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★その122

随分と時間を無駄にしてしまった…

腐って、腐って、腐って、腐り続けた。その腐敗を養分として憎悪が育った。
全てを憎んだ。ナインボールを、レオス・クラインを、そして自分自身を。

ある時、不意に冷静さを取り戻した。
何か特別な切っ掛けがあったわけじゃない。
不思議なもので、気が付いた時には冷静になっていた。

そう、今は冷静だ。どうすれば全てのナインボールを倒せるのか、冷静に考えている。

どうやら赤い悪魔は2機以上存在するらしい。
ナインボールはAC学園以外にも企業や政府、果ては個人にまで攻撃を始めた。
同時刻、複数の離れた場所で奴が目撃されている。

狙いは何だ?

あれ以来、学園はナインボールによる襲撃を受けていない。
学園の信用を貶めるのが目的だったのか?
もしそうだとしたら、大成功だよ…
教室は空席だらけになり、活気を失ったのだから。

レオス・クラインに続いてラナ・ニールセン、セレ・クロワールの2人が
突然姿を消した。3人とも俺の知っている教師だ。
3人がナインボールに関与していたという見方が強く
重要参考人として指名手配されている。
これが追い討ちとなり、学園の信用は地に落ち、多くの生徒が学園を去ってしまった。

ジナも学園を去り、消息不明。しかし彼女は他の生徒たちとは違う。
何を考えているかは分かっている。大方俺と同じだろう…
ナインボールの殲滅。その為にジナはファシネイターを持ち出している。

俺も彼女のように正面からナインボールに挑みたい。
しかし、その力が俺には無い…返り討ちに遭うのが関の山だろう。
分かっているんだ、自分が非力である事は分かっている…

そこで俺は考えを巡らせた。直接は無理でも、間接的にならダメージを与えられる。
ACは魔法の兵器じゃない、運用するには設備が必要不可欠。
数が多いとなれば、それなりの拠点が必ずある。
拠点を失えば、どれほど強かろうと必ず追い込まれ…最後には死ぬ。

―――――ナインボールたちの拠点を潰す。

この考えに至ったまではよかったが、困った事に奴らの拠点はどこにあるのか?
追跡は必ず躱され、大企業が血眼になっても見つけられていない。
一学生でしかない俺が企業を出し抜き見つけられる筈もなく
八方塞がりとも思えるこの状況。

しかし、よく考えてみて欲しい。情報が集まる場所に心当たりがないか?
堅気じゃない連中が集まる、とびきり怪しげな場所。
店のルールを破る事になるが…

俺はBARテックスで情報収集をしている。

★その123

マスターには申し訳ないと思いながらも、今日で7日目。
業務そっちのけで聞き耳を立てていた。

予想通りと言うか、期待通りと言うか、BARテックスの客層はAC関係の人が多い。
傭兵が6割近くを占めているのではないだろうか?
今まで話しかけられた時以外はなるべく聞かないように努めてたけど、これ程とは…

俺はかなりアルコールが入っている2人組に目をつけた。
酔いどレイヴンというやつだ。
こういう手合が意外と有用な情報をポロッと落としてくれる。

「おい、ハッスルワンがやられたらしいぜ。」
「ハッスルワン?誰だっけ?」
「ナインボールに似せたエイトボールに乗ってるオッサンだよ。」
「ああ、ああ!あの偏屈なオッサンね。」

「こんな状況だろ?俺は大人しくしとけって言ったのによ。」
「死んだの?」
「しぶとく生きてる。例の紫色のACにボッコボコにされたらしい。」
「よく生きてたね~」

2人の会話に出てくる”紫色のAC”。
赤いACを専門に襲っている通り魔で、鬼神の如く強いそうだ。
ナインボールが現れた直後に姿を現した事から
奴を狙っているのではないかと以前から噂されている。

ジナが姿を消した時期と一致するが、彼女であるとは限らない。
紫色のACなんて星の数ほどいるんだ。
しかし…噂に聞く圧倒的な強さ、傍若無人さは俺にジナを連想させた。

