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MISSION:4



◇某所

「何故目標を確保せずに殺した?」
「あの……その……」
「殺さずに制する術など、幾つも教えた筈だが」

「と、途中まではとってもスマートだったんですよ?
 でも日頃の訓練のタマモノといいますか、その……。
 ゴメンなさい、反射でつい殺っちゃいました……」

ミドルスクールの教師と生徒のような構図。
実際、庵野 雲とエリーア・大葉の関係はそれに近い。
随分と物騒なやり取りをする教師と生徒ではあるが。

「お前は力をつけた。私が教えられる事はもう無い」
「そんなぁ~、見捨てないでください……」
エリーアはまるで捨てられた子犬のようにしゅんとなって瞳を潤ませた。

その様子を気にもとめずに雲は続ける。
「私は期待しているのだぞ。お前は軽率な行動さえしなければ
 既にアークで頂点を狙う事も可能な筈だ」
「できればアタシは雲さまのところに永久就職したいので――」

「なにが永久就職や、先に自分がミスった分の損失を心配せんかい!」

「ガイルにぃ!? い、いつから聞いてたの!?」
「お前が『見捨てないでぇ、あうあうあう~』ってなってたところからや。
 オヤジはしょ~もないミスで足引っ張るなら、出て行け言うとんのやぞ」
「あうぅ……」

「せっかくの一石二鳥プランを台無しにしよってからに」
ガイルと呼ばれた不思議な訛りで話す男は、エリーアに容赦ない追撃をかけた。

「お前が殺ったゴールドスミス博士は稀代の天才言われる研究者でな
 キサラギにでも連れて行ったら、言い値で買うてもらえたんやぞ。
 うちは扶養家族が多いから、しっかり稼がなあかんの知っとるやろ?」

「そこまでにしておけ、ガイル。それで成果はあったのか?」
「直接金になりそうなモンは無かったんやけど、面白いネタは見つけたで」
「ほう」

「これなんやけど、オヤジの意見聞かせてや」
「オヤジはやめろ」と言いながら雲はガイルから手帳を受け取った。
古く使い込まれているが特に珍しいところはない、普通の手帳だった。

「…………日記か?」
「まあ、じっくり読んでみてや」
ガイルに促されて雲は手帳に目を通す。

「…………」
1ページ、2ページと手帳をめくる度に雲の表情が僅かながら変化した。
その様子を見たガイルは自信を確信に変えて、ニヤリと笑う。
「どやろ?」

「ゴールドスミス――金細工職人というのは面白い姓だな」



◇某山間部 偽装ガレージ 事務室

前略 天国か地獄のお母さん、姉さんにはもう会いましたか?
こっちはバケツ頭の姉さんのせいで大変です。
もしもの時のために取っておいたヘソクリをいつの間にか使い込んでるわ。
ガレージの隅に研究スペースなる物を無断で作るわ。
勝手にネットワークを構築して、うち中のどこにでも現れるわ。
うるさくてかないません。やりたい放題です。凹んでる暇なんかありません。

《レージがここまで甲斐性なしだとは思いませんでした》
「へいへい、甲斐性なしですみませんね」
《これではいつまで経ってもお金が貯まらないじゃないですか》

「あのさ、お前が考えたコピーなんとかの特許を取って売れば早いんじゃないか?」
《却下です》
「即答だな……。売るつもりがないなら、なんで研究なんかしたんだよ」

《知的探究心の追求ですね。それに完コピシステムを世に出したら
 混乱すると思いませんか? 商品化するのは難しいと思いますよ》
「言われてみれば、確かに……」

《それよりACのパーツを売りましょう! 同じようなのが沢山あるじゃないですか》
「却下だ。いざという時に使うかもしれないだろ?」
《口実っぽいですね~。趣味の臭いがプンプンします》

