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★その131

「開けられそう?」
「少し待ってください。」
目的地に到着した俺たちは物資搬入口から工場内部への侵入を試みていた。

不路夢市郊外に位置する古いMT工場。
完全にオートメーション化されていて、人の出入りが殆んど無いようだ。
ネストにとっては都合のいい場所だな。

企業も自分の所有物がネストの根城になっている事に気付けないでいるんだから
まさしく灯台下暗しというやつだろう。
「開きます。」

ゴウン―ゴウン―ゴウン―ゴウン―

恐るべし管理者パワー。アイビスは簡単に入り口をハッキングして開けてしまった。
「流石だな。」
「私がいなかったらどうするつもりだったのですか?」
「壊して入るかな。」

「潜入するのではなかったのですか?」
「返す言葉もございません。」
「帰ったら反省会です。」
トホホ…

工場の中は生産ラインが止まっているらしく物音が一切しない。
装飾の全く無い灰色の壁が続いていて、酷く不気味だ。
さて、ここからどうするか…

「ここの設計図をダウンロードして内部構造を確認していたのですが
 一箇所だけ不自然な場所があります。」
「どこ?」
「奥の中央部です。見てください。」

アイビスがディスプレイの端に3Dマップを表示してマーカーを打ってくれた。
「ここにだけ用途不明の無駄な空間があります。」
「怪しいな。そこを目指してみようか。」
「はい。」

 ・
 ・
 ・

「静かだ、静かすぎる。」
工場内をかなり進んだのに警備メカが現れるどころか、警報ひとつ鳴らないなんて。
どうなっているんだ?無防備すぎやしないか?

シャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン…

「近づいて来る…何の音だ?」

シャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン…
ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン…
ャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン…

「熱源を感知。数は5―10―15―――30―――――」

ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン…
ャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン…
ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン…
ャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン…
ン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン…
シャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン…
ン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン…

「猶も増加中、50機以上のMTに囲まれています。」
一体何機いるんだ?レーダーが赤い点で埋め尽くされていくぞ。
点と点が重なって赤い絨毯を形成し始めている。
退路を断って数で圧し殺すつもりのようだ。

「恐らくここで製造しているMTでしょう。全て重鈍な逆関節タイプです。」
「切りが無さそうだな。」
「突破しましょう。弾薬は出来るだけ抑えてください。」
「了解。」

いくぞ―――――

月光からブレード光波を繰り出し、それを追いかける形でMT集団に突っ込む。
光波は手前のMT4機を斬り裂いて消滅した。
一点突破―――――薄くなった包囲網目掛けてグレネードを2発同時に撃ち込み
更に加速する。次で仕上げだ!

ズザァァァァァァァァァン

出力を強化された月光が最後の障害を薙ぎ払う。
青いエネルギー刃の長さはショートブレードの優に3倍。
もう前方にバスターランサーを阻むMTは存在しない。

遅い旋回を始めた残りのMTを尻目に、そのままOBを使って引き離す。
「よし…」
あの重鈍さではもう追って来れないだろう。

「お見事です。」
あの数のMTに突っ込んで、こちらの損傷は0.2%未満。
殆んど被弾していない。その上、消費したのはグレネード弾2発のみ。

「ふぅ…」
言うまでも無いと思うけどアイビスとバスターランサーによる所が大きい。
この組み合わせは恐るべき性能だな。自分でも驚くぐらいの動きができる。

「このまま一気に行きましょう。」
「ああ。」

★その132

あれから大した抵抗にも遭わず、目標ポイントに到着したのだが…
特に怪しげな物は見当たらないぞ。
「何もないな。」

「逆です。設計図上には無い物が実際にはあります。」
「えっ、どれ?」
「この円柱状の構造物です。」

アイビスが指差したのは壁に半分めり込んだ巨大な柱のような物。
「言われてみれば。」
確かに設計図上には存在しない物だ。ということは…

「中は空洞になっているようです。」
「もう少し調べられそう?」
「やってみます。」

 ・
 ・

ウィーーーーン

まさしくビンゴだった。円柱の一部に隠し扉があり、中がエレベーターになっている。
これを使って下に行けそうだ。工場の地下が奴の本当の領域なのだろう。
「いくよ…」
「はい。」