この話をもう少し聞けないものかと、飲んだくレイヴンたちの方に意識を集中させる。
勿論手は動かして、いかにも仕事してますという風を装って。

「そういやどっかのアリーナで見たことがあるアセンだって言ってたな、オッサン…」
「前に暇な奴が調べて結論出てなかったっけ?あれだけ強くて特徴が一致するACは
 どのアリーナのデータベース探しても見つからないから、無所属の野良に違いない。
 まだまだ強い奴は隠れてる、世界は広いとかなんとか。」

紫色のACは仲介組織に所属していない…でもアリーナに出たことがある?
この条件ってスペシャルアリーナ、ジナにピッタリと当て嵌まらないか?
ジナとファシネイターである可能性が高い。
あいつ…手当たり次第に赤いACを潰して回ってるのか…

ポン

「ひぃぃ…!」
突然、後ろから肩を叩かれて心臓が止まりそうになった。
後方不注意だ、話に気を取られすぎたか…

「そんなに驚く事もなかろう。」
振り返るとやっぱりこの人、マスターだった。
「あ、あはは、すみません…」
コソコソ嗅ぎ回ってるのバレてる?マ、マズいぞ…

「偶には一緒に休憩でもどうだ?」
「あ、いえ、自分はまだまだ元気ですので…」
「まあそう言うな。ンジャムジ、後を頼む。」
「・・・」

ひぇぇ~強引に連れて行かれる~

★その124

事務所兼スタッフルームの中でマスターと2人きり。
普段は滅多にここの鍵を閉めないが、今日は閉められている。
俺が逃げられないように?考えすぎ…であって欲しい…

まだナインボールに関する情報を何ひとつ手に入れていないんだ。
今、クビになるわけにはいかない。
というか…BARテックスの実態を垣間見て、クビだけで済むのだろうか?
そんな疑問が俺の中で生まれていた。少し身の危険を感じる…

「最近はよく働くじゃないか。」
「ほ、欲しい物があるんです…」
俺が店のルールを破っている物理的な証拠があるわけもないので
取り敢えずとぼけてみた。

「ナインボールの情報か?」
「な、なんの事です…?」
ど真ん中を突いた剛速球に内心焦りながらもとぼけた。
この人はどこまで分かっているんだ?

「私が情報を提供してもいい。」
「ほ、本当ですか!?」
これが引っ掛けである事に気付いたのは、全力で餌に食い付いてしまった直後。
時既に遅し、やってしまった…

最早、言い逃れは不可能。ニヤリと笑うマスターとは対照的に俺の顔は強張った。
コンクリート詰めにされて海の底なんて事はないよな?
「あの…」

「裏切り者は粛正せねばならない。」
「あ、ああ…」
只ならぬ殺気に全身が震えた。身動きどころか声さえ上手く出せない。
蛇に睨まれた蛙とはこんな感じなのだろう。

「冗談だ。」
「ヘっ!?」
じょ、冗談?どういうこと?

「店のルールを破った事を責めるつもりはない。」
そう言ったマスターいつもの雰囲気に戻っていた。
こ、怖かった、本気で殺されるかと…

「その…すみませんでした…」
「構わんよ。それよりナインボールを探してどうするつもりだ?
 学友の弔い合戦でもしようというのかね?」

「死んだ人の為に出来る事なんてありませんよ…」
「それが分っていて尚、戦うのか?」
「はい。」

「思いの外、落ち着いているようだな。少し昔話をしようか。」
「昔話、ですか…?」

突然の提案に面食らったが、その昔話が重要な事だとマスターの目が言っていた。

★その125

「人類がまだ地下で暮らしていた頃の話だ。君も管理者の事は知っているだろう。」
「その名の通り、人類を管理していたスーパーコンピュータで
 暴走した為に破壊されたと授業で習いました。
 管理者の破壊を切っ掛けにして人類は地上に出たとも。」

「あれが暴走だったのかは定かではない。プログラムの内だった可能性もある。」
「そうなんですか…?」
「世間一般の常識が真実とは限らないものだ。」
確かにそう聞いたているだけで、俺には本当の所がどうなのか確かめようがない…

「ここからが本題だ。管理者は生活に溶け込み管理を行ったが
 それとは別のアプローチで人類を管理していたコンピュータがかつて存在した。
 言わばそう…裏の管理者なる物がね。」