「2人ともうるさーーい!!」
クレアは事務机をバーンと叩いて立ち上がった。
「なんとか遣り繰りしようと、人が出納帳と悪戦苦闘してるのに、なんなの?」

「なんなのと言われても、なぁ……」
《ねぇ……》
玲司と端末のディスプレイに映るバケツ頭――シェリーのアバターは
同じように首を傾げた。

「レージ、アリーナでの勝率が5割を下回ってるわよ。これじゃトントンか
 マイナスにしかならないでしょ。だらだらしてないでシミュレーターでもしなさい」
「へーい」

「姉さんも暇なら依頼の1つでも見つけてきてよ」
《クレアちゃん、通信がきてますよ? 出なくてもいいんですか?》
「あたしの注意を逸らして逃げるつも――あっ、ほんとだ」

《全く信用されてないわたしって一体……。姉としての威厳ががががが……》

壊れたレコードのような声を上げるシェリーを無視して
クレアはインターコムを慌てて装着した。
一呼吸置いてから、精一杯の営業用声色で、
「大変お待たせしました、阿部傭兵事務所です」

『ミスターアベレージに仕事を頼みたいんやけど、ここでええんですか?』
「はい! 初めての方でしょうか?」
『ええ、ボクはこういうもんです』

送られてきたデータにウイルスチェックを走らせて、待つこと1秒――特に問題なし。
先に容量を確認していればチェックの必要はなかったかもしれない。
データはとても軽く、送られてきたのは電子名刺1枚だけだった。
(BBF、総務部のライアーン・レイノルズさん……)

「BBF?」
後ろから玲司が端末のディスプレイを覗き込んだ。
「聞いたことがない企業だな」
中小企業ひいきの玲司が知らないとなると
ACのパーツメーカーではないのかもしれない。

二流の独立傭兵の元に来る依頼は、自然とマイナーどころからになるわけで
知らないご新規さんの場合は先方の情報集めから始めなければならないのだ。
危険な橋は渡りたくないが、ビジネスチャンスは逃したくない。
つまり、速やかな情報収集とそれによる判断が必要となってくる。

適当に会話を合わせながらの情報検索――依頼受否決定。
この程度の並列作業はクレアにとって朝飯前だ。
(まずはBBFの企業概要と近況からね)

慣れた手つきで関連トピックスをリストアップしていると
突然、BBFに関する情報がディスプレイいっぱいに所狭しと映し出された。
未整理で手当たり次第という感は否めないが――
(姉さん……?)

ディスプレイをよく見ると、端の方にバケツ頭のアバターが居た。
アバターの横に楕円形の吹き出しが付いていて
《情報収集ならわたしに任せてくださーい!》と言っている。
自分の有用性を示して、待遇改善を訴えるつもりなのだろう。

(少しは考えてあげてもいいわね)
シェリーは半ば電子化した存在となっており
ダイレクトにネットワークに繋がれる分、情報の取り込み速度は圧倒的に速い。
(日頃はうるさいだけの金食い虫だけど、こういう場合は結構役に立つのよね)

クレアは姉に対する評価を少しだけ改めてから
集められた情報の取捨選択を行い、頭の中で簡潔に整理した。
(BBFはAC用スナイパーライフルの照準器なんかを作ってる小さな企業で
 規模は町工場レベル。現在交戦中の勢力や、敵対関係にある他企業は無し……)

危険な香りは一切しない。小規模ながらも安定しており
どこか他所を攻撃する理由も、攻撃される理由も見当たらない。
そんな健全企業がレイヴンに一体どんな仕事を依頼するつもりなのだろうか?
とさえ思えてくる。

『うちはACが使う狙撃銃の部品を下請けで作ってるんですけどな。
 やっぱり、男なら一度は挑戦してみたくなりますやろ?』
「はぁ……」

『ノウハウを活かして作ってしもうたんですよ! 完全オリジナルの狙撃銃を!!!
 まだ試作段階で売れるレベルにはなってないんですけどね。
 ここらで本物のAC乗りの人の感想を聞いてみたいんですわ』
「つまりレイヴンによる試射をご希望ということですね」