エレベーターに乗っている間に呼吸を整えよう。
敵の本拠地で戦うのがこれほど神経を磨り減らすモノだったとは…
きっついな~この先は高確率でナインボールが出てくるってのに。

「外部からのジャミングを受けています。レーダーと通信の機能低下。」
「そろそろ終点か…?」
ネストは待ち構えている、確実に。

「お前たちは何故現れる。」
この声はラナ・ニールセン!?
「何故、邪魔をする。」
間違いない、奴の声だ。
これでハッキリしたな、俺たちはネスト本体に近づいている。

―――ゴウン

エレベーターが止まった…最下層に着いたのか?
ここからが本当の勝負だな。
アイビスも乗っているんだ、気を引き締めろよ、洋平。

「「コジマ粒子、ネクスト、すべて不必要なもの。」」
今度はラナ・ニールセンと男の声が重なって聞こえる。
「「人類を再び管理する。それが私の使命。」」
これがネスト…

「「力を持ちすぎたもの。」」

ネストの声を聞き流しながらエレベーターを降りて奥に進んだ。
上の工場とは打って変わって細い通路とゲートが幾つも続いている。
もう引き返す事も不可能だろう。只ひたすら奥へ、奥へと。

「「秩序を破壊するもの。」」

「ふぅ…」
ようやく広い空間に出れたかと思ったらコレだ。
立ち塞がる2機の赤いAC―――俺の平和な学園生活を破壊した元凶。
「敵ACを確認しました。ナインボールです。」

「「プログラムには不要だ。」」

「ナインボールが2機…普通なら裸足で逃げ出すところだが…」
「いけます。」
ああ、そうだ!今の俺たちならいける!

★その133

2対1のこの状況。AC同士の戦いにおいて数が劣っているという事は
圧倒的な不利を意味する。前とは逆のパターンだ。
しかも相手はナインボール2機。さて、これをどう攻めるか…

あの武装を使わない手はないだろう。要は1対1に近い状況を作り出せばいい。
「アイビス、3基でいけるか?」
「十分です。」
彼女の返答を聞き、オービットキャノンを立て続けに3基射出した。

ポシュン、ポシュン、ポシュン

オービットキャノンは自動的に攻撃を仕掛ける小型兵器で
設置型と追尾型の2タイプが一般的。どちらもあまり精度はよろしくない。
オービットだけでACを抑えるには相当数が必要だろう。

しかし―――今射出したINW-OM-PRTはベアトリスの手によって遠隔操作型に
改造されている。ACの機体制御とビット操作を同時に行うのは通常無理だが
そこは複座のバスターランサーならでは。そしてこれを操るのはアイビス。
彼女はナインボール1機を抑えるのに3基のオービットで十分だと言ってみせた。

俺はアイビスの言葉に全幅の信頼を寄せOBを起動。
ビットが限界を迎える前に1機片付けてやろうじゃないか。
3基のオービットが右前方のナインボールに向かうのと同時に
左前方のナインボール目掛けて突進した。

「一気に行く…」
遠距離からナインボールの真正面に向かって光波を飛ばし
間髪入れず奴の左右に向けてグレネードを2発同時に撃ち込む。
グレネード、光波、グレネードによる面の攻撃。

地上に逃げ場を失ったナインボール急上昇して全ての攻撃を回避する。
流石だな、でも反撃の暇など与えない。このまま終わらせる。

通常のACでは詰められない距離、射程外。
だがバスターランサーにとってはこの距離、射程内。
追加ブースターを使って一瞬で目標に肉薄する。

超至近距離から放たれたフィンガーマシンガンが
ナインボールの装甲を抉り、奴の動きを封じた。
「このまま圧倒させてもらう!」
限界までエネルギーを送り込まれた月光が最大出力でナインボールの胴を薙ぐ。

