※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

…………

『――そろそろ出撃だが、抜かりはないな?』

「だーいじょぶですって。いつも通り、サクっと終わらせますよ」

『……お前のそういうところが心配だと言うんだ。まったく……。
 相手はアームズフォートだぞ? しかも護衛にリンクスが出るそうだ。
 一筋縄でいくわけがない、それなりに覚悟はしておけ』

「うわ、まーたセレンさんの小言が始まった。だからー、ホントに大丈夫ですって」

「僕、天才ですから」

///



リリウム「――これで状況確認は終了です。他に、何か聞くことは?」

トーマ「いや、別に」ズゾゾゾゾ

リリウム「……そうですか、それなら構いませんが」

トーマ「しかしこの短いうちに2回もとは、マザーウィルも忙しいねえ」ズゾゾッ

リリウム「そうですね。それに――って」
リリウム「いい加減、それを置いてくれませんか!? 気になって仕方ないのですけど!」

トーマ「いやすまん、やっぱこれがないと調子が出なくてな」ゲフゥ

スープまで飲み干すのが俺の流儀だ。
豪華な食事は豪華な食事で素晴らしいが、やはり人には合った食事というものがある。
特に俺にとっては、カップ麺には出撃前の儀礼のような意味合いもあった。

リリウム「まったく……、緊張感をもう少し持ってください。
     あなたのミスは、私がカバーすることになるのですよ?」

トーマ「へいへい、分かってるっつーの。確かに緊張感はねえかもしれねえけど、
    緩んではいねえよ。このミッションのヤバさは、十分分かってるさ」

リリウム「……私としては、その言葉を信用するほかありませんが……」

やはりパイロットスーツを着込むと、なにかスイッチが入る気がする。
相手の実力は、正直未知数だ。歴戦のホワイト・グリントと違い、いまいち力量を計ることが難しい。
リリウムの話によれば、インテリオル製の機体を使い、EN兵器を多用するらしいが。

トーマ「EN兵器ねえ……。『GAの災厄』、そういや聞かされたっけなあ」

リリウム「それなら私も知っています。ウイン・D・ファンション。GAのリンクスを
     苦しめた、真鍮の乙女(ブラス・メイデン)――でしたっけ?」

トーマ「俺の先生は何度かやり合ったって言ってたな。俺も話を聞いただけだが、
    絶対に顔を合わせたくねえと思ったぜ」

リリウム「それよりは、ストレイドは楽な相手でしょう。それに、本来ならあなたは
     そんなことを心配すべきではないのですよ?」

最後に言い残し、リリウムはアンビエントへと足を向けた。

リリウム「私、彼女よりランクは上ですし」

///



リリウム『――前回の反省を活かし、マザーウィルの主砲の射程を伸ばすことにしました』

リリウム『よって、敵はマザーウィルの手前へ着陸するはずです。まあ、常識的に考えれば
     そこからオーバードブーストで懐を狙ってくるでしょうね』

リリウム『それで、私たちは今回、マザーウィルにストレイドを近づかせないことを目標に行動します。
     2機でストレイドの足を止め、マザーウィルの主砲で炙る――というのが大まかな流れです』



荒廃した砂漠。
ところどころに突き出ているビルの先端が、かつてはここが街だったことを告げている。
ここが戦場でなければ、感傷に浸ることもできたのかもしれない。
スペキュラーはGA製のヘッドを使っているため、アンビエントよりカメラの性能が悪い。
砂埃が舞う先に何があるのかをうかがい知ることはできない。

トーマ「リリウム、見えてるか?」

リリウム「いえ、こちらもまだ確認できていません。先に確認できるとすれば、
     それはマザーウィルの方のレーダーでしょう」

トーマ「なるほどな。威嚇射撃が――」

合図ってわけだ。
そう、言おうとした。

――バオン! バオン! バオバオン!

