★その72

__3日後の早朝 第3シミュレーター室

アセン調整 → シミュレーターでテスト → アセン調整 → 〃
この工程を何度繰り返しただろうか…
アナークと一緒にアセンを練りに練った。

今日の午前中がアセン提出の最終期限。
俺たちは期限ギリギリまでアセン調整を続け
先程、5機のアセンが揃ったところだ。
限られた予算の中で、上手くまとまっていると思う。

『デュアルフェイス』
あらゆる局面に対応する全距離対応型の中量二脚。
腕にライフルとショートブレード、背中に大型グレネードを2つ装備。
多彩で強力な攻撃を可能にしたジノーヴィー先輩のクレストAC。

『ファシネイター』
安定した性能を持つの中量二脚。
腕にマシンガンとブレード、背中にマイクロミサイル、肩に連動ミサイルを装備。
機動力を生かした高速戦闘を得意とするジナのAC。お値段が一番高い。

『ラファール』
接近戦に特化した軽量二脚。OB機能付き。
武器腕デュアルブレード、背中に小型ロケット、肩にステルス装置を装備。
エクレールさんの生き様を象徴しているかのような紙装甲AC。

『神威MkV』
ネスト時代のパーツのみで構成されたタンクAC。
武器腕キャノン、背中に大型グレネードを装備。
”タンクに武器腕”という、あまり宜しくない組み合わせをしており、脆い。

最後は俺のAC―――
頭部とコアはジオ社の初期パーツ、腕部と脚部はクレスト社の初期パーツという
モッサリした外見だが、内装は悪くない高機動型の中量二脚。OB機能付き。
腕にリボルバー型ハンドガン、ショートブレード
背中に小型グレネードと簡易レーダー、肩にターンブースターを装備。
モッサリした外見で相手を油断させる特殊効果も兼ね備えている。

「あれ?みんな自分のACに名前付けてるの?」
「当然だぜ!お前の相棒は名無しかよ。可哀相なんだぜ、ヒャッハー!」

「必要不可欠というわけではないが…機体名はあった方がいいと思うよ、槍杉君。」
ジノーヴィー先輩、さらっと言ってるけど
実はこういうのノリノリで考えていそう。何となくそんな気がする。

こういうのに無頓着そうなジナもしっかり機体名付けているし
やっぱり付けておくべきなんだろうか?
どうしよう…

「僕の傑作が名無しっていうのも締まらない話じゃないか。」
「そんなこと急に言われてもな…」

「槍杉君は授業で使うアセンに名前付けたりしないの?」
信じられないという表情のエクレールさん。
こういうのが好きそうな彼女らしい。

「う~ん、名前は付けた事ないね。全くネーミングセンスが無いから
 付けないというより、付けられないって感じかな。小っ恥ずかしくてさ…」

「この機会に思い切って付けてみたらどうですか?」
「でもネルさん…俺、本当にセンス無いよ?」

「じゃあ、俺様が名付け親になってやるぜ!『槍杉壱号』なんかどうだ、ヒャッハー?」
「却下。」
何でお前とお揃いにならねばならんのだ。
というか、こいつもいいセンスしてる。

「それじゃあ、『バーサーカー』はどう?」
「勘弁してよ、エクレールさん。」
「強そうでカッコイイだと思うんだけどな…」
マジで勘弁してください。

「私もひとつ案を出しておこう。『フリーランサー』なんてどうだい?
 君の名前の最初と最後を結ぶと槍平→槍兵=ランサー。
 自由な傭兵業という意味でフリーランスとも掛けている。」
やっぱり先輩はこういうのが好きなのか…
こんな感じの言葉遊びは嫌いじゃない。響きも悪くないしね。

バタッ

突然、ジナが床に手を付いて倒れた。
「しまった…ゴニョゴニョ…先輩に付けてもらえば…ゴニョゴニョ…」
よく聞こえないが何を言っているのかは大体予想が付く。
今からでも頼めばいいのに…まあいいや放っておこう。

「僕も考えたぞ。機体コンセプトから『ソニックランサー』でどうだ!」
音速か…アナークの考えたやつもなかなか良いな。

「じゃあ私も参加させてください。槍杉さんと一緒に成長していくよう
 祈りを込めて『グローランサー』はどうですか?」
ネルさんらしい理由の機体名だ。これもいいね。

そうだな…
この3つから選ばせてもらおうか。

 《フリーランサー》
 《ソニックランサー》
⇒《グローランサー》

「ネルさんの案を採用させてもらおうかな。」
「はい!」

他の2人はちょっとガッカリした様子だけど、許してくれ。
俺はネルさんのが一番気に入ってしまったんだ。

ピッ、ポッ、パッと。
機体名設定完了―――『グローランサー』
必ずお前を手に入れてやるからな。

さて、最終確認をしておこう。
アセンの合計額は予算内に収まってるいし、データに洩れも無い。
オールオーケーだ。

「じゃあアセンデータをクライン先生の所に持って行きますね。」

★その73

職員室―――それは生え抜きの傭兵たちが集まる場所。
学園で息が詰まる場所ナンバーワン。
俺もかなり苦手だ。空気が重苦しいんだよな。

さっさと用事を済ませてしまおう。
「失礼します。」
クライン先生は……………あそこか。

「先生、おはようございます。アリーナで使うアセンが完成しました。」
「今日がリミットだったな。見せてもらうぞ。」
「はい、お願いします。」

ナインブレイカーの目から見てどうなんだろう…
及第点は貰えるんだろうか?

