★その16

よく寝た~。
こんなに爽快な目覚めは久しぶりだ。
酸欠で気を失ってた時間を合わせると、かなり寝たな。
不思議と肩こりまで取れたような気がする。最近忙しかったからな…
なんだか生まれ変わったような気分だ。

1階に降りるとベアトリスが台所にいた。
出勤時間はとっくに過ぎてるのに、何やってるんだコイツ?

「おはよう、ベアトリス。」
「おはよう、兄さん。もう大丈夫みたいね。」
俺の顔を見てベアトリスはそう言った。

「お前仕事は?」
「休んだわ。姉さんがどうしても休めない仕事があるらしくて、代打よ。
 今日はアタシが兄さんの面倒を1日見てあげる。すぐ朝食を作るわ。」

な、なんだと!
俺が驚いているのはベアトリスが言った最後の部分のせいだ。
恐れていると言った方が正確かもしれない。
ベアトリスの作る料理は…
俺が内心ブルブル震えている間にも調理は進んでいく。

「はい、出来た!さあ、食べて食べて♪」
ベアトリスは俺の背中を押して椅子に座らせた。
テーブルには続々と一見美味しそうな料理が運ばれてくる。

「朝から豪勢ですね、ベアトリスさん。でもお兄ちゃんこんなに食べられないよ…」
「せっかくアタシが作ってあげたんだから、ちゃんと全部食べなさいよね。」
何て純粋な目で俺を見ているんだ。これじゃあ残すわけには…。

ベアトリスの料理を恐る恐る口へ運ぶ。
「ぶぅフゥオわっ。」
口から吐き出しそうになった。やっぱり不味い、恐ろしく不味い…

「どう?美味しいでしょ」と言わんばかりの目で見つめられている。
ベアトリス、お前絶対自分の作った料理食べたことないだろ…
断言する、味見も絶対してない。

⇒《残さず食べる。》
 《ほとんど残す。》

可愛い妹が頑張って作ってくれたんだ…
撤退は許可できない。繰り返す、撤退は許可できない。

お茶で流し込みながら料理を全て平らげた。
「ご、ご馳走様でした…」
正直、かなり気持ち悪い…

ベアトリスは笑顔で空の食器を下げて、鼻歌を歌いながら洗い物をしている。
こんなに嬉しそうにされると言い出し辛いんだよな…。
でも、いつか自分の料理がクソ不味いと気付かせてやらないと。
未来の旦那が可哀相すぎる。

未来の事はさておき、問題は今日の昼食だ。
このままでは昼もベアトリスの作った料理を食べさせられてしまう。
いかん、いかんですよそれは…

「ベアトリス、俺はもう大丈夫だから仕事行ってきなよ。最近忙しいんだろ?」
「そうはいかないわよ。姉さんに頼まれてるし、兄さんの事がちょっと心配だし…」
俺は自分の胃袋が心配なんだよ。
ジャブ失敗か、ストレートにいっても無理そうだな。

「セレン姉さんには俺から言っとくから。
 そういえばフェルノ・ルカーチがTVでお前に期待してるって、この前言ってたぞ。」
「本当に?でもAIやアセンの簡単なシミュレートなら家でも出来るから。」

フェルノはFFの解説者で元FTオルドーの伝説的アーキテクトだ。
ベアトリスが尊敬している数少ない人物。セレン姉さんに少し雰囲気が似ている。
TVで言ってたとかは勿論デタラメ。

この反応、脈ありと見た。もう一押し。

「フェルノがアドバイザーをしてる『あのチーム』が今年は大したライバルもいないし
 優勝は貰ったとか言ってたな。うかうかしてられないんじゃないか?」
これも当然デタラメだ。

「何ですって!このあたしも大したライバルじゃないっていうの!」
かかったな…
ベアトリスは『あのチーム』に対して並々ならぬ対抗意識を持っている。
そこを擽ってやれば、誘導する事など造作もないわ。
ベアトリスはバタバタと用意をして仕事に出て行った。

「ふぅ…」
心配事も無くなったし、今日は1日ダラダラ過ごそう。

★その17

ピンポーン!

昼食を済ませてTVを見ている時に家の呼び鈴が鳴った。
勧誘か何かかと思って出てみると、玄関に立っていたのはウィン・D先生だった。
「見舞いに来たぞ、洋平。意外と元気そうだな、安心したよ。」
「先生、わざわざ来てくれたんですか?」

「ちょっと話しておきたい事もあってな…」
「上がります?」
「ああ、助かる。」
とりあえず先生を客間に案内する。

「お前の好みが分からなかったので適当に見繕ってもらっよ。」
先生から果物の盛り合わせを渡された。
「そんなに気を使ってもらわなくても…」
「気にするな、学園の経費で落ちる。」
相変わらずハッキリ物を言う人だ…

お茶と貰った果物を切って先生に出した。
お客を持て成した事なんて無いからよく分からないが、こんな感じでいいのかな?