マザーウィル『敵ネクスト確認、敵ネクスト確認! VOBでこちらへ向かってきます!』

トーマ・リリウム「「!!」」

合図としては分かりやすすぎるほどの轟音。
緊張感が、体を一気に走り抜ける。

リリウム「……リンクス!」

トーマ「分かってるっての!」

///



セレン『主砲には当たるなよ、一発でももらえば致命傷だ。
    VOBの安定性もいまいち信用できん、破損でもしたら冗談では済まんからな』
セレン『まったくオーメルめ、だいたいあの仲介人からして好かん……』ブツブツ
セレン『……まあ、どうせお前には不必要な情報なのだろう。行って、壊す。
    お前にはそれだけだからな――ナナシ』

ナナシ「かははッ! そりゃあ僕も弾が飛んできたら避けますって!」

笑い声が特徴的なこの青年。
セレンが拾ったときには記憶を失っており、ただ規格外に高いAMS適正によって、半ばリンクスとしての
運命を決定付けられた。不足している実戦経験をその圧倒的な才能で補う男。
誰かが「ナナシ」と、そう呼んだ。

ナナシ「さァーて! 僕のびっくりどっきり解体ショー! 始まるよ……っと、ん?」

彼の乗るネクスト「ストレイド」のカメラに、2機のネクストが映った。

セレン『敵ネクスト確認。アンビエントとスペキュラーだ。どちらもBFF製パーツを主として
    実弾兵装が充実した機体を構成している。――いいエサだ、食ってやれ』

ナナシ「かっはっは! んーじゃちょっくら、ぶっ壊してきますか!」

『アンビエント、敵ネクストを確認』
『スペキュラー、敵ネクストを確認した』

ナナシ「君たちみたいなのが僕の相手になると思ってる?」

ナナシ「だとしたら、面白い話だね」

///



リリウム「アンビエント、敵ネクストを確認」

トーマ「スペキュラー、敵ネクストを確認した」

マザーウィルの砲撃を器用にQBで回避する敵ネクスト。
精度が売りじゃなかったのか、BFF。

トーマ「インテリオル製だったな……。PA剥いじまえば、ただの的だろ」

リリウム「そうですね、せっかくこちらには数の利があるのです。
     QBを多用した後はエネルギーが枯渇しているはず――リンクス、一気に決めますよ」

トーマ「おう」

精度の悪いGA製の頭部でも、機影をやっと確認できた。
――インテリオルにしちゃあ、やけに先鋭的なデザインだ。
新型のフレームか? いや、違う。
あれは――

リリウム「計られました……。オーメル――っ!」

///



セレン『VOB、使用限界。……パージする!』

ナナシ「了解。ストレイド、これより戦闘行動を開始します!」

ザッ、ギャギャギャギャギャギャ!

セレン『お前の希望通りのアセンブリにしたが――そんな機体で大丈夫か?
    慣れない機体で、あまり無理はするなよ』

ナナシ「慣れるだの慣れないだの、得意だの不得意だのって話は、
    もっとAMS特性が低い奴の話ですよ。僕は神様に愛されてますから、
    どんな機体でも変わらないんです」

セレン『……ならいいが……』
セレン『…………』

セレン(……ナナシ……奴は、確かに私の指導など不必要なほど強い……)

セレン(だが……これでいいのか?)

セレン(この胸騒ぎは……何だ?)

ナナシの搭乗するネクストは、元のTELLUSフレームの期待とは大きく趣を変えていた。
空力特性を突き詰めた、ハイスピード型フレーム。
マザーウィルを落とすにあたり、彼がオーメルからの支援を求めるのは――むしろ当然。
オーメル社最新のフレーム、「TYPE-LAHIRE」で、ナナシはこの任務に挑んだ。

///



リリウム「……独立傭兵に、フレームをまるまる渡すなど! オーメル!
     企業としてのプライドは持ち合わせていないのですか!」

トーマ「機動力特化型か……。構わねえ、どのみちぶっ潰すだけだ!」

「あれあれ? 片方はランク2じゃん。これは儲けもんだなあ」ザザッ

アンビエントとスペキュラーに、通信が入った。

リリウム「……あなた、ストレイドの……」

ナナシ「これは光栄。リリウム・ウォルコットじゃないか。
    僕は独立傭兵、ナナシだ。ま、テキトーによろしく」
    ――隣のは知らないなあ。かははっ、どうせザコだし、何でもいいか」

