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『注文の多いAMIDA』

二人の若いレイヴンが、すっかり傭兵のかたちをしてギンギラギンにさり気無く、
巨人のようなACで大分山奥の木の葉のカサカサした所を、こんな事を云いながら歩いておりました。

「ぜんたい、この施設は怪しからんね。MTの一体も居やがらん。
 何でも構わないから、早くタンタアーンと、やって見たいもんだなあ。」
「MTの茶色な横っ腹なんぞに、二・三発お見舞もうしたら、随分痛快だろうねえ。
 くるくる回って、それからボカンと爆発するだろうねえ。」

そこはアライアンスの領域でした。案内したオペレーターも、妨害電波で通信出来なくなるような場所。
それにあんまり道が狭いので、AC二機が一緒に並んで歩くのが精一杯。

「実に僕は、2万4千Cの損害だ。」

と一人のレイヴンが、損益計算書を記しながら言いました。

「僕は2万8千Cの損害だ。」

と、も一人が悔しそうに、右腕を曲げて言いました。
はじめのレイヴンは少し顔色を悪くしてジッと、相方のACの武装を見ながら云いました。

「僕はもう戻ろうと思う。」
「だなあ、僕も丁度寒くはなったし腹は空いてきたし戻ろうと思う。」
「そいじゃ、これで切りあげよう。なあに戻りにさっき見かけたアライアンスのMTしょっ引いて、
 1万Cくらいで売って帰ればいい。」
「追加報酬もでていたねえ。そうすれば結局おんなじこった。では帰ろうじゃないか。」

ところがどうも困った事に、どっちへ行けば戻れるのかいっこう見当がつかなくなっていました。
風がドウと吹いてきて、草はザワザワ、木の葉はカサカサ、木はゴトンゴトンと鳴りました。


「どうも腹が空いた。さっきから気持ち悪くて堪らないんだ。」
「僕もそうだ。もうあんまり動かしたくないな。」
「違いない。ああ困ったなあ、何か食べたいなあ。」
「食べたいもんだなあ。」

二人のレイヴンは、アラームも鳴らないアライアンス領で、こんな事を云いました。
その時ふと後ろを見ますと、立派な一軒の機械造りの家がありました。
そして玄関には―――

「提携料理店 如月軒」

という札がでていました。

「君、丁度いい。ここはこれで中々開けてるんだ。入ろうじゃないか。」
「おや、こんなとこにおかしいね。しかしとにかく何か食事ができるんだろう。」
「勿論出来るさ。看板にそう書いてあるじゃないか。」
「じゃあ入ろうじゃないか。僕はもう何か食べたくて倒れそうなんだ。」

二人は入り口に立ちました。玄関は青紫と黒のまだら模様と、実に立派なもんです。
そして硝子の開き戸が立ち、そこに金文字でこう書いてありました。

「何方もどうかお入り下さい。決してご遠慮はありません。」

二人はそこで、酷く喜んで云いました。

「こいつはどうだ、やっぱり世の中は上手く出来てるねえ。
 今日一日難儀したけれど、今度はこんないい事もある。
 このうちは料理店だけれども、タダでご馳走するそうだ。」
「どうもそうらしいね。決してご遠慮はありませんというのはその意味だ。」


二人はゲートを開いて中へ入りました。そこはすぐ廊下になっていました。
その硝子戸の裏側には、金文字でこうなっていました。

「ことに肥ったお方や若いお方は、大歓迎致します。」

二人は大歓迎というので、もう大喜びです。

「君、僕らは大歓迎に当たっているのだ。」
「僕らは両方兼ねてるから。」

ずんずん通路を進んで行きますと、今度は水色の扉がありました。

「どうも変な家だ。どうしてこんなに沢山戸があるのだろう。」
「これは北国式だ。寒いとこや山の中は皆こうさ。」

そして二人はその扉をあけようとしますと、上に黄色な字でこう書いてありました。

「当軒は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知下さい。」

「なかなか流行ってるんだ? こんな山の中で。」
「それはそうだ。見たまえ、サークシティの大きな料理屋だって大通りには少ないだろう。」

二人は云いながら、その扉を開けました。するとその裏側に―――

「注文は随分多いでしょうがどうか一々堪えて下さい。」

「これはぜんたいどういうんだ?」

一人のレイヴンは顔をしかめました。


「うん、これはきっと注文が余りに多くて支度が手間取るけれども、御免下さいと言う事だな。」
「成る程。早く何処か広間に入りたいもんだな、やっぱり通路が狭いよ。」
「そして休みたいもんだな。」

