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◇セントラル・シティ アリーナ 

薄い灰色をしたドーム状の巨大建造物。
それは都市の中心部に建てられているにも関わらず、規格外の大きさを誇っていた。
小さな街ならそのまま中に収まってしまうのではないかと思わせるほどに大きい。
しかし、無駄に大きいという訳ではない。これは必要なサイズなのである。
ここはアーマード・コアという巨人の戦闘フィールド――アリーナなのだから。

巨人たちのぶつかり合いを目の当たりにして、観客は熱狂的な歓声を上げる。
防護シールドに守られたスタンドはおびただしい熱気に包まれていた。
贔屓選手の勝敗。賭けの対象。平凡な日常からの逃避。闘争本能の代用的なはけ口。
さしずめ現代のコロッセウムといったところだ。

この日のアリーナはミラージュ主導で開催される特殊なモノで
他のアリーナとは少々用向きが異なる。
全12試合が予定されており、先ほど11試合目が終了したが
勝利したのは全てミラージュ製パーツをふんだんに使ったAC。
どう違うのかは結果を見れば一目瞭然である。

業界の事情通ならば、敗北したのはヤラレ役として金で雇われた者や
非力故、どん詰まりまで来ている者である事を容易に看破しただろう。
このアリーナ自体が企業パフォーマンスであり、一種の権力誇示なのだ。
全てはこの世界で最大の権力を有する企業――ミラージュの思惑通り。

続く第12試合、このアリーナの最後を締めくくるのは名銃<カラサワ>。
ミラージュにとって特別な意味を持つ<カラサワ>。
単純に生け贄を叩きのめすだけでは面白くない。ミラージュの企画担当者は考えた。
<カラサワ>の為に何か趣向を凝らせないものかと。

そこで白羽の矢が立ったのが往年の名選手――テラである。
<カラサワ>の扱いに長けており、人気と実力はどちらを取っても申し分ない。
このアリーナの最後を締めくくるに相応しい。最高の趣向と言えよう。

テラとの交渉は難航を極めたが、これをどうにか説得。
一番の大仕事を終え、担当者は胸を撫で下ろした。
アリーナ開催の直前になってテラの対戦相手が戦死したアクシデントなどは
彼にとって瑣末な問題でしかなかった。

代えの効かないテラと違い、代わりの生け贄――二流レイヴンは
掃いて捨てる程いるのだ。このような小さな穴を埋めることは容易い。
実際、二流レイヴンはすぐに見つかった。

しかし、その二流レイヴンがミラージュの予定調和を乱そうとしていた。



◇セントラル・シティ アリーナ 地下ハンガー

観客席とは全く違った空気が流れる空間。
金属とオイルと火薬の臭いがこびりついた巨人の部屋。
アリーナのステージ地下に位置するAC用ハンガー。

クレア・ゴールドスミスがついて行けるのはここまで。
ここから先はレイヴンの領域。
後は見守ることしかできない。他には何もできない。

リフトが彼の乗ったACをステージに押し上げて行く。
こうして見送るのは一体何度目だろう。
どれだけ回数を重ねようと慣れない。落ち着かない。

この時に思う事はいつも決まって同じだ。
(怪我だけはしないでほしい……)
今は試合の結果さえどうでもよく思えてくる。

「心配のしすぎですよ」
隣に並ぶシェリー・ゴールドスミスがクレアの肩を軽く叩いた。

「そうよね……」
アリーナで怪我をする確率は実戦に比べればとても低い。
クレアは小さく頷いて、懸念を振り払った。

「試合がよく見える場所に行きましょう」
2人は上の試合を中継してくれる大型モニターの方に向かい
人だかりをかき分けて比較的見やすい場所を確保した。

他の試合には興味なさげだった出場選手や関係者たちが集まり
皆試合の開始はまだかまだかとモニターに視線を注いでいる。
「テラはすごい人気なのね」
この場で玲司のことを応援しているのは自分と姉ぐらいだろう。

