…………

「さて――なぜ君たちが呼ばれたか、理由はわかっているな?」

会議室。
BFFが擁する三人のリンクスが、そこには集っていた。

王小龍「これでマザーウィルは残り1機に、加えてストレイドも取り逃がす……。
    更に加えれば機体も大破寸前とは。これを任務失敗と呼ばず、なんと呼ぶ?」

トーマ「……」

リリウム「……」

王小龍「GAにも結局借りを作ってしまった形になる。これでは散財をしに行ったようなものだ」

トーマ「……」

リリウム「……」

GAならぶん殴られて終わりなのに。
言葉でネチネチやられる方が俺としてはキツい。
――そうは言っても任務失敗は紛れもない事実。人が大勢死に、敵も倒せなかった。
責を負うのは至極当然。
あいつが強かったから、なんて言い訳はしない。いや、できない。
「しょうがなかった」なんて台詞は、命が消えたときに使うべきではないのだ。
BFFの実質的なまとめ役である王小龍――わかりやすく言えば、俺の上司。
ここに赴任したときも顔を合わせたのだが、できればこんな形でまた会いたくはなかった。

王小龍「……とまあ、説教はこのくらいにしよう」

トーマ「……あ?」

王小龍「その上リンクスたちまで失ってしまっては仕方がない。損害は大きかったが、君たちが
    生きて帰って来てくれただけでも御の字だからな。いや、よく生きていてくれた」

トーマ「……はあ」

王小龍「過ぎたことを忘れろ、とは言わんが、とにかく休んでくれ。
    心を落ち着けることも今は重要だろう。BFFには、君の力が必要なのだから」

トーマ「はい……わ、わかりました」

王小龍「うむ、では済まんが部屋を出てくれないか? 私はリリウムと話があるのでな」

恐らくBFF社の、もしくはウォルコット家に関する話だろう。
だったら俺が首を突っ込むのも野暮な話だ。
王の機嫌がいいうちに、ここは場を離れておくことにする。

トーマ「んじゃ、リリウム。また後でな」

リリウム「――あ、はい。それでは……また」

とりあえず部屋へ戻り、何はともあれ寝ることにする。
寝て食えば何とか体は動く。この辺りはGA流だ。

トーマ(それにしても――)

トーマ(リリウムの奴、なんか変な態度だったような……)

///



王小龍「――リリウム」

トーマが部屋を出たのを確認すると、王小龍の表情が変わる。

リリウム「……はい」

王小龍「私は言ったな。奴は布石として使え、と」

リリウム「はい」

王小龍「そしてそのチャンスも、あったはずだな?」

リリウム「はい」

王小龍「だというのに――なぜ、そのチャンスを棒に振った?」

リリウム「それは――」

マザーウィルを落とされたこと、ストレイドを取り逃がしたこと。
責任があるとすれば、私だ。
選択すべきポイントは確かにあった。判断を間違っていなければ、結果も変わっていただろう。

正しい判断をしていれば――

リリウム「私は」

いや、私は――

王小龍「……どうした、リリウム?」

間違っては、いない。

リリウム「……棒に振った、というわけではありません。このミッションにおいて、
     私は正しい判断をしたと思っています」

王小龍「――ほう?」

リリウム「マザーウィルより、トーマ・ラグラッツの方がBFFにとって利益になると考えました。
     そのせいでストレイドを逃がしたことについては申し開きできませんが、
     トーマ・ラグラッツは確かにストレイドへ肉薄しました。
     彼とストレイドのリンクスの間には、実力にそう差はないと思われます」

王小龍「ふむ。では貴様は、奴はストレイドのリンクス並みの実力があると。
    今回のミッションの失敗より奴の生存のウェイトが重いと、そう考えたわけだな?」

リリウム「はい」

王小龍「……まあ、いいだろう。今回の件は不問にする。下がっていいぞ」

リリウム「はい、では失礼します」

背筋をつたう汗を自覚しながら、リリウムは部屋を出る。
部屋を出て最初に吸った空気はやけに美味しかった。

///



トーマ「あん?」

メイド「ですから、お部屋へ戻る前に一度ウォルコット邸客間へお立ち寄りください」

客、らしい。
誰だと尋ねると、メイドは「さあ、そこまでは」と首をかしげた。
リリウムへの客ではないが、一応ウォルコット家への訪問者には違いない。
ぞんざいに扱うわけにもいかないのだろう。