ところがどうも煩い事は、また扉が一つありました。
そしてその脇に鏡が掛かっていて、その上にはACを丸ごと洗浄できるシャワーが置いてあったのです。
扉には赤い字で―――

「お客様方、ここで機体整備をきちんとして、それからACの汚れを落して下さい。」

と書いてありました。

「これはどうもっ。さっき玄関で、山の上だと思って見くびったんだよ。」
「作法の厳しい店だ。余程偉い人達が、度々来るんだろうな。」

そこで二人は、備え置きのシャワーでACの汚れを綺麗に落しました。
そしたらどうです。シャワーヘッドを置くや否や、そいつがボウっと霞んで無くなって、
風がドウっと部屋の中に入ってきました。
二人はびっくりして、互によりそって扉をポチっと開けて、次の部屋へ入って行きました。
早く何か暖かい物でも食べて元気をつけておかないと、もう途方もない事になってしまうと、
二人とも思ったのでした。
しかしその扉の内側に、また変な事が書いてありました。

「武器と弾薬をここへ置いて下さい。」

見るとすぐ横に黒い台がありました。


「成る程、武器を持って食うという法はない。」
「いや、余程偉い人がよく来ているんだ。食事中に戦争が起こったら堪ったものじゃない。」

二人は武装をパージし通常モードに移行して、それを台の上に置きました。
そしてまた黒い扉がありました。

「どうかブースターとレーダーとエクステンションをお取り下さい。」

「どうだ、取るか。」
「仕方ない、取ろう。よっぽど偉い人なんだろう、奥に来ているのは。」

二人は背レーダーとエクステンションを棚に置き、ブースターを外して徒歩で次の扉の中に入りました。
そして扉の裏側には―――

「インサイド、格納兵器、財布、その他金物類、ことに価値の高い物は、全部ここに置いて下さい。」

と書いてありました。扉のすぐ横には黒塗りの立派な金庫も、
ちゃんと口を開けて置いてありました。鍵まで添えてあったのです。

「ははあ、余程用心深いようだ。きっとバーテックスの主宰とかが来るに違いない。」
「そうだろう。して見ると勘定は帰りにここで払うのだろうか。」
「どうもそうらしい。」
「そうだな、きっと。」

二人はインサイドや格納兵器もパージし、序でに財布も金庫の中に入れて、パチンと錠をかけました。
少し行きますとまた扉があって、その前に硝子の壺が一つありました。扉にはこう書いてありました。


「壺の中のクリームを顔や手足にすっかり塗って下さい。」

みると確かに壺の中に、何かのクリームが入っていました。

「クリームを塗れというのはどういう事だろう。」
「これはね、外が非常に寒いだろう? 奥の広間ががあんまり暖いと機体にヒビが入るから、
 その予防なんだ。こんなとこで案外僕らは、貴族とお近付きになれるかも知れないよ。」

二人は壺のクリームを、頭部に塗って腕に塗ってそれからコアを開けて格納の中に塗りました。
それでもまだ残っていましたから、それは二人ともこっそり生身へ塗る振りをしながら食べました。
それから大急ぎで扉を開けますと、その裏側には―――

「クリームをよく塗りましたか、ラジエーターにもよく塗りましたか?」

と書いてあって、小さなクリームの壺がここにも置いてありました。

「そうそう、僕はラジエーターには塗らなかった。
 危なく緊急冷却するとこだった、ここの主人は実に用意周到だね。」
「ああ、細かいとこまでよく気がつくよ。
 ところで僕は早く何か食べたいんだが、どこまでも廊下じゃ仕方ないね。」

するとすぐその前に次の扉がありました。

「料理はもうすぐできます。五分とお待たせは致しません。すぐ食べられます。
 早くあなたの頭に瓶の中の香水をよく振り掛けて下さい。」

そして扉の前には金ピカの香水の瓶が置いてありました。
早速二人はその香水を、頭部へバチャバチャ振りかけました。
ところがその香水は、どうも油ギッシュな匂いがするのでした。


「この香水は変に油臭い。何でだろう?」
「きっと間違えたんだ。係りの者が風邪でも引いて間違えて入れたんだ。」

二人は扉を開けて中に入りました。
すると扉の裏側には、大きな字でこう書いてありました。

「色々注文が多くて煩かったでしょう。お気の毒でした。
 もうこれだけです。どうか身体中に、壺の中の塩を沢山よく揉み込んで下さい。」

成る程立派な青い塩壺が置いてありましたが、
今度という今度は二人ともギョっとしてお互いにクリームを沢山塗った頭部を見合わせました。

「どうもおかしいぜ。」
「僕もおかしいと思う。」
「沢山の注文というのは、向こうがこっちへ注文してるんだよ。」
「だからさ、料理店というのは僕の考えるところでは、料理を来た人に食べさせるのではなくて、
 来た人を料理にして、食べてやる家と。こういう事なんだ。
 これは、その、つ、つ、つ、つまり、ぼ、ぼ、ぼくらが・・・・」