先生はお茶に少し口を付けてから話し始めた。
「今回の件、お手柄だったな。とはいえ無茶をしたものだ…。無事でよかったよ。」
「もう少し発見が遅れれば危なかったと医者に脅されちゃいましたよ、アハハハ…」
ちょっとおどけて答えてみる。

「お前を見つけてくれたのはド・スという名前の用務員だ。
 今度礼を言っておくんだな。」
「は、はい。」
この人には、やはり冗談が通じないな…
真面目に先生の話を聞く事にしよう。

「ACの戦闘レコードを見たが、お前の判断は正しかったよ。
 学園長やレイヴン科の先生たちも同意見だ。」
「ありがとうございます。」
ウィン・D先生に褒められたのは初めてかもしれない。
「だが空気循環機能の低下に気付かなかったのは、詰めが甘かったな。」
ですよね…

「あの2機のMTについては現在調査中だ。背負っていた爆弾が校舎の2、3棟は
 軽く吹き飛ばせる代物だったこと意外は分かっていない。」
そんなおっかない物に突撃したのか、俺…

「どこの勢力かは分からんが、学園を狙っていたのは間違いないだろう。」
AC学園に喧嘩を売るなんて一体どんな奴らなんだろう…

「この件は学園長と一部の教師、お前の家族にしか知らされていない。
 学園長もこの件を公表すべきか迷っている。方針が決まるまで他言は無用だぞ。」
「了解です。」

「あと、生徒を危険な旧倉庫に立ち入らせたロイ・ザーランド先生には
 学園長から厳重注意が行われ、カラードランクが3つ下げられた。
 私からもひとこと言っておいたよ。」

ロイのおっさん、ざまぁ!
危うく声に出してしまうところだった。
学園長よりウィン・D先生に怒られる方が絶対効くよな、あのおっさん。
おまけに降格か、学園長は企業やカラードに対しても発言力があるからな。

「明日は学園に来れそうか?」
「はい、行くつもりです。」
「では授業が始まるより、少し前に出て来い。
 学園長が今回の件でお前に話があるそうだ。」
「分かりました。」

先生は「今日一日ゆっくり休め。」と言い残して帰って行った。
本当に必要な事だけ話して帰ったな…。まあウィン・D先生らしいか。

先生が帰ってから家でゴロゴロしていたが、1人だと退屈だ…
休んでいろと言われたけど、リハビリも兼ねて外に出ようか。
じっとしてるのは性に合わないんだよな。俺もう元気だし。
ちょっとブラブラしてこよう。

徒歩で家を出た俺は足の向くままに商店街に入った。
肉屋、魚屋、八百屋、花屋、洋服屋、武器屋、色々な店が並んでいる。
ここは夕飯のおかずからACのパーツまで何でも揃うスーパー商店街なのだ。
不路夢市で一番規模が大きいんじゃないかな。

今は夕食の材料を求める主婦たちで賑わっている。
あそこで野菜を値切っているのはエイプじゃないか。
声を掛けてみよう。
「よう、エイプ、夕飯の買い物か?」
「洋平君、心配しましたよ。大丈夫ですか?」

下水道での一件は生徒には知らされていないはずなのに…
「大丈夫?っていうのはどういう事だ?」
「それは、その…、洋平君が模擬戦の事を気にして、学園を休んだのかと…」
なるほど、ロイのおっさんにボコボコにされたのがショックで
学園に来なかったと思われているのか。
畜生、他言無用と口止めされてるから、事情を説明する事も出来ない…

「ああ、大丈夫だ。ちょっと身体の調子が悪かっただけだよ…」
うわー、嘘っぽい。事情を知らないと、どう見てもヘコんでる奴にしか見えないよな。
「そうですか…」
エイプが憐れんだ目で俺を見ている。

クラスの奴らも絶対に俺がショックで学園に来なかったと思ってるだろうな。
明日の事を考えるとテンションが凄く下がった。家に帰ろう…

家に帰るとセレン姉さんが鬼の形相で待ち構えており
「出歩いていたら学園を休んだ意味がないだろう。」
と、こっ酷く怒られてたのは言うまでもない。





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