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MISSION:1



◇セントラル・シティ郊外 クサナギ中央支社 社員食堂

責任者――ある事項について、その責任を負う者。
何かあった時に責任を取らなくてはならない。
では「責任を取る」とは?
左遷、降格、減俸、辞職……。ここから先は考えたくもない。

ひと気の少ない夕刻の社員食堂。その一角でジョン・トラブルダは頭を抱えていた。
テーブルの上には全く手付かずのラーメン定食。
食欲など微塵もないのに、何故注文してしまったのか。

ラーメンから立ち昇る湯気をぼんやりと眺めながらジョンは現実逃避を始めた。
(密かにタイムマシンの開発が成功していたりしないだろうか)
無意味な事とは分かっていても、その思考を打ち消す事は叶わなかった。

(もし過去に戻れるのなら、1年前の自分に警告したい。
 「クレスト野朗の挑発に乗るな! あいつらは悪魔だッ!」と……)

今からちょうど1年前、クサナギ中央支社に大きな仕事が舞い込んできた。
セントラル・シティからのMT(マッスル・トレーサー)開発依頼である。
不景気なこのご時勢にも関わらずコストよりもスペックを重視した仕様書に
年甲斐もなくジョンはときめいた。

「みんなで最高のMTを作ろう」
開発チームへの参加が決まったジョンと同僚たちは燃えていた。
幸運は猶も続く。

辞令「ジョン・トラブルダ殿 あなたを開発計画第三百十五号の総監督に命じます。」

大抜擢であった。
突出した才覚があるわけではなく、世渡りが上手いでもない。
真面目だけが取り柄の中年社員――ジョンの昇進を誰もが祝福した。

セントラル・シティは地上開発初期に作られた都市の一つで
今では世界有数の大都市となっており、企業の手を離れ自治権を獲得している。
近隣への影響力も大きく、そこのシティガードがクサナギの製品を使っているとなれば
後はお分かりだろう。この一件はクサナギの進退に関わる。
なんとしても成功させなければならないプロジェクト。
ジョンはその総監督に任命されたのだ。

問題はここから――

どこから聞きつけたのかクレストが沸いてきた。
「ねえねえ、セントラルさん。うちもいいMT作りますよ!」
「でも、先にクサナギさんに頼んじゃったからな~」
「じゃあ、こういうのはどうでしょう」
「なになに?」
「二社ともMTを作って、トライアルで勝負。優秀な方が採用!」
「面白そうだね。クサナギさんがいいって言ったらそれでもいいよ」

「あの、その、そういうのはちょっと……」
「なに? 自信ないの? プププッ」
「じ、自信はある」
「じゃあなんで勝負受けないの?」
「そんなリスクは……」
「やっぱり自信ないんだ! MTしか作ってないのに自信ないとかどうなの?」
「こ、こんな勝負を受けても、こっちにはメリットがないじゃないか!」

「言ったね……。メリットがあれば受けると」
「えっ……?」
「こっちが負けたら、うちのMTシェアの15%をクサナギさんに譲るよ」
「これは大きく出たな~。でもいいの? 負けたら大損だよ?」
「うちは自信ありますから」
「さすが天下のクレストさんだな~」

「…………」
「クサナギさん? どうして急に黙るの?」
「…………」
「あれ? ひょっとして口だけ!? そんな、まさかねぇ?」
「…………」
「MT開発に高い専門性を発揮するクサナギさんが、ねぇ?」
「…………」

「クサナギびびってる! ヘイヘイヘイ!」
「ぐ…………」
「クサナギびびってる! ヘイヘイヘイ!」
「ぐぐ…………」
「クサナギびびってる! ヘイヘイヘイ!」
「ぐぬぬ…………」

「クサナギびびってる! ヘイヘイヘイ!」
「う、受けてやんよ!」
「わーい! やったー! 正々堂々勝負しようね。クサナギさん……」
「後で泣いても許してやらないからな!」

断じて、安い挑発に乗ったわけではない。

功名心や権力欲が腹の中で強く息衝くのを感じた。
勝ち目のない勝負ではないのだ。それどころか、この時ジョンは勝利を確信していた。
企業規模は小さくとも、ことMTにおいてはクレストに後れを取るなどありえない。

