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★その60

ゆっさ、ゆっさ、ゆっさ、ゆっさ、ゆっさ

「…てください、起きてください、ヨウヘイさん。」
「アイビス…?…もうちょっと…寝かせて…」
昨日、興奮してなかなか寝付けなかったんだ。もう少しだけ…

「今日は早く家を出るのではなかったのですか?」
そうだ、5人目ッ!

ガバッ

慌てて目覚まし時計に目をやると、起きようとしていた時間を少し過ぎていた。
「何で目覚ましが鳴らないんだよ。」
「ご自分で止められました。」

「こういう時こそ叩き起こしてくれよ、アイビス。」
「怪我が治るまで穏便に、という指示が出ていますが
 叩き起こされる方がお好みでしたか?」

拳を固めてみせるアイビス。
本気かジョークか分からないから怖いじゃないか。

「嘘です、冗談です、ごめんなさい。」
今こいつに殴られたら本気で危ない。
見かけによらず、凄い馬力だからな。
起きるどころか永眠してしまいそうだ。

って、まったりしている場合じゃない、急ごう。
「アイビスさん、着替えるから出て行ってくれるかな?」
「わかりました。」

着替えを済ませて1階に降りる。

「おはよう。」
「おはよう、洋平。」
「……………」
無視ですか、ベアトリスさん…

「なあ、機嫌を直してくれよ。無理してでも出る価値があるんだ。」
「………バッカじゃないの?死にかけて怪我も治ってないのに
 アリーナなんて…」
昨日、SPアリーナの事を話したらこうなっちゃったんだよな。

「洋平の気持ちも察してやれ、お前も分かっているだろう?
 またと無いチャンスなんだ。それに珍しく洋平がやる気になっている。
 応援してやろうじゃないか。」

「でも姉さん、アタシたち……………ああん、もう!」
2人の口論は続く。
珍しくセレン姉さんがこっち側に付いているからな、これは荒れるぞ。

まあ原因は俺なんだか、今は時間が無い。
ささっと朝食を済ませ、混乱に乗じて撤退する!

2人に気付かれないように、こっそりと居間を抜け出した。
声には出さずに、いってきま~す。

「ヨウヘイさん、忘れ物です。」
「うわぁ!」
びっくりしたぞ、アイビスか。
「弁当を忘れてたな、サンキュ。」

「事情も分かりますが、あまりベアトリス様を泣かせないでくださいね。」
「ちゃんと後でフォローするよ。アイビスもできたら頼む。」
「わかりました。」

家事全般から人間関係のトラブルまで何でもこなせる万能ロボ、アイビスさん!
本当に安かったんだろうか?何かの手違いで送られてきたんじゃ…
まあ何でもいいか。

「じゃ、いってくるよ。」
「いってらっしゃいです。」
アイビスに見送られて家を出た。

 ・
 ・
 ・

「ふぅ…」
学園に到着。ちょっと無理して急ぎすぎたかな、身体が痛い。
でも今は5人目が気になる。教室に急ごう。

ガラガラガラガラ

俺は教室のドアを開けるのと同時に問い掛けた。
「5人目は!?」

「よう、槍杉。まだなんだぜ、ヒャッハー!」
中にいるのは神威、ジナ、エクレールさんの3人だけだった。
5人目の到着前に間に合ったな。
 ・
 ・
 ・
それから20分ぐらい経っただろうか、まだ教室には誰も来ていない。
あんなに急ぐ必要なかったな…

「遅い、遅すぎる!私をこれ程待たせるとは…」
5人目にいきなり突っ掛かって揉め事を起こすのはやめてくれよ。
ジナがそろそろ痺れを切らしそうだ。早く来てくれ~
などと思っていたら教室のドアが開いた。

ガラガラガラガラ

5人目のレイヴンがその姿を現す。
この人は…

「ジ、ジノーヴィー先輩!!」
珍しくジナの声が裏返っている。
というかこんなに焦っている彼女を見るのは初めてだ。

★その61

「遅れてすまない。クライン先生から色々と聞いていてね。
 随分待たせてしまったかな?」
「そんな事ありません!みんな今来たとろこです。」
さっきと言ってる事が180度違うんだが…

「それはよかった。アリーナはチーム戦だ。頼りにしているよ、ジナイーダ君。」
「は、はい…先輩…」
ジナの声色が普段と全然違う。
キャラも明らかに変わっているぅ~

「ジノ先輩が加われば勝ったも同然だぜ、ヒャッハ~!」
「瑞穂、お前と共にアリーナデビューすることになるとはな。」
そういえば神威と先輩は保育園のボランティア仲間か。

