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★その47

「姉さん、姉さん、アイビス凄かったのよ。
 帰りにアーケード・コアの新しいのをやったんだけど、兄さんに勝ったんだから。」
「ほぉ、やるじゃないかアイビス。」

「恐縮です。ヨウヘイさんは手を抜いたと仰っていましたが
 本気だったと思われます。」

「ええッ!兄さん本気だったの?ゲームで本気出すのは大人気ないとか
 本気を出せば一発とか言ってたわよね?」
「矮小な人間特有の”負け惜しみ”という行為だと思われます。」

「……………」
「洋平、お前という奴は…情けない。」

「アイビスが学校に行って勉強した方がいいんじゃないの?」
「それもいいかもしれんな。」

「その方が効率的です。私は学校に行きますので
 ヨウヘイさんは家事をお願いします。」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

ガバッ

ゆ、夢か…それにしても酷い内容だった。
夢にまで見るなんて、昨日の事がそんなにショックだったのか…
変な汗までかいてるし、寝て起きただけなのに妙に疲れてる。

「ふぅ…」
着替えて1階に行こう。

「今朝は早いな、洋平。」
「おはよう、兄さん。」
「おはようございます。」

「おはよう…」
あんな夢を見たせいで3人と顔をあわせ辛い。

ええい、何を気にしているんだ。あれはゲーム、そうゲームだ。
どんなに良くできていてもゲームじゃないか。

「――ヴン科には慣れてきたか?」
「えっ?」

「人の話を聞いていないのか?レイヴン科には慣れてきたかと聞いているんだ。」
「ま、まあボチボチです…」

「なんだ、歯切れの悪い答えだな。」
「そ、そんな事ないよ…」

昨日アイビスにコテンパンにされるまでは
それなりに自信があったんだよ、姉さん…

ああ、駄目だ…朝食も喉を通りにくい。
ちょっと早いけど学園に行こう。

「行ってきます。」
逃げるように家を出た。

★その48

「ふぅ…」
モヤモヤした気分のまま学園に着いてしまった。
これじゃいかんな、なんとか払拭せねば…

「早いじゃないか、槍杉君。」
「ラナ先生…おはようございます…」

「朝から浮かない顔だな。」
やっぱり顔に出てるんだ。

「先生、変な事聞いてもいいですか?」
「なんだ?」

「アーケード・コアって知ってます?」
「ACの操縦を擬似的に体験できるゲームのことか?
 本職のアーキテクトやレイヴンが製作に協力していて
 なかなか良くできているそうだな。」

「ですよね…」
聞かなきゃよかった。

「だが所詮ゲームだ。実際のACとは違うだろう。」
「ですよね!」
この言葉が聞きたかった!

「ラナ先生、ありがとうございました!」
我ながら単純である。

別に誰でもよかったんだ。誰かにあれは所詮ゲームだって言って欲しかった。
ただそれだけ。

う~ん!だいぶ楽になったな。
ウジウジしてたのが馬鹿らしい。
さあ、教室に行こう。

「おはよう、神威!」
「よう、槍杉、ヒャッハー!」

「おはよう、エクレールさん!」
「槍杉君、おはよう!」

神威は常にご機嫌だけど、今日はエクレールさんもご機嫌だ。
鼻歌を歌っている。

「エクレールさん、何かいいことでもあったの?」
「今日は午後から『近接戦闘』の授業があるじゃない。
 しかも久しぶりに実機に乗れるのよ。」

ああ~、なるほど!そういえばそうだったな。
レイヴン科は学園の敷地内で本物のACに乗れる授業が結構ある。

「こんなに楽しい事はないわ!」
「ブレード好きだね~」

よし、俺も気合を入れていこうか。

★その49

午前中の授業は雑然と過ぎ、待ちに待った近接戦闘の時間がやってきた。
俺たちはパイロットスーツに着替えて、校舎から離れた演習場に集合している。

訓練用とはいえ本物のACが4機も並んでいる様は壮観だ。
シミュレーターとはやっぱり違う。
そういや、小さい頃を除けば本物のACに乗るのはこれで2回目なんだよな、俺…
ちょっと緊張してきた。

