★その84

『案の定、MNAからの抗議は却下されてしまいました。
 これで両陣営共に1勝1敗です。』
『面白くなってきましたね。』

『はい。ですが先程の試合はショッキングでした。あれが気絶したフリだったとすると
 試合前のパフォーマンスも相手を油断させる為の演出だったのでしょうか?』
『そこまで考えていたなら、神威選手の方が一枚上手だったという事になります。
 単純な戦闘力ではライオンハート選手の方が優れていましたが
 それだけで勝敗が決まる訳ではありません。戦場と同じですね。』

『手段を選ばない勝利への執念!最近の学生は凄い!わたしも見習いたいと思います。』
『まあ、かなりのギャンブルでしたが。』

『と、仰いますと?』
『相手が気絶したフリに気付いてくれなかった場合や
 気付いても攻撃を止めないという事態も十分考えられます。
 私なら自分の勝利が確定するまで、絶対に攻撃の手を休めたりしませんね。』

確かにそうだな。無抵抗のまま一方的にボコられて終了も有り得る。
「なあ神威、あの作戦に自信あったのか?」
俺はしてやったり顔でご機嫌な神威に訊かずにはいられなかった。

「勿の論なんだぜ、ヒャッハ~!」
妙に自信あり気な返答が返ってきた。
「そりゃまたどうして?」

「騎士様は正々堂々がお好きだって、ワイズリポートに書いてあっただろ?
 俺様はピーンときたのよ。こいつは優秀だが甘ちゃん!
 絶対に引っ掛かるってな、ヒャッハ~!」
賭けは賭けでも、それなりに公算があったわけだ。

「それにライオンちゃんと俺様の相性がよくなかったんだぜ?
 普通にやったって負けが見えてるなら
 試さなきゃ損ってモンよ、ヒャッハー!」

う~む、普通は思い付いても実行するのを自尊心が邪魔しそうだが…
神威は勝てば官軍って感じだしな。世間の風評や批判も全く気にしないだろう。
完全に負けそうだったんだ。そう、失敗してもこいつが失う物は何も無い。
大胆且つ合理的。驚いたな…意外と考えていやがる。

更に勝利の副産物として、俺たちのお通夜ムードを一変させた。
貴様にはプライドが無いのか!と、ジナは神威を責めている。
ジノーヴィー先輩が瞬殺されたショックから回復したようだ。
神威が回復させた?これも狙った…のか…

「勝ったからいいじゃねーか、ヒャッハー!」
自分に非難を集中させて、悪い流れを絶つ。
いやいやいやいや、そこまで出来る男じゃないだろ?偶々だよな…
「そろそろエクレールの試合が始まるんだぜ?応援しようぜ、ヒャッハー!」
まさかな…

『今大会も折り返し地点まで来てしまいました、中堅戦です。』
『早いものですね。』

『さあステージ上の2機のアセンを確認しておきましょう。
 エクレール選手のラファールは武器腕ブレードに、ロケット、ステルスという
 極端な組み合わせ。脚部はブレードを活かす為の軽二です。
 そういえばアンプさんのACも彼女と同じでエクレールという名前でしたよね?』
『はい、フランス語で稲妻という意味です。
 その名に恥じぬ活躍をしてもらいたいものですね。期待しましょう。』

『対するのはポーコ・ア・ポーコ選手のクロチェット。フロートタイプの脚部に
 マシンガン、ENシールド、背中にロケット、肩に追加装甲
 格納に小型マシンガンを隠しています。』
『機動力と防御力の両方に重点が置かれた、良いアセンですね。』

『アンプさんはこの試合をどう見ますか?』
『奇しくも剣対盾ですからね。なかなか興味深い。
 自機の特性を活かした方が、より勝利に近づく事になるでしょう。』
『なるほど。さあ、中堅戦が始まります。』

ピィ ピィ ピィ ビィーーーーーーーーー!