ズザァァァァァァァァァン

赤い悪魔は空中で胴体を分断され、地上に落ちて炎上した。
「敵ACを撃破。」
大火力と高機動による完全なゴリ押し戦法。
これが破壊を突き詰めたバスターランサーの戦い方。

「あと1機…」

バスターランサーも地上に降り、もう1機のナインボールに向き直る。
「オービット限界です。」
アイビスがそう告げた刹那、3基の小型兵器は限界を迎え爆発した。

「本当にしっかりと抑えててくれたんだな。」
「当然です。」
ナインボール相手に俺たちはまだ軽口を交わす余裕がある。
「もう1機もこの調子で―――」

チリリリリリ―ドカーン!

「なんだ!?」
別方向からの閃光がナインボールのコアを貫いた。
「味方…なのか?」
直撃を受けて半壊したナインボールを徹底的に打ちのめす突然の襲撃者。

襲撃者はナインボールを完全に破壊し終えると
そのままこちらにも襲い掛かってきた。
「くそっ…おかまい無しかよ。」
「レールガンです、気をつけてください。」

チリリリリリ―ドカーン!

ターンブースターを使って機体の上体を逸らし、すんでのところで閃光を躱す。
「このAC…」
アセンが変わってる…でもこの動きは…間違いない。

「待て、ジナ!」

★その134

「この声…槍杉か?何故お前がここにいる。」
それを聞きたいのはこっちも同じなんだが。
「俺もジナと同じ考えで行動し、その結果ここに辿り着いたって事かな。」

お互いACの脚は止めた。しかし、得物は向け合ったまま
ロックオンは解除していない。ジナが何を考えているのかは分からないが
隙を見せたら撃たれそうな気がして、俺は銃口を下げることができないでいた。
バスターランサーに乗っているのが槍杉洋平だと知って猶
ジナイーダは撃ってきそうな気がする。

「そのACは何だ?」
「父親の形見を基に作られたグローランサーの強化発展型。色々あってね。」
「フン…」

「そっちもファシネイターが随分変わってるみたいけど。」
「私も色々とな。」
久しぶりの再会だってのに…

「なあジナ、俺たちの目的は同じ筈だ。ここは共同戦線を張らないか?」
「断る。」
一応言ってみただけだが、やっぱりな…

「ナインボールは全て私が破壊する。お前は帰れ。」
「か、帰れって、ちょっと!」
「邪魔をするつもりなら、お前でも…」

「ヨウヘイさんに危害を加えるつもりでしたら
 ジナイーダ様と言えど、排除させていただきます。」
「お前は…あのメイドも乗っているのか。私を排除だと?」
「実力で排除です。」
「面白い…」

何だこの展開は!?
「ちょっ、ちょ、ちょ、ちょっとストップ。2人とも落ち着こう。」
どうして一触即発ムードがこんなにも加速しているんだ。

「らしくないよ、アイビス。」
「その…すみません…余計な事を言いました…」
別に怒ってるわけじゃないし、そんなにションボリしなくても。

只、ジナの性格上あれは逆効果なんだよ。火に油を注ぐようなものだ。
よく考えて言葉を選ばないと取り返しの付かない事になる。
彼女を説得するには…

「ジナ、聞いてくれ。」

 《ジノーヴィー先輩も俺たちが争う事を望まない。》
⇒《俺に無駄弾を使う必要はないだろ?》

「俺に無駄弾を使う必要はないだろ?
 この先がどうなってるか分からないんだ。弾薬は温存しておくべきじゃないか?」
「だからお前は帰れと言っている。」

「そうはいかない、俺にだって譲れないモノはある。」
「槍杉ッ…」
「こっちに攻撃の意志は無い。でも撃ってくるならファシネイターが
 弾切れを起こすまで、全力で逃げ回らせてもらう。俺の執念深さは知ってるだろ?」

「……………」
「後に残るのは、弾薬が底をついたファシネイターと
 満身創痍のバスターランサーだけだ。最悪の展開だと思わないか?」

「……………」
「ジナ、頼む。」
ここで俺たちが争う事に何の意味も無いんだ、分かってくれ。

「…私の負けだ。」
分かってくれたか!