担当教師のポーキュパイン先生が授業の趣旨と注意事項を説明している。
「いいかみんな、今回はブレードの間合いの取り方を身体で覚えるのが目的だ。」
間合いか…エクレールさんがよく言ってるやつだな。

「ブレードのみを装備した機体を用いて1対1のタイマン形式で訓練を行う。
 ブレードの先から本物のレーザー刃は出ないが
 代わりにホログラムの刃が出るようになっている。」
成る程ね、実際に斬り合ってたらACがいくつあっても足りない。

「ホログラムに反応してHit確認が自動で行われる仕組みだ。
 撃破判定、もしくは3分経過で訓練終了とする。
 機体同士の接触には十分注意するように。無理に勝とうと思うなよ。
 あくまで間合いの訓練だということを頭に置いておけ。」

接触事故を起こしたら、むちうちぐらいにはなりそうだな。
気をつけよう。

「では組み合わせを発表する。」
どんどん組み合わせが発表されていくが、嫌な法則に気付いてしまった。
どうも教室の席が近い者同士を組み合わせてるような…
エクレールさんが当たりませんように。

「槍杉、神威。」
よし!外れた。

「ボコボコにしてやるぜ槍杉、ヒャッハー!」
「へい、へい。」
こいつは授業の趣旨を全く理解していないな。

「エクレール、ジナイーダ。」
これまた興味深い組み合わせ。
近接戦闘断トツのエクレールさんと戦闘民族ジナイーダさんか。
面白いカードだ。

「―――以上だ。漏れている者はいないな?
 今回はACの使用を4機許可されているので
 前の組が訓練を行っている間に、次の組の者はブレードタイプの設定と
 コックピットのシート調節を済ませておくように。
 授業をスムーズに行う為にテンポよく動け。」

「「はい。」」
緊張感の漂う授業だ。流石にふざけてる者はいない。
「では最初の組が01、02に、次の組が03、04に搭乗。設定を済ませろ。」

こうして本物のACを使った授業が始まった。
ポーキュパイン先生と順番待ちの生徒は、少し離れた場所から斬り結ぶACを見学中。

先生が通信でアドバイスを送っているが
上手くブレード当てる事ができる人は少ない。
ちょっとグダグダな展開やタイムオーバーで終了ってパターンが殆どだ。

シミュレーターと違って本物のACに向かって突進するのは
やっぱり怖いよな。
誰でもエクレールさんみたいにブレードが得意なはずもなく。

彼女の方に目をやると、午前中にあんなにご機嫌だったのに何故かションボリした様子。
「あんなに授業楽しみにしてたのに、どうしたの?」

「…まあ実機に乗れるのは凄く嬉しいんだけど。
 4機とも中量二脚っていうのでガッカリ。
 ブレードといえば軽二でしょ?」
「そ、そうなの?」

「デュアルブレードを設定出来ないのが更にガッカリ…」
そういう事か。
ACの左手にしかホログラム刃を出すブレードは付けられていない。
でも無茶言いすぎですぜ、エクレールさん。
実機に乗らせてもらえるだけでも有難い事だよ。

「ブレードの長さとかを好きに設定できるだけマシだと思わなきゃ。
 せっかくの機会なんだし。」
「そうね、せっかくの機会だものね。」
ちょっとは気が晴れたみたいだ。

「槍杉神威組、次はお前たちだ。槍杉03、神威04に搭乗。
 前の組が終わる前に準備を済ませろ。」
とうとう俺の番が来た。怪我をしないように気合を入れていこう。

03のコックピットに入って先ずシート調節を入念に行った。
しっかり身体を固定しないとマジで危ない。

得物はやっぱり使いやすいロングブレードだな。
見栄張って扱いが難しいブレードにしても
一太刀も浴びせられなかったら本末転倒。

設定が済むのと同時に前の組が終わったみたいだ。
「ふぅ…」
いくぞ!

