★その35

いつもと変わらない朝、唯一違うのはエプロンをして
台所に立っているのがアイビスになった事だ。

姉さんはゆっくりとコーヒーを飲みながら新聞を読んでいる。
アイビスのおかげで、いつもより時間に余裕が出来たからな。

「ごちそうさま。」
朝餉も済んだし、そろそろ学園に行くか。

「ヨウヘイさん、少し待ってください。」
台所からアイビスが俺を呼び止める声が聞こえる。

「お弁当です。」
「わざわざ作ってくれたのか?」
それにしても恐ろしくデカい弁当を作ってくれたな。
鞄に入りそうにない。

「一度に3人分作れば経済的です。」
姉さんやベアトリスの分も一緒に作ったのか。
「ありがとう、アイビス。じゃあ行ってくるよ。」
「いってらっしゃいです。」

学園に向かって自転車を漕ぐ。
アイビスの作ってくれた弁当は前カゴにも収まりきらず
段差を通る度に飛び跳ねている。

昨日ちょっと食べ過ぎたからな。
アイビスに大食漢だと思われてしまったんだろう。
弁当には常人の2.5食分ぐらい入ってそうだ。
次はもうちょっと量を減らしてもらわねば。

よし、学園に着いたぞ。
あそこに見えるのはネルさんじゃないか。
声を掛けてみよう。

「おはよう、ネルさん。」
「あ、槍杉さん。おはようございます。」

ネルさんは不思議そうに俺の巨大な弁当を見ている。
「それ、お弁当ですか?」
「そうだよ。」

「槍杉さんスマートだし、そんなに食べても太らないなんて羨ましいです。」
「いや、いつもこんなに食べてるわけじゃないんだ。
 昨日家にメイドロイドが来て、そいつが初めて作ってくれたんだけど
 まだ加減が分かってないみたいでさ、こんなに大きな弁当になっちゃったんだよ。」

「そうだったんですか、ビックリしました。
 細かく指示してあげないと、そういうこと結構ありますよね。
 うちにも何体か居るからよく分かります。」
何体か居るって事は、結構大きな家に住んでるのかな?

「ネルさん家にはいっぱい居るの?」
「25体ぐらいだったと思います。」
25体だと…、ネルさん凄いお嬢様なんじゃないか?

キーンコーンカーンコーン

予鈴だ。話し込んでしまったな。
「そろそろ行かないと。それじゃあ、槍杉さん。」
ネルさんは行ってしまった。
俺も教室に向かおう。

★その36

教室にはもう殆ど生徒が集まっている。
早めに家を出たのに遅くなっちゃったな。

「おはよう、今日はゆっくりじゃない。」
エクレールさんは朝から爽やかだ。
朝は軒並み不機嫌な姉さんとベアトリスとは大違い。
「おはよう、そっちは今日も朝練?」

「ええ、ひと汗かいてきたわ。」
スポーツをする女の人っていいよね。
そう思うだろ?あんたも………思わないのか?…思ってるんだろ?

「槍杉君もどう?剣道部入ってみない?」
剣道か、ちょっと興味が無いわけでもないけど。

「バイトがあるから止めておくよ。」
「アルバイトしてるんだ。じゃあしょうがないわね。」
エクレールさんは残念そうな顔をしている。

剣道部にまで入ってしまったら
卒業する頃には俺もデュアルブレード使いになっていそうだな。

そんな事を考えてるうちに教室に白衣を着た女の人が入ってきた。
1時間目は確か『武器腕学』。
この人が武器腕学の先生なのか?傭兵独特の雰囲気が全く感じられないけど。

「みなさん、ゲド先生は急な依頼が入って授業に来れなくなりました。
 この時間は自習になります。」
やっぱり違ったか。格好もそうだけど、この人は研究者って感じがするもんな。

クラス中から歓声が上がる。
武器腕関連の授業は人によってかなり温度差があるんだ。
使うつもりの無い人にとっては心底どうでもいい授業だからな。
リンクス科の時もそうだった。

「ゲド先生から課題を預かっています。」
「「ええーーー」」
クラス中のテンションが一気に下がった。

「教科書のP25~30を読んで自分の考えを2000字でまとめて提出して下さい。」
先生は課題用の原稿用紙を配っている。
うわ~、めんどくさそう。しかも紙に手書きかよ…アナログだな。

「研究室にいますので、何かあったら呼びに来て下さいね。
 私はアーキテクト科で『人工知能学』を教えている、セレ・クロワールといいます。
 日直の人は課題を集めて、後で研究室に持ってきてください。それでは」
そう言い残して先生は教室を出て行った。

げっ、今日の日直は俺とジナイーダさんじゃないか。
後でみんなの課題集めなきゃな。

隣でいびきをかいてる神威みたいな例外もいるけど
みんな真面目に課題に取り組んでいる。

傭兵学部は何もしなくても卒業できるっていうのは前に話したと思う。
武器腕を使うつもりの無い人にとってはどうでもいい授業。
では何故みんな真面目に自習をしてるのか?

