じられないくらいですよ、たった一人のリンクスがここまで戦えるのかと」
「その通りだよ、ドクター。疑わなければならない」
「わたしが知るあなたの戦果は誇張されたものだということですか?」
「いいや、ドクターの知る凄まじい戦果というのは全て私が一人でやったことだ」
「では何を疑えと言うんです?」
「たった一人のリンクスがここまで戦えるのか、という部分さ」
「よくわからなくなってきました。あなたは『たった一人のリンクスが
ここまで戦えるのかを疑え』と言いながらも『全て自分が一人でやった』
と認めている。これは矛盾していませんか?」
「そう、このままでは矛盾してしまう。だからこの話の前提を変える必要がある。
そうだな、ドクターはテレビゲームを触ったりするのかな?」
「ええ、息子が好きでそれに付き合ったりしますよ。ヘタクソなんですが」
「ドクターはゲームが苦手か、丁度いいな。さっきの話をゲームに当てはめてみよう。
ネクストに乗って色々な依頼を完遂するゲームだと考えて欲しい。
ドクターはプレイヤー、つまりリンクスだ」
「わかりました」
「ゲームは意地悪く作られていて、理不尽な難易度だとしよう。
当然ながらドクターはなかなか先に進むことができない」
「そうなるでしょうね」
「だが何度もリトライを繰り返せばいつかはクリアできるはずだ。
更に繰り返せば高評価でのクリアも可能になるだろう」
「ええ、まあ……」
「これが私の不死身の正体さ。先ほどの矛盾も解消される」
「少し待ってください。唐突すぎて理解が追いつきません」
「簡単に言うと私の人生にはゲームのようなリトライ機能が付いているのさ。
周囲は私がリトライを繰り返している事に気付かないシステムになっているんだ。
だから毎回ぶっつけ本番で信じられない戦果を上げているように認識されてしまう」
「ふぅむ……。そのリトライは任意に可能なのですか?」
「いや、任意には無理だ。私が死亡する直前、ミッションを失敗した直後、
ミッションの評価が良くない場合。この三つに該当する時、勝手にリトライ機能が
働いてミッションの手前まで戻される。私の意思とは無関係にね」
「なるほど、不死身……確かにそれは不死身と言えるかもしれません。
今度はわたしから質問してもかまいませんか?」
「もちろんだ」
「先月に行った定期検査、あの時に簡単な戦闘シミュレーションを行いましたよね?」
「ああ」
「あれは生死を左右するミッションとは大きく異なる。
結果が悪くともリトライ機能は働かないはずです。違いますか?」
「流石はドクター、飲み込みが早い。その通りだ、
あのシミュレーションの結果はリトライなしの私の実力だよ」
「あなたはシミュレーションで高評価を出している。驚くほどの高評価――
リトライを繰り返しているというミッションと遜色ない結果を出しているのです」
「だからリトライなどはお前の妄想の産物である、ドクターはこう言いたいわけだ」
「いいですか、よく聞いてください。あなたには少しだけ休養が必要なのです。
リンクスにかかる過度の精神的負荷は――」
「おいおい、やめてくれよ。自分の頭がおかしくなったのではないか、
こんなことは真っ先に私自身が疑ったことだ。何度も何度も疑ってみたが、
残念ながら私の頭は正常なんだよ。ドクターの仕事は理解している。
だが、せめて話を最後まで聞いてから判断を下してくれないか?」
「わかりました」
「一発勝負のシミュレーションで高評価を出せたのには理由があるんだ」
「……詳しく話してください」
「リトライ機能を説明するために私はあえてリトライを繰り返しているかのように
話してきたが、実を言うと最近はほとんどリトライをしていない」
「…………」
「私は『たった一人のリンクスがここまで戦えるのかを疑え』と言った。
客観的に見て常人には不可能な働きだからだ。当の本人である私自身が
そう思う。ドクター自身も信じられないと言ったのを覚えているか?」
「ええ、だからあなたはリトライを繰り返して常人には不可能なことを
可能にしていると――そうか、あなたは自分を常人という枠組みの中に
留めて置きたいのかもしれない」
「そのためにリトライ機能という妄想を作り出した、か……。
考えもしなかった新解釈だが、残念ながらこれは的外れだよ。
私は自分の能力が常人の領域を外れ始めていることを自覚している」
「外れ、始めている……?」
「私は見た目以上に長い時間を生きているんだ。
人類を管理している巨大コンピュータと戦った、
非人道的な研究を行っている機関と戦った、
家族の復讐のために戦った、
火星で戦った、
