シュッシュッシュッシュッ
私は今オナニーしている、おかずは特にない
ただ自分の手によって陰茎に与えられる刺激によってのみ勃起を維持し、その刺激によってのみ射精に至ろうと思っている
だがこれは性欲を紛らわせる為の作業とは言え少々退屈ではある
そこで私は思索に耽る事にした

私は何故オナニーをしているのか
それは、セックスをする相手が居ないからである
いや、それは正確な答えでは無いかもしれない
最も直接的な原因はあの鬱陶しい夢精を防ぐ為だ
そして無駄に他人に欲情して思考の正確性を保てなくなるような状態を未然に防ぐ為だ
セックスをする相手が居ないのは、ただセックスをしない理由であって、オナニーをしている理由では無い

何故人には性欲という物が備わっているのだろう
私は昔から性欲という物の為に随分と痛い目を見てきた
射精に至ったときのほんの僅かな快楽の為に、世界の至る所で性的なアクセントが効果を持つというのは実に滑稽な事ではないか

例えば、私は人間が見た目を意識するようになった一因にも、異性に良く見られたいという本能的な欲求が一役買っていると思う
しかし、それらの要素の行き着く先は結局性的な快楽という一点に過ぎないのだ
ただ射精時の気持ちよさの為だけに、人間社会の至る所に性的なアクセントは存在するのだ

だが、人間が食事をするというのも、ある意味味わったときの快楽の為に行っていると言える
そして食事をしなければ人類は絶滅するし、射精をしなくても人類は絶滅する
実は射精を推奨するような人間社会は本能的には間違っていないのかもしれない

しかし私は不愉快なのである
食事や睡眠が当たり前のように享受出来るこの文明社会の中で、性欲が持て囃されるのは当たり前なのかもしれない
それでも、私は射精時の快楽と、この射精社会が求めている物のギャップに、憤りを感じてしまうのだ

どうやら私の陰茎に与えられた刺激により陰茎の感覚も高まってきたようだ
この一瞬だけ、私を常に支配している理性が隠れ、私の中の性的で本能的で野性的な部分が目を覚ますのだ
そしてそいつはこう言う、オナニーなんかしてないで、セックスをするんだ!そして、子孫を残せ!と
この時ばかりは冷静さを失っている私も、思わずそれに賛同してしまう
そうだ!このまま一人で死にゆくのは嫌だ、子供が欲しい!女が欲しい!射精社会万歳!と
そして射精感が上り詰めるとき、私はさも男の中の男になって、母なる大地に射精しているような気分になる

しかし私は本当は知っているのだ
人を抱き締めた時の暖かい感覚を
この感覚さえ知らなかったら、私は一生オナニーで満足出来ていたかもしれない
だが私は忘れられない、人の肌の暖かさを
そう思ったとき、私の性器は途端に小さく縮こまり、とても情けない物になってしまうのだ
そして、何やら底知れぬ寂しさと、まだ熱の残る高揚感と征服感が混じり合い、私の中に混沌が訪れ、それがやがて冷静な秩序に戻ってゆく

私は冷静な頭で精液を処理する
この精液は私の心の中の弱さの象徴でもある
自分の心の秩序を保つために、どうしても理性では持て余してしまった部分を、この潤滑油と一緒に私の外に流し出してしまうのだ
全てを自分で律する事が出来れば、こうして無理に自分の中の何かを流し出してしまう必要など無いのに

私の心の中の弱い部分が子孫を生むというのも、滑稽な比喩ではある
どうせなら、私は私の強い部分を受け継いだ子孫が欲しい
私の脳と心臓から抽出した熱い思いを、断腸の思いで排出し、そこから子孫が生まれて欲しい
しかし現実は違う、私の性器はこんなにも弱々しく、私の精液はこんなにもだらしがない

射精に快楽というオマケを付ける事で、人類が繁栄する事が出来ているなら、私はそんなオマケに釣られて人類の繁栄に貢献したくはない
そして私はそんなちっぽけなプライドの為に、また今度も、オナニーをするのだ
射精社会反対!と唱えながら

             ―――B-2 シルバーフォックス





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