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★その127

午前2時ジャスト。みんなが寝静まったのを見計らってべッドから抜け出した。
物音を立てないように、慎重に玄関に向かう。
抜き足、差し足、忍び足。

「ふぅ…」
無事玄関に到着。誰も目を覚ました様子は無い。
セレン姉さん達に見つかると厄介だからな、第一段階成功だ。

改めて見る我が家は何故か感慨深かった。
別にこれっきりという訳でも、つもり無いが感慨深かった。
必ず戻るつもりだが…もしも、もしも戻れなかった場合の事も一応考えてある。

朝までに俺が戻らなかったら、ネストの所在地と事態の概要が
学園長に届くよう端末をセットしてある。
ついでに秘蔵のAV(アクアビットじゃないぞ。)や
見つかると恥ずかしい物は泣く泣く全て処分した。
万が一の場合もこれで安心だろう。

さて、第二段階。ACを取りに学園に行くか。
午前中に手筈は済ませてある。セキュリティにちょっと細工をさせてもらった。
誰にも見つからずにグローランサーを持ち出せる筈だ。

「いってきます…」
小声でそう言いながら踏み出そうとした俺の目に不審なモノが映った。
家の前に見慣れない大型車両が停まっている。

ピカッ

「うおっ、眩しい。」
大型車両からのハイビームで前が見えない。
ラナ・ニールセンの事があってから身の回りには注意していたが
まさか、刺客が俺を殺しに来た!?片手で光を遮りながら身構える。
こんな所で殺されてたまるかよ!

「1人で行くつもりか?」
「えっ?」
この声…家で寝ていた筈じゃなかったのか?
光の中から現れたのはセレン姉さんだった。

「な、何の事?夜の散歩だよ。」
「お前は馬鹿が付くほど分かりやすい。」
結構慎重に行動していたつもりなんだけどな…バレバレですか。

「止めても無駄だよ。今回ばかりは譲れない、譲れないんだ。」
「お前が決めた事だ、とやかく言う気はない。
 だが万全の状態で送り出してやりたいじゃないか―――――これを使え。」

バサッ

大型車両の荷台を覆うカバーシート。それが取り払われ、中から出てきた物は。
「AC!?」
青い二脚ACが横たわっていた。

「これは…」
「父さんの使っていたACを改修した物だ。
 お前がレイヴン科に転科を決めた時からこつこつとな。
 グローランサーを手に入れた時点で迷ったが
 2機あっても困るものでもないと思って完成させた。」

「それにこの『バスターランサー』はアタシが考えたスペシャルなのよ!」
「ベ、ベアトリス!?」
「ありがたく使いなさいよね!」

「ヨウヘイさん、この子を使ってください。」
「アイビス、君まで…」
続々と集まる槍杉家の面々。

なんだよ…みんなして…俺に秘密で…
こんなの…作ってたのかよ…ちくしょう…

「ありがとう…」

★その128

バスターランサーのハッチを開くと懐かしい匂いがした。
このコックピットを俺は知っている、乗った事がある。
「父さん…」

「もう少し詰めてください。」
「な、なにしてるんですか、アイビスさん?」
いつの間にか黒いパイロットスーツに着替えた彼女が
只でさえ狭いコックピットを更に狭くしようとしていた。

「サブパイロットとしてバックアップします。お手伝いさせてください。」
「駄目、絶対駄目ッ!連れて行けるわけないだろッ!」
なにを言い出すんだよ、もう…

「私ならこの子の力をスペック値の150%まで引き上げることができます。」
「それは凄いな―――ってか、そういう問題じゃないッ!」
「駄目ですか?」
「駄目に決まってるだろッ!」

「連れて行ってあげなさいよ。」
ベアトリスまでバスターランサーによじ登ってきた。
「まさかお前まで一緒に乗せろとか言い出さないだろうな?」

「それこそまさかよ。アタシはアーキテクト、仕事はもう殆んど終わってるわ。
 最後の仕事、バスターランサーの説明をしに来ただけよ。」
「説明はありがたいけど、アイビスを連れて行くは駄目!」

「死ぬつもりはないんでしょ?」
「当然だろ。」
「じゃあ問題無いわね。アイビスが付いていてくれた方がアタシも安心だし。」
「も、問題あるよ…」

「何があるのよ?」
「そ、それは…」
「少しでも死んでもいいなんて思ってるなら…行かせないから…」
そんな目で見ないでくれよ、ベアトリス~

「仕方がありません。奥の手を使わせていただきます。」
「な、なんだよ?」
アイビスが奥の手?分からん…どうするつもりだ?