勝ったも同然は言いすぎだけど、心強いのは確かだ。
先輩なら高確率で勝ち星をあげてくれるだろう。

勝ちたいのは俺たちだけじゃなく、学園長も同じなんだろうな。
地球と火星が注目するビッグイベントだ。勝てば学園のいい宣伝にもなる。

ジノーヴィー先輩は成績優秀ってだけでなく、人格者としても有名だ。
今回はチーム戦、協調性が無くて内部分裂したら試合前に負けてしまう。
レイヴン科は我が強いタイプ多いもんな。
偶然とはいえ一番心配だったジナを抑える形にもなってるし
学園長、ナイス人選だ。

「2人とは初対面になる。R-3-3、ジノーヴィーだ。よろしく頼む。」
「R-2-1、エクレールです。先輩のお噂はかねがね。
 同じチームで戦えるなんて光栄です。」
爽やかに挨拶を交わす2人。エクレールさんは人当たりが柔らかいからな。

「ど、どもっ、槍杉洋平です。クラスはみんなと同じR-2-1です。」
「君があの……………似ている…私に…」
似てる…か?
ジノーヴィー先輩は物腰や雰囲気がいかにも”できる男”って感じだし
ルックスもかなり整ってる。体格ぐらいしか似てないと思うんだが…

俺と同意見、というか寧ろ似てるって事に不服そうな人が若干一名
こっちを睨んでいるぞ、勘弁してくれよ…

自己紹介が済んだ俺たちは机を寄せて円卓を作り、話し合いを始めた。
先ずはジノーヴィー先輩が持ってきた新しい情報1つと、アイテム2つの説明。

スペシャルアリーナの対戦相手、火星代表校が
『MARS NINEBREAKER ACADEMY』―――通称MNAに本決まり。
AC学園に比べれば歴史は浅いが、ナインブレイカーの名を冠しているだけあって
生徒のレベルはかなり高いそうだ。火星で一番規模の大きいレイヴン養成学校らしいが
よく知らないからピンと来ない。
進学する時にリンクス科の無い学校は調べなかったからな。

アイテムその1、第3シミュレーター室の鍵。
アリーナ当日までシミュレーター室を自由に使ってもいいそうだ。
学園長の計らいだな。アセンを試しながら組めるので、これは凄く助かる。
ここを拠点にして準備を進める事になった。

アイテムその2、パーツカタログ。
コンコードが用意出来るパーツが載っているカタログだ。
ジオマトリクスやエムロード、バレーナは勿論、ミラージュ、クレスト、キサラギ
クロームやムラクモ製のヴィンテージパーツなんかも載っていて凄く分厚い。

ありがたい事にパーツは市場価格より少し安く表示されていた。
いつも授業で使ってるアセンを市場価格で計算すると恐ろしい額になったからな。
これで少しはマシになるか?

先輩の話しが終わってみんなでパーツカタログを見ていた時に
珍しく神威がまともな事を提案した。
「チームのリーダーを決めようぜ~ヒャッハー!」
全体をまとめたり、クライン先生とのやり取りをする
リーダー役は決めておいた方がいいな。
もう決まってるようなものだけど…

「ジノーヴィー先輩がいいと思います!」
直ぐにジナが反応した。いつもの彼女と違いすぎてちょっと気持ち悪いぞ。
まあ先輩がリーダーってのは異議なしだ。神威とエクレールさんも頷く。

「私を推してくれるのは嬉しいが、4人は同じクラスだ。やり取りがしやすい。
 君たちの中から選ぶべきだろう。同級生なら話しもしやすいだろうしね。
 それに私はリーダーという柄じゃない。」
どう考えても先輩が適任。引き受けてくれると思ったのに…
どうすんだ…これ?
 ・
 ・
 ・
「じゃあ、槍杉君はどうかしら?」
突然何言ってんの、エクレールさん!?
「ダメダメ、俺の方が柄じゃないよ。」
どう考えてもエクレールさんの方が適任でしょう。

「そうかしら?あの時は有無を言わせない迫力があったわよ。」
「あの時は必死で…」
「その必死さが今回も欲しい所だな、あのACを倒す作戦を指揮したのは君だろう?」
「そうですけど…」
おいおい、俺ほどリーダーシップと無縁の奴もそうそう居ないだろう。
勘弁してくれ…何でジノーヴィー先輩まで俺を推すんだよ。