『左様です。そちらのレイヴンさんはいろんな武器を扱うのに
 長けてはるとお見受けしたんですけど、どうでっしゃろ?』
「お任せください。『道具は人が使いやすいように出来ている。
 余計な力を抜いて、後は手を添えるだけ』というのが当方のレイヴンの口癖です」

『それは心強いでんな!』

実に玲司向きの依頼だ。それに安全そうでいい。
唯一の気掛かりは、玲司が試作品のスナイパーライフルを気に入って
「報酬の代わりにこれをください」などと言い出すのではないか、という事くらいだ。

(変てこパーツオタクには厳重に言い含めておかないと)



◇セントラル・シティ付近 荒原地帯

バケツ頭を載せた白い四脚AC<ホワイトリンク>は長距離移動用の
巡航モードを使い、今回の依頼主であるBBFのライアーン・レイノルズに
指定されたポイントを目指していた。

《ねえ、レージ。どうしてこんな面倒くさいことするんですか?》
「ん?」
《途中で無理やりクレアと別れたじゃないですか。
 どうして目的地までトレーラーに乗って行かないんです?》

玲司はしばらく考えてから、シェリーの問いに答えた。
「もうお前には話しても問題ないか……」
《ちゃんとした訳があるんですね》

「俺はこの依頼が怪しいと思ってる」
《罠だと?》
「ああ」

《あの時のやり取りに何か不審な点があったんですか?
 わたしもクレアも気づきませんでしたが》
「いや、不審なところは全くなかった。逆にそこが怪しいというか
 これは俺の漠然とした勘だ。どうも引っかかる」

《直感や第六感を否定するつもりはありませんが
 それだけだと弱いですね。何か心当たりがあるんですか?》
「ないといえばないし、あるといえばある。これでも一応はレイヴンだからな」

《ふ~む、難しいところですね。でも罠の可能性があると考えているのに
 行くんですか? 相手の正体も分からないのに》
「分からないからこそ、確かめる必要があるのさ。思い過ごしなら問題ないが
 罠だった場合はこの依頼を蹴っても俺が狙われているという大元の問題は恐らく
 解決しない。いつ襲われるかとビクビクしながら過ごすのは正直キツいからな」

《ナルホド! なかなかに合理的な理論です。
 クレアはこの考えを理解できても、絶対に賛成しないでしょうね》
「ああ、だから黙ってた」

《全てに得心が行きました》
シェリーはもう1つ疑問に思っていた<ホワイトリンク>の構成にも自ずと納得した。

スナイパーライフルのテストを前提とした四脚と長距離レーダーはセオリーだが
右背部に積まれたパルスキャノン。なぜ試射に行くだけなのに武装が必要なのか?
この依頼が罠である可能性を考慮してのものだった。

本当に罠であった場合はパルスキャノン1つでは些か火力に難があるが
恐らく玲司は端からまともに戦うつもりはないのだろう。
敵の正体を見極めたら全力で逃げるつもりだ。
クレアをシティに置いてきたのはそのため。
トレーラーを守りながら逃げるのは難しいからあらかじめ途中で別れておいた。

それに玲司の考えが杞憂であった場合、スナイパーライフルのテスト依頼に
完全武装で参上するのは流石に無理がある。
しかし、パルスキャノンだけなら依頼主に言い訳が可能だろう。
<ホワイトリンク>の構成は玲司の考えを聞いた後ならば納得できる代物だった。

《見直しましたよ。今回のレージはなにやら本物のレイヴンっぽいです》
「前から本物なんだけどな、一応」
《そう言えばそうですね》

「お喋りはここまでにしよう。そろそろ指定のポイントだ」
《了解です》
メインシステムを巡航から戦闘モードに切り替えて
<ホワイトリンク>は速度を落とした。

辺りは起伏の少ない荒原。
十数キロ離れたセントラル・シティの空港が確認できるほど見通しが利く。
スナイパーライフルのテストを行うのに適した平らで何もない地形ではあるが
指定のポイントに仮設の射撃場や試射用のターゲットなどは見当たらない。

