★その21

俺は今、担任の先生と転入生の3人でレイヴン科の新しいクラスに向かっている。
ここに至るまでの過程を簡単に説明しよう。

転科を決心した俺は、朝一番に学園長室に返事をしに行った。
驚いた事に次の日からすぐ、レイヴン科に移るよう言われた。
善は急げということらしい。
制服や教科書など、必要な物は既に揃えられており
まるで俺がレイヴン科に移ることを、最初から想定していたかのような早さだった…

俺はまだ馴染む前のクラス、L-2-2に別れを告げに行った。
大方の奴は模擬戦の件で俺がリンクス科から逃げ出したと思っているんだろう。
嘲笑うかのような声が多かった。

でも、一部の人たちの反応は少し違っていたな。
エイプは寂しそうに「一緒にリンクスになりたかったです…」
ウィン・D先生は「お前が決めたことだ、応援しているよ。」
古王には何故か学食を1週間奢る約束をさせられてしまった。

2大粗製の称号、返上したかったな…
俺は少し悔いが残る形でリンクス科を後にして、家に帰った。

その翌日、レイヴン科デビューの日。
俺はクライン先生が担任を務めるR-2-1に配属が決まった。
林檎はR-2-5だから違うクラスになったな。

ちょうど他校から引き抜いた転入生の到着が遅れていたらしく
朝のホームルームで彼女と一緒に紹介される事になった。
で、今に至る…

R-2-1
ここが俺の新しいクラスだ。
教室にクライン先生、俺、転入生の順番で入る。

「お前たち、静かにしろ。」
学科長をやってるだけあってクライン先生の言葉には重みがある。
一声でクラスは静かになった。
「今日からこのクラスの生徒が2名増える。」

「自己紹介をしろ。」
先生はこちらを向いて言った。
先ずは俺からみたいだ。

1年の時はここでウケを狙って『洋平が傭兵』のギャグをやっちまったんだよな…
笑いを取る必要はない。普通でいいんだよ、普通で。
「リンクス科から来た、槍杉 洋平です。よろしくお願いします。」

クラスはざわめいているが、意外な事に俺のフルネームを聞いても
笑う奴は少なかった。
レイヴンからリンクスになる生徒はそこそこいるが、その逆は珍しいからな。
そっちの方に興味が向いているんだろう。

転入生の女子が続いた。
「傭兵女学園から来た、ジナイーダだ。
 くだらん争いや、只のレイヴンに興味は無い、以上。」

うわー、これは馴れ合うつもりは無いって事なのか?
他校から引き抜かれただけはあるな…、言う事が違う。

クラスの大半がポカーンとした顔をしている。
凄いのと一緒になっちゃったな…

「神威 瑞穂の両隣が空いてるな。槍杉、ジナイーダ、お前たちはそこの席に座れ。」
神威 瑞穂か…、可愛い名前だな。
俺の美少女レーダーが反応している。瑞穂という名前にハズレ無し!
瑞穂ちゃんはどこだ?

両隣が空いてる席に、それらしい美少女は見当たらないぞ…
女の子すらいない…

何故かモヒカンがこちらを見ながら手を振っている。
まさか、あれが瑞穂ちゃんなのか?

クライン先生に確認してみると、そうだと言われてしまった。
俺の理想の瑞穂ちゃん像は一瞬で砕け散った…

色々と聞き易そうな優しい女の子が理想だったんだが
この世紀末の住人みたいなモヒカンの隣かよ…
「よ、よろしく…」

「よろしくな、リンクスと転入生、ヒャッハー!」
ジナイーダはモヒカンを無視して無言で席に着いた。
俺も席に着く。

「転入生は愛想が無いな、ヒャッハー!」
こいつは語尾にヒャッハー!を付けないと喋れないのか?

「この後すぐに授業が始まる。2人とも分からないことがあったら
 周りの奴らに聞いておけ。」
クライン先生はそれだけ言い残して教室から出て行ってしまった。

ちなみに俺の席は一番後ろの角で
窓→俺→モヒカン→ジナイーダ
という並びになっている。

前の席の人には聞き辛いし、モヒカンに頼るしかないのか…

★その22

午前中の授業はチンプンカンプンだった。
同じ傭兵学部だから大丈夫かと思っていたが、甘かったな…
レイヴン科の1年にしてもらった方がよかったかもしれない。

神威は休憩時間に何度か話してみたら、意外と良い奴だという事が分かった。
見た目と語尾がヘンテコなだけで案外話せる。
でも授業では俺を助けてくれそうにない、殆どの時間寝てるからな…