「03と04中央へ移動。」
「了解。」
「ヒャッハー!」

「次の組、エクレールは01、ジナイーダは02に搭乗しておけ。」
世紀の対決なのに俺達のすぐ後か、見れないかもしれないな…

おっと、そんな事を気にしてる場合じゃない。
集中しよう、怪我の元だ。目の前の相手に全神経を向けよう。

「準備はいいか?」
「はい!」
「ヒャッハー!」
先生からの最終確認に答えた。

「では――」

ピンポンパンポーン

『ポーキュパイン先生、お電話が入っております。至急職員室までいらしてください。』

「聞いての通りだ。両名ACの中で待機しておけ。
 絶対に勝手に始めるなよ。直ぐに戻ってくる。」
「わかりしました。」
「了解だぜ、ヒャッハー!」
思わぬ所で水を差されてしまったな。

「ふぅ…」
緊張の糸が一気に切れた。
良い感じに集中できてたのに…

「俺様のブレードの錆になるのが少し先送りになったな、ヒャッハー!」
神威からの通信だ。こいつは緊張とかしないんだろうか?

「お前の得意な脚部はタンクだろ?しかもブレード使ってる所なんて見たこと無いぞ。」
「ちょうどいいハンデなんだぜ、ヒャッハー!」
授業の趣旨を無視してる上に自信満々だな。

ピンポンパンポーン

また放送か…今度は何だ?

『学園に未確認AC接近、未確認AC接近。
 生徒のみなさんは直ちにシェルターに避難してください。
 これは訓練ではありません。シェルターに避難してください。』

それはあまりにも現実離れした内容だった。
クラスの誰一人として動けないまま立ち尽くしている。

今日はエイプリルフールじゃ…ないよな…?

★その50

俺の思惑はけたたましい音を立てながら姿を現した
黄色い重装二脚のACによって破られた。

やっと状況を把握したクラスメイトたちを恐慌が襲う。
正常な判断力を失った奴らが散り散りに逃げ惑い、事態は悪化。

こんな時に頼るべき先生が居ないのが致命的だった。
俺が「みんな落ち着け!」と言っても無理な話だろう。
演習場に出ていた俺たちは完全に逃げ遅れてしまった。

「クソ…」
どうすればいいんだ?
みんなの避難が終わるまで時間を稼ぐか?
でも武器無し、OB無しの訓練用ACでやれるのか?
下水道で倒したMTとは訳が違うんだぞ?

俺が行動を決めかねている数瞬の間に希望の光がやってきた。
「こちらシューティングスター、あとは任せろ!」
頼もしい通信と同時にACのブースト音。警備ACのお出ましだ!
助かった、対応が早い。

シューティングスターはそのまま襲撃者に突進していき、迎撃行動を開始した。
両者のブレードが交差する。

「警備ACに任せて俺様たちもトンズラしようぜ、ヒャッハー!」
神威の言うとおりだ。ここはプロに任せるべき場面。
「ああ、ACを捨てて俺たちも逃げよう。」

「ちょっと待って!戦場が近すぎるわ。
 流れ弾がみんなに当たってしまうかもしれない。」
エクレールさん…

「ACに乗っている私たち4人で逃げ遅れてる奴らの壁役か…
 不本意だが、協力しよう。」
ジナイーダさんも…
己が保身を第一に考えた自分が情けない。

女性陣はこんなに勇ましいのに、俺と神威はどうだ?
情けなさ過ぎるだろう…
これじゃ男が廃るってもんだ。

「2機のACと逃げ遅れている人達の間に入ればいいんだね?
 2人だけに任せるわけにはいかない。神威、俺たちも協力するぞ。」
「ちくしょう…しょうがないんだぜ、ヒャッハ…」

「全員参加ね。コアで攻撃を受け止めるのは危険だわ。
 両腕でコックピット周辺を守りながら行動しましょう。」
「「「了解。」」」
エクレールさんに同調した俺たちは即座に作戦を行動に移した。