実はそれなりに理由がある。
傭兵学部は3年間の総合成績に応じて、卒業時にACのパーツが貰えるんだ。

成績上位者は結構いいのが貰えたりするんだなこれが。
丸々AC一体分のパーツを手に入れた卒業生もいると聞く。

卒業後、仲介組織に就職できた場合、AC一式を”貸して”貰えるんだけど
あくまで貸すだけ。依頼をこなしてその代金を返していかなきゃならない。
下手をすれば借金で首が回らなくなる事だって十分有り得る。

初めから自分のACを持っているっていうのは結構なアドバンテージだからな。
みんな意欲的にもなるさ。

そういえば、1年間リンクス科だった俺ってどうなるんだろう?
あんまり引き継ぎたくない成績だけど
やっぱりリンンクス科1年+レイヴン科2年の総合成績で判断されるんだろうな。

原稿用紙を埋め終わるのと同時に授業終了のチャイムが鳴った。
よし、何とか間に合ったぞ。課題を集めて先生の所に持って行きますか。

「ジナイーダさん女子の分を集めてよ、俺は男子の分を集めるから。」
「すまないが後を頼む。てこずる仕事でもないだろう。」

「えっ、あの…」
彼女はさっさと教室を出て行ってしまった。
俺1人に押し付けられちゃったな………まあいいか。

★その37

課題を集めたまではよかったんだけど、セレ先生の研究室って一体どこだ?
俺はさっきから研究室棟をさ迷っている。

研究室には103とか105みたいな番号が振らているが
肝心の誰の研究室かが書かれていない。
「ああ、どうしよ―――」

ドスン!

手に持っていた課題が床に散乱する。
「貴様、どこに目をつけている。」
余所見して歩いてたら、ちょっと怖そうな男の人にぶつかってしまった。
まずい…

「す、すみません。」
謝りながら散らばった課題を集めていると
俺以外にもう一組の手が課題に伸びた。
ぶつかった人が拾うのを手伝ってくれている。

「いいか、俺は面倒が嫌いなんだ。」
彼はそう言いながら集めた課題を渡してくれた。

「あ、ありがとうございます。」
口では面倒だと言いながらも、意外といい人なのかな?
研究室の事を聞いてみよう。

「ちょっと教えてもらいたんですが、セレ・クロワール先生の研究室を知りませんか?」
「階段の横に案内板があるだろう。あまり面倒を掛けるな。」
男の人はだるそうに答えて、そのまま行ってしまった。

彼の後ろ姿を見送る。真っ白い詰め襟の学生服だ。
あんなデザインの制服、うちの学園にはなかったような…
まあいいか、教えてもらった案内板を見に行こう。

セレ先生の名前は……………あった、224号室か。
一つ上の階だな、移動しよう。

「ここだな。」
さっさと課題を届けて教室に戻ろう。次の授業に遅れてしまう。

コン、コン

「はい。」
中からセレ先生が出てきた。

「R-2-1の槍杉です。自習時間の課題を持ってきました。」
「ご苦労様です。」

何故か先生は俺をじっと見つめている。
課題はもう渡したから他に用事ないはずなんだけどな。

俺の顔に何か付いてるのか?
「あの、何か?」

「いえ、何でもありません。ごめんなさい。」
変な先生。まあ、アーキテクトは変わり者が多いしな。
身内にも1人いるからよく分かる。

キーンコーンカーンコーン

うわっ、やばい。次の授業が始まる。
「それじゃ俺は、失礼します。」

ダッシュで戻ろう。

★その38

「ふぅ…」
午前中の授業がやっと終わった。
さあ、ドデカ弁当を持って学食に行こう。

いつもの席に林檎を発見。
「よう、林檎。古王はまだ来てないの?」
あいつ学食に集まるのだけはいつも早いのに、珍しいな。

「メールしたら今日は休むって言ってたよ。」
なんだサボリか。この前、いいカモ見つけたって言ってたし
麻雀かポーカーでもしてるんだろうな。

「洋平君、今日はお弁当持ちなの?しかも異様に大きいね。」
この弁当やっぱり相当デカいよな。林檎が目を丸くしている。
1人で食べきれるかな…

「うちにもメイドロイドが来てね。そいつが作ってくれたんだ。
 これからは弁当族になると思う。」
「へえ~お弁当いいな~。学食も1年以上食べ続けてるから
 ちょっと飽き気味なんだよね。」