「テラは今日集められたレイヴンの中では断トツの一番人気ですから。
 番狂わせがあればとんでもない配当が出ますよ」
「配当……?」

いつのまにか姉の手には勝ちレイヴンを予想する勝鴉投票券――鴉券が握られていた。
「関係者は賭けるの禁止されてるでしょ」
「バレなければ大丈夫ですよ」

「ちょっと見せて」
クレアは鴉券をシェリーの手からさっと奪い取った。

『第十二試合 テラ ○-× 阿部玲司 0030秒』
『第十二試合 テラ ○-× 阿部玲司 0075秒』
『第十二試合 テラ ○-× 阿部玲司 0060秒』
『第十二試合 テラ ○-× 阿部玲司 0120秒』
『第十二試合 テラ ○-× 阿部玲司 0035秒』
『第十二試合 テラ ○-× 阿部玲司 0025秒』
『第十二試合 テラ ○-× 阿部玲司 0015秒』
『第十二試合 テラ ○-× 阿部玲司 0095秒』
『第十二試合 テラ ○-× 阿部玲司 0040秒』
『第十二試合 テラ ○-× 阿部玲司 0100秒』

鴉券は勝敗が堅い場合、決着までのタイムに賭けの対象が移るのだが――
「ちょっと、なによこれ!?」
「なによこれと言われても、普通の鴉券ですよ」
「そうじゃなくて! テラばっかりじゃない」
「だって負ける方にたくさん賭けたらお金がもったいないじゃないですか」
訂正。この場で玲司のことを応援しているのは自分だけだ。

「ほら、レージにも少しだけ賭けてますよ」
シェリーは服のポケットから新しい鴉券を取り出してクレアに見せた。
「勝てばそれだけで万鴉券ですから」
玲司の方に○のついた鴉券に記されているのは……。最低購入金額。

「姉さん、あんたほんとに最低……」
「まあまあ。そろそろ試合が始まるみたいですよ」
場内アナウンスが鳴り響き、頭上のスタンドが歓声で揺れた。

2機のACがステージ上に姿を現したのだ。

万雷の喝采で迎えられた黄土色のACがテラの乗機<スペクトル>。
高機動戦闘が可能な中量二脚で右腕にトレードマークの<カラサワ>を携え
左腕には懐に入った敵を迎撃する為に攻撃速度を重視したブレードを装備。
<カラサワ>を活かすことを最優先した構成と言って間違いない。

<スペクトル>の右腕だけは<カラサワ>と同じ色に塗装されており
搭乗者が射撃の腕に絶対の自信を持っていることが窺える。
実際その腕は相当なもので、テラのことを真の実力者と呼ぶ声も多い。

これに対する真っ白いACが玲司の乗機<ホワイトリンク>。
毎度機体構成をがらりと変える<ホワイトリンク>は決まった形を持たないAC。
今日は軽めの中量二脚で右腕に<カラクサⅢ>、左腕にブレードという
<スペクトル>と似通った構成を選択している。

<スペクトル>と違って誰にも知られていないし、気にもされていないが
<ホワイトリンク>が真っ白なカラーリングをしているのにも理由がある。
それは試作パーツのテストを主な仕事としている玲司ならではで
「白ならどんな色のパーツと組み合わせても色合いが悪くならないだろう」
と考え、所有しているパーツの色を白一色で統一しているからだ。
実にこだわりが有るのか無いのか、よく分からない。

2機はリフトの機体固定具から開放され一歩前に出た。
「テラは貫禄がありますね」
シェリーの言う通り、たった一歩の動作だけでもテラは何かが違う。
モニター越しに見ている素人にまでそれを感じさせるのだから恐ろしい。