「いつか言ってくれましたよね。私の願いをひとつ聞いてくれると。
 その願いを今使います。私を連れて行ってください。」
「なッ!?あれはそういうのじゃなくて…もっとこう…」

「酷いです。約束を違えるのですか?」
「うっ…」
「違えるのですか?」
「ううっ…」
あんな約束しなけりゃよかった。

「はい、決まりね。」
「ちょ、ちょっと待てよ。」
「兄さん、後ろに付いてるハーネスでアイビスの身体を固定してあげて。」
「俺はまだ…」

「さっさとやる!」
「は、はい!」
なんでこうなるかな…

2人分のシートを収めるスペースはコックピットにはない。
それでハーネスか。こんな物を事前に付けてあるなんて…
アイビスは初めからそのつもりだったな。

「きゃっ…!」
「変な声出すなよ。」
「変なところを触らないでください…」
「ベ、ベルト締めてるんだから、しょうがないだろ!」

「2人とも、イチャつくのは後にしてくれないかしら?」
「「……………」」
まあ、その、なんだ…ノーコメントでお願いします。

「アイビス、バスターランサーの構成を画面に出して。」
「はい。」
アイビスは髪を掻き上げ、首の後ろの端子に黒いケーブルを繋いだ。
このケーブルを使ってACとコンタクトできるのか?

ピッ、ピピピピ…

ディスプレイにパーツ構成が上から表示されていく。
これがバスターランサー。

【BUSTER LANCER】

【HEAD】H11-QUEEN
【CORE】ZCX-F/ROOK
【ARMS】MAL-RE/REX
【LEGS】MLM-MX/066

【F.C.S.】MF04-COWRY
【GENERATOR】GBG-10000
【RADIATOR】RPS-MER/A3
【BOOSTER】CBT-FLEET

【EXTENSION】KEBT-TB-UN5(グローランサーと同じターンブースターだ。)
【INSIDE】INW-OM-PRT(珍しい、これはオービットだよな?)

【B.UNIT.R】WC-GN230(大型グレネードが2本、このスタイルは…)
【B.UNIT.L】WC-GN230 
【A.UNIT.R】WA-Finger(指マシの初期型じゃないか。)
【A.UNIT.L】LS-99-MOONLIGHT(伝説のイレギュラーナンバー、月光だと!?)

【O.PARTS】OP-INTENSIFY(なんだこれ?)

「凄い火力だな。でもこれ重量過多じゃないか?」
「スペシャルだって言ったでしょ。色々と弄ってあるのよ。」
「この子は特別です。」

かなりカスタマイズしてそうだな。とんでもないマシンな気がする…

★その129

「分かりやすいように簡単に説明するわよ。」
「頼む。」

「バスターランサーはグローランサーの強化発展型だと思って。」
「ほうほう。」
「特に武装は選りすぐりのパーツを集めたわ。攻撃は最大の防御でしょ?」
それで”バスター”か…

「兄さんのパーソナルデータや、よく使うモーションなんかも全部入れてあるから
 グローランサーに近い感覚で使える筈よ。」
「それは助かる。」

「エクステンションのターンブースターを見て。」
グローランサーと同じ物に見えるけど。
「何か違うのか?」

「稼動領域を拡張してマルチブースター、バックブースターとしても
 使えるようになってるの。これ苦労したんだから。」
「旋回だけじゃなく、任意方向への加速に使えるってこと?」
「そうよ。若干だけどリロードも短くなってるわ。」

クイックターンに続いてクイックブーストも搭載か、でも――
「これって制御が難しくないか?」
「大丈夫、細かい所はアイビスがサポートしてくれるから。」
「お任せください。」
参ったなこりゃ…

「もう1つだけ。コンソールの右端に赤いボタンがあるでしょ。」
「あ、ああ。」
取って付けたような赤いボタンがある。
2重のロック式で簡単には押せないようになってるけど…何のボタンだ?