「そっちは?」
《レーダーにも反応ナシです》
「手の込んだイタズラだったのか……?」

念の為、警戒は解かずに周辺を調べているとシェリーが妙な物を見つけた。
《あれは?》

「古いスナイパーライフルだな……」
クレスト製の実弾スナイパーライフル――CWG-SRF-80は地面に無造作に置かれていた。
《トラップのつもりでしょうか? 猫ババしようと持ち上げたら、ドカーン!
 とか? レージ1人なら引っかかってたかもですね》

「俺はそこまで意地汚くねぇよ」
そう返しながら玲司はパルスキャノンを1発だけ発射――
手前の地面に着弾させて、バンカーショットの要領でCWG-SRF-80を吹き飛ばした。

《うわっ、なにしてるんですか!》
「これでトラップが仕掛けられてないの分かっただろ?」
《乱暴ですね~》
とはいえ、手がかりはこれしかない。

ミッション中に偶然パーツを拾ったレイヴンの話は聞いたことがあるが
スナイパーライフル試射依頼の指定場所にスナイパーライフルが落ちているというのは
出来過ぎだ。これは偶然ではなく、何らかの意思が介在しているのは間違いない。

<ホワイトリンク>は10メートルほど吹き飛んだCWG-SRF-80に近づいて
慎重に持ち上げた。
「本体にもトラップはなさそうだな」

《弾が入ってますね。おや? 最高装填数より弾が少ない。
 79/80ということは、1発使った後なのでしょうか?》
「持って帰って調べてみるか」

《やっぱり猫ババするんですね》
「違うっつーの!」
《冗談ですよ、ジョーダ――》
2人のやり取りを小さな音が遮った。
遠くから聞こえた爆発音。セントラル・シティの方角からだ。
まだ警戒を解いていなかった玲司は瞬時にシティの方に向き直った。

シティの空港から黒煙が上がっている。
「見えるか?」
《滑走路で何か燃えてますね。旅客機の事故でしょうか?
 シティで待機しているクレアに訊いてみます?》

頷いて玲司は通信を開いた。
「クレア、シティの空港で何があったか分かるか?」
しばらく待っても返信がない。

《のけ者にされて拗ねているんじゃないですか?》
「あいつは仕事中にそんなことは――」
悪寒。玲司の脳裏を嫌なイメージが過ぎった。

「裏目だったかもしれない。急いでシティに戻るぞ」
《レージ、空港の方から何か来ます。……ヘリが8、いえ、9機》

『そこの白いAC、ただちに投降しろ!』

《ええー!? なんで?》
「投降しろだと!?」
2人は状況が全く飲み込めない。共通回線からの一方的な通告に玲司は動揺した。

「こちらはAC<ホワイトリンク>の阿部 玲司。交戦の意思はない。
 あんたたちは何者だ? 状況説明を求む。繰り返す、説明を求む」
『シラを切るつもりか!? かまわん、撃て! 撃ちまくれ!』

《ちょ、撃ってきましたよ!》
「クッソ……」
9機の戦闘ヘリからの一斉砲火。
<ホワイトリンク>は機銃とミサイルの雨を全速後退でかわした。

「何なんだこいつらは!」
《ヘリの側面にアークのエンブレムが》
「レイヴンズアークだと!?」

戦闘ヘリの9機程度、パルスキャノン1つで十二分な相手ではあるが
状況が分からない。相手がアークとなると尚更
状況を悪化させるのは危険だ。下手に動けない。

「……クレアの安否が気になる。こいつらを振り切るぞ」
《了解です》
<ホワイトリンク>は拾ったCWG-SRF-80をパージしながらOBを起動した。



◇セントラル・シティ パーキングステーション トレーラー指揮車両内

「ホールドアップや。無駄な抵抗はせんほうが身の為やで」

気がついた時にはトレーラーの中に入り込まれていた。
周辺セキュリティをいつの間に無効化されたのか。
そもそもドアのロックを音も無くどうやって解除されたのか分からない。
クレアは侵入者の指示に従う他なかった。