ガタガタガタガタ。震えだしてものが言えませんでした。

「その、ぼ、僕らが、・・・・うわあ!」

ガタガタガタガタ震えだして、もうものが言えません。

「逃げ―――」

ガタガタしながら一人のレイヴンは後ろの扉を開こうとしましたが、どうです。

「ロック、解除、不能。」


ゲートはもう一分も動きませんでした。
奥の方にはまだ一枚扉があって、大きなかぎ穴が二つ付き、
銀色のフォークとナイフの形が切りだしてあって―――

「いや、わざわざご苦労です。大変結構に出来ました。さあさあ腹にお入り下さい。」

と書いてありました。おまけに鍵穴からはキョロキョロ眼玉がこっちを覗いています。

「うわあ。」

ガタガタガタガタ。

「うわあ。」

ガタガタガタガタ。
二人は泣き出しました。
すると奥の扉の中では、コソコソこんな事を云っています。

「駄目だ。もう気がついたよ。塩を揉み込まないようだ。」
「当たり前さ。所長の書きようがまずいんだ。あすこへ、
 『色々注文が多くて煩かったでしょう、お気の毒でした』なんて間抜けた事を書いたもんだ。」
「どちらでもいい。どうせ私達よりもAMIDAに金をかけるからな。」
「それはそうだ。けれどももしここへあいつらが入って来なかったら、それは我々の責任だぞ。」
「なら呼んでみるか。おいお客さん方、早くいらっしゃい。いらっしゃい。いらっしゃい。
 お皿も洗ってありますし、菜っ葉ももうよく塩で揉んでおきました。
 後はあなた方と、菜っ葉を美味く取り合わせてまっ白なお皿に乗せるだけです。早くいらっしゃい。」
「へい、いらっしゃい、いらっしゃい。それともサラドはお嫌いですか。
 そんならこれから火を起してフライにしてあげましょうか。兎に角早くいらっしゃい。」


二人はあんまり心を痛めた為に、自分の顔がまるでクシャクシャの紙屑のようになり、
お互いにモニターからその顔を見合わせ、ブルブル震えて声もなく泣きました。
中ではフッフッと笑ってまた叫んでいます。

「いらっしゃい、いらっしゃい。そんなに泣いては折角のクリームが流れるじゃありませんか。
 はい所長、ただ今。すぐ持ってまいります。さあ、早くいらっしゃい。」
「早くいらっしゃい。AMIDAがもうナフキンを掛けて、よだれ流してお客さま方を待っていますよ。」

二人は泣いて泣いて泣いて泣いて泣きました。
その時後ろから行き成りブースター音が聞こえたと思えば、
見た事の無いACが扉を突き破って部屋の中に飛び込んできました。
鍵穴の眼玉はたちまち無くなり、ACはブレードを振りかざしながら部屋の中を一望し、
天井へと行き成り飛びつきました。天井は突き破れ、AMIDAと共にやがて見えなくなりました。
そして奥の扉の向こうの真っ暗闇の中でも、カサカサという音が鳴りました。
すると部屋は煙のように消え、二人のACはホログラフ機材と草の中に立っていました。
見ると、武器やレーダーや財布や恋文などは、
あっちの機器にぶら下がったりこっちの台に散らばったりしています。
そして風がドウと吹いてきて、草はザワザワ、木の葉はカサカサ、木はゴトンゴトンと鳴りました。
通信機からは―――

「・・・・ン、レイヴン。聞こえる? レイヴンッ。」

と叫ぶものがあります。


二人は俄かに元気がついて―――

「聞こえてるから早く輸送機を持って来るんだ。」

と叫びました。
合流地点で待つ事数分で上空から輸送ヘリが、二機のACを捕獲してまた昇っていきました。
そこで二人はやっと安心しました。
そしてオペレーターが持ってきた団子を食べ、途中でMT部隊を狩って家に帰りました。
しかし、さっき一度紙くずのようになった二人の顔だけは、
家に帰ってもお湯に入っても、もう元の通りには治りませんでした。
                                 以上、注文の多い料理店からでした




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