「本当に俺でいいの?」
言い出しっぺのエクレールさん。ノリが全ての神威。
不服そうだが先輩が推しているから同意せざるを得ないジナ。
しまった…聞くべきじゃなかった。

「リーダーは槍杉に決定だぜ、ヒャッハー!」
墓穴掘っちまったよ…

___チームリーダーの称号を手に入れた!

「試合に向けて決めなきゃいけない事が沢山あるわね。
 どこから手を付ける?リーダーさん!」
「あの、えっと…」
戸惑っている俺をからかうかの様なエクレールさん。
授業中、後ろから何度もツンツンしたお返しだって顔をしてる。

何から決めればいいんだ…
「ジ、ジノーヴィー先輩はどう思います?」
早速、情けない状態になってるわけだが。

「急ぐのはアセンの確定と、優秀なオペレーターの確保だな。」
流石先輩、頼りになるぜ!
というか、やっぱ先輩がリーダーした方がいいだろう…

「第三者視点からのオペレートは重要だ。
 劣勢な時ほど視野が狭まり、状況判断を誤りやすいもの。
 優秀なオペレーターが欲しい。」

アリーナの試合中は外部との通信は禁止されているが
SPアリーナは学生オペレーターを1人つける事が認められている。
と、資料に書いてあった。

「頼めそうな生徒に心当たりはないか?」
オペレーター、オペレーター、そういえば…

⇒《あの人に頼めないかな?》
 《そんな人いないな…》

「あの、引き受けてくれるかは分かりませんが
 優秀なオペ科の生徒を1人知っています。」

「誰なんだぜ、ヒャッハー?」
「2年の女子でネル・オー……なんとかさん。」
ネルさんの名字忘れた…

「ひょっとしてネル・オールター?」
「そう、ネル・オールター!エクレールさん知ってるの?」
「直接知ってるわけじゃないけど、彼女有名よ。」
そうなのか?

「私も聞いたことがある。企業の社長令嬢で幼い頃から英才教育を受けて育ち
 極めて優秀だと。」
ネルさん社長令嬢だったのか、道理で言動がお嬢様っぽいわけだ。

「是非ともチームに欲しい。槍杉君、頼めるか?」
「了解です。」
一応のリーダーだし、少しぐらい貢献しないとね。

ざわ、ざわ、ざわ、ざわ…

教室にだいぶ生徒が集まってきたな。
「続きは放課後にしよう。朗報を期待しているよ、槍杉君。」
「昼休みに彼女の所に行ってみます。」

「ネルちゃんをしっかり口説いてこいよ、ヒャッハー!」
「へい、へい…」
知り合いでもないのに馴れ馴れしい呼び方しやがって。

でもよく考えると俺もネルさんとそんなに親しい間柄じゃないよな。
引き受けてくれるか?………まあ当たって砕けろだ!

★その62

昼休み、俺は昼食を手早く済ませて、ネルさんのスカウトに向かったのだが…
彼女がどのクラスか忘れた…2年だったのは間違いないんだけどな。

さっきから2年オペ科の廊下をウロウロしている訳だが
そうそう都合よくネルさんに会える筈も無く。

ヒソヒソ…ヒソヒソ…ヒソヒソ…ヒソヒソ…

周囲から視線を痛いぐらい感じる。
制服が違うから目立ってるんだろうな、と言いたい所だが…

もれ聞こえてくる声は―――
「あれって例の人じゃない?」
「やだ、怖い…」
「フライトナーズ呼んだ方がいいんじゃないの?」
「目を合わせちゃダメよ。何されるか分からないわ。」
せっかく女の園オペレーター科に来たというのに、何という居た堪れなさ。

「そこの君、オペレーター科に何か用か?」
「!?」
後ろから掛けられた声にビクッとする俺。
まさか本当に通報されたんじゃないだろうな。

「君か…」
声の主はラナ先生だった。

「不審者がうろついていて怖い。
 と、生徒から言われて様子を見に来たんだが。」
本当に通報されてた…

「あの、違うんです。人を探していて…」
「誰を何故探している?」
変な噂のせいで先生にまで警戒されているのか…

___ラナ先生に事情を説明した。

「事情は分かった。だが自分が周囲からどう見られているのか
 今どんな噂が流れているのか、考えて行動しろ。」
「すみません…」
神威のせいでこんな不自由を強いられるとは…