しかし、問題はそこではなかった。そしてその事に気づくのが遅すぎた。
気づいたのは今日――トライアルの前日である。

決戦を明日に控え、完成したMTの入魂式。必勝と安全祈願の席で事態は発覚した。
「珍しいな、アントニオは遅刻ですか?」
スタッフの1人がメインテストパイロットの姿を認められずに尋ねた。

「電話が繋がりません」
 ・
 ・
 ・
「家にもいませんでした」

この1年間、共に心血を注いだアントニオが突然の行方不明。
彼の安否が気掛かりではあったが、ジョンは総監督として心を鬼にした。
「明日のトライアルはサブのカルロスで行く。何の問題もない」
テストパイロットは1人ではないのだ。メインがいなくともサブがいる。

「実はカルロスも……」

「これはタチの悪い冗談か?」
取り乱しそうになるのを必死で抑え、ジョンは平静を装った。
(まだ大丈夫だ。こんなこともあろうかと)
プロジェクトは主1名、副1名、予備3名、計5名のテストパイロットで進めてきた。

まだ予備の3名が残っている。
「ブラジレイロとアルメイダ、それにジョビンはどこだ?」
「今朝からその3人も……」

“偶然にも”トライアルの前日にテストパイロットが
5名同時に行方不明になっていた。
クレストは仕掛けてきておいて、ハナからまともに勝負する気などなかったのだ。

(家のローンがまだ17年も残っているし、先月に車を買い換えたばがりだ。
 いや、職を失うだけならまだいい。もし負ければ、僕自身の身が危うい。
 口うるさい嫁や可愛い娘たちはどうなる? 想像したくもない。
 クソッ、クソッ、クソッ、クソッ、クソッ、クソッ……。
 正直者だけが馬鹿をみる。この世界に神はいないのかッ!?)

「相席いいですか?」
突然声をかけられてジョンは現実の世界に引き戻された。
ラーメン定食から湯気は出ておらず、かなり長い時間、回想に耽っていたらしい。
「よっこいしょ」
声の主――シェリー・ゴールドスミスはジョンが返事をする前に向かいの席に座った。

(席なら他にいくらでも空いているだろう。どこか他所に行ってくれ)
ジョンの非難の視線を無視して、シェリーは食事の邪魔にならないように
腰まであるプラチナブロンドの髪をゴムで縛ってから、手を合わせた。
「いただきます」
シェリーは夕食を黙々と胃袋の中に収めていく。

ジョンを笑いに来たのでもない、励ましに来たのでもない。
空席だらけの中、わざわざ相席を申し込んでおいて、食事に夢中である。
(変人め……)
シェリー・ゴールドスミス博士は整った容姿とは裏腹に
クサナギ内では変人として有名であった。

「食べないんですか?」
自分のトレイを空にした所でシェリーが再び口を利いた。
物欲しそうな目で冷めきったラーメン定食を見つめている。

「よければどうぞ……」
ジョンはの定食の乗ったトレイを差し出した。
(これをやるから、どこか他所に行ってくれ)

「では遠慮なく」
ラーメン定食をシェリーは心底美味しそうに頬張っている。
冷めて伸びきったラーメンがそんなにも美味しいのだろうか?

慌てて食べるせいでスープが彼女の着る白衣を何度も汚した。
その姿があまりに可笑しかったせいで、ジョンは殆ど無意識のうちに話しかけていた。
「美味しいかい?」

「ええ、32時間ぶりの食事なので何でも美味しいです。空腹は最高の調味料ですよ」
また研究室に篭って不眠不休で仕事をしていたのだろう。
変人ではあるがシェリーは優秀であった。
クサナギ製MTのOSの基礎設計は全て彼女が手がけている。
確か人工知能学の博士号も持っている筈だ。

「ごちそうさまでした」
シェリーは丁寧に手を合わせてから、初めてジョンの顔を凝視した。
「ひどい顔していますよ、ジョン」
「研究室に篭っていた君は知らないかもしれないが、非常にマズい事態に陥っている」

「クサナギの希望、KN79-AMANO――通称<アマノ>の乗り手がいないんですね」
「なんだ、知っていたのか……」
「やられましたね」
「ああ、唯一にして最大の弱点をピンポイントで突かれたよ」