「じゃあ―――」
「だがお前と馴れ合うつもりは無い。」
「えっ?」

「私は右のゲートを進む、お前は左のゲートを進め。別行動だ。」

★その135

「これでよかったのですか?」
「仕方ないよ。あれ以上粘っても無駄だろうからね。」
ジナから別行動以上の譲歩を引き出すのは多分無理だ。
あまりゴチャゴチャ言うと本気で襲い掛かってきそうだったし。

「あいつのことだから万が一は無いと思うけど…」
ジャミングのせいで遠距離通信を使えないのが辛いな。
何度か試したが、ジナとの通信はもう繋がらなかった。
お互いの状況を全く確認できない。無茶だけはするなよ、ジナ。

「彼女のことが心配ですか?」
「少しね…まあ俺が心配する必要は無いと思う。
 パッと見だけどファシネイターをかなり強化してあるみたいだっから。
 それにジナの技量は半端じゃない。」

「……………」
「強いだけの奴なら色々いるけど、あいつは何処か違う。
 上手く言えないんだけど他の奴らとは違うんだ。簡単にはやられないさ。」

「自分に危害を加えようとした相手の事を、随分嬉しそうに話すのですね。」
「ひょっとして妬いてる?」

「ち、違います!私は…その…」
「冗談だよ、冗談。」

「すごく意地が悪いです…」

★その136

俺たちは不気味な地下通路をひたすら奥へと進んだ。
途中でナインボールの生産プラントと思しき物や
起動前のナインボールを相当数発見。それらを可能な限り破壊して回った。

「「修正プログラム。」」

人類を再び管理するなんて馬鹿な話だと思っていたが
ネストはこれだけの戦力を実際に整えていた。
馬鹿な話を実現可能な程の戦力を…

「「最終レベル。」」

奥へ進み続けて行き当たったのは、またもエレベーター。
丸い台座だけが動くシンプルな造りの物だ。
下行きか…ここより更に下層が存在するらしい。
何だろう、嫌な予感がする。少し躊躇いながらエレベーターに乗り込んだ。

「「全システムチェック終了。」」

「震えていますよ、怖いのですか?」
「正直に言うと…少しね…」
「あなたは私が守ります。必ず…」
「アイビス…俺は…」

「「戦闘モード起動。」」

「うおっ!?」
突然エレベーターの台座が自壊して、バスタ-ランサーは空中に放り出された。
ブーストを吹かしてなんとか軟着陸。
ここは―――辺りは薄暗く、何も無い空間が広がっている。

「「ターゲット確認。」」

目の前には圧倒的な存在感を…いや、威圧感を放つナインボールが1機。
サイズが通常のACよりも一回り大きい。しかも何だ?
背中に巨大な羽のような物が付いている…フライトユニット?

「セラフです。気をつけてください。」
「知ってるのか?」
「ナインボールでは対応し切れない事態を想定し
 対イレギュラー戦闘を目的に開発された特殊兵器。ネストの切り札です。」
「なるほど…」
ナインボールの親玉ってわけだ。

「「排除開始。」」

セラフは巨体に似合わぬスピードで間合いを詰め、光波を放ってきた。
相殺を狙ってバスターランサーも光波を放つが―――
こちらの光波が打ち負け、押し切られてしまう。

ブレード出力が圧倒的に負けてる!?
「ちぃ…」
ターンブースターを使ってギリギリのところで光波を躱す。

「消えた!?」
やばい…光波に一瞬気を取られてセラフを見失った。
「後ろです!」

慌てて再補足したセラフは形状が変わっていた―――人型から飛行形態へ。
「変形だと!?」
有り得ないスピードで飛び回りやがって。
あの巨大なフライトユニットは伊達じゃないと言うことか。

距離を離され、上空からミサイルで一方的な攻撃を仕掛けられる。
指マシでミサイルを迎撃するが、後手後手に回って防戦一方になってしまう。
あのスピードで縦横無尽に飛び回られると
グレネードは当たりそうにないし、オービットは追従できない。