トーマ「言ってくれるじゃねえか。2対1だってのに、余裕たっぷりだな」

ナナシ「かははっ! そういうことはね、僕と同じ目線に立ってから言いなよ」

さあ始めようか、とばかりに、ストレイドの両腕のアサルトライフルが2機に向けられる。

トーマ「てめえ……」

リリウム「……熱くなってはいけません、リンクス。
     敵ネクストはその機動性を生かしたインファイトを得意とすると予想されます。
     背中の散布ミサイルの直撃には留意してください」

落ち着きを取り戻したのか、リリウムは冷静に敵機体の分析をトーマに伝える。
ストレイドの機体構成はアサルトライフルが2丁、散布ミサイルが2つ。
加えて、肩にはECMメーカーと、コンセプトの分かりやすい機体だ。
よくも悪くも、特化型である。

先に動いたのは、ストレイド。

ナナシ「かははははっ! ちょっとは楽しませてくれよ!?」

QBで距離を詰め、定石どおりにPAを剥ぎにかかるストレイド。
先に標的になったのはスペキュラーだった。

スペキュラーは後ろへ跳び、自分の間合いを保とうとする。
――が。

ナナシ「おッせえ! かぁーッはっは!」

機動力でストレイドに勝てるはずもない。
すぐに追いつかれ、銃弾の雨を浴びせられた。

トーマ「……っくそ! 近接用武装くらい、こっちも積んでるっつーの!」

戦法が通じないと見るやすぐにチェインガンに右側武装を切り替えるトーマ。
ストレイドのものより密度の高い弾幕が展開される。

ナナシ「んー、その判断はまあまあだね」

ナナシ「――けど、旋回性能考えろって!」ドヒャア! ドヒャア!

トーマ「んなッ……、やべえ!」

QBでスペキュラーの頭上を取るストレイド。
重い武装を積んでいる分、スペキュラーが腕を上げるタイミングは少し遅れてしまった。
ストレイドの背の散布ミサイルが、その口を開けた。

ナナシ「もらったァ!」

リリウム「――いい的ですね、あなた」

ズバァッ!

砂埃を切り裂き、赤い光がストレイドを捉えた。
よろめくストレイドに、今度はライフルを交えた弾幕が襲いかかる。

ナナシ「チッ……。そういえば、あんたもいたよね……」

リリウム「アンビエントはもともと前衛用の機体。近距離におけるサイティングには、
     そう低くはない自信を持っています」
リリウム「……しかしリンクス、一人で突っ走りすぎです。2機でミッションにあたっている
     意味を、あなたちゃんと理解していますか?」

トーマ「悪いな。でも、助かったぜ」

リリウム「感謝は結構です。ミッションですから」

ストレイドが距離を詰めた戦闘を展開してくるため、マザーウィルからの火力支援は見込めない。
それを狙っていたのかは分からないが、とにかく。
単純な2対1、ストレイド対アンビエント+スペキュラーの構図ができあがっていた。

ナナシ「まあ、さすがランク2ってとこかな。これで骨のない相手だったら、
    オーメルに文句言おうと思ってたとこだよ。いや、本当によかった」

トーマとリリウムにはうかがい知ることのできない、ストレイドのコクピット内。
そこで、ナナシは笑っていた。
楽しくて楽しくてしょうがないという様子で、ただ笑っていた。

ナナシ「……かははっ、楽しい戦いになりそうだ」

///



リリウム「私が前に出ますので、リンクスは後方支援をお願いします。
     剥がれたPAに、スナイパーライフルを撃ち込んでください」

トーマ「分かった。……無茶すんなよ」

リリウム「ランク2に言うセリフではないでしょう。いいですから、さっさと
     距離を取ってください。そこにいられるとむしろ邪魔です」

トーマ「……」

リリウム「早く」

トーマ「……」ドヒャアッ

邪魔者はいなくなった、とばかりにリリウムは武装を切り替える。
ミサイルで撹乱して、確実にレーザーライフルを当てるつもりのようだ。

ナナシ「2人いっしょの方が面倒じゃなかったんだけどなあ。まあいいや、
    戦えるだけいいと思っておかないとね」

リリウム「それこそ、ランク2に言うセリフではないでしょう。BFFに戦いを
     挑んだその代償、あなたにはしっかりと思い知っていただかなくてはいけません」

ナナシ「まあ、どうでもいいけど――ね!」

トーマにしたのと同じように、アサルトライフル2丁によるラッシュが展開される。
マガジンを使用しているためリロードに隙があるが、そのぶん一瞬の火力は高い。

リリウム(なら――マガジン交換のときに、必ず相手は何かアクションを起こすはず!)ガアッ!

