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少年は鍵盤を叩いている。
ピアノを弾くこと、それが彼の運命であり、また彼が望んで決めた道であった。

彼の演奏をひと目見ようと、連日彼がピアノを弾くパブには客が押し寄せた。

少年の演奏は、緩やかに流れ始める水のように動けば、真夏の夕立のように時に激しく轟く。
力強く、弱々しく、暖かく、寒く、厳しく、そして優しく。
彼の指が鍵盤をなぞるたびに、その調は聴く者の心を叩く。

大きな舞台にも時には立つ事もあり、業界内外問わず、彼は瞬く間に有名になった。

―――「若き盲目のピアニスト」……と。


少年は、事故で視力を失った。
両目から光を失い、その胸に秘めていた生命の灯火も自ら消してしまおうとしたとき、少年は音楽の師である「彼」と出会った。
「彼」は、自分の仕事の合間に、よくパブに来てピアノを弾いていた。
曲目は、ほとんどがジャズクラシックだった。

軽快なリズムと、それに合わせて楽しむノリの良い客達。
目が見えずとも、流れてくる曲と雰囲気が肌に伝わる。

暖かい。
目も自分の行く末も見えなくなった少年にとって、それは運命の出会いだった。

少年は、演奏者に興味を持った。そして「彼」も自分の演奏を毎日熱心に聞きに来てくれる、両目を閉ざされた少年の存在に気づいた。

「彼」は少年に声をかけた。「そんな遠くで引っ込んでないで、おまえも俺たちと一緒に楽しまないか?」と。


「彼」と「音楽」との出会いは、少年の心に大きな変化をもたらした。

両親と死別し、盲目になり、親戚の家にこしてきた少年は、その親戚親子に陰湿な嫌がらせを受ける日々を過ごしていた。
自らの境遇に絶望し、生きる意味さえわからないまま抜け殻のように過ごしていた少年の心は、「彼」と「音楽」に救われたのだ。

「彼」も、少年の境遇を知り、自分も孤児だった事もあってか情が移り、いつのまにか少年と暮らし、面倒を見るようになっていった。
その姿は、まるで兄弟のようだった。

音楽に対して非常に熱心だった少年に、「彼」は自分のピアノの技術を少年に教えることにした。

少年の上達振りは、目を見張るものがあった。
「彼」は喜んだ、「おまえは音楽に対してすごい才能の持ち主だ!」と。

少年が「彼」からピアノを教わり始めて1年半、少年は「彼」にも劣らず、非常に優秀なピアニストへと成長していた。
「彼」も、少年の上達振りを、自分の事のように喜んだ。
そんな喜ぶ「彼」を見るのが、少年は大好きだった。

しかし、次第に「彼」は「仕事」に割く時間が多くなり、慌しく時間が動くようになっていった。

少年は、「彼」がなんの仕事をしているのか知らなかった。
だが、彼の暮らしぶりは目が見えない少年にもわかるくらい金銭面も充実していた。
少年は「彼」に仕事のことを何度か説いたが、明確な答えを聞くことは無かった。「彼」は仕事の話になると、どこか答えずらそうにしていた。
だから少年はいつしか、「彼」の仕事について聞くのをやめた。

ある朝、「彼」は仕事の前に少年と向き合い、語りかけた。

「おまえは、もう一流のピアニストだ。俺が教えることはもうないだろう。」と。

「彼」のただならぬ気配を感じた少年は、
「そんなことない、僕はまだまだ教えて欲しいことがいっぱいいっぱいあるよ!」と言った。

「……もしこの先、俺が帰ってこないことがあっても、ちゃんと一人で生きていくんだぞ?」
悲痛な声でそう告げた「彼」は、しゃがみこみ、少年を力いっぱい抱きしめた。


なにか すごく いやな よかんが する 。


少年は無意識にそう感じた。力強く抱きしめる「彼」の声は震えていたからだ。いや声だけでなく、自分を抱きしてめいるその腕も。
しかし、その予感がなんなのか、どういうことなのか、少年にはよくわからない。
ただただ、漠然とした不安を胸に抱くだけ。



「彼」は家を出た。いつものように、ドアノブに手を掛け、ドアを開けて外へ出る。
ドアが静かに閉じられた。

「彼」が離れた後、少年の胸に去来する嫌な感じがどんどんと大きくなり、心臓が高鳴る。
少年は玄関まで走り出した。目が見えなくなり、足元はおろか目の前が見えなくても。
壁にぶつかり、何かに足を引っ掛け、転び、起き上がり、それでも「彼」を引き止めたくて。

――――行っちゃダメだッ!!

なんとかドアを開け、外に飛び出す。だが「彼」の気配はどこにもいない。

少年は叫んだ、「彼」の名を。

雨が降っていた。滴に濡れる少年。
光を失った両目から、熱い涙があふれる。
わからない、どうして、なんで涙がでるんだろう……?


――少年は待ち続けた。

正午になった。「彼」が帰って来る気配が無い。
気を紛らわせるために、テレビをつける。
お昼のテレビの中では、レアメタルの採掘ができる鉱脈を巡って、ミラージュとクレストが睨み合いを続けているというニュースが流れていた。
元々クレスト領であったこの鉱脈に、ミラージュが「全ての人々の為の、公平な資源採掘の開放」を理由に、武力による侵略を始めた。

そして、その鉱脈がある山のふもとに、少年と「彼」が暮らす街があった。

度重なるミラージュの侵攻を食い止めているのは、クレストが雇った一人のレイヴンによる功績が大きいと言っていた。
高速移動をしているためか映像の中のACは少々見辛いが、都市部に近づくミラージュのMT隊をひとりで全滅させたり、AC相手に1対2で互角に戦っている姿が映っていた。
少年は目が見えなかったが、テレビから出てくる轟音と、ニュースキャスターのコメントでそのレイヴンが街を守るために活躍していることがわかった。

孤軍奮闘しながら、街を守るかのように戦う、蒼い4脚のAC。


このACのエンブレムには、白いピアノの鍵盤が描かれていた。
そのエンブレムの端にはこう書かれている。
『MY BROTHER~It loves.~』と。

その事に、少年が気づくはずが無かった。




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