オッツダルヴァの水没。
ラインアークは陥落、ホワイト・グリントの行方は知れず。
二強とも目されていたリンクス達に起こったこの事態に、カラードは揺れた。

現時点での最強勢力は、いったいどこだ?

強力な資本とリンクスの物量を持つGAか?
オッツダルヴァは失ったが、技術に秀でたオーメルか?
現状、最も被害の少ないインテリオルか?

企業の指導者たちではなくとも、誰にとっても重要な議題だった。
「力」の分布。
そして、誰もがたどり着く――たどり着いてしまう結論。
スピリット・オブ・マザーウィル攻防戦、ラインアーク攻防戦という2つの大きな戦い。
それらに、2回とも関わっていたリンクスがいた。
BFFの才媛、リリウム・ウォルコット。
独立傭兵、ナナシ。
そして――ノーマークの新人、トーマ・ラグラッツ。
彼らは、やっと目をつけ始めた。
AMS適正は目を見張るほどではない、経歴も、特筆すべきところはない。
だが、この状況で生き残っている彼は、他の2人と比べ浮いて見えた。

――彼は、なぜ生きている?

///



ブレックファーストもぐもぐ。ウィズSHIO。
ランチぱくぱく。ウィズSHOYU。
ディナーがつがつ。ウィズMISO。

勿論のこと、カップ麺である。

トーマ「……至福……ッ!」

この添加物だとか塩分だとかがてんこ盛りっぽいところがイイ。
「ああ、俺、体によくないもん食ってる……」っていうタバコにも似た背徳感。
戦いの疲れとか全部癒えますね、コレ。
我ながらずいぶんと安上がりな体してるなあ、と思うが。

俺が食後の余韻に浸っていると、端末から無粋な呼び出し音が鳴る。
誰だ、なんて疑問はもう持たなくなった。回線はリリウムと直通のものしかないからだ。

トーマ「へいへい、何の用だよ……っと」ピッ

画面をタッチすると、端末は通話画面に移る。

リリウム『こんばんは、早速で申し訳ないのですが、リリウムの部屋に来ていただけますか?』

トーマ「あん? おいおい、またミッションか? ちったあ休ませろよ」

リリウム『いえ、今回はそういうことではありません。ちょっと、個人的に話したいことがありまして』

トーマ「……何だそりゃ、話したいことがあんなら、そっちから来るのが筋ってもん――」

リリウム『そのジャンクフード、仕入れるのには割と手間がかかっていましてね。
     そういえばウォルコットでは経費を削減するという話も……』

トーマ「――おう、すぐ行く」

///



ノックをして部屋に入る。
以前にノックをしなかったことでしこたま怒られたので、以降は気をつけるようになった。
GAでは教わらなかったぞ。

トーマ「うーす、で、何の用だ?」

リリウム「お呼び立てしたのは他でもありません」

ばさりと音を立て、紙の束が机の上に投げ出される。

リリウム「あなたの過去について、調べさせていただきました」

いつもの、抑揚のない声。
――だが、今回に限っては、いつもより声色が冷えているように思えた。

トーマ「……へえ、ホコリが出るようなこと、あったか?」

リリウム「ノーマルに乗っていたところをそう高くないながらもAMS適正を見出され、リンクス
     としての訓練を受ける。カリキュラム終了後はBFFへと異動、以降は――」

トーマ「お前の見たとおり、だよ」

リリウム「――ええ、そうです。……そう、聞かされていました」

そこで、リリウムは言葉を区切り、少し目線を下げた。

リリウム「ですが本来、AMS適正は先天的なもの。急に発現することなど――ありえません。
     その他にも、あなたの異動にはきな臭い点が目立ちます」

トーマ「何が言いたい?」

リリウム「率直に言います。あなた、リリウムに隠していることがありますか?」

トーマ「……ああ、ある」

リリウム「……それは、何ですか?」

トーマ「言いたくねえから、隠してんだよ。……言えるか、アホ」

リリウム「言いなさい」

――いつかは聞かれると、思っていた。
その時が来ないことを、このままだらだらとこういう関係でいられることを、望んでいた。
異動当初は、聞かれても知らぬ存ぜぬで通すつもりだった。

