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「ここは・・・」


インターネサインの崩壊の音を聞き彼の意識は途切れた。


機体の負荷限界は既に臨界点を突破し身体へのダメージも既に手遅れだった。


それなのに――


「橋・・・これは海か・・・?」


紅く染まる空―どこまでも伸びる、橋、空。世界の終点を思わせた。


「美しい・・」


海中に沈みかけた旧時代を思わせるビルも、朽ちかけ、今にも崩れそうな程なのに


「それさえもこの世界に溶け込んでいる――死後の世界とは、なかなか乙なものだな」


機体も、身体も、どこにも異常がない。彼、ジャック・Oは果ての見えぬこの橋に機体を奔らせる。





「侵入者確認。識別コード該当無し。外見からハイエンドノーマル1機と推定」


ラインアーク管制室にアラートが鳴り響く。今までに企業による威力偵察は何度かあった


それでいても今度は何だ。目標は突然現れた上にハイエンドノーマル1機とのこと


「ハイエンドノーマル・・まさかレイヴンがまだ残っていようとはな・・」


先日襲撃を受けてノーマル部隊が壊滅しているラインアークとしては、防衛戦力が「彼」しかいなかった


過剰戦力ではあるが止むを得ない。回線を開き、「彼」の専属オペレーターに出動を要請する


「フィオナ・イェルネフェルト。侵入者だ。ホワイトグリントは出せるか」


短い溜息の後、美しい声が返事をする


「また・・ですか。問題はありません。210秒後には出撃できます」


通信は一方的に切られた







「大丈夫?無理しないでね・・」


「彼」の頬にそっと触れる。


「――――。」


「そう、早く帰ってきてね」


その声は既に消え、彼女にしか通じない声となっていた。


「彼」を蝕む毒は既に声帯を焼き、五臓六腑を散々に痛めつけていた。


何故、こんなにも打ちひしがれながらも戦うのか。本当は知っている。私の為なんだと。


祖父が残した技術が世界を争いへと導いたのだと知っている。それを使用する巨悪を打ち倒すことが私の為だと信じている。


ずっと言えないでいるけど、実はそんなことはどうでもいい。ただ「彼」さえ生きていてくれれば、それでいいんだ


でも止めることは出来ない。戦うことに喜びを感じているようには見えない。だけど戦いこそが彼の人生なのだと、そう思うから。


「気をつけて、帰ってきてね」


ただ彼を送り出す事しか出来ない。そんな自分が嫌になる。







―目標を確認。重量2脚型ハイエンドノーマルと断定―


―機体構成を確認。現存企業に該当無し。旧国家属に類似するパーツ群確認―


―照合開始・・・該当無し。未確認機と断定、警告に移る―


「こちらホワイトグリント、オペレーター、フィオナ・イェルネフェルトです。貴方はラインアークの主権領域に侵入しています。すぐに引き返しなさい」








白い閃光が目の前に降り立つ。停止してからようやくACだと分かる速さだった。


見たことも無い機体だが・・彼らが言うにはここはラインアークという者の領域らしい。


「死後の国ではなかったのか・・」


しかし引き返せと言われてもどこに引き返せばいいのか、ジャックには分かりかねることだった。


『さもなくば、実力で排除します』


(つくづくレイヴンなのだな、私は・・)


こうしてまた戦うということに喜びを感じる。生きているという証なのだ。


ここがどこか分からない、それでも私がいたということを、彼らが覚えていてくれればそれでいい


ハイレーザーのトリガーを絞り白い機体に撃ち込む








こうなる事は分かっている。それでも「彼」の負担が少しでも減る可能性があるなら、と。


警告は無視されたが、時代遅れの機体なら「彼」の敵ではない。


早く帰ってくるであろう「彼」の為に、コーヒーでも用意してあげようかと彼女は考え――


そこでまた自己嫌悪に陥る。「彼」が戦っている時に何を考えているんだ。万が一もないだろうが、それでも万全の状態で戦えるようにするのがオペレーターの


仕事ではないか。


「どうして、私はこうなんだ・・・」






「彼」は懐かしさを感じていた。FCSの予測を逆手に取る回避運動。相手の移動先を読んでの射撃。どれもレイヴン時代に持っていた技術だ。


―ノーマル乗りとは違うな、やはり―


それでも機動力の差は歴然だった。ミサイル・ハイレーザー・グレネード、装備は多岐に及ぶがどれも「彼」を捉えることは無かった。


それに比べ彼の射撃は着実に敵の四肢を打ち抜いていった。重厚な装甲ではあるが、もはや限界だろう。


はかなげな駆動音を響かせ、敵は何を思うのか。何をこうも動かすのか。


思想する「彼」についにハイレーザーが届く。







ついに捉えた。が寸前で光が弱まったように見えた。敵を球状に包む何かがある。あれを崩せば―


――I wanna blood, fall down――


既に限界を超えている。APは当に尽きた。セーフティは切る。どこまで動けるかは分からない。


――I can`t blood, fall down――


グレネードが命中する。敵を包む球体が霧散する。淡い翠の光が風にのってたゆたう。


機体を保護するスクリーンがあるということは、本体の装甲を薄い筈、もう一度ハイレーザーを叩き込めば或いは勝負は分からないだろう。


眼前からフッ、フッと消える機体をレーダーに捕らえながらその一撃を加える為にトリガーに指を当てる。


そのジャックの眼前に黒い点が見えた。点は別れ、16の黒い牙はジャックに向かっていった。


――You said "blood fall down of You"――








目覚めた時、ベッドの上だった。


四方をガラスに囲まれている。目の前のガラスが左右に開き、車椅子の男とスーツ姿の女が入ってくる。


「レイヴン、気分はどう?」


「全身くまなく痛むな・・」


そう、と女は呟きノートを取り出す。


「貴方がラインアークに攻め込んだ理由は?」


唐突な質問だった。だがジャックは答える言葉を持ち合わせていない


「分からない。気がつくとあそこに居たのだ」


そんな事、と食ってかかろうとする女を男が手で制した


「――――。」


強化人間の耳を持ってしても聞き取れなかった。しかし女は聞き取れているようで、代弁した


「「君と俺、共にレイヴンだ。言葉は要らない。だろう?」と彼は言っています」


「―――。」「「暫くはここでゆっくりしていくといい」と。」


どうやら、まだ生かされているようだ。そして戦いの最中思ったことを口にする


「私を雇ってみる気はないか」


女は面喰らったような顔をしたが直ぐに真顔に戻り「何故ですか?」と聞き返す


「私は何故あそこに居たのかも分からない。全壊した機体も、生を終えたこの身体も、何故あそこに元の姿を取り戻せたのか、分からない」


「何を言って・・」


ジャックは続ける


「しかし、ここで何か私に出来る事があるから、この世界に来たのだろう。それを探させてくれ」


それを聞いた男は笑顔を見せて女に何か言った


「「アブ・マーシュに君のネクストACを作らせよう」、って何を考えてるの!?」


女が通訳しながら驚く、こんな表情も出来るのかと、実に活き活きしている


「貴方だって実は危なかったじゃないの!PA吹き飛ばされて!」


怒鳴り続けて最期には涙ぐみながら「心配したんだから」と呟く。男は苦笑しながら女を連れて出て行く。


最期にこちらを一度振り向いて一言言った。今度は聞き取ることが出来た


『またな、レイヴン』




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