同系統のアセンでテラに挑もうとする玲司の姿は
観客の目にさぞや滑稽に映っている事だろう。

MCがお決まりの煽り文句で会場を湧かせる。
テラが「一芸を極めた求道者」で玲司は「無謀なる挑戦者」らしい。
「そこはかとなくムカツク」
「アウェイ戦みたいなものですからね。仕方が無いでしょう」

準備完了の信号を灯す電光掲示板。
クレアは自分の手をぎゅっと握った。
(こっちまで緊張する……)

もうすぐ始まるのだ。
ひとときの静寂――そして試合開始の合図が鳴る。

《BATTLE START》

試合開始の合図と同時にフルブーストで前に出る<スペクトル>。
それに応えるようにして<ホワイトリンク>も前へ。
2機の距離は一気に縮まり、数瞬でエネルギーライフルの射程に入った。

お互い相手の側面に回りこもうとして円の軌道を描く。
<スペクトル>と<ホワイトリンク>はエネルギーライフルの照準を定め
同時に発射――共に初弾を回避。

続けて<カラサワ>と<カラクサⅢ>による射撃の応酬が始まるが
どちらの攻撃も当たらない。
回避、回避、回避、回避。紙一重での連続回避合戦。

2機はブーストに合わせて絶妙なタイミングで地面を蹴り
更なる加速と回避行動の修正、消費ENの軽減を行っている。
「レージもやるじゃないですか!」
低高度での息もつかせぬ高速戦闘。熾烈な攻防に観客は言葉を失った。

試合開始から60秒が経過。
未だ<スペクトル>と<ホワイトリンク>は共に被弾なし。
この時点で鴉券の多くはただの紙屑になった。

「うそ、信じられない……」
完全に予想が外れて驚愕したのは観客だけではない。
玲司をよく知るクレアが一番驚いていた。
(テラの戦いについて行けてる……。対等に戦えてる!? あのレージが)

次の瞬間、クレアを含めた誰もが更に驚かされた。
猛スピードの交差から2機のACが急速反転。
回避不能の距離から<カラサワ>と<カラクサⅢ>が同時に放たれ
今度は青い閃光が交差した。
「直撃する!?」

全く同じ動き。2機は左腕を盾にしてEN弾からコアを庇った。
お互いにブレードを破損。被弾の衝撃で体勢を崩し、双方後退。
<ホワイトリンク>だけではない。<スペクトル>――テラも下がったのだ。



求めるモノはここにはない。
それが分かっていながら私はミラージュの依頼を受けてしまった。
このアリーナがくだらぬ見世物であることは明白。とんだ茶番だ。
あるのは狩られるのを待つ獲物のみ。

しかし、どういうわけか私の対戦相手は違っていた。

楽しい、実に楽しい。
思わず口元が緩んでしまう。
「この感覚……。この感覚を味わいたかった」

引退後の平凡な日常。物足りない毎日。抜け殻のような自分。
安楽椅子に座りながら考えるのはアリーナのことばかり。
アーマード・コアという最強の兵器を操り、死力を尽くして戦うことの魔力。
そう簡単に忘れることなど出来はしなかった。

常に頭の中にあった「後悔」の二文字。
年齢など考えず、この身体が動かなくなるまで引退などするのではなかった。
真の実力者などという綺麗なイメージを守って何になるというのか。
年老いてもみっともなく足掻き続ければよかったのだ。

生涯現役。
この狭いコックピットの中こそがレイヴンの死に場所。
私は年老いた今なおレイヴンだ。それに私はまだまだ戦える。
その事を気づかせてくれた対戦相手に礼を言いたい。

「真剣勝負の最中に話しかける無礼を許してもらいたい。
 君が狩られるだけの獲物ではなかった事に感謝する。
 私の戦い方をよく研究しているようだな」

ややあって<ホワイトリンク>から若い男の声が返ってきた。
『あなたの大ファンなんでね。光栄ですよ』
ふざけている様でいて、実際は違う。気概のある青年だ。
私を倒してやるぞという明確な意思が感じ取れる。その意気や良し。