「ネル・オールターだったな、彼女は2組だ。」
「ありがとうございます。」
さっさと用事を済ませて離脱しよう。

「そういえば君にはまだ礼を言っていなかった。
 あの時、君たちが行動してくれなかったら、私もどうなっていたか…」
「ああ………いえいえ、お礼を言わなきゃいけないのは俺の方かもしれません。」

これは本当の話だ。
あの日はアイビスにボコボコにされた翌日で相当ヘコんでたからな。
ラナ先生の言葉がなかったら、あんなに能動的には動けなかっただろう。

事情を知らない先生は何の事を言われてるか訳が分からないだろうな。
説明するのも面倒だし行こうか。
「じゃあ先生、ありがとうございました。」

不思議そうな顔をしている先生と別れてO-2-2に向かった。

★その63

O-2-2
ここがネルさんのクラスだな。彼女いるかな?
教室の中を覗き込んでみると、ネルさんを発見。
友達っぽい人たちと談笑している。
昼食はもう済んでいるみたいだ、タイミングがいい。

でもどうしよう…
大声で呼ぶのも教室にズカズカ入っていくのも躊躇われるな。

ちょうど教室に入ろうとしている女生徒と目が合った。
俺を見ても怯えている様子は無い。彼女に呼んでもらおう。

「あの、ちょっといいかな?」
「何?」
「ネル・オールターさんを呼んでもらいたいんだけど。」
「いいわよ。」
学園中の誰も彼もが噂に踊らされてる訳じゃないんだな、うんうん。

「ネルー!やりすぎ王子があんたを呼んでるわよー!」
ちょッ、大声でなんて事を…
クラス中の視線が俺とネルさんに集中する。

慌ててネルさんがこっちに来た。
「あの、友達がごめんなさい…槍杉さんの事をあんな呼び方して…」
「いや、気にしてないからいいよ。」
本当は凄く気にしているんだけど…

「ネルさんにちょっとお願いしたい事があってさ。
 ここじゃ何だから、場所を変えたいんだけど…いいかな?」
「えっ、ええ。」

ネルさんは少し驚いた表情をしたが、俺の話しを聞いてくれた。
どうやら噂を鵜呑みにはしていないようだ。
彼女にまで怯えられていたら相当ヘコむ事になっていただろう。

好奇の目を避けて中庭に移動した。

「怪我、大丈夫なんですか?」
制服の下から覗く包帯はやっぱり痛々しく見えるんだろう。
「ああ、うん。見た目ほど酷くないから大丈夫。」
「そうですか、よかった。」
ほっと胸を撫で下ろすネルさん。
優しいな~

「あの、お願いっていうのは…」
「とりあえずこれを見て欲しいんだ。」
SPアリーナの資料を彼女に差し出す。

「……………槍杉さんこれに出るんですか?」
「学園長に薦められてね。」
「凄いじゃないですか!」
「うん、自分でもビックリしてる。俺の人生変わるかもしれない。」
「勝てば変わっちゃうかもしれませんね。」

よし、言うぞ!
「そこで…あの…ネルさんにオペレーターをお願いしたいんだ!」
「私…にですか…」
感触はイマイチ。ネルさんは何故私なんだろう?って顔をしている。

数回しか話した事ない奴にいきなりこんな事言われたら誰だって戸惑うよな。
不味い、断られそうだ。なんとかしなきゃ。

「こういうのに参加すれば内申も良くなると思うんだ。
 就職する時もきっと有利になる筈。」
「……………」
ネルさんの表情が明らかに曇る。

焦ってしくじった…
彼女がそんなのに釣られる性格か?全然違うだろうが。
めちゃくちゃ優秀なんだぞ?ほっといても引く手数多だろうが。
社長令嬢だぞ?就職なんて心配する必要ないだろうが。

彼女にメリットなんて無い。こんなの面倒くさいだけだ。
俺は馬鹿か、言ってから気付くなんて…
どうすればいいんだ?