「あなた、BBFのライアーン・レイノルズさん?」
「ようわかったな、正解」
珍妙な訛り具合だ。一度聞けば間違いようがない。

「ご察しの通り、それは本名ちゃうけどな」
「でしょうね……」

「自己紹介しとこか。オレはガイル、ガイル・ワーテ・島田や。
 まあこっちもレイヴン名っちゅうやつなんやけど、なかなか凝ってるんやで。
 実はガイル・ワーテ・島田を逆さまから読むと――」

「興味ないわ」
「自分、つれへんなぁ……。まっ、ええわ。
 短い付き合いになると思うけど、ガイル・ワーテ・島田や」

(聞き覚えがある……)
庵野塾所属のガイル・ワーテ・島田。
かなりの実力を持ちながらも、相手を騙したり、罠にかけたりと
姑息な戦い方を好むレイヴン。今の状況とまさに一致する情報だ。

「あたしも自己紹介した方がいいのかしら?」
「その必要はないで、クレア・ゴールドスミス。
 あんたのことはよ~く分かっとるさかい」

「あっそう」
「ご機嫌斜めやな。でも大人しく来てもらうで」



◇セントラル・シティ パーキングステーション上空

「どのくらい離せた?」
《約1キロ。まだ捕捉されていると思われます》
玲司は追撃してくるアークの戦闘ヘリとの距離を確認して
<ホワイトリンク>の速度と高度を急激に落とした。

そして超低空でホバリングしたままコックピットハッチを開放して――
「しばらく頼む、逃げ回れ!」
《本気ですか!?》
シェリーの驚愕を背に、玲司は<ホワイトリンク>のコックピットから飛び降りた。

約20メートルの高さからのダイブ。下手をすれば死ぬ高さだ。
玲司は真下に駐車してあった高そうな乗用車の屋根を
クッションにして――盛大に破壊して、着地に成功した。

そのままトレーラーに駆け寄り、運転席にクレアの姿がないのを確認すると
腰のホルダーからハンドガンを抜き、指揮車両のドアを思い切り蹴破った。
中には――誰もいない。

「やられた……ッ!」
叫びながらも玲司は少しだけ安堵していた。
車内に血痕や暴力の痕跡が見当たらなかったからだ。

『レージ、早く戻ってきてください! わたしACの操縦は無理です!
 ギャーー! 撃たれてる、撃たれてるんです!!!』
「あと30秒だけ耐えろ」

シェリーからのやかましい通信に応えながら、ディスクの回収を急ぐ。
車内の音声を全て記録しているレコードディスク。それに何か録音されているはずだ。
(必ずクレアを見つける手がかりになる)

ディスクを固定端末から引き抜いて、玲司は外に飛び出した。



◇某山間部 偽装ガレージ 事務室

玲司とシェリーがレイヴンズアークの追撃部隊を撒いて
どうにかガレージにたどり着いたのは、あれから6時間後のことだ。

クレアを拉致され、トレーラーは置き去り
<ホワイトリンク>は損傷が酷く、玲司は疲労困憊だった。
レイヴン稼業開始以来の緊急事態。未曾有の大惨事である。

それを知り、ガレージで待ち構えていたシド・ワイズが玲司に告げた――
「アークがお前の首に賞金をかけた。生死不問で18万cもな」

罪状はレイヴンズアークの高官が2名乗ったヘリの撃墜。
犯行に使われたスナイパーライフルが証拠品として回収されており
アークは阿部 玲司の討伐を全レイヴンに呼びかけているという。

「お前に偽の依頼をしたBBFは存在しない。架空の企業だ。
 電子情報の改竄は技術と手間を惜しまなければ可能だからな。
 対するお前は何らかの細工を施されたスナイパーライフルを所持した後に破棄。
 加えて投降命令を無視して、現場からの逃走だ。この濡れ衣を晴らすのは――」

