ACの完成。それは自分の分身の完成であり、棺桶の完成である。
「これが私のネクストか」
フォックスアイの原型を留めつつ、一回り大きくなった棺桶。
「素晴らしい、の一言に尽きるな」
力強く、なおかつ洗練されたフォルム。ジャックには戦闘の道具には見えなかった。
見惚れた。雄々しい姿に。
「ああ、アンタがジャックさんかい?」
振り返ると見慣れぬ5人いた。
君たちは?と尋ねる。ジャックのことを知ってるということはネクストに関係はしているのだろうが。
「アブ・マーシュって聞いたことがあるかい?」
ホワイト・グリントの設計者というのは聞いていた。
「君【たち】がアブ・マーシュなのか?」
ご名答!と真ん中の女性が答える。
5人というのは意外だった。しかしそれ以上に
「若いな」
先のリンクス戦争で活躍したホワイト・グリントの設計者も、アブ・マーシュという記録が残っていた。
それを考えれば余りにも若すぎる。
見れば20代かそこらではないか。
「疑問はもっとも」
今度は青年が答える。
アブ・マーシュのメンバーは入れ替わり制で、常に5人であること。
メンバーの基準はAC設計において、ある境地に達した者。
今までの最年少は13歳。最高齢は55歳。能力のある候補者が現れた時、最下位と入れ替えられるという。
「ジャックさん、あなたの機体は最高の傑作になる。」
楽しみにしてください。そう微笑む5人の顔は常人のソレではなかった。

後日の機種転換訓練
傑作と大見得切るだけはあった。
適性テストで並のAMS適正しか無かったジャックだ。
そのジャックが武装制限しているとはいえ、アレスのホワイト・グリントと互角に戦えている。
駆動系の反応がすこぶる良い。自身の認識とほぼ同時に動いてくれる。
(つまり、性能を引き出せるかは私自身に依存するということか)
良くも悪くもシビアな機体だ。職人技の成す作品とはこのことだろう。
生かすも殺すも自分次第。これからこの世界で生き抜くのは容易ではなさそうだ。
自らを鍛えるという反復作業をこれほど必死になったのはいつ以来だろうか。

日々の訓練がどれほど実を結ぶのか。できれば確かめたくは無かったが、その時は来てしまった。
警報――主権領域への侵入者。2機のネクスト。
アレスと目配せを交わしネクストに乗り込む。通信回線を開くとアレス、フィオナと接続された。
「今作戦のオペレートは私が担当します。」
今回の領域侵犯者のうち1機はカラードランク1のオッツダルヴァです。言うまでも無いでしすが、彼が主戦力です。
オッツダルヴァにはアレスが当たります。
ジャックはもう1機。先日カラードに編入されたルーキーです。ルーキーとは言え、ここまでの戦果は目覚しいものです。
初戦の相手には厳しい相手かもしれませんが、貴方なら大丈夫でしょう。
ここまで事務的に読み上げ、最後にポツリとフィオナは言った。
「お願い。生きて帰って。」

接敵。ライールベースの機体とアーリヤベースの機体。
ジャックは受け持つのはアーリヤベースの機体だ。
『ジャック、この戦いは厳しくなるだろう。』
死ぬなよ。一言残し音速を超えて白い閃光はこの世界の最強と交差する。
残されたジャックはオッツダルヴァを援護しようと動くもう1機のネクスト「ストレイド」に向けてレーザーライフルを放つ。
死角から放ったつもりだったが、寸での所で回避される。
ストレイドの複眼がジャックを捉えた。戦慄、ルーキーとは思えない凄味があった。
「成程、一筋縄ではいかなそうだ」
対峙しただけで難敵と分かる相手が初陣とは、思わず出そうになる溜息こらえて次の行動に備える。
まだ始まったばかりだ。

『確かに強い、だがそれだけだな。お前には信念が感じられない』
自分の声は敵には届かないだろう。自分の声が聞こえるのは限られた人間だけだ。
自分が特別というわけではない、自分の声が聞こえる人間が特別なのだろう。
アブ・マーシュ、ジョシュア、自分の声が枯れ果てた時にも彼らには声が届いた。
この声が届かない相手なら恐るるに足りない。
強いだけの存在は特別な存在ではないのだ。
幾度目かの交差際、ライフルから放たれた銃弾は敵のブースターを穿つ。
「狙ったか、ホワイトグリント・・!」
忌々しげに言葉を吐き出しながら敵は水面に叩きつけられる。
少しずつ沈んでいく間際、今までとは違う声質で
「次に会うことがあれば、私の信念を見せよう」
そう残し海中へと消えていった。なんだ、聞こえてるじゃないか。
『存外紙一重だったのか』
慢心を悔いつつ、すぐさま意識を切り替える。ジャックを援護しなければ。