トーマ「……ぷっ、ははっ」

リリウム「なっ、何がおかしいのですか!」

トーマ「そんなに顔真っ赤にして、ムキになるとは思わなくてよ。お前、そういうとこガキだよな」

リリウム「――ん、んなっ……!」

でも。
そんなお前だからこそ。

トーマ「……負けだ、話す」

話してもいいかな、なんて思える。

トーマ「俺の親父は、クィーンズランスに乗ってた」

///



彼は、名のあるレイヴンだった。
しかし時代は移り変わり、レイヴンの需要はなくなる。
彼は生活のため、家族のため、企業へと尻尾を振った。

「もともとが傭兵だ、ロクな死に方なんてできないことは分かってたさ」

傭兵時代に支援を多くもらっていたBFFに拾われた彼は、以後そこを巣とするようになる。
レイヴンとしての腕がよかったこともあり、彼は変わらない量の戦果を挙げ、BFFへ貢献した。

「家に帰ることも少なかったしな、親父の顔は、写真でしか知らねえ」

貢献の甲斐もあってか、彼はBFFの本拠地――クィーンズランスでの勤務を命じられる。
これは実質的な引退と捉えてもよく、貴重な戦力を失いたくはないから前線には出るな、
という意図の辞令であった。少なくとも彼は、そういう意図のものだと思っていた。

「もう前線に出なくて済む、って、お袋は喜んでたっけ。それだけ、覚えてる」

しかし。
異動の当日だった。
突然の――あまりにも突然の、アナトリアの傭兵によるクィーンズランス襲撃。
それに際して当時のBFFのリンクスたちは何も情報が渡っていなかったらしく、
誰も遊撃に出ることはなく、結果としてクィーンズランスは撃沈。BFFは本拠地を失う羽目になった。
烏は、山猫には勝てなかったのである。

あまりにもずさんな防衛体制に、内通者を疑う声も上がったらしい。
しかしその後BFFはほとんど空中分解のような形を取り、早い話が没落。
以後はGA傘下に収まり、何とか現在の復興に至る。

///



トーマ「その内通者がどうたらって話、俺はマジだと思ってる。没落から今の復興まで、
    プランが上手くできすぎだ。当時の重役たちを一気に始末して、トップの椅子をかっさらうために
    襲撃させた奴がいても、なにもおかしい話はねえ」

リリウム「では、あなたはお父様のために……?」

トーマ「親父はノーマル乗りにしちゃ腕がよすぎたんだよ。だから後々噛みつかれないように
    あそこで始末された――って、俺は睨んでる」

リリウム「……推論では?」

トーマ「違うね」

断言できる。
断言するに足るだけの証拠を、今まで集めてきたんだ。

トーマ「ある奴の協力で、BFFに潜り込ませてもらった。お前には悪いが、BFFのために働こうなんて
    使命感、俺は欠片も持っちゃいねえんだよ」

リリウム「そして、その内通者を見つけたとして、どうするつもりです?」

トーマ「……さあな」

さあな、というのは本音だ。
見つけたとして、それから俺はどうするのか、本当に分からない。
以前なら「殺してやる」と即答したのかもしれない。
だが、今は。

トーマ「で、どうする? スパイだっつって突き出すか?」

リリウム「……BFFとしても、その話が真実であれば放ってはおけません。あなたの今までのことは、
     とりあえず不問にしておきましょう」

トーマ「いいのか? 俺の忠誠心なんて猫並みだぜ?」

リリウム「構いません。――ですが、1つ、ここで約束してください」

そう言うリリウムの瞳には、薄く涙がにじんでいた。
……ような、気がした。

リリウム「今後は、戦うための意味を、あなたなりに見つけてください。それがBFFのためでなくても、
     あなたが決めたのなら構いません。それがあなたの決定なら、私は納得しましょう」