ばら撒くようにミサイルを発射し、それを布石にして突っ込むアンビエント。
高い実弾防御を盾に、強引に撃ち合いにおいて黒字を出す。
だが、やはり高速機体か。

ナナシ「振り切るぜ!」

もともと追尾性能を追求したため、弾速に難のあるミサイルである。
ストレイドが軽くブーストをふかすだけで、ミサイルはその力を失った。

ナナシ「9.8秒――それがあんたの、絶望までのタイムだ!」

反撃の弾丸がアンビエントを襲う。
QBでステップを踏みながら回避、間を縫って攻撃するという形になるが、やはり手数で負ける。

ナナシ「ほらほらァ! どうしたのさカラードランク2ィ!」

リリウム(――25……29……)

逸れた弾丸、アンビエントが受けた弾丸。

リリウム「……36っ!」ガガガガッ、バウッ!バウッ!

その全てを、リリウムは正確にカウントしていた。
そしてリリウムの予想通り、ストレイドはアンビエントの頭上を抜けて、
マガジン交換のためのインターバルを取ろうとする。

ナナシ「……ン、何ィ!!?」

高機動、ゆえの薄い装甲。
たとえそれがそう多くない量でなくとも、しっかりと被弾させることができれば
ストレイドにとっては大きなダメージとなる。

リリウム「……あら、きちんと9.8秒ですね。意外と律儀じゃないですか」

ナナシ「てめェ……やってくれんじゃねえガフッ」ガォン!

トーマ「……お、当たった当たった」

足が止まったところを逃さず、スペキュラーのスナイパーライフルはストレイドを捉えた。

トーマ「あんま暇してんじゃねえよ。俺もまぜろって」

リリウム「リンクス、よい働きです。そのまま支援を続けてください」

トーマ「あいよっと」ガショッ!

スペキュラーの背の分裂ミサイルが火を吹く。
肩の連動ミサイルも併用し、密度の高いミサイル群がストレイドを襲う。

ナナシ「…………が、…………ッ!」ブツブツ、ブツブツ……

ナナシ「――クソダニ共が、僕の邪魔してんじゃねェエエエエエよォオオッ!」ガショガション!

ストレイドの両肩の散布ミサイルが壁となり、スペキュラーのミサイルを防いだ。
爆風により、砂塵が舞い上がる。

リリウム「……くっ!」

瞬間、アンビエントのレーダーからストレイドが消える。
そして、どことも知れぬ方向から銃弾が襲い掛かった。

リリウム(――これは、ECM! ……まずい!)

高性能なカメラ性能も、砂埃の中では役に立たない。
ストレイドはレーダーからアンビエントの位置を推測しているのだろう。
アンビエントもまたECMを装備していることから、敵側の心理をリリウムはよく理解していた。

リリウム「ですが……こちらにも、備えはあります!」バヂバヂッ!

同じように、肩のECMメーカーを使用するリリウム。
オーメルのものと違い、機体追従型のメーカーだ。
――唯一の弱点である発光も、この砂塵の中ではごまかせる。

リリウム(これで、あちらからもアンビエントは確認できないはず……)

予想通り、ストレイドからの銃撃は止む。

リリウム「これで、砂埃が止むのを待てば――!」

――――ヴオッ!

目の前を何かが通ったのを、リリウムは理解した。
アンビエントは認識できていない。
ならば今、ストレイドのレーダーに映っているのは?
そして、アンビエントの後ろにいるのは――!