『両者、様子を見ながら動き回る!!』
ラファールは低いジャンプを繰り返しながら軽快に、クロチェットは滑るように。
時折、エクレールさんがブレード光波とロケットで牽制を仕掛けるが、躱される。
ポコポコもロケットを撃ち返すが、当たらない。お互いに射程外だ。

『エクレール選手が徐々に間合いを詰めているように見えます。』
『彼女が仕掛けますよ。』
この解説は預言者か?次の瞬間にラファールがステルスを展開して飛び込んだ。
『これはまさしく稲妻だあーーーーーーーー!』

さっきまでの軽快なステップとは違った鋭い突っ込み。しかも彼女のは一味違う。
どういう風に違うのかと言うと、俺みたいに正面から突っ込むだけじゃない。
OBを短く使って、予想もしない所から飛んでくる。
OBをQBのように使って、様々な角度から斬りかかって来るんだ。

エクレールさんにブレードの猛特訓をしてもらった俺が一番よく知っている。
初めて彼女と立ち合った時は驚いたよ。気付いた時には斬られているんだから。

『クロチェット、危なーーーい!』
ポコポコもさぞ驚いている事だろう。
間合いを詰められ、いきなり敵機が自機の右隣にワープしたように感じた筈だ。
エクレールさんの動きに対応出来ていない。
ラファールの斬撃がクロチェットを襲った。

ズザァァァン

おし~い!
吹き飛んだのはクロチェットの右肩にある追加装甲だけだった。
恐らく敵の主なダメージソース―――マシンガンを持つ右腕を狙ったのだろう。
あれさえ無くなればクロチェットの火力は恐ろしく下がるからな。

ポコポコは完全に意表を突かれていた。
防いだと言うより、偶然そうなったって感じだ。運のいい奴め。

『ポーコ選手、慌ててマシンガンを撃ちまくります!』
ステルスが効いているとはいえ、近すぎる。
マシンガンを数発貰うとエクレールさんは一気に後退した。
ラファールは紙装甲だからな、見事な引き際。

『クロチェットは………追撃できない!それどころか後退し始めました。
 逃げ腰のように見えます。』
よしッ!完全にエクレールさんのペースだ。
『果たして本当にそうでしょうか?よく見てください。』

んん?クロチェットは壁際にまで後退して、これって…
『防御の構えでしょうか?壁を背にしてENシールドを展開しています。
 これで後ろから来られる心配は無いですね。』
『後方だけではありません。彼が陣取っている場所をもっとよく見てください。』

『”角”ですね。』
『はい、アヴァロンアリーナは八角形の円柱に近い構造をしています。
 角度は浅いですがステージの外周には角があるんですよ。』
『ということは…左右もある程度は壁が守ってくれる?』
『ええ、正面は自前のENシールドがありますし、これは厄介ですよ。』

攻められる角度を減らして引き篭もりか、相手も考えたな。
ラファールの武装は主力のデュアルブレードと牽制用の小型ロケットだけ…
クソッ…イヤらしい戦法だが、上手い。

『エクレール選手、これは攻め辛い。距離を離してロケットと光波攻撃に切り替えた。
 ポーコ選手はシールドを構えたまま、我慢しています。』
『あまり大きく動くと、角から離れて地の利が薄くなってしまいますからね。
 多少のダメージ覚悟で、回避動作を最小限に抑えているのでしょう。』

じれったい攻防が長時間続き、とうとうエクレールさんのロケットが弾切れを起こした。
パシュンという乾いたパージ音が響く。クロチェットは今だ健在。

『アンプさん、エクレール選手は仕掛けるでしょうか?』
『仕掛けざるを得ないでしょうね。』
『遠距離からブレード光波で延々と攻撃するという手もあるのでは?』

『パイロットが生身という事を忘れていませんか?
 じっとシールドを構えながら攻撃しているポーコ選手と
 飛び回って避けながら攻撃しているエクレール選手では疲労の度合いが違います。』

『言われてみると、ラファールの動きが少し鈍くなってきたような。
 動きに切れが無くなってきましたか?ちょこちょこ被弾していますね。』
『彼女、相当疲れていますよ。』
頑張ってくれ、エクレールさん…

『ラファールが再びステルスを使ったぁ!これは突っ込むぞー!』
最後の力を振り絞った突撃。エクレールさんが勝負に出た。

『ジグザグな軌道を描きながらアタックをかける姿はまさしく稲妻!』
それを必死で潰そうとするポコポコ。
ラファールの勢いを殺そうと迎撃する。

ノーロックが前提のロケット。
まるでこっちがステルスを使う事を知っていたかのような。
本当に相性最悪だ!