地上に降りて人型に戻ればスピードは落ちるが、火力が増す。
ブレード、光波、チェーンガン、パルスキャノン、一体どうなっていやがる。
どれも凄まじい威力で隙が無い。まともに撃ち合うのは無謀か…
まるでネクストを相手に戦っているようだ。

「くそッ…」
徐々にバスターランサーにダメージが蓄積されていく。
俺の集中力にも限界があるし、長引けば不利か…
それに出し惜しみをしていて終わったら元も子もない。

「アイビス、リミッターを外すぞ。」
「悪くない判断ですが、解除限界に気をつけてください。
 倒しきれなかったら只の的になってしまいます。」

「ああ、一気に勝負をかけるッ…」

★その137

誤作動防止のロックを解き、リミッター解除の赤いボタンを力いっぱい押し込む。
けたたましい警告音が鳴り響き、それと同時にジェネレーターから
使い切れないほどのエネルギー供給が始まった。

リミッター解除と言っても機体性能が上がるわけじゃない。
EN消費を気にせずに戦えるだけだ。しかし―――バスターランサーの
エクステンションに装備されたターンブースターは稼動領域を拡張され
マルチブースター、バックブースターとしても使えるようになっており
若干ながらリロードも短くなっている。

つまりEN消費を無視できるなら、OBで加速したまま
ターンブースターで軌道を変えたり、速度を更に上乗せできるって事だ。
これなら飛行形態のセラフにも追い付ける―――いや、追い抜ける。

どうせエネルギーは余ってるんだ。
「アイビス、あれを頼む。」
「了解です。出力はこちらで安定させます。」

ブゥゥゥン

月光からエネルギー刃を発生させ、その刃を”出っ放し”の状態で固定。
ブレードにENを供給し続けるという通常で不可能な技だが
リミッターを解除した今となってはそれも可能だ。
これで月光を盾としても使える。

準備は整った…一撃に全てを賭ける。
「いくよ…」
「はい。」

OBを起動させ、飛行形態のセラフ目掛けて突進した。
ミサイルによる迎撃を月光で薙ぎ払いながらターンブースターを使って更に加速。
多少の被弾は完全に無視してどんどんスピードを上げ続ける。

エクレール流のジグザグな軌道で徐々にセラフを追い込んで行く。
追いかけっこの優劣が逆転したと判断したセラフは人型に変形、ここからが勝負だ。

「うぉぉりゃぁぁぁぁ!」
一瞬の隙を突いてセラフの懐に飛び込む―――間合いは詰まった。
ブレードの届く距離、即ち迎撃を回避出来ない距離。
回避不能の距離から放たれたチェーンガンを俺は右腕を犠牲にしてなんとか耐える。
「右腕部破損。」
構うもんか、もう少しだけ動けばいい。

本命の月光で狙うのはセラフ胴体の一番細い部分。
恐らく、変形機構を備える上で発生してしまった装甲の薄い箇所。
奴の唯一の弱点だろう。
絶対に外せない一撃、更に深く踏み込んで月光を振る。

ジジジジジジ――

奴の胴体を斬り裂く筈だった月光は別の光によって受け止められてしまう。
「ちぃ…」
ブレードをブレードで止められた!?

ジジジジジジ――

出力勝負じゃ分が悪い、そのままジリジリと押し切られそうだ。
「アイビスッ!」
名前を呼ぶだけで彼女は俺の意図に汲んでくれる。
余剰エネルギーの全てを月光に回せば―――

ズザァァァァァァァァァン

ほんの一瞬だけ月光のエネルギー刃は通常の2倍近い長さと太さになり
セラフのブレードを押し切って奴の左腕ごと胴体を両断した。

「やりましたね、ヨウヘイさん。」
「ああ…」
胴体を両断されたセラフは炎に包まれ、徐々にその形を崩してゆく。

ボォン!