「悪くない。」
おおッ!最高峰のクライン先生が言う”悪くない”だ。
ちょっと嬉しいな。褒められているような気さえする。

「早ければ2、3日でこのパーツが届くだろう。
 組み立てと調整はメカニック科の生徒が実習を兼ねて行う事になっている。
 立ち会わせてもらえ、いい経験になる。」
「はい!」
こりゃ楽しみだ。

「明日からメディアを通してスペシャルアリーナの情報が
 一般公開されるのは知っているな?行動には気をつけろ。」
「はい。」

「これを渡しておこう。お前たちの対戦相手、MNAの選抜メンバーだ。」
そう言いながら先生は小さなメモ書きをくれた。

3年 アレス
3年 イツァム・ナー
3年 ポーコ・ア・ポーコ
3年 ライオンハート
2年 ザルトホック

こ、こいつらはッ!―――――1人も知らない。
当然だよな。火星の学校だもん、遠すぎる。

「明日の情報公開で分かる事だが、少しでも早い方がいいと思ってな。」
「助かります。」

何も言わないけどクライン先生、俺の知らない所で手続きとか
全部済ませてくれているんだろうな。
リーダーやってる俺にそういうの回ってきたことが無い。

「そろそろ1限目が始まる。教室に戻れ。」
「はい、ありがとうございました。」
この人に言葉は不要だ。試合に勝って報いよう。

「ふぅ…」
職員室を出てから、さっき貰ったメモをもう一度見た。

3年が4人に2年が1人、うちと真逆の構成だな。
名前からして強そうな人ばかり…
まあ名前にビビッていても仕方が無い。

ジノーヴィー先輩なら多少は知っているかな?

★その74

放課後、俺たちはいつものように集まった。
アナークは役目を終えて来なくなったから、シミュレーター室にいるのは6人。

MNAの選抜メンバーが分かったことだし
オーダーを決めようという話になった。

SPアリーナは5対5の団体戦。
FFならいざ知らず、アリーナで団体戦は聞いたことが無い。
どうやってオーダーを決めればいいものやら…

「どうしましょうか?」
「エクレール君は確か剣道部。こういった団体戦の布陣に詳しそうだ。
 剣道部でのオーダーの組み方を聞かせてくれないか?」

「そうですね、剣道の試合では
 先鋒・・・勢い付けや、試合の流れを作れる選手
 次鋒・・・先鋒と似たタイプで、期待の選手
 中堅・・・先鋒、次鋒が悪い流れを作った場合、それを変えることが出来る選手
 副将・・・大将への繋ぎとして粘りのある選手
 大将・・・チームの最強で、状況に応じて戦い方を変えることが出来る選手
 というのが一般的です。」

「詳しいなエクレール、ヒャッハー!」
「あくまで一例よ、状況によって役割は変わるわ。」

そうなんだよな、SPアリーナは試合当日までお互いのオーダーは伏せられたまま。
MNAのメンバーが分かっても、誰がどの順番で出てくるか分からない。

ジノーヴィー先輩曰く、アレスとイツァム・ナーの2人は別格だぞうだ。
火星から地球にまで伝わる程の実力…
できればこの2人とは当たりたくない。

「相手の出方を窺って変に布陣を意識するよりも
 王道で行った方がいいかもしれませんね。
 私たちの方針は”全員で勝ちに行く”ですし。」
毎度のことながらネルさんはいいこと言うな。

一番決めやすいのはやっぱり大将だろう。
「ジノーヴィー先輩、大将をお願いしてもいいですか?」
「いや、私は先鋒を希望する。初戦で勢いを付けておきたい。」

「先輩がそう言うなら…」
誰もNoと言えないな。
まあ先輩の言う通り、初戦は何としても勝っておきたいし。

「次鋒は俺様がもらったぜ、ヒャッハー!」
これはアレか?自分が期待の選手だっていうアピールか?
いや、やっぱり何も考えて無さそうだ…

「私、中堅いいですか?」
エクレールさんが中堅か、妥当だな。

司会進行に気を取られて呆けていたけど、残ったのは大将と副将だけじゃないか。
大将は絶対嫌だぞ、2勝2敗とかで回ってきたりしたら堪らん。
プレッシャーだけで潰れてしまいそうだ。

「俺、副将を希望します。副将好きなんです。大好きなんです。
 副将は誰にも譲れません!」
「ではジナイーダ君が大将だな。」
「私よりもジノーヴィー先輩の方が相応しいと思うんですが。」