リリウム「……まずい! ――トーマ!」

///



ナナシ「てめえが一番ムカつくんだよ……。才能もないくせに、僕の戦いに割り込んで……。
    ダニはダニらしく、駆除されてりゃあいいんだよッ!」

レーダーに映る赤い点へ向かい、一直線に飛ぶストレイド。
砂埃を抜けたその先には臙脂色のネクストがあった。

ナナシ「かっはァ! いたァアアアッ!」

トーマ「ちッくしょ、今度は俺かよ!」

ストレイドの背から散布ミサイルが発射される。
スナイパーライフルでそのひとつを打ち抜くと、誘爆によりミサイルの大半が自壊した。
その残り程度なら避けることもできるが――やはり。

ナナシ「第2ラウンド……おらァ、シャキッとしろよォ!?」

すでに距離は詰められている。

トーマ「――上等だ。いい加減後衛も飽きてきたんでな」ガシュウッ

少しでも速度を上げるため、スペキュラーの背部のミサイルと肩部の連動ミサイルをパージする。
――だいぶいい感じだ。

ナナシ「くたばれ、ダニィ!」ガガガガッ、ガガガガッ!

旋回性能もだいぶ上がった。
チェインガンで応戦し、とにかくPAを剥ぐことに専念する。
まだストレイドに追いつけはしないものの、何とか渡り合えるくらいの速度は出せている。

トーマ「てめえなんざ先生と比べたら屁でもねえんだよ! 一発一発が、軽いってんだ!」

ナナシ「じゃあ、重いやつプレゼントしてやんよォ!」

――カァオ!

……視界が、緑一色に染まる。
アサルトアーマーを喰らったのだ、と、一瞬遅れて理解した。
反動で頭がぐらつく。
やばい。
まずい。
PAが、いやまずは距離を取って――

ナナシ「おらァ、もういっちょくれてやる!」

ストレイドが。
背中のミサイルを。
パージ――いや、もぎ取って。
こちらへぶん投げる。
ああ、同時に一丁アサルトライフルを投げ捨てたらしい。

投げて。
それを。
ミサイルユニットそのものを。
残ったライフルで、打ち抜いて。

トーマ「プ、PA、が――」

今度は、視界が真っ赤に染まった。

///

リリウム「まずい、まずい――まずい!」

――本来はスケアクロウとして使うべき存在。

リリウム「くそっ……なぜ、こんな簡単なことに気付けませんでしたか!」

――共倒れになってくれればよい。

リリウム「このままでは……ッ!」

自らの主人に言われた言葉。
もうそれはリリウムの心中にはあらず、リリウムは自分でも気付いていなかった。
自分が、トーマの身を案じていることに。

『――か、聞こえる――か!?』ザザッ

アンビエントに、通信が入る。

リリウム「――こちらアンビエント! どなたですか!?」

『こちらは――ザザッ――だ! これから――ザザッ――に――ザザッ――る!』

リリウム「……支援……あなた、増援の方ですか!?」

『ザザッ――だ! もう少し、持ちこたえてくれ!』

『――ザザッ――すぐにそちらへ合流する!』

///


ナナシの戦闘経験は少ない。
だが、その恵まれた才能により、自分より上の存在というものを知らない。
ゆえに理解ができない。

ナナシ「……なんでだよ……」

予想外のことに対する対応が、できない。

ナナシ「何でてめえ、生きてんだよ!」

トーマ「ッ……は……あー、死んだかと……思った……」

ナナシ「……チッ、駆除し損ねた……!」

ちらりとナナシはスペキュラーの足元に目を向け、スペキュラーがパージしたミサイルが
鉄屑になっているのを確認した。
――恐らく無意識のうちにトーマはトリガーを引き、ミサイルポッドを打ち抜いたのだろう。
水平方向と垂直方向で爆風は相殺し、スペキュラーは大破までに至らなかった。

ナナシ「やっぱ虫はしぶといよねえ。でも安心しろって!
    今度はちゃあんと、踏み潰してやるから!」ジャキィッ!