各機散開して散り散りに逃げているクラスメイトの壁役に徹する。
反射で避ける癖がついてる攻撃をじっと我慢するのは想像以上に辛い。

警備ACは周りに気を配っている余裕がないのだろう、戦場を広げている。
素人目に見ても押され気味。いや、かなり劣勢か…?
颯爽と現れた時の勢いが全く感じられない。

そしてとうとう――

襲撃者のバズーカとブレードのコンビネーションに捕まり
「しまった!!」
搭乗者の呻き声が通信から聞こえ

ボボボボボボボボボボボボボボボボ…

――警備ACは爆散

こんなにあっさりと…これが実戦…AC戦なのか…?
ただただ、呆然と立ち尽くすしか俺には出来なかった。

一仕事終えた襲撃者はこっちの事情などお構いなしに悠然と向き直り
次の獲物を値踏みし始めている。

光を帯びたカメラアイが「次はお前たちだ。」
そう言っているように見えた。

★その51

「おい、警備ACがさっくり殺られちまったぜ、ヒャッハ…」
「落ち着いて、神威君。学園の警備ACは1機だけじゃないはず。
 レイヴン科の先生たちだっているのよ。直ぐに援軍が来てくれるわ。」

エクレールさんの言うとおりだ。
重装ACの襲撃から時間が経っている。
直ぐにでも援軍が到着していいはず。
いや、もう到着していないとおかしい…なのに何故来ない?

「訓練用ACに乗っている4人、聞こえるか?」
通信?!この声はラナ先生か。

「不測の事態が起こった。全ての格納庫の扉がロックされていて
 開錠にもう少し時間が掛かる。」
以前、学園長が話していた間諜の仕業?

「迎撃に出られたのは周囲を巡回していたあのAC1機だけだ。」
なん…だって?援軍が期待できない?

「無理はするな、お前たちは機体を捨てて逃げ―――」

ズガアァァァン!

襲撃者が校舎の一角をバズーカで吹き飛ばすのと同時に通信が途絶えた。
ラナ先生、まだ避難していなかったのか?

なんて事だ…やりやがったな…
「この野郎ぉぉぉ!」

「挑発に乗るな!私たちを誘き出して各個撃破するつもりだ。」
頭に血が上って飛び出そうとした俺を引き止めたのは
ジナイーダさんからの通信だった。

「武装が無いとはいえ、こちらは4機。一斉に攻められれば厄介なのは間違いない。
 向こうも内心焦っているはずだ。」
言われてみれば確かに…

「学園を攻撃するのが目的だとすると
 先に邪魔な私たちを片付けておきたいんでしょうね。」
エクレールさんの推測も恐らく正しい。

その証拠にさっきの一撃以降、襲撃者は校舎を攻撃していない。
こちらの出方を窺っているようだ。

「相手がハイパワーな重装型でも、四方から一斉に飛び掛れば押さえられる。」
「おい、ジナイーダ。まさか俺様たちだけで
 あのACをやるつもりなのか?ヒャッハ…」

「当然だろう?これだけ好き放題されて黙っていられるか。」
逃げ遅れたクラスメイトの避難は完了している。

闘争か?
逃走か?
どうする?