 《このまま続ける》
⇒《正直に話そう》
 《多少強引にでも…》

「ごめん、さっきの無し、正直に言うよ。
 この試合にどうしても勝ちたいんだ。その為に力を貸して欲しい。
 授業で君にサポートしてもらった時、これが本物のオペレーターだと思った。
 卒業したらネルさんみたいな人と組みたいと本気で思った。
 君にメリットなんて殆ど無い。
 俺みたいなのと関わると、よくない噂をされるかもしれない。
 でも…どうしても…優秀なオペレーターが欲しいんだ。
 ネルさんが欲しい!……………駄目…かな?」

「……………」
思っている事は全て伝えた。
これで駄目なら、諦めるしかない…

「そこまでラブコールされると断れないですね。」
「いや、これは、その…」
「冗談ですよ。私でよければお手伝いさせて下さい。」
よっしゃぁぁぁぁぁ!!心の中でガッツポーズ。

「ありがとう、ありがとう、ありがとう、ネルさーん!」
「フフフッ、槍杉さん喜びすぎです。」
「早速、放課後みんなに紹介したいんだけど、いいかな?」
「はい。」

この一歩は大きいぞ、勝ちへの道が見えた気がする。

★その64

放課後、ネルさんの紹介は滞りなく済み
シミュレーター室で第1回SPアリーナ作戦会議が始まった。

ふつつかながら俺が進行役。
書記はネルさんが買って出てくれた。
彼女はこまめに議事録をとってくれている。

議題はアセンの予算配分をどうするか?
ここが決まらないとアセンを組めないからな。

提示されている予算は5機分のACを組める額。
でも全員の希望を叶えようとするとパンクしてしまう。
この微妙な予算が会議を長引かせている。
かれこれ3時間程経ったが、まだ決まっていない。

このままじゃ埒が明かないな…
ちょっと議事録を読み直してみようか。
ノートにはこれまでに出された意見が綺麗にまとめられている。

  • 3機に予算を集中させる。
 3勝すればいいんだから合理的だな。でも後の2機が酷い事に…

  • あらかじめ予算を5等分しておく。
 考えているアセンをみんなグレードダウンさせる事になるだろうな。

  • とりあえずジノーヴィー先輩を優先するべき。
 これはもうコメントの必要もないだろう…

  • 適当に組み、後で微調整。(大幅に調整する必要あり?)
 会議が長引くと、こういう投げやりな意見も出てきた。

大分するとこんな感じだ。
3機集中と5等分のどちらかに決まりそうで決まらない。
ずっと同じような議論がループしている。

頼みのジノーヴィー先輩は腕を組みながら静かに思案中。
頭の中で色々とシミュレートしているみたいだ。

外もかなり暗くなってきた。そろそろ門が閉まるんじゃないか?
こういう時はあんまり根を詰めてもしょうがないしな。
「あのぅ…みなさん。そろそろ門が閉まるし、続きは明日にしない?」

「待ってくれ、槍杉君!ようやく考えがまとまった。」
おお、やっと来た。待っていましたよ先輩!

「3機集中と5等分、どちらがベストな選択か…ずっと考えていた。
 確かに3機集中の方が勝算は高い。だが落とし穴もある。
 勝ちを取りに行く3機の内、1機でも負けた場合だ。
 残りの2機が勝つのは難しいだろう。
 私は予算を満遍なく5等分すべきだと思う。」

勝ちを見込んでる3機の中で1敗すれば殆ど負け確定だもんな。
言われてみればリスクも大きい。
相手に化け物じみた奴が潜んでいる可能性だってある。

「槍杉君はどう思う?君の意見を聞きたい。」
「俺ですか…」
そういえば司会進行に徹してて、あまり意見を出していなかったな。
俺は…

 《3機集中を推します!》
⇒《5等分がいいのでは?》
 《適当にいきましょう!》

「俺も先輩と同意見ですね。5等分がいいと思います。」

「ちゃんと理由はあるの?先輩の考えに乗っているだけに聞こえるんだけど?」
エクレールさんの語気が荒い。それに酷い言われようだ…

まあ彼女はこのチャンスに賭けているからな。
なかなか話がまとまらなくてイラつくのも分かる。

「理由はちゃんとあるよ。先輩とは少し違うのがね。
 3機集中にした場合、余り予算で組んだ2機は酷いアセンになると思う。
 勝った時にそんなACを貰っても嬉しさ半減じゃない?
 それに余り予算の2人が捨て石みたいじゃないか。
 そういうのって何かイヤなんだよ。
 全員で勝ちに行きたいんだ、甘いかな?」

な~んて、カッコよく言ってみたけど。
3機集中にした場合、順当にいけば先輩、ジナ、エクレールさんが上位陣。
産廃機は俺と神威の2人になる可能性が高い。
俺もやっぱりそこそこのACが欲しい!という打算があったりするのだ。

ジノーヴィー先輩以外はこいつも一応考えてたんだって顔をしている。
俺ってどんだけ馬鹿だと思われているんだろう。

「ごめんなさい…その、イライラして当たって…」
「いいのいいの、気にしないでよ、エクレールさん。」
それだけ真剣なんだよね?