アサルトライフルを投げ捨てた右腕に、ストレイドはレーザーブレードを装備していた。
格納装備である。

トーマ「……っクソ! 動けよスペキュラー! うご――!?」

見ると、スペキュラーの左腕の肘から先は存在していなかった。
右腕に装備しているライフルも、中ほどで折れ曲がっている。

ナナシ「悪運尽きた、って感じだね。かははっ!」

トーマも理解していた。
これ以上のラッキーはない。
スペキュラーのAPはだいぶ減った。これ以上の被弾はまずい。

ナナシ「さて、まあなかなか粘った方じゃない? ダニにしてはさ」

ナナシ「――くたばれ」

ストレイドが迫る。
夕焼け色の閃光が、目の前に――いや。

ストレイドとスペキュラーの間に、桜色の機体が割り込んだ。

ナナシ「……ああン!?」

リリウム「はあッ……まったく、世話の焼ける……!」

トーマ「リリウム、お前……」

交差させた腕で、アンビエントはレーザーブレードを受け止めている。
ECMを発動させて近づいたため、ストレイドのレーダーには映らなかったようだ。

リリウム「――持っていきなさい!」バシュシュッ!

至近距離でアンビエントのミサイルが発射される。
ストレイドは難なくそれを回避し、後ろに距離を取った。

ナナシ「……何で君らは、そう僕を邪魔するかなあ。……ダニのくせにさァ……」

アンビエントの両腕も大きく傷つき、もう射撃の制度は期待できないだろう。

ナナシ「……ああそうか。一緒に死にたいなら、そう言ったらいいのに」ニタァ

万事休す――だが。
つくづくトーマの悪運は強いらしい。

ナナシ「――ッ!」ドヒャア!

バォン!

今までストレイドがいたところが、砲撃によって円形にえぐれる。
ストレイド、アンビエント、スペキュラーのカメラが、同時に一方向を向いた。

『――ザザッ――こちらマザーウィル、敵ネクストとの距離を安全圏と判断!
 これより火力支援を実行します!』

リリウム「マザーウィル……」

『これ以上リンクスたちだけに戦わせるわけにはいきません。俺も――俺たちも、戦います!』

マイクの向こうから、決起の怒声が響く。

――リリウムの、懸念していたことが起こった。

リリウム「……あ、ああ……」

『行くぞみんな、あのネクストは手負いだ! 俺たちもやるんだ!』ウオォォォォ!

ナナシ「……チッ」

ナナシ「ダニにもなれないクソ虫どもが……なーにいっちょまえの顔してんだよ……。
    言って聞かせなきゃ、分かんねェェェかァァァアアア!?」

ストレイドのコアにコジマ粒子が収束する。
オーバードブーストだ。
一直線にマザーウィルへ飛ぶストレイド。

トーマ「あいつ……何だよ、わけ分かんねえ!」

リリウム「彼は、自分の邪魔をされたことが許せないのでしょう。
     ……しかも、リンクスでもない人間が邪魔をしたことが、特に」

トーマ「くそっ……飛べよ、飛べよ!」

トーマ「飛べよ、スペキュラァァァァァアアアア!」

///



「隊長、あいつ、こっちに飛んで来ますよ」

「そうだな。まあ俺ら、死ぬわな」

「隊長、俺たち、何かできましたかね?」

「そうだな。リンクスたちがPAを張る時間くらいは稼げただろ」

「隊長、俺、隊長の部隊でよかったです」

「そうだな。俺もお前らの隊長でよかったよ」
「――こんなバカども、初めてだ」

///



ナナシ「AMS適正もないくせに、ご苦労さん」

ストレイドは左腕のアサルトライフルをパージし、両腕にレーザーブレードを装備する。
主砲を、ミサイルをものともせず、ストレイドはマザーウィルの中央へ着陸した。
それからさほど時間はかからなかった。

マザーウィルが、割れた。

///



リリウム「……」

トーマ「……」

使い物にならないライフルを投げ捨て、右側格納のハンドガンを構える。
チェインガンも、もういらない。

トーマ「……行ってくる」

リリウム「何をバカな……! 彼らの犠牲を、無駄にするつもりですか!
     ここで退かず、何をするというのです!」

トーマ「あいつをブッ倒す」

リリウム「……まだそんなことを言っているのですか……! マザーウィルが落ちた時点で
     ミッションは失敗。これ以上作戦領域にいる意味はありません!」

トーマ「それじゃあこっからは俺個人でやらせてもらう」

リリウム「――なぜそこまで!」

トーマ「気に食わねえんだよ!」

トーマ「戦場で殺す殺されたって話じゃねえ、あいつは、マザーウィルの連中を笑って殺した!
    連中が生きてる意味を、あいつは笑いやがったんだ! 笑って、殺しやがったんだ……!」