 《やるしかない!》
⇒《危険すぎる…》

一斉に飛び掛るって事は、相手に向かって突進するって事だろ?
被弾する確率は跳ね上がる。
ジナイーダさんは自分の力を基準にして考えているんだ。
危険すぎる…

「誰か1機に攻撃が集中した場合を考えるとリスクが高い。
 それに全員で行っても押さえられなかったら
 相手はブレードを持っているんだ、斬り刻まれる可能性も…」

「ではどうするつもりだ?こちらには武器が無いんだぞ。」
「やっぱり、逃げた方がいいんじゃないか?ヒャッハ…」

「……………武器はある。」
そう、武器はあるんだ。

「適当な事を言ってるんじゃないだろうな?」
「上手くいけば、あのACを撃破できるかもしれない。」

「面白い、その話に乗ろう。私はどうすればいい?」
「ジナイーダさんには5分…いや3分だけ時間を稼いでもらいたい。」

「囮役というわけか。」
「無理はせず、逃げに徹して欲しい。」
「いいだろう。」

「エクレールさんは俺と一緒に来て。」
「わ、わかったわ。」

「よし決まりだな。モヒカンは私と一緒に来い。弾除けぐらいにはなるだろう。」
「俺様も強制参加の上、囮役かよ~。ヒャッハ…」

自分で言い出したんだが、急ごしらえの作戦。本当に成功するのか?
いや、成功させるんだ。何としても…

「行くぞ。」
言うが早いか、ジナイーダさんが飛び出した。
神威もおっかなびっくり、それに続く。

襲撃者の注意が2人に向くのを確認してから
俺とエクレールさんは真逆の方向に移動を開始した。

俺たちが目指しているのは”用務員室”。
あそこにはとっておきの武器がある。

プレハブ小屋に到着して直ぐに生体スキャンをしたが、中に反応は無い。
丁寧に取り出してる暇は無いからな、好都合。

「ド・スさん、ごめん…」
用務員室の天井をぶち抜いて中から強引に射突ブレードを取り出した。
後は硬そうな資材…よし条件はクリア。

「どうしてこんな物が、こんな所に?」
「話は後だよ、エクレールさん。」
「ええ、ごめんなさい。」

「この後の事を説明するよ。作戦は至ってシンプル。
 レーダー上はACが1体に見えるぐらい密着して目標に突っ込む。
 前衛の陰に後衛がすっぽり隠れて
 後衛の存在を相手に知られなければベストだね。」
「オーケー。」

「前衛がディフェンス、この資材を重ね合わせた盾を使って接敵まで後衛を守る。
 後衛はオフエンス、射突ブレードで目標を仕留める。
 前衛は俺に任せて、エクレールさんの腕を信頼してるよ。」

「ちょ、ちょ、ちょっと待って!私がオフェンスなの?」
「エクレールさん以上に適役はいないでしょう。」

「無理よ、ネクスト用のとっつきなんて触った事ないわ。」
「ええっ?!何か違うの?」

「全然違うわよ。」
そ、そうなのか?よく考えたらノーマル用の射突ブレードを俺は知らない。

「あああああ!」
ド・スさんも何か違うみないな事言ってたじゃないか。
俺の馬鹿…いきなり計画が崩れた。
どうすればいいんだ…

「槍杉~、まだなのか?早くしろよ、ヒェ~!」
神威からの通信、状況が切迫している事を告げている。

「…私がディフェンスをするわ。」
「盾がどのくらい耐えられるか分からないし、危ないよ。」

「槍杉君がディフェンスをするつもりだったんでしょう?なら私だって…」
「でも…」

「ギャヒャャャャャャャャャ!」
神威の奴…まさか、やられたのか?

「迷ってる時間は無いわ。」
俺がやるしかないのか…

「分かった。でも無理は絶対にしないこと。危ないと思ったらすぐに離れて。」
「オーケーよ。」

時間が経てば経つほど囮役2人の生存率が下がってしまう。
もう動き出してしまったんだ。やるしかない。

ネクスト用の射突ブレードを無理やりノーマルの右腕に装備させる。
サイズが大きすぎてACの重心がやや右よりになってしまったが
なんとかいけそうだ。

炸薬もちゃんとある。この点に不安は無かった。
あの人なら必ず万全の状態で保管してあるだろうと確信していたから。

「エクレールさん、そっちの準備はいい?」
「いいわよ。」

01-エクレール機は校舎補強用の資材板を何枚も重ね合わせた盾を
両腕で機体前面に展開している。
準備は整った。後はぶつけるのみ…

「いくよ。」
「ええ。」

戦場に近づいて先ず目に入ったのは煙を上げて擱座している04-神威機だった。
無事でいてくれ…

02-ジナイーダ機が襲撃者の攻撃を一手に引き受け飛び回っている。
紙一重での回避、流石だ。
だが外から見ても限界が近いのが分かる。
ギリギリ間に合ったか。

「槍杉君、最大戦速で突っ込むわよ。」
「了解。」
出し惜しみは無し、2機ともブーストをフルパワーで吹かした。
訓練用ACにOBが付いていないのを、これ程恨めしく思った事はない。

敵に存在を気付かれたのだろう、こちらを振り返った。
盾を構えて突進してくるACはどう見ても怪しい。
何か策があるのはバレバレ。

ジナイーダ機を無視して攻撃がエクレール機に集中する。
盾は予想より遥かに頑丈だった。
これならいけるかもしれない…

そんな淡い希望は直ぐに崩れ去った。
剥き出しの脚部を狙われエクレール機がバランスを崩す。
俺の進路を妨害しないよう、エクレールさんは咄嗟に横に跳んで転倒。

なんてことだ…まだ距離があるのに射突ブレードの存在が露見してしまった。
後退されたら射突ブレードは絶対に当てられない。
脅威が近づいてくるのに、わざわざ待っていてくれる確率は皆無。

どうする?