「私が口を挟むべき事ではないかもしれませんが…」
「そんな事ないんだぜ?ネルちゃんもチームの一員だからな、ヒャッハー!」

「ジノーヴィー先輩の判断は正しいと思います。
 出場メンバーの発表は事前に行うが
 オーダーは当日まで秘匿すると資料に書かれています。
 相手の出方も分からない状態で3機に全てを賭けるのは愚策かと…
 それに槍杉さんの考えにも賛成です。」
「ありがとう、オールター君。他のみんなも考えを聞かせて欲しい。」

「先輩の考えに賛成です!」
何度見てもこのジナは気持ち悪いな…

「予算を5等分する…これしか無さそうですね。」
エクレールさんも賛成。

「いいんじゃねーの?ヒャッハー!」
こいつはいつも通り。

「ふぅ…全員一致、やっと決まりましたね。」
長かった…

「実は4機集中にして1機を捨てるのもアリかと考えていたんだが
 必要なかったな。槍杉君の考えもよく分かる。」

あぶねぇ…こんな案が通ったら産廃機をめぐって
神威と醜い争いをしなきゃいけないところだ。

「もう遅いし、今日はここまでにしましょう。
 各自予算内で自分のアセンをある程度再構築して
 明日の朝、またここに集合って感じでどうかな?」

異議なし、みんな同意してくれた。
明日までにアリーナ用アセンの叩き台ぐらいは作っておかないとな。

こうして第1回SPアリーナ作戦会議は終わった。

★その65

「ふぅ…」
みんなと別れて自転車をとめてある駐輪所に向かう。

これからBARテックスに寄りたいのに、かなり遅くなっちゃったな。
一応、姉さんに遅くなるってメールしておこう。
ピッ、ポッ、パッと。

「槍杉…」
「うわぁ、ジナか…ビックリした。どうしたの?」
暗がりからいきなり出てくるとか心臓に悪いよ。

「お前さっき私を見て笑っていたな?」
「えっ!?」
な、何の事を言っているのか分からない。
会議中の事か?

「先輩に期待されているからといって調子に乗るなよ…
 お前がリーダーというのも本来なら有り得ないんだぞ。」

「あ、あれは、みんながやれって言うから
 ジナだってやれって言ってたじゃないか。」

「うるさい、黙れ!」
理不尽だ、理不尽すぎる。

「ここで再起不能にしておくか…
 お前の代わりなら直ぐに見つかるだろう。」
「ちょ、何でにじり寄ってくるのさ?」

「安心しろ命までは取らない。」
安心できねーよ。
な、何でこんな事になっているんだ?

「ま、まて!話し合おう、話せば分かる。」
「……………」
ジナの歩みは止まらない、問答無用かよ。
目が本気だ。殺られるぅ~

こんな所でアリーナ出場を断念するなんて、有り得ないぞ。
どういう展開なんだよ!
くそっ、ジナを止めるには…

「ジ、ジノーヴィー先輩と仲良くなれるよう手を貸す!
 こ、これでどうだ?」

ピタッ…

と、止まった。
「な、何故…私が先輩の事をす、す…好いているのを知っている!?」
何故も何も、一目瞭然じゃないか。
エクレールさんもネルさんも気付いているだろう。
分かってないのは神威と、当の本人である先輩ぐらいだ。

「いや、何となくそうじゃないかな~と思って…」
「お前がこういった事に鋭いとは…意外だ…」
普通は気付くレベルだろ。

「その…本当なんだろうな…先輩と…その…」
あの!
あのジナが!!
モジモジしている!!!