「少し食べるか?この量、1人じゃ多すぎると思ってたんだよ。」
「そうしたいけど、もうBランチ大盛りで買っちゃったから…」
林檎の前には山盛りのランチセットが並んでいる。タイミングが悪いな。
「そっか。」

林檎と他愛の無い事を話しながら弁当を口に運ぶ。

もぐ、もぐ、もぐ、もぐ

「そういえば、この学園に白い詰め襟の制服使ってる科ってあったっけ?」
「そんな制服無いよ。なんだい藪から棒に。」

「今日、見かけたんだよ。他校の生徒だったのかな。」
それにしては学園のこと詳しそうだったけど。

「あっ、でも該当する人が1人いるかも。」
「1人?」

「レイヴン科の3年にスティンガーっていう人がいるんだけど
 その人、何故か学園指定の制服を着てないんだ。」
その人かな?

「面倒が嫌いって言うのが口癖みたいなんだけど、面倒事をよく起こすんだよ。」
間違いなさそうだ。

「この学園に関わりあいたくない人ランキングがあったら
 間違いなく上から数えた方が早いと思う。結構有名人だよ。」
「酷い言われようだな。」
口は悪そうだったけど、根は良い人そうに見えたんだが…

「林檎君、見つけた!」
突然、後ろから林檎を呼ぶ声が聞こえた。
活発そうな女の子こっちに向かってくる。

「今月ピンチなの。お願い、お昼代貸して!」
「ええー、また?僕も今月は余裕無いんだけど、しょうがないな…」
どうやら林檎の知り合いみたいだ。

遠慮の無い会話から親しい間柄なのがよく分かる。
まさか抜け駆けして彼女が出来ましたとか言い出さないだろうな?

「林檎、この子は?」
「ああ、洋平君にはまだ紹介してなかったよね。彼女はレジーナ
 僕の幼馴染だよ。今年学園に入学してきたんだ。
 見ての通り、僕たちと同じレイヴン科。」
どうやら杞憂だったみたいだ。

「レジーナ、こっちが前に話した洋平君。」
「ああ、あの面白い名前の人。よろしくね、先輩!」
「よろしく。」
面白い名前の人か…。本人の俺はあんまり面白くないんだけどな。

「実は昨日から何も食べてないの。早くお昼代貸して~」
「しょうがないな。」
林檎は渋々財布を取り出したが様子がおかしい。
「ごめん、レジーナ。貸してあげたいんだけど…」
逆さに振った財布から出てきたのは数枚の硬貨だけだった。

レジーナの顔からみるみる生気が失われいく。
ちょっと可愛そうだな。

「よかったら俺が貸そうか?というか俺の弁当食べない?」
「いいの?」
女の子だし食べかけは嫌がるかと思ったけど、そんな事はないみたいだ。

「ああ、多すぎて困ってたところなんだ。」
「やったぁ!」

レジーナはよっぽど飢えてたみたいだ。気持ち良い位の食べっぷり。
「ごちそうさま!」
あっという間にたいらげてしまった。

「サンキュー、先輩助かったわ!」
「それだけ美味そうに食べてもらえれば弁当も喜んでると思うよ。」

レジーナはちょっとは恥ずかしそうに笑っていたかと思うと急に立ち上がって
「あっ!あたし次の授業の用意頼まれてたんだった。このお礼はまたいつか。」
行ってしまった。慌しい子だな。

「お前、あの子にいつも集られてるのか?」
「いつもって訳じゃないんだけど…
 レジーナは今、親父さんと大喧嘩して家出中なんだ。
 バイトで生活費を稼いでるみたい。」