メイド「ですが恐らくはGAの軍人様でしょう。雰囲気で、何となくはわかります」

トーマ「……GAの?」

ならば確かに俺の客だろう。
どうやらベッドはお預けらしい。俺は内心舌を出しながら、ウォルコット邸へ向かうことにした。

///



王小龍「……GAの?」

BFF社員「はい。トーマ様に、とのことですが」

王小龍「……ハイエナ共め。先の一件で恩でも売ったつもりか……」

BFF社員「いかがいたしましょう?」

王小龍「監視をしろ、何を言ってくるか分からん。
    奴らの弱みのひとつでも握ればしめたものだ」

王小龍(……しかし、GAもしたたかになったものだ。まるで、奴がいたときのことを思い出すようだ)
王小龍(なあ――メルツェルよ)

///



ウォルコット家、客間。
俺も入ったことのない部屋だ。頭首の部屋――この場合、リリウムの部屋ということになるが。
そこを除けば、恐らくはウォルコット家で最も豪華な部屋ということになるだろう。
一応のマナーとして、ノックをする。
すると、中から「どうぞー」と声がした。
――女の声?
いぶかしみながらドアを開けると、そこには、

「よーっす。元気してたー?」

何のことはない、慣れ親しんだ顔が。

トーマ「……んだ、お前かよ。ノックする必要もなかったな」

――メイ・グリンフィールド。

訓練所時代の同期である。といっても、メイは俺よりずいぶん先に卒業したが。

メイ「いつぞやは世話になったからね。そのお礼も兼ねて、近くまで来たから
   顔出して帰ろうと思ったってわけ」

トーマ「あんまGA社員が顔出すもんじゃねえぞ。ここはBFFだぜ?
    いらん気ィ遣わせることもねえだろ」

メイ「……うん、ちょっとマズったかなーって思ってるんだよね。そこは」

珍しく、ばつが悪そうに頭を掻くメイ。

メイ「でも、ちゃんと服装は考えてきたわけですよ! どこでもパイロットスーツで
   うろうろできるGAとは、やっぱちがうもんね!」

見れば、メイは見慣れたパイロットスーツ姿ではなく、パンツスーツを着込んでいる。
一応の正装、ということなのだろう。

メイ「でもちょっとここのゴォジャスさにはびっくりしてるわ。
   こんなことならもうちょいちゃんとした服着てきたのに」

トーマ「驚いた。そんな服持ってたのか?」

メイ「持ってないけどね」

そう言い、メイはけらけらと笑う。

トーマ「それはどうでもいいとして――何だ? お前、本当にただ『寄った』だけなのか?
    てっきりマザーウィルのミッションの件で話かと思ったが」

メイ「ミッション? ……ああ、そういやそうね。お疲れ様」

トーマ「お疲れ様、って……」

そんなライトな。

メイ「命があっただけ儲けもんよ。ローディー先生も出張ったって聞いたけど。
   そんなにヤバい相手だったわけ?」

――かははっ!

脳裏で、あの笑い声がまた聞こえた。

トーマ「ヤバい……ねえ。ヤバいっつーか、キレてるっつーか……。
    とにかく、まともじゃねえ雰囲気だった」

メイ「強かったの?」

トーマ「強かった」

俺は即答した。
性格がどうであろうと、奴の強さだけは否定のしようがない。
強かったからこそ、マザーウィルは落とされたのだ。

トーマ「正直、先生が来てくれなかったらマズかったかもしれねえ。
    あいつ……マジでバケモンだぜ」

迫ってくる銃弾。
ミサイル、ブレード、その他もろもろの兵器。
それらを怖いと思ったことは何度もある。
しかし――人間を怖いと思ったのは、これが初めてだ。
本当にあれは人間だったのだろうか。
人間なのだとしたら、なぜあんなにも楽しそうに人間の命を――

メイ「トーマ」

――我に返る。
しかし、よほど俺は思い詰めた表情をしていたのだろう。
俺の顔を覗き込むメイの目の真剣さは、それを窺わせるには十分だった。

メイ「誰もあんた一人で戦わせなんかしないわ。BFFにも他にリンクスがいるんでしょう?
   それにあたしも、先生も、有澤のおじさんだって、声をかけてくれればすぐ行くわ」