「これを押すと機体のリミッターを解除できるの。」
「リミッター解除?解除するとどうなるんだ?」
「一定時間だけ桁違いのエネルギー供給を受けられるわ。」

「具体的に言うとどのぐらい?」
「そうね…フルブーストで月光をブンブン振り回しても使い切れないぐらい。」
どんな無茶をしてもエネルギー切れの心配は無くなるわけだ。

「でも解除限界を超えると、エネルギーが全く供給されない状態がしばらく続くから
 最後の手段だと思って。絶対に使いどころを間違えないでね。」
「了解した。」

「説明は以上。後は機種転換訓練を用意してあるからそれで慣れて。」
「いや、訓練はいい。少しでも早く行きたいんだ。」

「ダーメ!いきなり使いこなせる訳ないでしょ。
 それに街中をACでカッ飛ばして行くつもり?
 シティガードに追い掛け回されるわよ。」
「それは…」

「このまま目的地付近まで輸送車で運んでもらえばいいじゃない。
 その間に兄さんは機種転換訓練。これなら無駄がないでしょ?」
「あ、ああ…」

「アタシは前に乗ってるから、何かあったら通信で呼んで。アイビス、頼んだわよ。」
「はい、お任せください。」
これじゃどっちが兄貴か分からないな。

「ベアトリス…」
「なによ?改まっちゃって。」
「……………ありがとう。」
「べ、別にアタシはその…あの…せ、せっかく苦労して作ったんだから
 ちゃんと使いこなしてみせてよね!」

「ベアトリス様!慌てて降りようとしては危ないです。」
「落っこちるなよ~」
「ア、アタシはそんなにドジじゃないわ!」
しっかりしていても、やっぱり可愛い妹である。

「ベアトリス様は照れた顔も素敵ですね。」
「前々から思ってたんだが、アイビスってベアトリス萌えだよな。」
ちょっと複雑な心境…

「萌え?ベアトリス様の芽が出る?どういう意味ですか?」
「帰ったらその辺りをじっくりと話し合おう。ハッチ閉めるぞ。」
「??」

ウィーーーン、ガシュ

やっぱり閉めきると圧迫感が凄いな。コックピットに2人はギリギリだ。
「そっちは大丈夫?」
「問題ありません。」

「洋平、出すぞ。」
「よろしく、姉さん。」
輸送車がゆっくりと動き始めた。

「さてと、俺たちも始めよう。」
「はい、シミュレーターモードを起動します。」

 ・
 ・
 ・

「ふぅ…こんなところか。」
予想通り、とんでもないポテンシャルだなこいつは。
グローランサーの発展型だけあって扱いやすいし。

「アイビスはどう思う?」
「私が想定する以上に動けていました。これならナインボールにも対抗できます。」
「よし。」
みなぎってきたぜ!

「セレン様、この辺りで降ろしていただけますか?あまり近づきすぎるのも危険です。」
「そうか、分かった。」
輸送車をひと気の少ない場所で停めてもらい、バスターランサーを立ち上がらせる。

「セレン姉さん、ありがとう。」
「気にするな。だが行くからには勝利以外は有り得ないと思え。
 ………全部終わらせてこい。」
「うん。」

「アイビス、洋平を頼んだぞ。」
「はい。」
「槍杉を敵に回したこと、後悔させてやれ。」
「了解。」

さあ、行くぞ…
「アイビス、やってくれ。」
「メインシステム 戦闘モード 起動します。」

★その130

闇夜を駆ける。

重武装にも関わらず機体は軽い。ブーストは殆んど息継ぎを必要とせず
ACを手足の延長の様に感じる。人機一体という言葉が脳裏に浮んだ。

アイビスが俺とバスターランサーの橋渡しになってくれているのだろう。
何も言わなくても俺に合わせてくれる。思い描いた以上の動きができる。

「いい感じだな。」
「はい。……………あの、少しいいですか?」
「なに?」

「あなたに聞いてもらいたい事があります。」
「こんな時に?」
「こんな時だからこそです…」

彼女の口から語られたのは、自分がかつて管理者と呼ばれていた存在である事と
その役目を終えた後の事だった。

正直あまり驚きはしなかった。アイビスが只のメイドロイドじゃないのは
薄々気付いていたしな。今さら大した問題じゃない。
些細な事さ、姉さんやベアトリスもきっとそう言うだろう。

それよりも彼女が話してくれた事が嬉しかった。

「俺も君に聞いてもらいたい事があるんだ。」
「なんですか?」
「好きだよ、アイビス。」

あいにくアイビスは後ろにいるので、彼女が今どんな顔をしているのか
俺には分からない。いつもの様に仏頂面のままかもしれないし
少しは顔を赤らめてくれているかもしれない。

彼女は「はい。」と答えて「私もです。」と続けてくれたのだから。




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