「熊さんが仁王立ちしたような愛らしいシルエット。思いつく限りの最高を追求した
 スペック。そんな<アマノ>唯一の弱点。それはズバリ『操作の複雑化』」
「ご名答」

<アマノ>は高性能を追求するあまり、一般的なMTの2倍の情報処理と
1.5倍の操作をパイロットに要求する。
並のパイロットでは慣れるまでにかなりの時間を必要とするジャジャ馬。

「今も何人かに完熟訓練をやらせてるけど
 うちが囲ってるMT乗りにそんな凄腕はいないし、絶望的だよ……」
「この際、外部からいけそうな人を引っ張ってきたらどうです?」
「それも駄目だったよ」

腕のいいMT乗りは掴まらなかった。クレストが手を回しているのもあるだろうが
三大企業のクレストと弱小企業のクサナギの対立。
大金を積まれたとしても、クサナギの為にクレストに目をつけられるような事を
進んでやるような奴は少ないだろう。凄腕なら尚更、損得勘定は得意な筈だ。

「よければ、わたしが紹介しましょうか?」
「……はぁ!? な、なにを?」

「えっ? なにって、この事態を打開できる可能性のあるパイロットを」
人事部や情報部の人間なら分かるが、研究者であるシェリーが凄腕のMT乗りを
知っているとは到底思えなかった。
「冗談はやめてくれ。本気で言ってるのかい?」

「モチのロンです。交換条件と言ってはなんですが
 上手くいったら、お願いしたい事があるんですけど」



◇セントラル・シティ 市外演習場 管制室

「RUN+ATTACK」とはコース上に複数のターゲットを設置し
それらを破壊しながらスタートからゴールまでのクリアタイムを競う
一般的な試験競技である。シンプルで分かりやすいトライアルの王道と言えよう。

8つの巨大モニターを有する一室には3つの陣営が集まっていた。
このトライアルの主催であるセントラル。嘲笑を浮かべるクレスト。
そして敗色濃厚ムードの漂うクサナギ。

「もう……終わりだ。全て終わりだ……」
掠れた声に青ざめた顔、その姿は幽鬼さながら。
ジョン・トラブルダは再び頭を抱えていた。

「市長やガードの警備主任さんがこっちを見てますよ。
 しっかりしてください。まだ負けたわけでもないのに」
まるで他人事ような口ぶりのシェリー・ゴールドスミスに
ジョンは苛立ちを隠せなかった。

「君が“ご親切に”紹介してくれたあの男じゃ、どうやっても勝てないよ」
モニターの中で<アマノ>に乗り込もうとしている若い男をジョンは指差した。

「やってみなくちゃ、分からないと思いますけど」
「いいや、分かるね」

問題の男は当初の予定時刻よりも大幅に遅れて現れた。
それでも腕のいいMT乗りならばと部下に時間を稼がせ
ジョンは<アマノ>の機体特性を必死で伝えた。
しかし、男はジョンの説明を理解している様子ではなかった。
しきりに首をかしげ、基本的なことを何度も訊ねてくる。
まるでMTに乗ること自体が初めてであるかのように。
その時、ジョンは全てを諦めて思った。「ああ、こいつは駄目だ」と。

1st Area 1分25秒33
2nd Area 1分45秒45
3rd Area 2分28秒59
ALL Area 5分40秒17

先行したクレストのMTは無難なタイムを出している。

<アマノ>をまともに扱えるパイロットがいれば、決して抜けないタイムではないが
今この場にそんなパイロットは存在しない。
心血を注いだ<アマノ>はその性能を発揮することなく、敗れるだろう。

「スタート30秒前です」
オペレーターがカウントダウンを始めてもジョンはモニターを見る気になれなかった。
もう勝負は見えており、ジョンの思考は負けた後の事で埋め尽くされていた。

(些細な失敗なら辞めれば済む。しかし、これ程の大損害を与えた場合はどうなる?
 考えたくもない。逃げるのは……駄目だ。僕には家族がいる。
 そうだッ!! 今、<アマノ>に乗っている男を紹介したのはシェリーだ。
 彼女にも責任の一端はある筈だ。いや、ある。悪く思わないでくれよ……)