「成る程、ファンの期待を裏切るわけにはいかないな」



「くっ……くくくっ……ははははははは!」
通信を切った玲司は堪え切れずに笑い出した。
別に頭がおかしくなったわけではない。
「テラに褒められちまった」
単に嬉しかったのだ。

だがもう無理。
さっきまでは奇跡的に自分の読みが当たっていただけのこと。
読みが外れれば対応は遅れ、いつやらやれてもおかしくはなかった。
それにこっちは集中力が尽きかけている。
オマケに極度の緊張からくる疲れで疲労困憊だ。

限界。
しかし――過剰な期待に応えたくなる。
何よりテラに落胆された自分を見るのは我慢ならない。
「なんとしても、倒す」

玲司の思考は熱に浮かされていながらもクリアだった。

現状確認。
右腕健在。<カラクサⅢ>全機能使用可能。
左腕破損。ブレード使用不可。
他部位。機能正常。無問題。
パイロット。性能低下甚大。短期決戦推奨。

――――――作戦決定。勝算有。

<ホワイトリンク>と<スペクトル>はどちらもブレードを盾として使い失った。
この結果は一見五分に見えるが、実は五分ではない。
若干ではあるが<ホワイトリンク>の方が有利になった。
有利を活かさない手はない。

この膠着状態を引き延ばして体力回復を図ることは可能。
しかし、この熱は確実に冷めてしまうだろう。
熱が冷めないうちにこちらから仕掛けるべき。
今なら無茶も効く。無茶が出来る。無茶がしたい。

<ホワイトリンク>の右腕を真っ直ぐ伸ばし
<カラクサⅢ>の銃口を<スペクトル>に向ける。
勝負再開の合図。

それに応え、<スペクトル>も<カラサワ>の銃口を
<ホワイトリンク>に向け返してきた。
意外とノリもいい。益々テラを好きになってしまいそうだ。

「オーバードブースト!」
機体背面にエネルギーを溜め――解放。
OBの生み出す爆発的な推進力で一気に飛び出す。

<スペクトル>も同様にOBを起動。
テラは玲司の挑戦を真っ向から受けて立つ構えをとった。

一直線。
2機のACは互いに最大戦速で距離を縮める。
瞬く間にエネルギーライフルの間合い。

先制したのは<スペクトル>。
<カラサワ>から放たれたEN弾が<ホワイトリンク>のコアを掠め
装甲表面を焦がす。紙一重で回避成功。

<ホワイトリンク>は撃ち返さない。

<カラサワ>から放たれる2射目。
回避――失敗。命中。頭部破損。
玲司は被弾の衝撃で崩れかけたバランスをOBのスピードで無理やり抑え込んだ。

<ホワイトリンク>はまだ撃ち返さない。

更に縮まる2機の距離。
これ以上近づくと銃身の長いエネルギーライフルは封じられる。
もう格闘戦の間合い。

「もらったぁ!」
玲司が叫ぶのと同時に<ホワイトリンク>は<カラクサⅢ>を
まるでブレードのように振りかぶった。銃身下部の口から青いレーザー刃が伸びる。

<カラクサⅢ>はただの劣化コピー品ではない。ただのエネルギーライフルでもない。
エネルギーライフルとレーザーブレード両方の機能を備えたデュアルウェポン。
FM社が作り出した新カテゴリーパーツ『銃剣』なのだ。

<スペクトル>は懐に入った敵を迎撃する武装――ブレードを失っている。
玲司はブレードモードの<カラクサⅢ>を振り抜く瞬間、勝利を確信した。
(この距離なら躱せまい! 流石のテラも度肝を抜かれた筈だッ)

玲司だけではない。アリーナ中の誰もが思った。
<カラクサⅢ>が<スペクトル>の装甲を切り裂くと。
だが、実際は違った。

<カラクサⅢ>の隠された機能にいち早く気づいたテラは引くどころか更に距離を詰め
<スペクトル>を<ホワイトリンク>に直接ぶつけた。
恐ろしいまでの反応速度と機転。そして勝負強さ。