⇒《このまま行くしかない》
 《仕切り直すしかない》

ここまで来たんだ、行くぞ!

怯えるな、目を閉じるな、加速を止めるな。
自分に言い聞かせる。もう後には引けないのだから。

だが無常にも襲撃者は後退を始め
大口径のバズーカが俺を捉えている。
あと一歩なのに、それが届かない…

死を覚悟した瞬間、襲撃者のACがバランスを崩した。
砲弾が明後日の方向に逸れる。

どうして?俺は自問自答する。
死角からジナイーダ機の体当たりが敵機を襲っていたのだ。

ナイスアシスト!

一撃必殺の武器・ゼロ距離・バランスを崩した目標
これ以上ない条件が揃った。もう外せって方が難しい。
俺たちの勝ちだ。

目標の機体表面に射突ブレードの先端を押し付けた状態から
極太の杭をプレゼント、ヒャッハ~!

ガコン

重く鈍い音とは対照的に効果は抜群。
重装二脚のACは糸の切れた操り人形のように倒れた。

★その52

敵機の中枢部だけをピンポイントで破壊。
ぶ厚い装甲に守られたそこは並の攻撃じゃ届かない。
だが俺の右腕に装備されているのはネクスト用射突ブレード。
全てを貫く桁外れの威力がそれを可能にした。

ACの構造をしっかり勉強しておいてよかった。
学園の授業がこんなに役立つとはね…

おっと、余韻に浸ってる場合じゃない。
神威とエクレールさんは無事か?

「エクレールさん、無事?」
「ええ、なんとか無事よ。脚部をやられただけだから…やったわね!」
「よかった…」

問題は擱座した04に乗っている神威の方だ。
「神威、無事か?」
「………………」

「おい、返事をしろよ…」
「………………」

通信が返って来ない。
「嘘だろ…」

そんな、まさか…お前は一番死にそうにない奴じゃないか…
世界が核の炎に包まれても、生き残ってそうなお前が…どうして…

視界が霞む…涙が止まらない…
どうしようもない奴だったけど、いい奴だった…
俺が殺したようなものだ…

後悔と自責の念に押しつぶされそうになった時
04から神威が自力で這い出してきた。

能天気に両腕を振って、嬉しそうに何か叫んでやがる。
「聞こえないっつーの…生きてるなら返事ぐらいしろ、馬鹿野郎が…」

「ふぅ……………」
みんな無事でよかった。

心底ほっとして全身の緊張を解くと
次第に事態の元凶に対する抑えようの無い怒りがこみ上げてきた。
何者なのか、間諜は誰なのか、何故学園を狙うのか、吐かせてやる。

丸腰は不味いな…何か白兵戦に使える武器が欲しい。
といっても俺が乗ってるのは訓練用ACだ。武器なんて常備されてるわけない。

何か武器になりそうな物は…これでいいか。
俺は備え付けの小銃型信号弾を手に訓練用ACから降りて
襲撃者のACに駆け寄った。

出来る限りコックピットは避けて撃ち込んだから
パイロットはまだ生きているはずだ。
信号弾を構えながら恐る恐るハッチを開く。

中は血の海だった。むせ返るような血の匂いが充満している。
撃ち込まれた杭の運動エネルギーが抜け切らず
コックピット内も破壊したのだろう。

「無駄な抵抗はするな!」そう言おうと思っていたが
パイロットの男は虫の息。尋問どころじゃないな。

「ゴホ…ゴホ…こんなガキに…やられたのか、俺は…」
「喋るな、じっとしてろ。今救護を呼んでやる。」

「とんだ…甘ちゃんだな…ゴホ…ゴホ…」
お前には訊きたい事が山ほどあるんだよ。
それに目の前で死なれるのは寝覚めが悪い。

「ジナイーダさん!救急車を呼んで、まだ助かる。」
「何をしている!離れろ、自爆する気だぞ!」
「えっ?」

男の方を振り返った時はもう遅かった。
凄まじい衝撃が全身を打ちつけ、俺は宙に投げ出された。




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