「学費とかはどうしてるんだ?」
「無利息の奨学金を借りてるんだって。」

「そうなのか…」
見かけによらず、結構苦労してるんだな。

「俺たちも、そろそろ教室に戻るか。」
「うん。」

★その39

「やっと終わったぜ!俺様は自由だ、ヒャッハ~!」
こいつの叫び声が授業終了の合図みたいになっているな。
日の出を知らせる鶏みたいな感じ。

少し前に気付いたんだが、神威の語尾にはパターンがある。
「ヒャッハー!」が標準
「ヒャッハ~!」が喜び
「ヒャッハ…」が不安を表している。
非常に分かりやすい。
さっきのは授業が全て終わった喜びを表す語尾だった。

「じゃあな、槍杉、ヒャッハー!」
今日も神威は教室を飛び出して行った。

いつも急いで帰ってるけど、あいつ何処に行ってるんだろう?
格好もそうだけど謎の多い奴だ。少し好奇心をくすぐられる。

気になるな…後を付けてみようか?
ああ、でも駄目だ。今日は日直じゃないか。
「ちぇっ」
尾行は次の機会にしよう。

日誌書いて教室の戸締りを済ませ校舎を出た。

「ふぅ…」
ジナイーダさんさっさと帰っちゃうんだもんな。
俺が全部やる破目になっちゃったよ。

あれ?あそこにいるのはジナイーダさんじゃないか。
日直の仕事ほったらかして何をやっているんだ。

木の陰にコソコソ隠れている姿はいつもの彼女らしくない。
誰かを尾行しているんだろうか?
でもそんな感じじゃない…ソワソワしてる?

ジナイーダさんの視線を追っていくと、その先には1組の男女がいた。
制服から2人ともレイヴン科の生徒だということが分かる。
誰だったっけ…学園新聞で見た事があるような…

あっ!思い出した。
去年、新聞部主催で行われた学園ランキング、ベストカップル部門の優勝者
ジノーヴィー先輩とアグラーヤ先輩だ。

2人とも成績優秀で容姿端麗、並んで話しているだけで絵になる。
まさにお似合いのカップルさんてやつだ。

ジナイーダさん、先輩たちを隠れて見ていたのか。
ジノーヴィー先輩を見つめる瞳が熱っぽい。
アグラーヤ先輩を見る瞳には敵意が宿っている。

これって、そういう事なのか?

 《日直の恨みだ。からかってやるか!》
⇒《そっとしておいてあげよう。》

見えてる地雷を踏み抜くようなもんだ。
そっとしておいてあげよう。
人の恋路を邪魔するヤツは、ACに蹴られて地獄に落ちろって言うしな。

ジナイーダさんも意外と女の子らしいところがあるじゃないか。
微笑ましいねぇ~

さて、俺はBARテックスに行こう。
今日もバイトを入れてある。

★その40

店に到着した俺はスタッフルームで着替えを済ませてカウンターに入った。
「おはようございます。」
「おは・・・よう・・・」

「事務所に姿が見えなかったんですが、今日はマスター休みですか?」
「ジャックは・・・きゅうようが・・・できた・・・」
今日はンジャムジさんと俺の2人だけみたいだ。

「このまえ・・・おまえ・・・ひとり・・・すまな・・・かったな・・・」
マスターとンジャムジさんが一緒に休んだ時の事を言ってるんだろう。

「まだ作れないお酒を注文されたら、どうしようかと思いましたけど
 何とかなりました。」
「あとで・・・あたらしいの・・・おしえてやる・・・」
こうして俺は日々レベルアップしているのだ。

老後は傭兵業で稼いだ金を元手に、こんな酒場を構えて
ゆっくり余生を過ごすのもいいかもしれない。
ジジ臭いかな、俺…

今日もお客は少なく、ンジャムジさんは殆どの時間を俺の修行に使ってくれた。
こんなのでバイト代貰ってもいいんだろうか?
BARテックスで働いてると、こう思う事が多々ある。

洋平のバーテンダー技能が2上がった!