黙々と戦った、
再び人類を管理している巨大コンピュータと戦った、
未踏査地区で戦った、
飛来する特攻兵器と戦った、
不気味なトレーニングメニューと延々戦った、
アーキテクトとなって何十年も戦った、
24時間ぶっ続けで戦った、
アナトリアのために戦った、
そして今も戦い続けている。
これだけ戦えば常人離れもするさ。そこいらのリンクスとはキャリアが違う。
ちなみに、この世界、この時間軸、この身体で戦うのは三度目なんだ。
今は若い男の身体を宛てがわれているのだが、乗り換えのしすぎで本来の性別が
判らなくなっていてね。ドクターは私が男だと思う? それとも女だと思う?」
「…………」
少し調子に乗りすぎたようだな。ドクターの顔が真っ青じゃないか。
手に負えない重症患者を見る目だ。これ以上やると取り返しが付かなくなる。
いや、リセットをすれば取り返しは付くんだが、しち面倒臭い事態だけは避けたい。
そろそろ切り上げるとしよう。
「――という感じのSF小説を考えているんだ」
「……はぃ?」
「いや~すまない。ドクターのノリがあまりにもよかったから、ついね」
「ジョーク……だったのですか……?」
「ジョークじゃないさ。私が考えているSF小説のロールプレイだよ。
主人公は何か得体の知れない力に翻弄されて、延々と戦い続ける運命にあるんだ。
はじめは弱くて無能な主人公なんだが、苦悩しながらも徐々に力を付けていって、
最後は得体の知れない力の源に挑み、打倒してしまう展開を考えている。
ありきたりだろうか? 現役リンクスが綴るロボット戦記浪漫スタート!!
という帯を付ければ結構売れると思わないか? ドクターの意見を聞かせてくれ」
「ラインアークの戦いで唯一生き残ったあなたなら、
不死身を名乗ることもできるでしょう」
「そういう意味で不死身と言ったわけじゃない」
「ふぅむ、では吸血鬼や仙人のように傷口がたちどころに
塞がったりする文字通りの不死身なのですか?」
「私のケースはそういったファンタジーとは違うんだ。
あえて分類するならSFになると思う」
「SFですか……。どうぞ、詳しく話してください」
「どう話すのがいいだろう。ドクターは私の仕事をある程度は把握できていると
考えてもいいのかな? ラインアークのとこを知っているようだし」
「ええ、あなたが出撃したミッションの概要は全て知らされています。
あくまで概要だけですが」
「それなら話が早い。私のこれまでの仕事を
ドクターならどう評価するか聞かせて欲しい」
「難しい質問ですね。軍事はわたしの専門分野ではありませんから」
「素人意見で構わないんだ。聞かせてくれないか?」
「ふぅむ、これまでにあなたが上げた戦果は凄まじいものだと思います。
予行演習のない一度きりのミッションを全て高評価で成功させている。
不測の事態が起こってもあなたの対処には無駄や隙がない。正直に言うと
信じられないくらいですよ、たった一人のリンクスがここまで戦えるのかと」
「その通りだよ、ドクター。疑わなければならない」
「わたしが知るあなたの戦果は誇張されたものだということですか?」
「いいや、ドクターの知る凄まじい戦果というのは全て私が一人でやったことだ」
「では何を疑えと言うんです?」
「たった一人のリンクスがここまで戦えるのか、という部分さ」
「よくわからなくなってきました。あなたは『たった一人のリンクスが
ここまで戦えるのかを疑え』と言いながらも『全て自分が一人でやった』
と認めている。これは矛盾していませんか?」
「そう、このままでは矛盾してしまう。だからこの話の前提を変える必要がある。
そうだな、ドクターはテレビゲームを触ったりするのかな?」
「ええ、息子が好きでそれに付き合ったりしますよ。ヘタクソなんですが」
「ドクターはゲームが苦手か、丁度いいな。さっきの話をゲームに当てはめてみよう。
ネクストに乗って色々な依頼を完遂するゲームだと考えて欲しい。
ドクターはプレイヤー、つまりリンクスだ」
「わかりました」
「ゲームは意地悪く作られていて、理不尽な難易度だとしよう。
当然ながらドクターはなかなか先に進むことができない」
「そうなるでしょうね」
「だが何度もリトライを繰り返せばいつかはクリアできるはずだ。
更に繰り返せば高評価でのクリアも可能になるだろう」
「ええ、まあ……」
「これが私の不死身の正体さ。先ほどの矛盾も解消される」
「少し待ってください。唐突すぎて理解が追いつきません」
「簡単に言うと私の人生にはゲームのようなリトライ機能が付いているのさ。