ドス黒い思考を中断して、ちらりとシェリーの方を見た時
ジョンは場の空気が変わっている事に気づいた。
(なんだ、このピリピリした感じは……?)
やけに静かでオペレーターの声だけがよく通っている。

「ファーストエリアを1分23秒27で通過」

ジョンは自分の耳を疑って、オペレーターの1人に掴み掛かった。
「今のタイムをもう一度言ってくれッ!」
「は、はい。1分23秒27です」

これは夢か? 何か落とし穴があるのではないか?
「ターゲットの撃ち漏らしは?」
「ありません」

クレストMTのファーストエリア通過タイムは1分25秒33。
<アマノ>のタイムは1分23秒27。僅差ながら<アマノ>の方が早い。
「勝ってる……」
信じがたいことだが、現時点ではあの男と<アマノ>が勝っている。

「セカンドエリアを1分46秒28で通過」

「――ッ!?」
放心状態にあったジョンはオペレーターの読み上げる新しいタイムで我に返った。
「1分46秒28ッ!?」
今度は負けたが、トータルではまだこちらが勝っている。

平静を取り戻したジョンはここで始めてモニターに視線を移した。
一体何がどうなっているのか?

なんのことはない。あの男が<アマノ>を乗りこなしているのだ。
安定した機動でコースを走り、ターゲットに対して最適な武装を的確に選択している。
まるで乗りなれたMTを駆っているかのように。

「道化を演じていたのか?」
そうとしか思えない。彼はクレストを欺くために一芝居打ってくれたのだ。
敵を欺くにはまず味方から。この古い慣用句を実行してくれたに違いない。

<アマノ>は最後まで乱れることなくゴール地点に到達した。
オペレーターが最終タイムを宣言し、クレスト野朗が膝から崩れ落ちた。
今日はジョン・トラブルダにとって人生最良の日となったのだ。

うなだれるクレスト男に何か一言ぐらい言ってやろうと思ったが、止めた。
死人を鞭打つのも可哀相だ。彼にはこれからもっと辛いことが待っている。
それに今はシェリーに訊ねたい事があった。

「彼は一体何者なんだい?」
「名前言ってませんでしたっけ? 阿部 玲司ですよ」
「アベレージ……。変わった名前だな。
 聞いたことがないけど、さぞや名のあるMT乗りなんだろうね」

「あまり大した事ないみたいですよ」
「そんな馬鹿な!? 現に彼は初めて触れたMTで結果を出している」
「それは<アマノ>の性能があったからでしょう?」

「<アマノ>の性能は君より分かっている。
 それをいきなり乗りこなすのが凄いんじゃないか」
どうも会話が噛み合っていない。

「あとレージはMT乗りではありませんよ。
 MTに乗るのも今日が初めてだと思います」
「なんだって!?」
今恐ろしい事を言わなかったか?

「レージは“平凡なレイヴン”ですから」

「レイヴン……」
最強の人型兵器“アーマード・コア”を繰る傭兵。
MT乗りから転向する者もいると聞くが、彼は今までMTに乗ったことがないという。
しかも頭に“平凡な”の付くレイヴン。
(そんな男に救われたのか……)

「君は彼のことをよく知っているのかい?」
「幼馴染なんですよ。それに妹が彼と一緒に仕事をしていますから」
ジョンが聞きたかったのはそんな事ではなかった。

“平凡なレイヴン”がいかにして<アマノ>を乗りこなし、勝利したのか?
この一点だけが知りたかった。
「詳しく教えてくれ」
「う~~ん……」
シェリーは顎に人差し指を押し当て、少し考えてからポツリと呟いた。

「道具は人が使いやすいように出来ている。余計な力を抜いて、後は手を添えるだけ」

「それは?」
「レージの口癖です」
そんな簡単な言葉で片付けられてもジョンは納得できなかった。

「じゃあ、例え話をしましょうか。あなたは初めて自転車に乗った時
 補助輪を付けていましたか?」
「ああ、小さい頃はつけていた。それか親に後ろを支えてもらうのが一般的だろう」
「今は必要ありませんよね?」

「当然だろう! コツを掴んでしまえば難しい事じゃない」
「そう。慣れてしまえばバランスを意識しなくても自転車に乗ることができる。
 レージは初めからその状態なんですよ」