「おそく・・・なって・・・しまった・・・おまえ・・・あがれ」
時計の針はとっくの昔に12時を通り過ぎていた。
ついつい夢中になってしまったな。

「それじゃあ、お先に失礼します。ご指導、ありがとうございました。」
「ああ・・・」

着替えを済ませて店を出た。
「すっかり遅くなっちゃったな。」
明日、朝起きるのが辛そうだ。

時間が少しでも惜しい、近道して帰ろう。
俺はいつもとは違う道に自転車を向けた。

この道は家へのショートカットコースなんだが、あまり使うことは無い。
道幅が狭い上に薄暗くて、治安が良くないんだ。

実際に3回くらい、ここでカツ上げに遭遇した事もある。
後ろから「兄ちゃん、なに睨んどんねん?」って声が聞こえて
何かと思って振り返ったら怖いお兄さんが仁王立ち、何故か金品を請求された。
凄い理不尽だろ?
今日は変なのに出会いませんよう―――

キキッ

うわぁ…勘弁してくれよ。早速、変な奴らを発見してしまった。
いくらなんでもコレは無いだろう。

自転車を急停止させた時に音をたててしまったが
まだ向こうはこちらの存在に気付いていない様子。
今なら回れ右して逃げるとこも出きるぞ…でも…これは放っておけない。

一体何を発見したのかって?
3人組の屈強な男たちが大きな袋を運んでいる。
ここまでは別にいいんだが、問題はその袋から人間の足が2本生えてるって事だ。

カメラは見当たらないし、映画の撮影とかじゃない。
どう見ても本物の拉致現場。
何でこんなところに出くわすんだ俺は…

袋詰めにされてる人は足をバタバタと動かして抵抗しているが
3人がかりで持ち上げられているんだ。自力での脱出は無理だろう。

どうしよう、どうしよう、どうしよう?

 《警察に通報する》
⇒《なんとかする》

警察を呼んでいる間に手遅れになる可能性が高い。
なんとかしてみせるしかないな。

3対1じゃノコノコ出て行っても勝ち目は薄い。
”あれ”しかないか…

大きく深呼吸をして
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、誘拐犯だー!
 お巡りさん、こっちです、こっち!早く来てください。」

古典的な方法だが、他には思いつかなかった。
これで逃げ出してくれないと、ほぼアウト。
勝算の低い肉弾戦を仕掛けざるを得ない。

俺の心配をよそに3人組は袋を抱えたまま逃げ出してくれた。
見かけによらず意外と胆の小さい奴ら―――って、おい!
その人は置いて行けよ。普通、置いて逃げるだろ。

「ちょっと待てー!」
と言って待つ馬鹿はいない。
俺は咄嗟に手に持っていた弁当箱を投げつけた。

ストラ~イク!
弁当箱は狙い違わず男の後頭部に命中、袋が地面に投げ出される。
男たちは一瞬躊躇したが、袋を諦めて逃げ去ってくれた。

「ふぅ…」
危ない賭けだったけど、なんとかなったな。
地面に転がってる人を袋から出してあげよう。

ゴソゴソ、ゴソゴソ…

「ぷはぁ…苦しかった。」
意外な事に袋の中から出てきたのは女の子だった。

「君、大丈夫?」
「ええ、助けてくれてありがとう、感謝するわ。」
怪我は無さそうだ、よかった。

「それにしても災難だったね。警察に届け出た方がいいよ。付き添おうか?」
「警察には行かないわ。」

「何で?」
「前に届けたけど相手にしてもらえなかったのよ。」

「あいつらの事を知ってるの?」
「奴らはウェンズデイ機関、学校の生徒を拉致して人体実験を行っている秘密組織よ。
 自己紹介がまだだったわね。私はスミカ・ユーティライネン、傭兵女学園の2年。」
傭女の生徒なのか。

「やっと尻尾を掴んで悪行を暴露してやろうと思ったところで――」
「捕まってしまったと…」

「そういうこと、理解が早くて助かるわ。」
水曜日って名前をした悪の秘密組織が生徒を拉致して、人体実験を行っている。
初対面の相手がこんな事を言い出したら、只の電波にしか見えないだろうけど
実際に拉致現場に出くわしちゃったからな…マジなんだろうな…

「あんな組織をこのまま放っておくわけには行かないわ。
 あなたAC学園の生徒よね?一緒に戦ってくれない?
 私には優秀なパートナーが必要なのよ。」

 《手伝う》
⇒《断る》

「今回は俺っていう証人もいるんだし、もう一度警察に行ってみない?
 今度は信用してもらえるかもよ。」

俺の回答に不満そうだ。見るからに落胆した様子。
「もういいわ、助けてくれてありがとう。」
行ってしまった。

「ふぅ…」
人助けをした筈なのに、何だか後味が悪い。
彼女の言うとおりにすべきだったか…?

いやいや、厄介事に自ら首を突っ込む必要も無いだろう。
これでよかったんだ。

さあ、家に帰ろう。





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