……いや。
と、メイは言葉をいったん区切る。

メイ「声をかけてもらえなくったって行ってあげる。
   あんた、死なすにはすごく惜しいもの」

トーマ「……悪いな。グチ聞かすために来たんじゃねえってのによ」

メイ「気にしないで、同期のよしみよ」

///



リリウム「お客人……ですか?」

メイド「ええ、トーマ様に。リリウム様が戻られましたら報告するつもりでした」

客人――ならば、ウォルコット家の代表として会っておかねばなるまい。
GAから来たのなら、どうせ王大人は会いたがらないだろう。

リリウム「分かりました。客間ですね? 向かいましょう」

という経緯で、客間の前に立つリリウム。

ノックをし、「失礼します」と言ってドアを開ける。
中にはトーマと、客人らしい女性がいた。
女性が、いた。

トーマ「おう、リリウム。顔出させに行こうと思ったんだが、悪いな。
    ホントならお前に話してから会うべきだったよな?」

リリウム「……構いませんよ。こちら……GAの方でしたっけ?」

リリウムが一瞥すると、メイはすごい勢いで直立不動になり、あろうことか敬礼を取った。

メイ「……さ、サー! 自分、メイ・グリンフィールドであります、サー!」

リリウム「……そ、そんなにかしこまりませんでも……」

メイ「い、いえ! 自分、木っ端リンクスでありますから! カラードランク2のリリウム様には、
   本来土下座コースでご挨拶に行くべきだったのであります、サー!」

どうやら自分への挨拶が遅れたことを詫びているらしい。
リリウムがそれを理解するのに、少し時間がかかった。

トーマ「だーから、何をそんなにガチガチになってんだよ。歳ならお前のが上だろ」

メイ「んな話じゃないでしょーが! ランク2よ!? ランク2! 
   あんたのスポンジ脳ミソ、本当にわかってんの!?」

リリウム「あ、あの、ですから……まずは落ち着い――」

トーマ「誰がスポンジだオラァアア!」ガタァッ

あー、面倒臭い。
リリウムが嫌そうな顔をしてから、10分後。

///



メイ「お騒がせして、すいませんでした……」

リリウム「……いえ、気にしていません」

何とか、普通の敬語口調ということで妥協してもらった。
しかし改めて見ると、メイは背が高い。
加えて。

メイ「……いやあ、でも、よかったですよ!」ボォン!
メイ「こいつ、上手く馴染めてるかなあって思ったんですけど」キュウッ!
メイ「けっこう何とかなってるみたいで!」ボォン!

リリウム「トーマには私も助けていただいています」キュッ……
リリウム「今となっては、BFFに欠かすことのできない戦力ですよ」キュッ……
リリウム「もちろん、これからも変わらず働いていただきますが」……キュッ……

……。

GA。
火力、か。

トーマ「俺としてはどうコメントすりゃあいい。
    『ええそうですね、キリキリ働きます』と言えばいいのか?」

リリウム「あら、分かっているじゃないですか」

メイ「そうそう。どうせリンクスなんだし、ネクストに乗るしか脳がないんだから」

トーマ「そりゃあお前も同じだろう」

メイ「まあね」

ひとしきり笑った後、「さて」と言い、立ち上がるメイ。

メイ「んじゃ、あたしは戻ります。もともと立ち寄っただけですし、あんま長居しちゃ悪いんで」

リリウム「すいません……。お茶のお代わりもさせないうちに」

メイ「いえいえ、ご心配なく! ……あ、そうだ、トーマ!」

トーマ「あん?」

メイ「あんた、いっつも仏頂面なんだから、たまには笑ったらいいのよ」

トーマ「へいへい、努力はするよ」

そして、その日一番の笑顔で。

メイ「笑う門には福来る、ってね!」

///

リリウム「それでリンクス、彼女とはどういった関係ですか?」

トーマ「関係、って……」

メイが帰った後、リリウムは開口一番そう尋ねた。
確かにどたばたしていて、話すタイミングはなかったが。

トーマ「同期だよ、訓練所時代の」

リリウム「親しげだったではありませんか」

トーマ「そりゃあ……っつーか、そんなもんだろ、同期って」

どこかリリウムの様子がおかしいように思える。
会議室のときとは、少し違った方向で。

リリウム「……まあ、いいですけどね。私には関係のない話ですし」

リリウム「……おすし」

トーマ「何だそりゃ」

リリウム「とにかく、私は休みます! あなたもお休みになればいいではありませんか!」

トーマ「逆ギレ!? ウォルコット家代表の逆ギレ!?」

その言葉には答えず、さっさとリリウムは自分の部屋へ歩いて行ってしまった。
ふん、すぐキレるのはガキの証拠だ。
まあとにかく。

トーマ「……くあぁあ、あ。……寝るとすっか」

///


王小龍「……結局、GAは脳筋どもの集まりだったようだな」

王小龍「期待して損した、というか、何もなくてよかった、というか……」

王小龍「やはり阿呆の考えることは分からん」





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