<ホワイトリンク>は振りかぶった腕の根元を押さえられ
<カラクサⅢ>を振り抜くことが出来なかった。
格闘戦の間合いの更に内側に入られたのだ。

テラの度肝を抜いたつもりが、実際に抜かれたのは玲司の方だった。

テラの行動。切り札の不発。衝突の衝撃。全てが想定外。
玲司は立て直すのが若干ながら遅れた。
その若干がこの戦い――テラ相手では命取り。

すかさず<カラサワ>から放たれたEN弾は<ホワイトリンク>の右肩口に命中。
接合部を正確に射抜かれ、胴体から右腕がもげて<カラクサⅢ>と一緒に吹き飛んだ。
両腕を失い――攻撃手段を全て失った<ホワイトリンク>。

阿部 玲司と<カラクサⅢ>は敗北したのだ。



◇某山間部 偽装ガレージ 事務室

鈍い衝突音。
派手に蹴りを入れられてスチール製の事務机がへこんだ。
一発だけではない。何度も蹴れられた痕がある。
事務机はもうベコベコだった。

「くそ……ッ」
更にもう一発。先程より強烈な蹴りが事務机に向かって放たれる。
「ぎゃーー!」
今度は蹴った玲司の方にもダメージが入った。
1人で奇声を上げながら床の上をのたうち回っている。

玲司は朝起きてからずっと昨日のことを考えていた。
アリーナで負けたのは初めてではない。
依頼も何度か失敗してきた。
しかし、悔しいと思ったのは今回が初めてだった。

勝ちを確信した瞬間ほど危ういものはない。
最後まで気を抜くべきじゃなかった。
あの時に動けていたら?
続きはどうなっていただろう。
テラに勝てたか?
駄目だ。
想像すらできない。
あの状況に持っていったこと自体が間違いか?
そうかもしれない。
選択肢は色々あった。
もう少しマシな作戦を思いついていれば結果は違っていたかもしれない。
更に前の段階を変えたらどうなっただろう?
例えば違うアセンで挑んでいれば。
試合までの数日を別の事に使っていれば……。

『プルルルル、プルルルル……』
端末からの呼び出し音が玲司を現実に引き戻した。
「なんだよ」

『プルルルル、プルルルル……』
「仕事ならいらないぞ」
『プルルルル、プルルルル……』
「今はそんな気分じゃない」
『プルルルル、プルルルル……』
「うるさいなぁ」

『プルルルル、プルルルル……』
「わかった、わかりましたよ」
諦めずに鳴り続ける呼び出し音に観念した玲司は
床から立ち上がり、嫌々インターコムを手に取った。

「はい、阿部です」
『その声は阿部殿ですかな?』
「げッ!?」

玲司のことを「阿部殿」と呼ぶ人は1人しかいない。
FM社の社長、ケビン・スパイシー。玲司が今話したくない人物ナンバーワン。
依頼失敗後に依頼主と話すほど気まずいことも他にない。

「ただいま留守にしております。ご用の方はピーっという発信音の後に――」
『いやいやいやいや、ご冗談を。本人ではないですか』

分かりきった結果ではあるが、依頼失敗の報告をまだ依頼主にしていなかった。
依頼を受けた以上、それなりのケジメはつけるべきである。仕事は仕事。
(腹をくくるか……。でも腹を切れと言われたらどうしよう……)

「その、すみませんでした。依頼失敗です……」
『はて? 阿部殿はまだ朝刊を読んでおられぬのか』
「はい? 新聞、ですか……?」

『いかにも。セントラルタイムズが一番よい記事を書いておる』
想定外の反応。玲司は言われるまま購読している電子新聞を開いた。
ページをめくり該当しそうなアリーナ関連の記事を探す。

