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 海中に没した過去の都市エリアに、それを一直線に切る白の構造物がある。
 白亜の長橋だ。
 等間隔で並ぶ巨大な橋脚の天辺を始めとして数段に渡って内部に敷かれた車両用道路は、左右対称に悠然と建造された大型の高速道路にも見える。
しかし、今現在それらには走行する車両が認められない。
 地上最大の自治都市――ラインアークは、普段とは明らかに違う様相を呈していた。

                           ●


 「確認されたネクストは二機。一機はカラードランク1"ステイシス"。リンクスネームはオッツダルヴァです」
 ネクスト襲撃の突然の事態に喧騒と怒号の飛び交う管制室から、オペレーターはインカムを通してパイロットへと情報を伝える。
彼女の口調は滑らかで、落ち着き払っていた。
 「ふむ、態々最高戦力を寄越すとは、私も随分高く評価されたものだな」
 「あなたはアクアビット本社を単機で壊滅させた"英雄"だものね」
 「ふ、英雄……か」
ヘッドホンから聞こえるパイロットの声は、既に初老に差し掛かった男のものだった。
失笑で返したその低音で張りのある声は、朗々と続ける。

 「だがそれはホワイト・グリントの功績だ。私は既に故人だからな、フィオナ。―――もう一機は?」
 「"ストレイド"。カラードランク最下位の新人だけれど、派手な噂が絶えない。リンクスネームはジョン・ドゥね」
 「名無し(ジョン・ドゥ)か。」
 「……えぇ」
 「……彼に、悪いと思っているか?」
 オペレーターの歯切れの悪い相槌に、パイロットは問う。
 「いえ、リンクスなら覚悟している筈だもの。 仕方の無い事よ」
 「仕方の無い事、か。―――君も、この十年余りで大人になったものだな」
 「……からかわないで」
 その苛立ちを孕んだ声質に、琴線に触れてしまったと反省したパイロットは沈黙で話題を切る。
 人を計画の犠牲にする事に心を痛めた彼女が、今再び二の轍を踏もうとしている。
この話を聞いた時、彼女は何を考え、思い、そして承諾したのだろうか。
守るべきものを守る為に犠牲を出す。
そして犠牲となるのは以前と同じく一人の男。
人の命を量で天秤に掛ける事に慣れてしまった己と彼女は違う。
 パイロットは憂いていた。
今にも壊れてしまいそうな矛盾を抱え、常に苦しみ悩む彼女を。

娘のようであり妹のようであり、そして恋人のようでもある彼女に救いを与える為に、私に何が出来るのか。

 リンクス戦争末期、アナトリアを襲撃した私は全てを覚悟し超えたつもりだった。
 任務を遂げた暁には己の命を絶とうと、そう覚悟していた。
 だが現に今生き永らえている。
二度と目を開く事は無いと思っていた私がベッドで目覚めた時、傍らに居た彼女の泣き顔は深く記憶に刻まれている。
 その時、私は理解し受け入れた。
 この身をもって彼女の力となる事を。
 いかなる企業の依頼も受けず、ただ彼女の意思によってのみ力を振るう騎士となる事を。
 ―――これは罪滅ぼしだと、そう思うかね?
誰でもない誰かに問う。
もしかしたら、アナトリアを守ったあの男に宛てたつもりだろうか。
 「ふ……」
 可笑しく思い、笑む。
 パイロットはAMSモニターに目まぐるしく更新される現在情報を今一度確認すると、再び回線を開き、
 「フィオナ」
 彼女の名を呼ぶ。
 「何?」
 「私も、もう歳だな」
 「……ごめんね」
 何が、とは聞かない。
 「いいさ、これが私の運命だ」
 僅かに笑みをたたえたまま、己の出した答えを伝える。
 敵ネクスト二機も、程無くラインアークの主権領域に入る。
この一計が成功すれば、じき企業連のクレイドル体制は崩壊を迎えるだろう。
あの男―――マクシミリアン・テルミドールは、ラインアークの安全を約束した。
ホワイト・グリントが名も無きリンクスを一人消し、以降見て見ぬ振りをすればそれだけでラインアークは守られる。
簡単な話だ。
外装、武装の最終チェックも終わり、ホワイト・グリントも出撃可能となった。
 通常ブーストで格納庫から出撃した直後に加速し、ラインアークの玄関である長橋へと向かう為、オーバードブーストトリガーの安全カバーを外しておく。


 「さて、ゆこうかフィオナ。―――手筈通りにな」



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