傍から見れば、リンクスは皆人殺しだ。
だが、だからこそ。
同じカテゴリの人間だからこそ。

リリウム「……これ以上は何も言いません」

黙ってアンビエントは右腕を上げた。

リリウム「アンビエントの腕はスクラップでしょうが、武装はまだ使えるでしょう。
     残弾もそれなりにあります。ハンドガンよりは備えになるかと思いますが」

トーマ「あんがとよ。でも、俺はこれでいい」

軽くなった機体の調子を確かめるように、スペキュラーの腕を回す。

トーマ「これが、いい」

///



ナナシ「さーて、ゴミ掃除、ゴミ掃除~♪」

マザーウィルを落とした後、アンビエントとスペキュラーを落とすために飛ぶストレイド。
そのレーダーは、単機のネクストを確認した。

ナナシ「……って、あれ?」

トーマ「よお」

ナナシ「へえ、てっきり逃げたかと思ってたよ」

ストレイドは既に背の散布ミサイルもパージしていた。
装備した武装は両腕のレーザーブレードのみである。
対するスペキュラーはハンドガン一丁。
どちらも乏しい武装だが、戦況はストレイドの方に傾いている。

ナナシ「んじゃあ……行くよッ!」ヴオッ!

トーマ「……来いよ!」

///


リリウム(カラードランク2、ですか……)

面目など、あったものではない。
マザーウィルは落ち、残ったのは結局ルーキー2人。
これでトーマが負けたら、本当に何も残らない。

リリウム(私だけ、退却することもできたはずでしたね……)

しかし、リリウムはその判断を是をしなかった。
なぜか――トーマのことを、信じてみようと思ったのだ。
あの圧倒的な力を持つストレイドのリンクスに、もしかしたら、勝つのではないかと、そんな希望を。
淡くも、抱いたのだ。

リリウム(――そういえば)

スペキュラーの機体構成。
一見全距離対応型の癖のない機体だが、格納武装だけが特異だ。
AAを使用できるため、弾切れについては本来そこまで懸念すべきではないはず。
加えてスペキュラーの装弾数は、格納武装を差し引いても十分な量を積んでいる。
立ち回りが重要となるような機体構成なのに、なぜわざわざ積載量を増やすようなことを――?
いや、明らかにおかしい。
軽量機体の積載いっぱいまで武装を積むことなど、一般では自殺行為とされる。
機動性を殺された軽量機に、生きる道はないのだ。

リリウム(思えば……彼は、躊躇せず武装をパージしていた……)

リリウム「まさか……?」

全距離対応型は、トーマの本来のスタイルではないとしたら?
「BFFの戦闘スタイル」の型に、無理に当てはめたものだとしたら?
トーマの、本来の戦闘スタイルは――

///



ナナシ「……ありえねえ……ありえねえだろ!」

トーマ「悪いがお前――俺より遅いぞ」

ほとんど全ての武装をパージしたスペキュラー。
更に左腕も落とされ、速度はまた上がっている。

ナナシ「クソッ! あたッ、あた……当たれよオォォォオオオッ!」ザヴァッ!ザヴァッ!

トーマ「むしろ1個しか武装がねえおかげで、集中して弾を当てれるわけだ」ドウッ!ドウドウドウッ!

レーザーブレードの多用に加え、クイックブーストの多用。
スピードのみであれば、ストレイドの方がまだ速いだろう。
しかしナナシが冷静さを失い、エネルギー管理を忘れた今、スペキュラーの速度はストレイドを上回っていた。

ナナシ「クソッ! クソッ! ダニのくせに、ダニのくせに……!」

トーマ「PAもだいぶ削れたなあ。んじゃ……詰めってことで」

ナナシ「僕は天才なんだ……! てめえなんかに、負けるわけねえんだ!」

トーマ「言ってろ。残りは地獄で――な」

ナナシ「……ッ、ああああああァァァアアッ!」キュウウウッ ドヒュウッ!