正面から向かってくる目標に対しては、どんな攻撃もかなり当てやすい。
ロケットがラファールを捉えた―――――かのように見えた。

『これはッ!!!』
『おおおッ!』
実況も解説も舌を巻く。
ラファールは向かってくる砲弾をブレードで”斬り捨てた”。
あまりにも信じがたい光景。こんなの見たことも聞いた事も無い。
これが…本気のエクレールさん。

デュアルブレードは読んで字の如く2つのブレード。
リロード無しでの2連撃が可能だ。
2撃目の斬撃がクロチェット本体を襲う。

ブレードとシールドがぶつかり合いスパークした。
やはり防がれてしまったか。
だが、相手も相当キテる筈。盾を持つ左腕が煙を上げている。
もう一押しだ。

『ラファールが仕切り直す為に再び間合いを離す!』
『いえ、これはENシールドに弾き飛ばされたんですよ。動きが不自然でしょう?』
ブレードとENシールドがぶつかるとブレード側が弾き飛ばされるのか!?

ふらついた所にマシンガンの雨が降り注ぐ、被弾は免れない。
エクレールさんはこうなる事が分かっていて、攻めあぐねていたんだ。

『被弾しながらも後退を続けるラファール!クロチェットが角から出てきたぁ!
 追撃するつもりだーーー!』
『こちらも限界が近かったのでしょう。』

『シールドをパージしたぁ!中から小型のマシンガンが姿を現すぅ!』
『ダブルトリガーで一気に勝負をかけるつもりですね。』

もう盾は無い。一旦は下がったラファールが残りのENを振り絞って再び前に出る。
それを確認したクロチェットはマシンガンをばら撒きながら全速後退。

突っ込め、エクレール。後一歩、後一歩だ!
いけぇぇぇぇぇ!
銃弾を浴び続けながらもエクレールさんの斬撃が届いた!

ビィーーーーーーーーー!

2機とも煙を上げて停止したぞ…
際どい…際どすぎてどっちが勝ったのか分からない。
『勝ったのは………』
どっちだ?

『ポーコ・ア・ポーコ選手!クロチェットは僅かにAPが残っています!
 勝ったのはクロチェットのポーコ・ア・ポーコ選手だぁ!』
あああああ…そんな…

『接戦も接戦、手に汗握る攻防でしたね、アンプさん。』
『ポーコ選手の地の利を活かした戦法や最後の駆け引き
 エクレール選手の学生とは思えない技量。素晴らしい―――』

「あっ…あああ…エクレールさんが…負けた…」
2敗したという事は…

「槍杉選手、搭乗準備お願いします。」
俺が負けると…

「槍杉選手?どうしました?」
チームの負けが確定…

★その85

エクレールさんの悔し涙 落ち着け 相手も同じ2年だ 思い切り暴れて来い

やれるだけの事はやった 落ち着け 2大粗製 ごめんなさい… 頼んだよ 槍杉君

大穴 姉さんやベアトリス 落ち着け ちくしょう アイビスも見に来てるんだぞ…

ド素人 さあ 副将戦です 落ち着け AC学園 ここは何としても負けられません

クビだな… 2勝1敗 落ち着け リーダー 俺が? 無様に負けるなんて 

酷いオッズ チーム戦  落ち着け 槍杉家の面汚し 資質はかなりのものです

ヒャッハ… レイヴン 落ち着け どうして… け、怪我だけはしないでよ 間合いを

目眩が トイレに行きたい 落ち着け 緊張して腹が痛くなってきた インファイト

お前が勝つ方に全財産賭けてるんだ 落ち着け ブレード 負けたら死刑だぜ 頑張れ

もし負けたらグローランサーが… 落ち着け 俺の夢が… ザルトホック 瞬殺

コックピットが狭く感じる 落ち着け 心音 洋平が傭兵 うるさい 槍杉さん?

ジナが消化試合 貧乳に殺される 落ち着け 息が苦しい 耳鳴りがする ご武運を 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…」
何もしてないのに…なんで…なんでこんなに…
落ち着け!、落ち着け!、落ち着け!、落ち着け!、落ち着け!

「―――さん、槍杉さん?」
ネルさんからの通信…ずっと呼ばれていた?
聞こえてなかったのか…

「ごめん…ボーっとしてた…」
「心拍数がかなり高いですよ。リラックスしてください。」
「あっ、ああ…ごめん…」
「大きく深呼吸をしましょう。」

「ハァーフゥ―  ハァーフゥ―  ハァーフゥ―  ハァーフゥ―  ハァーフゥ―
 クソッ…なんでこんなに…」
駄目なんだ…ちくしょう、クラクラしやがる。

「安定剤を打ちますか?」
「ありがとう…でも俺、駄目なんだ…あれの副作用で手足が痺れる体質らしくて…
 心拍数が下がっても身体が使い物にならなくなる…ACを動かせない…」
「わかりました。」