腹も減ったし、とりあえず学食行くか。

学食でいつもの席を探すと、古王と林檎がもう来ていた。
「遅いよ、洋平君。」
「遅いぞ、洋平~、俺はBランチな。」
こいつ本当に学食1週間、俺に奢らせるつもりみたいだ。
何の相談も無しに転科を決めたのは悪かったと思うけど…
2人分のランチ代に財布が悲鳴をあげている。

「洋平君どのクラスになったの?」
「R-2-1だ。林檎とは同じクラスにならなかったな。」
「クライン先生のクラスだね。」

「クラインのクラスかよ。」
「古王、お前クライン先生知ってるのか?」
「ああ、あいつが率いてるフライトナーズとは何度もぶつかってるからな。」

なるほど、そういう事か。
フライトナーズっていうのは生徒と教師混成の風紀部隊だ。
学園の風紀を乱す者に対しては実力行使も厭わないという噂。
普通にしている分には殆ど関わらないけど
風紀を乱しまくってる古王はよくお世話になってる訳だ。

「他の奴は大した事ないが、クラインは別格だぜ。あいつはナインブレイカーだしな。」
「ナインブレイカー?」
初めて聞く単語だ。

「洋平君、ナインブレイカー知らないの?」
林檎が驚いたような声を出している。レイヴンの間では常識なのか…

「レイヴンズ・ネストがまだあった頃にハスラー・ワンっていう人がいて
 物凄く強かったんだ。その人のACの名前がナインボール。
 初めはナインボールを倒した人をナインブレイカーって呼んでたんだけど
 いつの間にか凄く強いレイヴンに与えられる称号になったんだよ。」

確かネストって昔にあった仲介組織だよな。
潰れてコンコードが後を引き継いだんだっけ?
リンクスはカラード一択だけど
レイヴンは仲介組織を選べるから結構ややこしいんだよな。

ナーヴス・コンコード、グローバル・コーテックス、レイヴンズアークが3大手で
完全フリーとか武装組織所属、アリーナ専門のレイヴンもいると教科書に書いていた。
リンクスとはかなり事情が違うんだよな。

「へぇ~、学科長してるだけあって、やっぱりクライン先生は凄い人なんだ。」
レイヴンについて知らない事がまだまだありそうだ
憶えるの大変だろうな…

そろそろ教室に戻ろう、昼休みが終わってしまう。

★その23

午後からは『アセン構築』の授業だ。
FFで活躍しているメイルド・ブレンが特別講師として迎えられている。
この人はRリーグで『帝王』って呼ばれている超有名人。
この学園の教師のレベルの高さには未だに驚かされるな。

先生は生徒にアドバイスをして回っている。

俺もリンクス科の時に考えていた中二中距離タイプのアセンを
ノーマルで再現してみるが、あまりしっくりこない。

ブレン先生の言ってる事はレベルが高すぎて分からないしな。
まあ、基礎ができてないんだから当然か…

やっぱり気軽に質問できる友達が欲しいな。神威は相変わらず寝てるし。
前の席の女子に話しかけてみよう。
俺は彼女の肩を軽く叩いて呼んだ。

トン、トン

「イヤん!」

イヤん?何だこの色っぽい反応は?
念のために言っておくが、俺は別に変な所を触ったりしてないぞ。

よく分からんが、一応謝っておくか。
「ごめん、ちょっと聞きたい事があって。」
「いえ、こちらこそごめんなさい。驚いてしまって。何?」

「ノーマルACの事がさっぱり分からなくて困ってたんだ。」
「ネクストとは少し違うから、最初は戸惑うわよね。」

落ち着いた感じのする女の子だな。
ジナイーダさんみたいなタイプだったらどうしようかと思った。
傭兵学部は性格がキツい女の子が結構多いんだよ。

「実は私も1年の途中から学園に転入してきたのよ。
 MT乗りの学校に行ってたんだけど、何か違うなと思って。
「へぇ~、そうなんだ。」

「自分のアセンを考えるのって、一番はじめが大変なのよね。」
「そうそう、そうなんだよ。」

「私のアセン見てみる?参考になるか分からないけど。」
「ありがとう、助かるよ。」
凄く親身になってくれてる。良い感じの子だ。
彼女のアセンを参考にさせてもらおう。