たまらず、オーバードブーストでハンドガンの射程外に逃げるストレイド。

トーマ「何だ、俺が怖いか? 逃げるのか?」

ナナシ「僕が……逃げる? かはッ、はははっ! んなわけねえだろ! ははっ!」

トーマ「じゃあ、来いよ」

ナナシ「ああ、行くさ……行くともさァ!」

『ザザッ――シ、ナナシ! 聞こえるか!?』

突然、ストレイドに通信が入った。
どうやらチャンネルが広いようで、スペキュラーにもその通信は入る。

セレン『このアホ! こちらとの通信を切りやがって……何を考えている!』

ナナシ「……セレンさん?」

セレン『マザーウィルを落としたなら、もういい! さっさと帰ってこい!』

ナナシ「何言ってるんですか……かはッ、まだダニの駆除、終わってないんですよ!」

セレン『そっちはいいと言ってるんだ! BFF側に増援も向かっている、いいから退け!』

ナナシ「増援……? そいつも駆除したら済む話でしょう!」

セレン『……いや、奴は違う! 政治的配慮を捨て、実力だけでランクを上った男――奴は!』

通信の途中、更に通信が入った。

《――スペキュラーか! こちらグローバル・アーマメンツ社。支援する!》シャカシャカ!…シャカシャカ!
《……よく持ちこたえた! あとはこちらに任せろ!》ケッコォイイヒトダッタカラァ! コイシテアゲテモヨカッタ!

トーマ「あん? ……このロックバリバリなBGM……せ、先生か!?」

通信の奥から聞こえてくるのは、やけにパンクでロックなBGM。
レーダーにネクスト反応が映ったかと思うと、VOBで一気に接近し、そのネクストは戦闘領域に降り立つ。
錆びたような機体色に――もはや語り草となった、武器腕のバズーカ。

ローディー「マザーウィルは落ちたか……、仕方ないな」ドォーロォーロォーノォーノォーズゥーイィィィィイア!

セレン『……ナナシ! こいつだけは相手にするな!』

ローディー「BFFのリンクス2人は無事のようだな。……おい、若造」ザァッツ!オゥ!ラァイ!

ナナシ「――何だよ?」

ローディー「今退くというなら見逃そう。
      が、これ以上の狼藉は許さんよ」………ニホンヲインドニー!シーッテシマエ!

セレン『退け! ……奴らはと、また戦う機会もある!』

ナナシ「……クソッ……覚えてろよ、臙脂色!」ドヒャアッ!ドヒャアッ!

QBをふかし、撤退するストレイド。
撤退――だが、敗走ではない。マザーウィルを落とされた以上、あちらのミッションは成功したのだ。

トーマ「……ふうッ……」

大きく溜め息を吐く。

ローディー「よく頑張ったじゃないか。お疲れさん」トビマス!トビマス!

トーマ「いや、全然ですよ。マザーウィルは落ちるし、俺もリリウムもボロボロだし……」

ローディー「教え子の死ぬ姿を見ずに済んだだけで十分だ。
      ……もとより、奴は規格外の相手だ」エキサイトォオオオッ!

トーマ「次は勝ちます。あんな奴に、負けちゃいけねえですし」

ローディー「そうだ、君には次がある。俺のような老兵とは違い、未来もある。
      前を向け、とにかく進め。それが若者の役目だ」ナチュラルハイトリップゥ! エキサイトォオオオッ!

トーマ「……ういす」

教習所時代と変わらない、年寄りじみた説教臭い口調。
ただ、この人は殺しても恐らく死にはしない。生き返る。ゾンビだ。

トーマ「あと先生、後ろうるせえんですけど」

ローディー「君もロックを聴け。AMS適正が上がるぞ」ハヤシモアルデヨー!

トーマ「遠慮します」

ミッションは終了。
スピリット・オブ・マザーウィル――撃墜。
この事件よりアームズフォートが築いてきた神話は崩れ去る。
絶対的な力を持ったリンクスに、世界の覇権は委ねられるようになった。

時代が、変わる。




| 新しいページ | 編集 | 差分 | 編集履歴 | ページ名変更 | アップロード | 検索 | ページ一覧 | タグ | RSS | ご利用ガイド | 管理者に問合せ |
@wiki - 無料レンタルウィキサービス | プライバシーポリシー