こっちの事情などお構い無しにグローランサーはリフトで運ばれる。
もう少しだけ待ってくれ、もう少し、少しだけでいいんだ…
そんな事を考えている間にステージの上に到着してしまった。

前方には対戦相手のAC オービュラが見える。
オレンジ色の中量二脚、グローランサーより一回り大きい?
馬鹿な、そんな事ありえない…錯覚だ。

ザルトホックが怖いのか?そうじゃない、負けるのが怖いんだ。
俺がこのチャンスを終わらせてしまうのが怖いんだ。
SPアリーナは”負けたけど俺たちよく頑張ったね”で終われるようなモノじゃない。
ACが手に入るか、何も無しかのどちらか…それが5人分。

笑えるよな、命懸けの実戦に2回も出くわした時はちゃんとしてたのに…
俺にとっては実戦よりもこの試合の方がプレッシャーらしい。
どうなってるんだよ…全く。

「槍杉さん、敵武装を確認しておきましょう。
 オービュラは腕にENマシンガンとブレード、背中にロケットを装備。
 中~近距離戦が得意と思われます。ENマシンガンは攻撃力が高いので
 正面からの撃ち合いは出来るだけ避けてください。」

「了解…」
グローランサーの武装はリボハン、ショートブレ、小グレの3つ。
敵の間合いとこちらの間合いは似ている。
逃げ回られたり、遠距離から一方的に撃たれる心配は無さそうだ。
瞬間火力では分が悪いが…

「落ち着いて行きましょう。きっと大丈夫です。
 私はその…槍杉さんを信じていますから…」
「ありがとう…」
ネルさんも俺に期待してくれてる。

ザザ…ザザザザ…

「地球のレイヴンがどの程度か、見せてもらおう。」
ネルさんの通信と入れ替わりで入ってきたのは、ザルトホックからの通信。

言ってる事自体はそうでもないが、言い方が物凄く嫌らしい。
自分の方が格上だと主張している。

「……………」
こっちも何か言い返してやろうと思ったが声が出なかった。
まあいいさ、相手のペースに乗ってやる必要も無い。

少し目を閉じて、呼吸を整える事に集中しよう。
焦っている時は、絶対にいい結果が出せないからな。

「ハァ~フゥ~  ハァ~フゥ~  ハァ~フゥ~  ハァ~フゥ~  ハァ~フゥ~」

★その86

「ハァ~フゥ~  ハァ~フゥ~  ハァ~フゥ~  ハァ~フゥ―――――」
「槍杉さんッ!!!」
ネルさんらしからぬ怒鳴り声にも似た呼びかけ。

何事かと思って目を開くと…オービュラがすぐそこに!?
視界を覆わんばかりに降り注ぐENマシンガンの雨。
硬直する身体、動かないAC、吹き飛ばされるAP。

「くそッ…」
やっと状況を理解してブーストを吹かす。
こちらの方が機動性に優れているのが幸いした。
何とか距離を離す事に成功する。

「フライングだぞ!」
「もう始まってます。」
「えっ!?」
という事は…開始の合図が――いや、周りの音が――全く聞こえていなかったのか?

目を閉じて深呼吸なんかしなけりゃよかった。
遅すぎる後悔、だがそれすらしている暇は無い。
試合はもう始まってるんだ、相手は待ってくれない。
壁際にまで追い込まれ、更に追撃される。
こっちも撃ち返すが――焦れば焦るほど狙いが定まらない。

「AP70%です。」
意外と効いてる?一瞬本気でそう思ったが…それは俺の願望にすぎない。
ネルさんが口にしたのはグローランサーのAPだ。
開始数十秒で早くも差を付けられた、これが現実…

「AP60%、正対は避けて!」
そうだ、正面から撃ち合うなって言われたのに…それをやっちまってる。
ザルトホックは高火力のゴリ押し戦法で単調………でも強い。
このまま撃ち合ったってジリ貧。突っ込んでブレード戦を仕掛けるか?
駄目だ、AP差を付けられているし、相手もブレードを持っている…自信が無い。

「AP50%、一度距離を取って立て直しましょう。」
距離、そうだ距離を取って…それからどうしよう…
逃げ回るか?逃げ回ってどうする?タイムオーバーを狙うか?APが負けてるのに?
そもそもSPアリーナは時間無制限だろ?じゃあどうするんだよ?