「簡単じゃないだろうな……。クソッ、何で俺たちなんだよ……」
回収したレコードディスクから判明した訛り男の正体――ガイル・ワーテ・島田。
クサナギ中央支社で戦った庵野 雲一派のレイヴンだ。
奴らを怨む理由はあっても、怨まれる理由などない。

「誰でもよかったってことかよ」
《いいえ、彼らはクレアの価値に気づいたのでしょう。わたしのミスです……》
「おいおいおい、確かにクレアは有能だと思うが、レイヴンに狙われる程か?」

《客観的に見ても、あの子にはそれだけの価値があるんです》
「実は古代帝国の末裔で、巨大兵器を動かす鍵とか言い出すつもりか?
 やめろよ、笑えない。こんな時に笑えない冗談はやめてくれ!!」

取り乱した玲司の様子を見かねたシドが口を開いた。
「お前は本当にクレアの異常性に気づいていないのか?」
「シドさんまで何を言い出すんだよ!」

「比較対象がなかったせいもあるだろうが、本当に分かっていないのか……」
《でも、あの子は自分を特別扱いしないレージが好きなのだと思います》
「なるほどな」

「2人とも何を言っているんだ……?」
玲司は困惑した。

「順序立てて話してやる。親父さんが残した借金返済のためにレイヴンとなったお前は
 持ち前の“器用貧乏さ”で即座にアーマード・コアという兵器に適応したな?」
「あ、ああ……」

「中堅から先には進めていないが、それでも素人が何の訓練も受けずに
 中堅ランクまで駆け上がるのは異常だ。自覚はあるか?」
「少しは……」

「はっきりと言うぞ。そのお前をたった1人で支えてきたクレアは“更に異常”だ」
「えっ……!?」
「よく考えてみろ。本来、レイヴンが活動するのにどれだけの人員が必要かを」

「……どれだけ、必要なんだ……?」
「この業界にメカニックやオペレーターというサポート職種が
 数多く存在する理由を考えた事はないのか?」

《シドさんは相当数のスタッフをレージたちに紹介するつもりだったのですよ》
「『先週から色々勉強を始めました。全部あたしがするから
 他のスタッフは必要ありません』真顔でこう言われた時は
 レイヴンを舐めているとしか思えなかったからな」

《早く借金の返済を終わらせて、レージを楽にしてあげようと考えたのですね……》

「お前はクレアを有能と言ったが、そんな言葉では片付けられない。
 彼女が様々な知識や技能を身につけたスピードは異常だ。
 常人が努力でどうにかなるレベルを遥かに超えている。
 今までクレアがこなしてきたパイロット以外の全てを、お前は1人で出来るのか?」

「…………」
玲司は雷に打たれたような気がした。
(当然のように頼っていた……)

仕事を始める前のクレアはACやレイヴンに興味などなかった。
(そうだ、俺がレイヴンになると決めてからだ……)
何故、今まで疑問に思わなかったのだろう。
「じゃあ、あいつはなんなんだ?」

《先天性強化人間です》
「強化……人間……? サイボーグだって言うのか?」
《いいえ、遺伝子操作であらかじめ能力を強化された生の人間です》

「なんだよ、それ……」

《わたしたちの母親はハッキリ言うとマッドでした。わたし以上の研究狂いだったと
 思います。なにしろ自分の体と娘で人体実験を行うんですから》
「おばさんが……?」

《レージが知っているのはあの人の一部分、表の顔だけですよ。母さんは
 遺伝子操作で超人を作ることに全てを賭けたマッドサイエンティストでした》
「マジかよ……」

立て続けに明かされる事実で放心状態になってしまった玲司に代わり、シドが訊ねた。
「クレアは貴重な成功例というわけか」

《はい。わたしのオリジナルがテストタイプのたたき台で、そこから改良を加えた
 プロトタイプがクレアです。母さんがもう少し長く生きていれば
 更に調整を加えられた妹が1人か2人増えていたかもしれません》