「うお!?」
「左腕部破損。少し無茶をしすぎました。」
月光が想定以上の負荷に耐え切れず爆発したらしい。ああ、貴重な月光が…

「解除限界きます。しばらくはエネルギー供給が断たれるので注意してください。」
「こっちもギリギリだったな。」
両腕を失った上、しばらくはチャージングが続く。
どこかに隠れてEN回復を待つのが――――

「熱源急速接近。これは…」
目の前に現れたそいつは飛行形態から人型へ変形。
「嘘だろ…」
2機目のセラフだと!?

指マシも月光も失って、おまけにブーストが使えないんだぞ。ど、ど、ど、どうする?
バスターランサーを捨てて逃げるか?どこに逃げるんだよ、敵の本拠地だぞ?
せめてアイビスだけでも、だがどうやって逃がす?

セラフはこっちの事情などお構い無しに襲い掛かってくる。
歩行とジャンプだけで距離を離そうと必死に足掻くが
差は見る見るうちに縮まり、奴がブレードを振りかぶった。
「アイビス、ごめん…」
「……………」

ガシャーーーン!

奴のブレードがバスターランサーを捉える寸前
黒い影が現れてセラフに体当たりを食らわせた。
俺たちの危機を救ったのは―――

「黒い、セラフ…?」
羽のような背部のユニット、ACより一回り大きいサイズ。
細部は異なっているが、セラフに似ている部分が多い。味方なのか?

「間に合いました。」
「えっ?」
「ハッチを開けます、すぐに閉めてください。」

「アイビス?」
言うが早いかバスターランサーのコックピットハッチは開かれ
彼女は黒いセラフに飛び移った。言葉の通り一足飛びで飛び移った。

「一体どうなってるんだ!?」
呆気に取られている場合じゃない。慌ててハッチを閉める。
「あれはアイビスが呼び寄せたのか…?」
「昔、使ったI-CFFF-SERREを再現した機体です。」
俺の独り言に対して通信が返ってきた。

「よく分からんが助かったよ、アイビス。」
「あなたは私が守ると約束した筈です。」
女の子に守ってもらうなんてかっこ悪いな…普通は逆だろ?
でも、贅沢は言っていられないか。

「「管理者が何故邪魔をする。」」
「私は彼のパートナーとして此処にいます。」
「「何を言っている。」」

「あなたには理解出来ないでしょう。」

★その138

対峙する赤と黒の機動兵器。
アイビスが呼び寄せた黒いやつ、あれでセラフに対抗できるのか?
姿形は似ているが…

「この先にネストの本体がある可能性が高いです。」
最高戦力のセラフを2機も投入。恐らく”当たり”を引いたのは俺たちの方だ。
「ここは私に任せて行って下さい。」
「なッ!?まだ砲台ぐらいにはなれる。」

「セラフ相手に砲台は役に立ちません。」
それはそうかもしれないが、だからと言って。
「アイビスを残しては…」

「司令塔たるネスト本体を失えばセラフや他のナインボールも止まります。」
「でも…」
「このままヨウヘイさんが残っても共倒れの可能性が上がるだけです。」
エネルギー切れで殆んど動けないバスターランサーを庇いながら戦うが
ハンデになるのは分かる、でも…

「私を信じて行って下さい。」
あああ、くそッ!
「ネストを潰して直ぐに戻る。絶対に無茶はするなよ!」
「了解です。無茶はしません、時間を稼ぐだけです。」

アイビスがセラフに目掛けて突進―――俺はゲートに向かった…

★その139

遅い、遅い、遅い、遅い、遅い、遅い、遅い、遅い、遅い、遅い!
ACの歩行速度がこんなにも遅いなんて。
「遅すぎる…」

チャージングはいつまで続くんだ?長すぎるぞ。
一刻も早く、一秒でも早く行かなきゃいけないんだ。
さっさと回復してブーストを使わせろ!

ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン…

「最悪だ…」
俺の焦りを嘲笑うかのように行き当たったのは縦長の空間。
上に何かありそうなのに、ブースト無しじゃ登れない。

「「無駄なことはやめろ。」」
「うるせぇ、黙れ!」
「「反抗しても、もはや無意味だ。」」
レーダーに熱源!?
「上か!」

「「お前たちの運命はもう決まっている。」」
最悪だ、熱源の正体はナインボール。上から降下してくるのがハッキリと見える。
セラフじゃないだけマシだが、ブーストを使えない状態じゃ辛すぎる…
頭にのぼった血が一瞬で下がった。

「逃げ回ってる暇なんて無いのに…」
後退するしかないのかよ。

ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン…

「まずい…」
ナインボールが近づいてくる。奴のブースト音が聞こえ始めた。
どんどん距離が近づいてる。追いつかれるぅ!
まだエネルギーが回復しないのか?早く、早く、早く、早くしろー!

キュィィィィィィ

「エネルギーが戻った!!」

プシューン!

ターンブースターを使って180°旋回、追っ手の方に向き直る。
俺たちが対面したのはAC1機がギリギリ通れるサイズの横長の通路。
お互いに逃げ場は無い。

こう狭いとオービットは使えない。となると、残りはグレネード2本だけか…
ここなら奴でも容易には躱せまい。アイビスのサポートが無くともいける。
チンタラ撃ち合ってる時間はない。それなら、突っ込むしかないだろ!

グレネードの砲身を2本同時展開。交互に撃ちながら
ナインボール目掛けてOBで突撃を仕掛ける。
お互いの砲弾が中央で衝突して爆炎を巻き起こす。

俺はダメージ覚悟で爆炎を突っ切り、ナインボールとの間合いを更に詰めた。
もうグレネードを撃てば自分も爆発に巻き込まれる距離、お互いに撃てない。
奴の左腕にはブレードがあるが、こっちは両腕を失った状態だ。

今のバスターランサーには格闘戦ができる武器は残っていない。
格闘戦の距離は圧倒的に不利。
だがしかし、格闘戦に”使えそうな部位”が残っているじゃないか!

それは膝―――

振り下ろされたブレードの根元を右の膝蹴りで砕き
「潰れろー!」
左の膝でナインボールのコアをぶち抜いた。
OBの勢いを殺さず、その速度を破壊力として。

ボッコーン!

「うわぁぁぁぁ!」
ナインボールのコアに深く突き刺さった膝は簡単には抜けず
奴と縺れ合ったままバスターランサーは転がる。

ゴロゴロゴロゴロ―――――ガッシャーン!

「いってぇ…」
まるでシェイカーに入れて掻き混ぜられた気分だ。
壁にぶつかってやっと止まったか。

「や、奴は!?」
目の前にある赤いの頭部に一瞬ギョッとしたが
カメラアイから完全に光が消えている。

「ふぅ…」
どうやら仕留めきれたみたいだ。
ナインボールも飛び膝蹴りしてくるACは想定外だったろう。

奴のコアから無理やり膝を引き抜く。
「くそっ…バランスが取りづらい。」
一応動くには動くけど、膝のフレームがかなり歪んでしまったみたいだ。

ボロボロになったバスターランサーの膝を改めて見る。
「MLM-MX/066だっけ。やたらと尖ってるな。」
これはもう凶器の領域だろう。何でこんなに尖ってるのかは知らないが
使える物は最大限に活かさなきゃな。ナイスチョイスだよ、ベアトリス。

「よし…」
上に行くぞ。恐らくそこにネスト本体がある…

★その140

上へ、上へ、上へ―――――

「「帰れ…今ならまだ間に合う…」」

間に合う?何の話だ?

「「…何が望みなのだ、お前は。」」

ネストが焦っている。この先に本体があるのは間違い無い。

「「…それ以上、近づくな。」」

「見つけたぞ…」

縦長空間の終着地点。そこにある超巨大コンピュータ。
一目見ただけでそれと分かるが、周りに防衛機構のような物は一切無い。
あまりにも無防備だ。
「これがネスト本体…」

グレネードの砲身をネスト本体に向け、狙いを定める。
動くことも出来ない只の大きな的。外し様がない。
「これで全て終わる…」

「「待て。」」
命乞いか?そんな物が通用すると思って―――

ピッ、ピッ、ピッ、ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ
ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ
ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ…

「な、なんだ?」
空中にホログラム映像が次々と映し出されて行く。
「「これを見ろ。」」

「これは…」





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