「AP40%…」
駄目だ…頭が回らない…グローランサーも思い通り動いてくれない…
オ、オービュラのAPは………くそっ、90%以上残ってる。
俺の攻撃は殆ど当たっていない。残弾が減ってるだけだ…
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…」
ど、ど、ど、どうする?

「槍杉洋平!!!!!」
「はいッ?!」

「しっかりしなさい!何をしているんですか!!これなら私が戦った方がマシです。
 この2週間、あなたは誰よりも頑張った。なのにこんなのって…
 負けてもいい、負けてもいいじゃないですか…でもこんな負け方は許しませんよ。
 今のあなたは―――――”最低”―――――です。」

■≡@#▲Ω%―□〓Ж∵・〇$★△♂◇▼♪※▽☆∞!

何かのスイッチが――――――――――――切り替わった。
こんなにも身体が軽い。さっきまでは鎖で縛られていたようだ。
視界が広がり、頭の中にかかっていたもやが晴れた。

「ありがとう。」
ありがとう…彼女に感謝の言葉を返しながらOBを起動。
一気に距離を離してからターンブースターで奴の方に向き直った。
あれほど大きく見えたオービュラが、今は元のサイズだ。

今ならハッキリと分かる。

 《俺の方が強い!》
⇒《奴の方が強い…》

奴の方が強い…だが恐れる事はない。操作技術と機体性能で全ての勝敗が決まるのか?
答えはNOだ!綺麗な戦い方じゃなかったが、神威はそれを実践してくれたじゃないか。
上手くやれば格上の相手でも倒せる。

「ネルさん、オービュラの残弾を教えて欲しい。」
「ENマシンガン 193/300、ロケット 46/60、ブレードも健在です。」
下一桁までキッチリと把握している。恐らくは敵側も同じ…やるか…

パシュン

『おおっと、グローランサーがグレネードをパージしたぁ!早くも弾切れかぁ!』
『弾切れはまだの筈です。弾詰まりか、機体の軽量化ではないでしょうか?』

「槍杉さん!?」
オービュラはほぼ無傷。リボハンとブレードだけじゃ、明らかに火力が足りない。
誤パージか、トチ狂ったと思うのは当然。
だが、これでいい、これでいいんだ。

来いよ、ザルトホック!

再び”正面から撃ち合う”奴のペース。
だが今度はENマシンガンの射程ギリギリに間合いを調整してだ。
EN弾の多くはグローランサーを捉え損ね、散らばる。
こちらの攻撃も殆ど当たらない。リボハンだから当然だ。
だが構わない、撃ちまくる。

間合いの調整にザルトホックが気付いたみたいだ。
無駄弾を使うまいとロケットによる丁寧な攻撃に切り替えた。
弾切れさせてブレード戦に持ち込むっていう狙いに気付いたか。
思った通り、優秀だな。だがその狙いはダミー。本当の狙いは別にある。

リボハンの最後のカートリッジ―――残り6発。
作戦開始だ、先ずは逃げ回る!

『激しい撃ち合いから一変、グローランサーが逃げ回り始めました。
 それを追いかけるオービュラ!槍杉選手の狙いがよく分かりませんね、アンプさん。』
『この状況で劣勢なまま逃げ回るのは…ザルトホック選手を疲弊させるのが
 狙いでしょうか?しかし、これでは…』
そう、俺の方が消耗が激しい。

APと残弾がたっぷり残っているザルトホックには、かなり余裕がある。
最後のリボハン6発を直撃させてもオービュラは落ちないだろう。
ブレードにだけ気をつけて、後は追い込んでいけばいい。

対する俺は弾切れ寸前で瀕死。これ以上ダメージを貰うと支障が出る。
ひぃひぃ言いながら必死で逃げ回るだけ。
最後の6発もまだ使うわけにはいかない、牽制すら出来ない状態。

『槍杉選手はいつまで逃げ回るつもりなんでしょうか?』
『分かりません、少し見苦しくなってきましね。』

そろそろ観客席からブーイングがきそうだ。
何もしないなら、さっさと負けろと思われている事だろう。
ザルトホックも相当イラついてきたかな?

「槍杉さん…」
そんなに悲しそうな声を出さないでよ、ネルさん。
勝算はあるんだ、上手くいけばこの絶望的な状況を引っくり返せる。
針の穴に糸を通すような物なんだけど、何故かな…自信があるんだ。

―――――仕掛ける!