先輩もいいけど、ジナも十二分に大将の条件を満たしている筈だ。
それにゴチャゴチャしてたら俺が大将にされそうで怖い。
ここは先手を打っておくべき。

(ジナ、ジナ、大将の首を華麗に取って先輩にアピールだ!)
小声で囁く。
(そうか、それで私を大将に…)

(当然だろ、応援するって約束したじゃないか!)
グッと親指を立てて見せる。
(槍杉、お前というやつは…)

もう一押ししておくか。
「ジナが大将なら俺は安心なんだけどな~。先輩はどう思います?」
「私もジナイーダ君になら、大将を任せられると思う。」
ひょひょひょ、計画通り。

「ジノーヴィー先輩がそう言ってくれるなら、やってみます。」
頬を紅らめながら返事をするジナ。
先輩がいるとジナを凄く扱いやすいな。

冗談みたいな感じで言ってるけど、ジナが大将っていうのは本気でアリだ。
何度かシミュレーターで模擬戦をしたけど
俺はジノーヴィー先輩よりもジナの方が強いような気がしてしょがない。

先輩とジナが戦うと、高確率で先輩が勝つ。
でも不思議とジナの方が強いような気がするんだ。
目に見えないプレッシャーのようなものが半端じゃない。

まあ、遠く及ばない俺が言うのもおこがましいか。
2人とやると毎回ボコボコにされるからな。

★その75

SPアリーナ当日まで俺たちがする事は決まっている―――模擬戦だ。
短期間で急に強くなる特訓なんてものは無い。
只々、繰り返して、少しずつ前進するのみ。

オーダーを決めてから20戦ほどして解散したんだが、もうクタクタ。
プールで長時間泳いだ後の脱力感に似ている。家に帰るのも億劫だ。
そのまま学園で寝てしまいたい衝動を抑え付けて必死に自転車を漕いでいる。

あれは―――レジーナじゃないか。
日が落ちた人気のない公園でぼーっとして、何してるんだろう?
ちょっと気になるな…声を掛けてみようか。

「よッ!レジーナ。」
「先輩…」
ふむ、声のトーンが一段と低い。

「何か元気ないな。腹が減りすぎて死にそうとか?」
「そういうのじゃない…」
俺と一緒で分かりやすい子だ。
いかにも悩んでますって感じじゃないか。

そういえばレジーナは家出中だっけ。
「屋根のある寝床はちゃんと確保してあるのか?」
「うん、住み込みのバイトで雇ってもらってるから大丈夫―――
 っていうか何であたしが家出してること知ってるの?」

「林檎に聞いた。」
「お喋り男め…」
「まあそう言ってやるなよ。レジーナのこと心配してたぞ。」
「……………」

「可愛い娘の家出だ。親父さんも心配してると思うぞ。
 事情を知らない俺は家に帰れなんて言えないけど、連絡ぐらいしてやったら?」

「……………先輩、ちょっと聞いてくれる?」
「ああ、話したいだけ話せ。」

「あたしの父さん仕事人間でさ。口を開けば仕事、仕事、仕事…
 仕事のせいにしてすぐに約束破るし、何日も帰って来なかったり
 家のことはほったらかしの酷い奴なんだ。」
「……………」

「それでね…ある時、我慢できなくなってなっちゃって…」
「家を飛び出したのか?」
「うん…」
「そりゃまた思い切ったな。」

「住み込みのバイト見つけて、これからどうしようかって時に
 AC学園の事を知ってね、レイヴンになるのもいいかなと思ったんだ。」
凄い行動力、俺なら野垂れ死に確定だわ。

「友達も一杯できたし、学園は楽しいんだけど…
 この間、父さんの仕事がレイヴンだって偶然知っちゃって…」
それで悩んでいたのか。

「俺と一緒だな。」
「先輩のお父さんもレイヴンなの?」
「俺が小さい頃に死んじゃったけどね。」
「その、ごめん…」
「いいさ、小さい頃の話だよ。」

「先輩のお父さんはどんな人だったの?」
「母さんによく叱られてる姿が印象的な、ダメ親父だね。
 約束すっぽかしたり、何日も家に帰って来なかったりっていうのは
 レジーナのお父さんと同じかな。」

「それで上手くいってたの?」
「槍杉家は基本的に女の方が強いから、丸く収まってたと思う。」
「そうなんだ…」

自分が父親と同じレイヴンになろうとしている。
学園に入ってレイヴンの大変さも少なからず分かっただろうし。
レジーナは複雑な心境なんだろうな。

「悩むのもいいけど、こんな時間だ。
 人気のない公園で女の子がぼーっとしてるのは危ない。送ろうか?」
「ありがと、でもいい。」
「そっか。」

「話聞いてくれて、ありがと。」
「気をつけてな。」
「じゃあね、先輩。」

少し元気を取り戻した彼女を見送りながら思った。
もうちょっと気の利いた事を言ってやれればなと…

レイヴンはいつ死んでもおかしくないんだ。
後悔の残るような別れ方は出来るだけしない方がいい。

「ふぅ…」
さてと、俺も家に帰るか。







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