裏の管理者だって?そんなの初めて聞くぞ…
「この事実を知る者は極僅かだ。勿論、教科書には載っていない。」
「それは一体…」
「ネストだよ。」

「ネスト!?レイヴンズ・ネストですか?」
「そうだ。ネストは地下世界のパワーバランスを密かに管理していた。
 過剰な力を持つ者を排除して、世界の均衡を保っていたんだよ。
 そしてその実働部隊こそがナインボール。」

―――――繋がった、ナインボールに繋がった。

「じゃあ、ナインボールは…」
「正体はAI操縦の無人兵器であり、厳密にはACですらない。」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!」

なんてこった…マジかよ…
ネストも管理者で、ナインボールがネスト製の無人機。
俺は矢継ぎ早に語れた事を整理して、質問をマスターにぶつけた。

「ネストはまだ生きているって事ですか?」
「私の知る限りでは管理者と同時期に破壊されている。
 しかし現状はどうだ?そう考えるのが妥当だろう。」

過去の亡霊が何を…?分からない。
「ネストは何をしようとしているんです?」
「私の推論でよければ聞かせよう。」
「お願いします。」

「端的に言うと、再び人類を管理しようとしているのかもしれん。」
地下世界という限られた空間であったからこそ出来たわけで―――
「そんな事、不可能なんじゃ…」

「確かにこのままでは難しい。だが昔と似た状況を作り出せば、或いは。」
「どういうことです?」
「リンクスが登場しても尚、レイヴンが活躍し続けているのは何故か?
 君も知っているだろう。」

急に話が飛んだような…でも答えは簡単だ。
「コジマ汚染の問題からネクストを運用できる場所は限られていて
 全企業で協定が結ばれているからですよね?
 リンクスは実際の戦闘よりも抑止力としての役目の方が大きい。」

「その通り、ネクストはコジマ汚染という欠陥を抱えた、諸刃の剣だ。
 しかしナインボールを止める事ができる程のレイヴン、そうは居ない。
 焦った企業は協定を破棄してネクストを使おうとしているのだ。
 不路夢市にネクストが配備されるのも時間の問題だろう。」

馬鹿な!?市街地でネクストを使うなんて…
「企業の連中は愚かだ。一度ネクストを使えば
 歯止めが利かなくなのは容易に想像できる。」
確かにネクストならナインボールを抑えられる筈だ。だが、問題はその後。

「ネストは地上を汚染させて、人類を地下に閉じ込めるつもりなんですか?」
「コジマ粒子は空気よりも重い。地下は使えないだろう。今度は別方向かもしれん。」
そう言いながらマスターは人差し指を上に向けた。
その指が指し示すのは上空か?宇宙か?どっちにしろ、そんなのって…

「狂ってる…」
管理する為に地上を汚染するなんて、狂ってる。

「狂っているのかもしれん。」
そこまで分かっていながら笑みを浮かべる程の余裕。
何でこの人はこんなにも余裕なんだ?

「私も店がコジマ臭くなるのは御免被りたい。酒が不味くなるからな。」
「そんな事を言ってる場合じゃないですよ!なんとかしないと。」
このままじゃ…

「その覚悟があるのなら、私は君に依頼したい。」
「依頼?」
「ネスト本体の破壊だ。」
なん…だって?

「ネストの場所が分かっているんですか!?」
「ああ。」
この時に俺が思ったのは、何故マスターが知っているんだろう?でも
この人は何者なんだろう?でもなかった。

「どうして俺に教えてくれるんですか?この情報を企業に高値で売る事もできる。」
「こんな冴えない店のオーナーが、そんな物を欲しがるとでも?」
俺が聞きたい事の答えになってない。
「どうして…俺に教えてくれるんですか…?」

「情けは人のためならず、廻り廻って我身に及ぶ。嶺文さんがよく言っていた。」
「………父の事を知っているんですか?」
「私がまだ駆け出しの頃に随分と世話になった。」
世話になったという事はマスターもレイヴン?