「波乱の第十二試合。阿部選手の奮闘によりテラ苦戦!? 100万鴉券が出る……」
『1人だけ配当を手にした幸運な者がいたらしいですな。
 私も賭けておれば――って、そこではなく。もう少し先を』

「ええっと……………………。テラが現役復帰をほのめかす発言!?」
『どういった心境の変化か、復帰しそうな感じですな。
 そこに書いてあるテラのインタビューに目を通していただきたい』

インタビューは見出しの通り、アリーナへの復帰をほのめかす発言から始まり
対戦相手である玲司と<カラクサⅢ>を褒めるような内容が書かれていた。
「<カラサワ>しか眼中にないテラが……。<カラクサⅢ>を褒めてる……」
『これには私も驚きましたよ』

確かにこの記事を読んで悪い気はしないだろう。
玲司もテラに認められたような気がして溜飲が下がる思いだった。
だが、それと依頼の成否は別だ。

『予想以上の成果ですな。依頼は大成功ですよ』
「えっ? しかし……」
『もしや、まだシェリーさんから聞いておられぬのか?』

「なんのことです?」
『合点がいきましたよ。シェリーさんも人が悪い』
「あの、一体……」

『説明いたしましょう。単刀直入に言うと阿部殿に勝って欲しくはなかったのです。
 勝たれると困った事態になると言った方が正確ですな』
「はぁ……」

『テラを倒してほしいという依頼はミラージュ主催の宴会に紛れ込んで
 台無しにしてくれと言っているようなもの。
 成功していれば阿部殿は無事で済みましたかな?』
「勝った場合は当分身を潜めるつもりでしたが……」

『ほとぼりが冷めるまで捕まらないのが最良。
 こちらとしては捕まってもさっくりと逝ってもらえれば問題ありませんが
 捕まって尋問を受け、繋がりを吐かれなどしては我が社も危うい。
 ミラージュと事を構える体力などありませんからな!』
「…………」

『元々は接戦を演じて負けくれと依頼するつもりだったのですよ。
 しかし、それでは阿部殿がやる気を失ってよい結果は得られないと
 シェリーさんに助言されましてね。
 テラ相手にそんな真似が出来るはずがないとも』
「あいつ……」

『そこでテラを倒してほしいと依頼してみたわけです。
 阿部殿が本当に勝ちそうになった時はひやひやものでしたぞ。がははははッ!』
「は、はははは……」

『早速<カラクサⅢ>への問い合わせが来ていましてね。
 高めの価格設定をしているのですが既に予約も何件か。
 これだけの結果が得られたのですから
 シェリーさんの助言に従って正解でしたな!』

(この狸オヤジ……)
微妙に釈然としない。
玲司はむかっ腹が立ったような、ほっとしたような、複雑な心境だった。

『気分を害されたのでしたら申し訳ない。
 報酬に色を付けさせてもらいます故ご容赦を』
「いえいえ、これっぽっちも気分なんか害されてませんよ。
 それより高めの価格設定と言うと<カラクサⅢ>はどれぐらいする物なんですか?」

『これから阿部殿にお支払いする報酬の大体4倍ぐらいですかな』
「結構な値段ですね」
『色々と金のかかった一品ですから致し方ないのですよ。がははははッ!』

(報酬の大体4倍……。人を謀った分、少し吹っ掛けてやるか。
 自分のところで作っているパーツだ。そんなに痛くもないだろう。
 むしろ願ったり叶ったりかもしれない。まあいいや)

事の次第を知って烈火のごとく怒るクレアの姿が頭を過ぎったが
玲司は「ケセラセラ~」と頭の中で歌いながら自分の欲望に従った。

「色を付けるよりも報酬を現物支給でお願いしたいのですが」
『とおっしゃると?』

「預かっている<カラクサⅢ>をそのまま俺にください」



MISSION:2 -END-




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