OBを起動させ、真っ直ぐ、最短コースで、オービュラに突っ込む。
やっぱり最後は突撃だ。これしか取り得が無い。

ザルトホックは後退しながらも、弾幕を張る。
まともにブレードで斬り合いたくはないだろうからな。
しかし奴にとっては待ちに待った瞬間でもある。
散々逃げ回った雑魚が自分から向かって来るんだから。

「AP30%です。」
かまうもんか、あと少し動けばいい。
後退するオービュラとの距離が縮む。
今まで逃げ回れたのは機動性ならこっちに分があるからだ。

―――――逃がさん!

リボハンを5発撃ち込んだ所で奴との距離が詰まった。
5発中4発命中、中々の命中率だがオービュラを倒すには至っていない。
全然足りない、ブレードの出番だ。

ズザァァァン

本命のブレードがオービュラのコアに命中する。
だが、浅い…命中する直前に引かれた。かなり深く踏み込んだのにも関わらずだ。
完全に読まれていた。カウンターのブレードが来るぞッ!

ズザァァァン

カウンターの一撃はグローランサーのコアと左腕を斬り裂いた。
左腕がブレードごとコアから切り離される。恐ろしく正確な斬撃。
えらく簡単に行くと思ったら、肉を切らせて骨を絶つって事だったのか。

これで俺は”殆ど”攻撃手段を失った。
オービュラのAPはまだ50%以上残っているだろう。

斬り結んだ勢いで交差して背中合わせになった2機のAC。
ザルトホックがどう動くのか、背後で見えなくたって分かる、ヒリヒリと感じる。
獲物は牙を失った。また逃げ回られたら面倒くさい。
このチャンスを逃さないだろう、旋回して――止めを刺しに来るッ!

俺は逃げない、この状況こそが俺の望んだ物だったからだ。
オービュラの旋回する姿を背中で感じた瞬間、ターンブースターを使った。
後から旋回動作を始めても、先に方向転換が完了する。

そして俺は”リボハンを刺し込んだ”。

『どうした事でしょう!2機のACが組み合ったまま、動きを止めました!
 アンプさん、これはどうなっているんですか?』

『よく見てください。グローランサーのハンドガンがオービュラのコアに
 刺さっています。あれは先程のブレードで付けた傷ですね。
 そこに銃身を刺し込んだんですよ。刺し込まれた位置がまた危ない。
 アリーナ用の弾とはいえ、あの距離からあの角度で撃たれたらパイロットは…
 ザルトホック選手は動かないのではなく、動けないのでしょう。』

『なんとッ!これは勝負ありましたね。何物も命には代えられません。
 審判から槍杉選手の判定勝ちが言い渡されるのでしょうか?』

『その可能性が高いですね。しかし前例の無い事態、判断を迷っているようです。
 まあザルトホック選手本人が棄権するでしょうね。』

そうだ、さっさとギブアップしろ…
お前に散々撃たれてオマケに斬られたせいでコックピットが変形して
挟まっちゃってるんだぞ、俺は…
胸部が圧迫されてる…骨は大丈夫そうだが…息が苦しい…

何故さっさと棄権しない?俺が撃てないと知っているのか?
人の命は重い…その覚悟が俺にはまだない…
撃たないんじゃない、撃てないんだ。

何かの拍子で離れられたら、こっちにはもう打つ手が無い。
駄目押しが必要か…やりたかないが、やるしかない。

ザルトホックとの回線を開くぞ。
出来るだけドスの利いた声で…そうだ広島弁で行こう!

「つ~か~ま~え~た~で~」
「き、貴様…」
ちゃんと焦っているじゃないか。

「まんまと罠にハマったのぉ~、こっちがハンドガンの残弾1発だけって
 知っとったんやろ?それでやられる訳ないって高を括ったんや。」
「ぐぬぬ…」

「やられてもうたのぅ。間抜けやのぅ。ガッハッハッハッハッ!」
「卑怯者め…人畜無害そうな姿はカモフラージュだったのかッ!」

「あんさんの所もリサーチャー雇ってAC学園をコソコソ調べたんやろ?
 なら知っとるんちゃうか?ワシが密かに何て呼ばれとるか。ああん?」
「やりすぎ王子ッ!!」

「もう1個あるやろうが!あと口の訊き方、おかしいんとちゃうか?」
「ううッ…バーサーカー…です…」
だんだん息が苦しくなってきた…

「わかっとるやないか!学園長のジジイが出来るだけ穏便に言うから待ったってるんや。
 ワシは速攻で引き金引いたってもええんやで?むしろ引きたくてウズウズしとる。」
疲労と呼吸困難で気絶しそう…あんまり喋らせるな…