周囲は私がリトライを繰り返している事に気付かないシステムになっているんだ。
だから毎回ぶっつけ本番で信じられない戦果を上げているように認識されてしまう」
「ふぅむ……。そのリトライは任意に可能なのですか?」
「いや、任意には無理だ。私が死亡する直前、ミッションを失敗した直後、
ミッションの評価が良くない場合。この三つに該当する時、勝手にリトライ機能が
働いてミッションの手前まで戻される。私の意思とは無関係にね」
「なるほど、不死身……確かにそれは不死身と言えるかもしれません。
今度はわたしから質問してもかまいませんか?」
「もちろんだ」
「先月に行った定期検査、あの時に簡単な戦闘シミュレーションを行いましたよね?」
「ああ」
「あれは生死を左右するミッションとは大きく異なる。
結果が悪くともリトライ機能は働かないはずです。違いますか?」
「流石はドクター、飲み込みが早い。その通りだ、
あのシミュレーションの結果はリトライなしの私の実力だよ」
「あなたはシミュレーションで高評価を出している。驚くほどの高評価――
リトライを繰り返しているというミッションと遜色ない結果を出しているのです」
「だからリトライなどはお前の妄想の産物である、ドクターはこう言いたいわけだ」
「いいですか、よく聞いてください。あなたには少しだけ休養が必要なのです。
リンクスにかかる過度の精神的負荷は――」
「おいおい、やめてくれよ。自分の頭がおかしくなったのではないか、
こんなことは真っ先に私自身が疑ったことだ。何度も何度も疑ってみたが、
残念ながら私の頭は正常なんだよ。ドクターの仕事は理解している。
だが、せめて話を最後まで聞いてから判断を下してくれないか?」
「わかりました」
「一発勝負のシミュレーションで高評価を出せたのには理由があるんだ」
「……詳しく話してください」
「リトライ機能を説明するために私はあえてリトライを繰り返しているかのように
話してきたが、実を言うと最近はほとんどリトライをしていない」
「…………」
「私は『たった一人のリンクスがここまで戦えるのかを疑え』と言った。
客観的に見て常人には不可能な働きだからだ。当の本人である私自身が
そう思う。ドクター自身も信じられないと言ったのを覚えているか?」
「ええ、だからあなたはリトライを繰り返して常人には不可能なことを
可能にしていると――そうか、あなたは自分を常人という枠組みの中に
留めて置きたいのかもしれない」
「そのためにリトライ機能という妄想を作り出した、か……。
考えもしなかった新解釈だが、残念ながらこれは的外れだよ。
私は自分の能力が常人の領域を外れ始めていることを自覚している」
「外れ、始めている……?」
「私は見た目以上に長い時間を生きているんだ。
人類を管理している巨大コンピュータと戦った、
非人道的な研究を行っている機関と戦った、
家族の復讐のために戦った、
火星で戦った、
黙々と戦った、
再び人類を管理している巨大コンピュータと戦った、
未踏査地区で戦った、
飛来する特攻兵器と戦った、
不気味なトレーニングメニューと延々戦った、
アーキテクトとなって何十年も戦った、
24時間ぶっ続けで戦った、
アナトリアのために戦った、
そして今も戦い続けている。
これだけ戦えば常人離れもするさ。そこいらのリンクスとはキャリアが違う。
ちなみに、この世界、この時間軸、この身体で戦うのは三度目なんだ。
今は若い男の身体を宛てがわれているのだが、乗り換えのしすぎで本来の性別が
判らなくなっていてね。ドクターは私が男だと思う? それとも女だと思う?」
「…………」
少し調子に乗りすぎたようだな。ドクターの顔が真っ青じゃないか。
手に負えない重症患者を見る目だ。これ以上やると取り返しが付かなくなる。
いや、リセットをすれば取り返しは付くんだが、しち面倒臭い事態だけは避けたい。
そろそろ切り上げるとしよう。
「――という感じのSF小説を考えているんだ」
「……はぃ?」
「いや~すまない。ドクターのノリがあまりにもよかったから、ついね」
「ジョーク……だったのですか……?」
「ジョークじゃないさ。私が考えているSF小説のロールプレイだよ。
主人公は何か得体の知れない力に翻弄されて、延々と戦い続ける運命にあるんだ。
はじめは弱くて無能な主人公なんだが、苦悩しながらも徐々に力を付けていって、
最後は得体の知れない力の源に挑み、打倒してしまう展開を考えている。
ありきたりだろうか? 現役リンクスが綴るロボット戦記浪漫スタート!!
という帯を付ければ結構売れると思わないか? ドクターの意見を聞かせてくれ」