どれどれ、軽二に武器腕ブレード、背中にロケット2つ?
なんだこのFCS要らずの男前アセン。

「自己紹介がまだだったわね。私はエクレール。少しは参考になった?」

⇒《デュアルブレードって言うんだっけ?いいね。》
 《男前アセンすぎて、ちょっと俺には…》
 《こんな変態アセンが参考になるわけ無いだろ。》

「デュアルブレードって言うんだっけ?いいね。」

「そう、デュアルブレード。確かネクストには無い種類の腕パーツよね。
 私が好きなのはキサラギ社のKAW-SAMURAI2っていうやつ。
 モード切替で光波を発射したりもできるのよ。
 これはちょっと当てるのが難しいからシミュレーターで特訓してるんだけど。
 自分のACを持てるようになったら先ずSAMURAI2を買うつもりよ。
 キサラギって変なパーツを作ってるイメージばかりだけど
 本当は職人気質で凄いパーツも結構あるの。SAMURAI2は正しく芸術だと思うわ。
 他の左手に装備するブレードも嫌いじゃないけど、やっぱり左右の連撃が決まっ…」

授業が終わった後も延々ブレード話を聞かされてしまった。

普通っぽい子なのにブレードの事になると目の色が変わるんだな。
今度から気をつけよう。

洋平のブレード適正が3上がった!

★その24

「今日の授業やっと終わったぜ。俺様は自由だ、ヒャッハ~!」
お前はずっと寝てただけだろうが。
「じゃあな、槍杉、ヒャッハー!」
神威は俺が返事をする前に勢いよく教室を飛び出して行った。

こいつ、座学の時間ずっと寝てたけど大丈夫なのかな。
古王みたいに実技は抜群とか?ちょっと想像出来ないんだが。
というか転科したばかりの俺が、何でモヒカンの心配をしなきゃいけないんだ。

「ふぅ…」
俺も帰ろう。

レイヴン科初日はあっという間だったな。
授業には殆どついていけなかったけど
神威とエクレールさん、話せる人が2人できたのは大収穫だった。
アセンの事は帰ったらベアトリスに教えてもらおう。

校舎を出て用務員室の隣を通った時に何か引っ掛かった。
用務員室、このプレハブ小屋に用事があったような…

ああッ!下水道で俺を見つけてくれた用務員さんにまだお礼言ってない。
転科の事ばかり考えていて、頭の中からスッポリ抜け落ちてた。

あれから1週間以上経ってるよ。
かなり遅くなっちゃったけど、お礼言いに行っとくべきだよな。命の恩人だし。
用務員さんは確かド・スって名前だったはず。

俺は用務員室のドアを開いた。
「失礼しまーす。」
返事がない、留守か?辺りを見回してみたが人影はない。

小屋の中には修理工具や資材が山積みになっている。
そして何故か巨大な射突ブレードが大事そうに飾られていた。
ネクスト用のタイプに見える。何でこんな所にあるんだろう、レプリカか?

「坊主、何か用かのう?」
後ろから声を掛けてきたのは作業着を着た男性だった。
この人、用務員さんだよな。ド・スさんの居場所を聞いてみよう。

「すみません、ド・スという名前の用務員さんを探しているんですが。」
「わしがド・スじゃ。んん?よう見れば下水道でACに乗ってた坊主じゃのう。」
この人がド・スさんだったのか。

「そう、そうです。用務員さんに助けてもらったお礼を言いに来たんです。
 あの時はありがとうございました。」
「おお、わざわざ礼を言いに来てくれたんか。
 制服が変わっとるけん一瞬分からんかったで。レイヴンになったんか?」

「はい、あの後に色々ありまして。」
「そうか…、せっかく訪ねて来てくれてくれたんじゃし
 とっつきの奥義を授けてやろうと思ったんじゃがのう。
 ノーマルのとっつきはよう分からん。」

「ド・スさんってリンクスだったんですか?」
「おお!昔はこいつでGAの奴らをようえぐったもんじゃ。」
ド・スさんは懐かしむように射突ブレードをコツンと叩いた。

「じゃあこの射突ブレードは本物なんですか?」
「本物じゃ!リンクスを辞める時、餞別代りに貰うてきた。」

特定パーツへのこだわりというか愛を感じるな。
なんだかエクレールさんと同じ匂いがする。
話し出すと長くなりそうだ。気になっていた事を先に聞いておこう。

「そういえば下水道でよくACを見つけられましたね。
 旧倉庫の近くにいたんですか?」
「いや、用務員室におったら女の子が知らせに来たんじゃ。」

「女の子ですか?」
「窓越しじゃったけん顔は見えんかったが、若い女の声じゃった。」

俺の危険を知らせて消えた女の子か。
恥ずかしがり屋?凄い謙虚?厄介事嫌い?何かしらの理由があるんだろう。
その子にもお礼を言いたいけど、判っているのが性別だけじゃ捜しようが無いな。

そのあとド・スさんの長~いとっつき武勇伝に付き合ってから家に帰った。





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