トーマ「……考えとくさ」

生返事をし、視線を逸らす。
しかしリリウムの目はまっすぐに俺を見ていた。

リリウム「話はまだです、AMS適正の件は、まだ説明がついていません」

トーマ「AMS適正、か……」


クスリで、無理やりAMS適正を引き上げてる。


トーマ「……ちょっと、無理してな。おかげで視力はガタ落ち、似合いもしねえメガネなんか
    かけることになっちまったよ」

なんて、言えるか。バーカ。

リリウム「改造……ですか」

トーマ「平たく言えばな、そういうこった」

確かに視力が落ちた理由はクスリの副作用だ。
嘘は吐いていない、と俺は自分を納得させる。

トーマ「んで、他に聞くことはあるかい?」

リリウム「――いえ、ありません」

ゆるく首を振り、改まった態度でリリウムは向き直る。

リリウム「ですが、一言だけ。――目標を追うのを悪いこととは思いませんが、そのために
     命を失っては元も子もありません。くれぐれもご自愛ください、それだけです」

トーマ「……極めて了解。んじゃ、帰るぜ」

後ろ手にドアを閉めながら思う。
この命はいつまで続くのか。命が尽きたとして、俺の命に意味はあったのか。

分からないから、俺はネクストに乗る。

///



帰り道。

「あ、いたいた。トーマさん」

聞きなれない声で名前を呼ばれ、俺は振り返る。

整備士「自分、スペキュラーちゃんの整備をさせてもらってるんスけど、ちょっとお話が」

トーマ「ああ、何だ?」

たしか、こいつはアンビエントの整備もしていたはずだ。整備主任、とかだったか。
整備士の女はぶ厚いメガネの奥の目を上下させて資料をめくり、あるページで手を止めた。

整備士「トーマさん、GAからの出向なんスよね。
    だったらこの機体組んだアーキテクトもGAの方なんスか? 紹介とかしてもらえません?
    一度機能停止することを前提に置いた、一時的な再起動設計とか……。
    これ、もう芸術の域なんスよ! 超ヤバいんスよ! もう美しいんス!
    詳しく説明すると動力系を損なわないまま、ギリギリでチャージングユニットを組み込んで……」

トーマ「いや、知らんし」

興奮した様子で詰め寄る整備士を手で制し、距離を空ける。

トーマ「俺も設計については知らねえんだ。一応BFFのご機嫌取りのためにそれっぽい武装内装に
    繕ってもらって、あとはテキトーに使いやすく組んでもらっただけでよ」

整備士「へー! ひとつ言えますけど、そのアーキテクトの人、ぶっちゃけ天才っスよ?
    この技術が一般実用化されれば、生産力の強いGAはこの戦争で一歩進むことになります。
    それだけの技術を、その人は持ってるっス」

トーマ「……マジ?」

そう言う整備士の顔は、真顔だった。

整備士「まあ、本当なら自立兵器に積めれば理想の機構なんスけどね。これはAMSってのがあって
    初めて成り立つ『再起動』っスから」

トーマ「そういや、スペキュラーのメンテはどんぐらい進んでるんだ?
    前回はけっこう無茶したからよ、けっこう手間かかってるだろ?」

悪いな、と付け加えると、整備士はばつの悪そうな顔で後頭部を掻いた。
何か言いよどんでいる雰囲気である。

整備士「い、いやあ、自分らも、けっこう頑張ったんスよ。ただやっぱり、だいぶ無茶
    させましたからねえ。特に中心部、ジェネとそれに繋がる駆動系が完全に逝ってて……。
    あのー、非常に言いにくいんスけど、ぶっちゃけアレっス」

溜めに溜めて、整備士は言った。
言ってしまった。

整備士「スペキュラーちゃん、お亡くなりになっちゃいました。ソフトからハードまで、全部」





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