「アウトローを気取っていたが、その実は面倒見のいい人だった。
 強く優しい人だったよ。無節操に依頼を受ける彼の敵は多かったが
 味方はその何倍もいたものさ。私もその1人だ。」
「……………」

「傭兵は非情であるべきだと私は考えている。
 しかし嶺文さんの事を羨ましくも思っていた。私には到底マネできない。」
「……………」

「そんな彼も私が一人前になって借りを返す前に逝ってしまった…
 今でもそれが心残りだ。」
「マスター…」
「息子の君に危険な依頼をする事を彼は咎めるかもしれない。
 しかし、私は君の希望を尊重したい。君ならやれるかもしれん。」

          *

「ジャック・・・よかった・・・のか・・・?」
「大丈夫だ。」
「・・・」

「彼には女神がついている。心配ない。」

★その126

俺はネスト本体の所在が記されたメモ書きを受け取りBARテックスを出た。
軽い眩暈を感じる。あまりに急展開だったからな…
少し歩きながら考えを纏めようか。

「ふぅ……………」
考えるまでもないな。ナインボールの拠点どころか
その大本であるネストの場所が分かっているんだ。
単純明快、行って潰す。

問題はネスト本体まで辿り着けるかどうか?だな…
当然ナインボールによる迎撃が予想される。まともにやり合っても勝ち目は薄い。
潜入して本体だけを狙うのがベストか?

因みにメモ書きに記された場所には古いMT工場があるらしい。
マスターが知っているのはネストがその工場を隠れ蓑にしているという所までで
内部構造は全くの不明。

そこに単身乗り込もうとしているんだ。
作戦と呼べるのかも怪しい、酷く行き当たりばったりなモノになるだろう。
48点!も貰えないか…これじゃアイビスに叱られるな…

誰か仲間を連れて行けって?その提案は却下します。
無理は百も承知。でもこの無理を通さないと俺の気が済まないんだ。
それにもう仲間を失うのは嫌なんだよ…

後でこの事を知ったら神威とエクレールさん怒るだろうな~
ジナには半殺しにされるかも。
「ふふ……ははははははッ!」
死にに行くんじゃない。ネストを潰して必ず戻るさ。

「ご機嫌だな、槍杉洋平君。」
「なッ!?………ラナ・ニールセン!?」
指名手配犯が真正面から歩いてきやがった。
視界には入っていた筈なのに、あまりにも堂々と夜道を歩いているせいで
声を掛けられるまで全く気付かなかった。

「よくものこのことッ!」
「フッ…随分と嫌われてしまたな。」
「あんたがナインボールに関わっているのは明白なんだぞ!」
「それは誤解だ。」
何を白々しい…

「じゃあ何で姿を消した?」
「ナインボールに命を狙われているからさ。」
辻褄は合うけど…

「証拠がない。」
「私がナインボールに関わっている証拠も無い筈だ。」
ぐぅ…それは確かに…

「ナインボールに復讐したいのだろう?今のままでは到底無理だ。
 私が君を強くしてやる。」
「強…く…」
「そうだ。ナインボールを超えた存在になりたくはないか?
 さあ、私の手を取れ。」

差し出された手を――――――

⇒《掴む》
 《払い除ける》

「それでいい。君は――ぐっ…」
よっしゃあ!完全にキマッた!
「これは何の真似だ?」

今どんな状態になっているのか説明しよう。
俺は手を掴んだままラナ・ニールセンの背後に回り、関節をガッチリと固めている。
完全にキマッた状態だ、簡単には抜けられない。

「そんな胡散臭い話を信じるとでも?」
「案外利口なんだな。驚いたよ。」
どんだけ馬鹿だと思われているんだ…

「余裕ですね。ネストの事を全部話してもらいますよ。」
「どこまで知っている?」
「質問するのはあなたではなく俺です。」
「そうか…」

パシュン

「わっとと…」
ガッチリと固めていた筈のホールドからラナ・ニールセンが突如抜け出した。
俺の手には彼女の腕が丸々1本残っている。腕が千切れた!?

「い、いない…」
腕に気を取られている間にラナ・ニールセンは忽然と消えていた。
ちくしょう…迂闊だったな。ホールドから逃れる為に腕をパージしたのか。
あの女がアンドロイドである可能性を考慮していなかった。
ネストの正体を考えれば十分に有り得る事だったのに。

「ふぅ…」
まあ、過ぎてしまった事をクヨクヨしても仕方がない。
スペックの分からないアンドロイドを相手に命があっただけでも良しとしよう。

それよりも―――――出来るだけ早いほうがいいな。
直ぐにでもネストを潰しに行きたいが
グローランサーを使うには段取りが必要か…

「明日だ。」




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