ジャックは苦笑する。
「満身創痍だな。」
徹底的に打ちのめすとはこのことか。
これほどまでに一方的な戦闘を、戦闘と言っていいものか。
ネクストとは実に素晴らしい物だ。
これが力か、これがこの世界のACか。
アブ・マーシュたちがこの魅力に取り付かれ、最強の機体を作ろうとしているのが良く分かった。
「終わりだな、ジャック」
ストレイドがマシンガンをジャックに向けた。
満身創痍の銀狐はもはや立ち上がることさえ難しいだろう。
「やはり私では力不足か。ドミナントとはつくづく恐ろしいな。」
この男もこの世界に来ていたとは、つくづく私も運がないものだ。
[ローラン、そいつは後回しだ!ホワイト・グリントが来るぞ!]
ドミナントと呼ばれた男、ローランがジャックに向けた銃口を別方向に向ける。
最も強い男と呼ばれた二人が戦闘を開始した。

『とんだ隠し種だな』
「こっちも、こんな早期にお前と戦いたくはなかったんだがな」
拮抗した実力が戦闘を長引かせる。
「アレス!稼動予定時間を越えているわ!一度引いて!」
フィオナからの通信も聞き流す。ここで引いてはラインアークまでコイツが近寄ってしまう。
そこで戦闘を行えばフィオナに危険が及ぶやもしれない。
だからこそ引けない
『悪いがここで倒させてもらう』
雨のように飛び交う銃弾を掻い潜り眼前まで接近。
勝負は一瞬で決まった。

プライマルアーマーを圧縮、開放させコジマ爆発を起こした。
視界は閃光で何も写らない。
ジャックの視界が少しずつ回復するにつれて、ぼんやりと影が見える。
1機のネクストが膝をつき、もう1機が見下ろしている。
勝負はついたのだ。最強が敗れ、最強が勝ち残った。
アレスがアサルトアーマーを使う直前に、一瞬だけ早くローランがアサルトアーマーを発動していた。
ホワイトグリントが圧縮するはずだったプライマルアーマーを最初に削ってしまったのだ。
『天才だな、全く・・・』
「勘がいいだけさ」
ストレイドが背中を向け去ろうとしている。
「ここまでが俺の任務だ。時期に後続隊も来るだろう。さっさと体勢を立て直すんだな」
[どういうつもりだ?]
今にも帰りそうなローランに、彼のオペレーターが食って掛かる。が、アレスには聞き覚えがある声だ
『霞スミカか、生きていたのか。』
人違いだ、私はセレン・ヘイズだと即座に返答される。
「セレン、今回の任務はホワイト・グリントの戦闘不能だ、殺害じゃない。それに」
顔見知りもいるしな、とジャックを見る。
[お人由もそこまで来ると芸術だな!バカバカしい!]
なおも憤慨するセレンだったが、もはや諦めてるのだろうか。さっさと帰還しろと喚いていた。
アレスが生かされたことは腑に落ちないが、後続が来る前に立て直さなくてはと通信回線を開こうとした時、予期せぬことが起こった。

轟音と共に円柱状の飛行物体が彼らの頭上を通り過ぎていった。
[弾道ミサイル!足止めに使われたのか!]
ミサイルの向かった先は間違いなくラインアークだった。
ジャック達はただ唖然と見送るしかなかった。企業に踊らされてるコマに過ぎないのかと。
そう、ただ一人を除いては、
[再起動だと!?あり得るのか、そんなネクストが!]
白い閃光が黒煙を上げながらミサイルの後を追う。
ジャックやフィオナの静止を振り切り、音よりも早く飛んだ。
残っているプライマルアーマーを全て圧縮し、開放する。
ミサイルの外装を吹き飛ばし、内部まで破壊する。
破壊されたミサイルは空中分解し、大爆発を起こす。プライマルアーマーのないネクストと共に。
暁と折り重なったミサイルの閃光と共に、一人の男が消えた





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