例え話とはいえ、戦闘用MTと自転車を同列に語るシェリー。
ジョンは猶も納得できなかった。

「わたしの知る限りではどんな物でも初見である程度は使いこなしていますね。
 物の大小や複雑さはあまり関係ないみたいです。
 何度か実験させてもらったんですが、どうも触れるだけで物の本質を見抜いて
 無意識のうちにどうすべきか分かっているみたいなんですよ」

「そんな超能力みたいな……」
しかし結果が先に出てしまっているせいで、ジョンは納得する他なかった。
世の中にはそんな人間がいるのかもしれない、と。

「でも待てよ」
おかしい。シェリーは彼のことを“平凡なレイヴン”と言った。
ACはパーツの組み換えによってあらゆる状況に対応できる汎用性の高さが
最大の特徴。しかしどのアリーナを見てもそんなレイヴンは殆どいない。
武装を少し変えるのが関の山だろう。彼ならば――

「ある意味ではアーマード・コアという兵器と最も相性のいい
 レイヴンと言えるかもしれません」
「でも“平凡なレイヴン”なんだろう? 彼にも何か弱点が?」

シェリーは心底可笑しそうに笑いながらこう答えた。
「器用貧乏なんですよ」
「器用貧乏……?」
その言葉の意味するところが分からずジョンは怪訝な顔を作った。

「瞬時に一定のラインには到達できても、そこから先には行けない。
 レイヴンの世界では真ん中辺りが精一杯で、レージの技量じゃ
 上の方には通用しないって妹が言っていました」

「たまげたな。このトライアル、よく勝てたものだ……」
「ジョン、あなたが自分で言ったんじゃないですか。
 ある程度乗りこなしてくれれば<アマノ>は勝てるって」



◇セントラル・シティ 市外演習場 屋外ハンガー

機体の修理費用――なし。弾薬費――なし。建造物等の賠償請求――なし。
マイナス要素一切なし、パーフェクト。
久しぶりにまとまった金が手に入る。

「お前のおかげだよ」
阿部 玲司は肩にかけたタオルで汗を拭いながら
先ほどまで自分が乗っていたMTを見上げた。

周囲ではシティやクサナギのスタッフが慌しく走り回っていたが
役目を終えた部外者である玲司には特にやることが無かった。
クサナギの社員に一通りチヤホヤされた後はほったらかしである。
迎えが来るのでここで待っているようにと言われたが、なかなか来ない。

「レージー!」
玲司は聞き慣れた自分を呼ぶ声の方に向き直った。
白衣のポケットに手を突っ込んだままシェリー・ゴールドスミスが
こちらに向かってゆったりと歩いてくる。

「遅いぞ、シェリー」
「大遅刻をやらかした男の台詞とは思えませんね」
「しょうがないだろ、道が混んでたんだよ」
「傭兵の台詞じゃありませんよ、それ」

痛いところを突かれて玲司は苦笑いをした。
完全なやぶ蛇。昔から口ではこの女に勝てたためしがない。
ボケているようで頭の中はしっかりと回転している。

「まあ、結果よければ全てよしということで」
「調子いいんだから。まあいいでしょう」
「へへー」

「クレアも近くまで来ているんでしょう? 3人でお昼に行きませんか?」
「そうだな」
短い時間ではあったがトライアルでカロリーを消費していた。
いい感じに腹が減っている。
懐が暖かくなったところで、次は腹の方も満たしておきたい。

「なににするかな」
「回ってないお寿司がいいです。もちろんレージの奢りで!」
「なんで俺の奢りなんだよ!」

「いいじゃないですか。この仕事を紹介したのはわたしですよ?」
「どーせ後で紹介料よこせとか言うんだろ」
「そんなこと言いませんよ。わたしは暇を持て余しているあなたに
 ゼ・ン・イで仕事を紹介してあげたのに」

「善意ねぇ~」
玲司は長年の付き合いでシェリーに何かやましい事があるのを感じ取った。
(今回は依頼主の方に何かたかったな)

「お昼をご馳走になるぐらいの権利はあると思うんですけどねぇ~」
「…………」
ここで渋ってこっちにも紹介料を何%かよこせと言い出されても困る。
回ってない寿司で手を打った方が得策か。

「ほどほどにしてくれよ」



MISSION:1 -END-




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