「しかし、こんな屈辱は…」
「ええか、ザルトホック君。これはお願いやないで?
 殺されて負けるか、棄権して負けるかの2拓でっせ?
 親切で選ばしたろう言うのに、ほんま、死んだらプライドもへったくれも無いど?」

「………………」 
何を迷っているんだ…俺の演技は完璧だったはず…

「………………」
まさか…命<プライドなのか…

「………………」
ちょっ…おま…やめてくれ…

「………………」
もう駄目だ…苦しい…早く降参しろ…

「………………」
ぐぅえぇえぇえ…ごげぇえぇぇ…

ビィーーーーーーーーー!

『何という逆転劇でしょう!ザルトホック選手の途中棄権です!
 勝ったのはグローランサーの槍杉選手!あのAP差から引っくり返しました!』

「やりましたね!槍杉さん!」
「い”よっし”ゃ!か”った”あ”…」
もう…声が上手く…出せない…
「槍杉さん?」

ガチャ、ガチャ、ガチャ

あれ?、あれ?、あれ?…緊急脱出が…作動しない…だと…
まずい…こいつはまずい…どうなってんだよ…
思考能力が…少しでも残っている…間に…

ネルさん…グローランサーの異常に…気付いていない…あっちの計器に…
異常が…出ていない?…呼びかけられない…このまま…待ってられない…
救護班の…所まで…どこだ?…地下ハンガーに…行って…ぶっ倒れよう…

ぼやける視界と意識の中、なんとかハンガーに辿り着いた。
あまり苦しくなくなってきたぞ。ほわほわしてきた、これヤバくね?
試合に勝って命を落とすとか、冗談じゃない。

ハンガーに待機している救護班は―――いたッ!
彼らの姿を見つけた瞬間、グローランサーで盛大に倒れてやった。
分かってくれたか!救護班の屈強な男たちが駆け寄ってきた。
コックピットハッチが外部から開かれる。

「これはッ!」
なんて声出してるんだよ、救護班のおっさん。

「カッター持って来い!特大のヤツだ!」
な、何だ?とうなっているんだ?

「もう少しの辛抱だ。気をしっかり持つんだ。」
ちょ、ちょっと…心配になってくるじゃないか。

「槍杉君、しっかりするんだ!」 
「槍杉…ヒャッハ…」
「槍杉君、もうちょっとの辛抱よ!」 
「槍杉、貴様許さんぞ!」
「ヨウヘイさん!」

みんなの俺を呼ぶ声が聞こえる…

でもこの場に居る筈の無い声が聞こえたような…幻聴か?
「なんだね、君は!?邪魔だからどきなさい!」
「邪魔なのは貴方です。ヨウヘイさんを見殺しにするつもりですか!」
「今、カッターを取りに行かせている。」
「遅すぎます!」

アイビス、なにをしているんだ?いくらお前が馬鹿力でも素手じゃ無理だよ。
ほらみろ、腕のジョイントが悲鳴を上げてるぞ。止めとけ、怪我するだけだ。

ギギ…ギギ…ギギギ…ギギギギギ…

「ハァ………………ハァ…………ハァ………ハァ…ハァ…ハァ…」
嘘だろ!?楽になってきた。開いているのか…

ギギギギギ…ギギギギギギ…ギギギギギギギギ…

「ハァ…ハァ…ハァ…ぷはぁーーーーーーーー!」
空気が美味い…普段何気なく吸っている空気ってこんなに美味しいものだったのか。
た、助かった…

「無茶ばかり…あなたは何度死に掛ければ気が済むんですか…」

★その87

「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ…今年に入って…ゴホッ、ゴホッ、3回目…」
「喋らないでください。」
そう言ってアイビスは俺の顔に酸素吸入器を被せた。
マラソン選手とかがゴール地点でよく使っている小型のやつ、あれの医療版だ。

ああ…空気…美味しい…

「ふぅ…落ち着いたよ…もう大丈夫だ…」
「挟まれていたのは胸の辺りですか?」
「ああ…」

「失礼します。」
「ちょ、ちょっと、アイビス!?何で服を脱がそうとするんだ!?」
「触診です。パイロットスーツの上からではよく分かりません。」

「あっ、ああ…」
本当に何でも出来るな…
「骨に異常は無し…内臓も異常無し…少しアザになっているだけですね。」

俺の身体を撫でるアイビスの指が痛々しい。
想定されている以上の負荷が掛かったせいだろう。
表皮は傷つき、関節部分が所々裂けている。
「それ、痛くないのか?」

「私は人間と違って感覚器官を自由にカット出来ますから。」
「そっか…」
一旦は納得したが、直ぐ矛盾に気付いた。
感覚器官を切ったら触診なんて出来ないだろ。
やせ我慢しやがって…

「帰ったらメーカーの人を呼んで綺麗に直してもらおう。」
「自分で直せます。」
身も蓋も無いな、怒ってるのか?