「現在の遺伝子操作技術は瞳や髪の色を変える程度だと認識しているが」
《母さんは20年以上前にかなり先を走っていたことになりますね》

「それ程前から……。にわかには信じられんが、クレアの高い能力と
 こうして実際に拉致されてしまった現状を考えると、信じる他ないな。
 彼女には貴重な生きたサンプルとして幾らでも値が付くだろう」

《迂闊でした……》
「クレアの秘密が庵野塾に知られた心当たりはあるのか?」

《わたしのオリジナルが死んだ時だと思います。
 わたしの研究成果を横取りしようとして、何も見つけられず
 腹いせにマンションを燃やしたのかと思っていたのですが
 母さんの手帳を持ち出されていたとは……》

「手帳?」
《一見、娘の成長記録に見えるのですが、中身は研究成果の能力測定記録なんです》
「そこからか」
《処分しておくべきでした……》

シドは黙って腕を組み、しばらく経ってから再び口を開いた。
「玲司、状況をまとめるぞ。いつまで呆けているつもりだ?」
「呆けてねぇよ!!!」
《レージ……?》

「あいつをサンプルとして売り捌こうだと……。
 ふざけるなよぉ、奴ら絶対に潰してやる……」
血が出るほど歯を食い縛って、まるで獣のような声で叫んだ。
どんな時も飄々としている玲司が初めて見せた姿だった。

「落ち着け、熱くなっても状況は好転しないのだぞ」
シドの言うことが頭では理解できていても、一度沸騰した脳は
なかなか元に戻ってくれない。玲司は怒鳴り散らしたい衝動を必死に抑えた。

「私がアークと話してみる。だからお前たちは当分動くな」
「当分動くなッ!? そんな悠長なことを――」
「黙って聞け!」
「ぐっ……」

「いいか? 相手は庵野塾だ。クサナギでお前が手も足も出なかった庵野 雲を筆頭に
 曲者のガイル・ワーテ・島田、近接戦闘無双と噂されるエリーア・大葉。
 戦力差を考えろ、数と質の両方で圧倒的に負けている」
「なら、レイヴンを雇って頭数を増やせばいいだろ!!」

「頭に血が上っているな……。お前には18万cの懸賞金がかかっているんだぞ?」
「だからなんだよ!!」
「大金だ、うっかり手元が狂ってしまう程のな。
 雇ったレイヴンに後ろから撃たれる可能性は考えないのか?」

「それは……」
「頭数を増やせば増やすほど、このリスクは増大する」
「ぐっ……」
「そもそも庵野塾の戦力を上回るほどのレイヴンを集める資金はあるのか?」
「……ない」

「玲司、これは周到に準備された罠だ」

「…………」
「勢力を拡大するアークを快く思わない連中は多い。だが堂々と喧嘩を売るのは危険だ。
 今やアークは世界最大の傭兵斡旋組織になりつつあるからな。
 当然、アーク攻撃を引き受けて報復対象になりたがるレイヴンもいない。
 そこで庵野塾は考えた。依頼を遂行した後、お前を犯人に仕立て上げればいいと」

「…………」
「攻撃されたアークは威信を守るために手段を選ばない。
 庵野塾の狙い通りに奴らはお前の首に多額の懸賞金をかけた」

「…………」
「次は釣りの要領で、釣り糸の先に餌であるクレアをつけて、じっと待つ。
 あとは餌につられて賞金首が自分からやって来たところを確実に仕留めるだけだ」

「…………」
「最後に役目を終えた餌であるクレアをキサラギかどこかの研究機関にでも
 売り渡すつもりだろう。よく考えられている、上手くいけば一石三鳥のプランだ」

「…………」
「少しは頭が冷えたか?」
「…………」
「ここでお前が動いてもクレアを助けることは叶わん」
「くっ……」
「無駄に死ぬだけだ」

「くっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――」



MISSION:4 -END-




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