先輩の前での猫かぶりは正直キモいけど
こっちはちょっと可愛いかもしれない…
純粋に応援してあげたくなるな。

「アグラーヤ先輩を殺せとか物騒なのは勘弁だけど
 普通の事なら手伝うよ。」

「ほ、本当か!私はこういった事に不慣れで…
 その…戸惑っていたんだ。」
戸惑った結果が、あの猫かぶりキャラなのか。
無意識にしろ、故意にしろ絶望的だな。

「とりあえず先輩の前でもうちょっと自然にしてみたら?
 慕ってるというより、腰巾着みたいな感じで変だよ。」
「そ、そうか…努力してみる…」

ジナは身なりにあまり気を使ってなさそうだけど、元の素材は良いんだから
普通にやってりゃ、いい線行くだろうに…こいつも不器用だな。

「ひとつ聞きたい事があるんだが…」
「何?」
「やはり…男は…その…胸の大きな女が好きなものなのか?」

うむ、見事なまな板だな。
『貧乳』――その称号は君にこそ相応しい。
コンプレックスなんだろうか?

そうだな…

 《好みによるんじゃないかな?》
⇒《貧乳に生きてる資格無し!》

「貧乳に生きてる資格無し!」

「やはり…そうなのか………」
調子狂うな~
襲い掛かってくると思って身構えてたのに、マジ凹みしてるよ。

冗談でちょっと言ってみただけなのにな…
これじゃ俺が苛めてるみたいじゃないか。
ちょっとフォローしておこう。

「冗談だよ、冗談!そんなの人の好みによるでしょう。
 俺はジナぐらい控え目なのも素敵だと思うよ!」
「お前に言われても嬉しくない…」
強くて、不遜でカッコイイ!
いつものジナイーダは一体何処へ行ったんだ。

「ジナはかわいい系で攻めるよりカッコイイ系で攻めた方がいいんじゃないかな?
 自分の得意分野は活かさないとね。
 アリーナで良いところを見せれば、先輩のジナを見る目も変わるかもよ?」
「そ、そうか、その手があったか!」

ジナを立ち直らせつつ、チームの士気を向上させる。
我ながら完璧な作戦だ。

「時間が惜しい、帰って最強のアセンを考えなければ!
 槍杉、お前は天才だ。私が認めてやる!」
ジナはスキップしながら行ってしまった。

初めて会った時、彼女のこんな姿を誰が想像出来ただろうか?
恋の病とはよく言ったものだ。

「ふぅ…」
随分と時間を食ってしまったな。
BARテックスに行こう。

★その66

一応、入院している時に電話で事情は説明したけど
やっぱりクビだよな…
2週間も休ませて欲しいなんて…
入院してた期間も合わせると1ヶ月近いもんな…

「ふぅ…ちょっと憂鬱だ。」
でもバイトしながらアリーナの準備は正直辛い。

ごちゃごちゃ考えてるうちにBARテックスに着いてしまった。
ちゃんと話しをしなきゃな、事務所に行こう。

コン、コン

「失礼します。」
「君か…」
事務所の中に居たのはマスターだけだった。
ンジャムジさんはカウンターに出ているんだろう。

「もう出歩いても平気なのか?」
「はい、怪我の方は…それとは別にちょっと聞いてもらいたい事があって来ました。」

___スペシャルアリーナの事を話した。

「そうか…あれに出るのか…」
「マスター、知っているんですか?」
「一部では既に話題になっている。企業も協力している大プロジェクトだからな。」
そうか、それでカタログのパーツ価格が割安に設定されていたんだ。

「今週中にも大々的な発表があるだろう。そうなれば君も有名人になる。」
「そう…ですね…」
「どうした?浮かない顔だな。」

「あの…それで2週間ほどバイトを休ませてもらいたいんですが…」
「……………」
マスターの表情は全く読めない。

「やっぱり、クビ…ですよね…」
「クビだな…」
当然だ、3週間も空ける事になるんだから。
新しい人を雇った方がいい。

「長い間、お世話に―――」
「アリーナで負けたらクビだ。」
「へっ?」
「うちを休んでアリーナに出るんだ、当然だろう?」

「マスター…」
「それに弱者はBARテックスに必要ない。君の力を見せてもらおう。
 アリーナにはンジャムジと一緒に行かせてもらうよ。」

「あ、ありがとうございます。」
負けられない理由が増えたな…
元から負けるつもりなんて無いけどね。

「私からひとつだけアドバイスを送ろう。アリーナも戦場と同じ
 どんな手を使っても最後に立っていた者が勝者だ。それだけは忘れるな。」
「は、はい。」
マスターってアリーナファンなんだろうか?
やけに詳しそうだな…

「もう行きたまえ、君にはやるべき事が山のようにあるはずだ。」
「はい、ありがとうございました。」

事務所を出てからドアに向かって
正確にはドアの向こうにいるマスターに向かって一礼した。

必ず勝って戻ります…




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