「コックピットから出ましょう。立てますか?」
「ああ…」
アイビスの肩を借りながら起き上がった。
まだちょっとフラつくな。

「そういえばアイビスは何でここにいるんだ?」
「お2人と一緒に客席で観戦していたのですが
 勝敗が決まった後のグローランサーの挙動に異常を感じました。
 ダメージによるそれとは違う確率が高かったので、パイロットに何かあったと判断。
 ヨウヘイさんの行動を予測してハンガーに先回りしました。」

「ああ、そうなのか…」
コックピットをこじ開ける程の出力といい。
こいつのスペックはどうなってるんだ?万能すぎる。
家の冷蔵庫と同じぐらいの値段とは、とても思えん…

「槍杉~、死んじまうのかと思ったぜ、ヒャッハ…」
ACから降りた途端、モヒカンが抱きついてきた。
「うげぇ…放せよ、気持ち悪い。」
こういうのは普通、女の子がする事だろ。野郎と抱き合う趣味は無いぞ。

「私はセレン様とベアトリス様の所に戻ります。
 何も言わずに飛び出してきてしまったので。」
「あっ、アイビス。ちょっと待って!姉さんたちには、その…
 あまり心配を掛けたくないから、その…オブラートに包んで…」

「嘘の報告をしろと仰るのですか?残念ながらそれは出来ません。
 白目を剥いて、泡を吹きながら痙攣していた事を報告するつもりです。」
「ちょっ、おま…慈悲は無いのか…」

「そんな事にまで気が回るのなら、大丈夫ですね。
 お2人にしっかり怒られて反省してください。それでは私は行きます。」
「あああああ…」
性格悪いぞ、アイビス。せっかく勝ったのに憂鬱だ…

「槍杉君、立っていて平気なのか?」
「ええ、心配かけてすみませんでした。もう大丈夫ですよ、先輩。」
「そうか、しかし無茶をしたものだな。
 オールター君に声を聞かせてやってくれ、酷く取り乱している。」

うわ~、早く大丈夫だって事を伝えなきゃ。
「ネルさん聞こえる?」
ジノーヴィー先輩からインカムを受け取って彼女に呼びかけた。

「や、槍杉さん!?槍杉さんなんですか?無事なんですか?」
「Yes!ちょっと挟まっただけだからね。五体満足でピンピンしてるよ。」

「ああ…よかった…私が無茶苦茶なこと言ったから…それで…
 槍杉さん…無茶して…ごめんな…さい…ごめんなさい…」
ネルさん、泣いているのか?こういう湿っぽいのは苦手なんだよな…

「結果良ければ全て良しでっせ。気にしたらアカン!
 でもネルさんに最低のクズ野郎って言われた時はショックやっな~
 ショックすぎて思い出しただけで寝込んでしまいそうや。」

「私…クズ野郎なんて…言ってません…」
「そうやったかのぅ?」
「もう…なんなんですか…その話し方は…」

「広島弁なんだけど、中々のもんでしょ?ザルトホックもビビリまくってたしね。」
「それ広島弁じゃないですよ。ごちゃごちゃです。」
「えっ、そうなの?結構自信あったんだけど、違うのか。
 オスカーの助演男優賞ぐらいは貰えると思ったんだけどな~」

「もう!ふざけないで下さい。」
「ごめん、ごめん。」
「大丈夫なんですね…」
「うん。ネルさんの方は大丈夫?オペレーター続けられそう?」
「はい、もう大丈夫です。」

「次の大将戦で最後だ。ジナのサポート頼んだよ。」
「はい。」
いけそうだな。後は彼女たちに任せるしかない。

「ジナまでなんとか繋いだぞ、後は頼む。」
「ああ、後は任せろ。」
短く答え、ファシネイターの方に向かうジナイーダ。

なんて頼もしい後ろ姿なんだ…





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