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★その18

__翌日

俺はいつもより30分早く家を出て学園に向かった。
普段は滅多に立ち寄らない棟で学園長室を探す。
「おっ、あった。」
この部屋でいいんだよな?
学園長室のドアをノックする。

コン、コン

「どうぞ、入ってください。」
「失礼します。」
ドアを開けると部屋の中には学園長とウィン・D先生が待っていた。

「学園長、彼が槍杉洋平です。」
ウィン・D先生も同席してくれるみたいだ。

「立ち話も何ですから、どうぞ掛けてください。」
勧められるままソファに座った。
流石学園長室、座り心地抜群。いい物使ってるな。
テーブルの上にも高そうな壷が飾られている。

俺はテーブルを挟んで学園長と向かい合った。
「槍杉君、今回の件はよくやってくれましたね。
 学園を代表してお礼を言わせてください。」

このでっぷりと肥っている中老の男性が学園長だ。
今では人の良い爺さんにしか見えないが、若い頃は相当なやり手だったらしい。
傭兵として勿論、アーキテクトとしても優秀で、数多くの名機を世に出している。
今の姿からは想像出来ないけど…
このAC学園をまとめているんだから当然といえば当然かもしれない。

「今日はこの件に関連して、君に話しておきたい事が3つあります。」
3つもあるのか、一体なんだろう…

「1つ目は君が止めたMTについてです。残骸や爆発物、AIから
 テロリストを割り出せそうな手掛かりは一切出ませんでした。」
足がつくような物は使われていなかったのか。

「解析は継続させていますが、恐らく進展は無いでしょう。」
結局、何も分からないと。

「ここから先は本来なら一生徒の槍杉君に話すべき事ではないのですが
 当事者である君には知る権利があると思うので話しておきます。」
学園長の顔が少し厳しくなった。

「君も知っている通り、この学園には侵入者を感知するセキュリティ網が
 張り巡らされています。当然、地下にも。」
俺が下水道内でMTを見つけた時に工事業者だと思ったのはこのためだ。
MTはあまりにも堂々と歩いていたからな。

「本来なら警備員が直ぐに駆けつけるはずでした。でも異常は知らされなかった…
 あのMTが下水道を移動している間だけ、一部の網が解除されていたんですよ。」
それはつまり…
「私は学園の職員の中に間諜がいる可能性が高いと睨んでいます。」


「そんな事が有り得るんですか?」

「残念ながら…」
学園長は本当に残念そうな顔をしている。

「この線で調査を続けていますが、簡単に尻尾を出すとも思えません。
 そういう事情もあるので、この件は絶対に他言無用でお願いします。」
事態を公表すれば、学園長と同じ結論に達する奴も出てくるだろうな。
それじゃあ学園が少なからず混乱するだろう…
「分かりました。」

「1つ目の話はこれで終わりです。」
学園長は俺の目を見て、約束を守る奴だと判断してくれたみたいだ。
人の良い顔で微笑んでいる。

「2つ目は良い話ですよ。己が身を顧みずに学園を救った功績に対して
 特別褒賞を与えたいと考えています。
 2年と3年の授業料を全額免除というのはどうですか?」

「本当ですか!」
つい聞き返してしまった。正直、これはかなり嬉しい。
死にかけた甲斐があるってもんだ。

「本当ですとも、AC学園は功績に報いる褒賞を惜しみません。」
「ありがとうございます。」
帰ったらセレン姉さんに報告しよう。

「3つ目なんですが、単刀直入に言いましょう。
 レイヴン科に転科してみる気はありませんか?」
「えっ?」
いきなりの事で、何を言われたのか一瞬分からなかった。

「ACの戦闘レコードを見せてもらいましたが
 君のレイヴンとしての資質はかなりのものです。
 ずば抜けていると言ってもいいでしょう。
 レイヴン科、学科長のクライン先生も驚いていましたよ。」
あの時は無我夢中だったけど…

「失礼かとも思いましたが、君のお父上について調べさせてもらいました。
 優秀なレイヴンだったみたいですね。
 依頼の受諾率100%、損害8%、達成率99%オーバー。
 依頼を選り好みせず、この数字は驚異的です。
 君はその血を色濃く受け継いでいるのかもしれませんね。」

父さんはそんなに凄いレイヴンだったのか、全然知らなかった…
母さんによく怒られてる駄目な父親のイメージしかない。

学園長は俺のリンクス科での成績も当然知っているんだろうな…
「つまりリンクスのセンスが無いから、レイヴンを目指してみないかという事ですか?」
学園長は少し困ったような顔をしながら答えた。

「君のリンクスとしての資質を疑っている訳ではありませんよ。
 リンクスとして大成する可能性も大いにあります。
 転科を強要するつもりもありません。
 ただ、レイヴンとして余りある才能を埋もれさせてしまうのは
 勿体ないと思ったからこの話をしました。」

急すぎて正直戸惑っている。どう答えるべきなんだ…

 《自分はリンクスになると決めていますから。》
 《才能があるのなら…、レイヴンを目指してみたいと思います。》
⇒《少し考えさせてください。》

「少し考えさせてください。」
俺はとりあえず、保留を選択した。

「そうですね、将来に関わる大切な事です。じっくり考えてください。
 一週間後に返事をもらえますか?」
「はい、分かりました…」

「話は以上です。長くなってしまいましたね。
 もう授業が始まっています。急いでください。」
俺はウィン・D先生と一緒に学園長室を出た。

「転科と授業料の件につては、私からもセレン先輩に話をしておこう。」
先生はそう言い残して行ってしまった。

あんなに嬉しかった授業料免除の事はもう頭の中にはない。
『レイヴン』と『リンクス』2つの単語がグルグル回っている。

俺はどうすればいいんだ…

★その20

学園長室での話から6日経った。

あの後、教室に戻ったが、授業には全く集中できず
クラスメイトが俺を粗製とからかう声は遠く聞こえた。
ロイ先生の事もどうでよく思え、考えるのは転科の事ばかり…
そんな状態が続いて、時間だけが流れていった。

明日、転科の返事をしなければならないのに、俺はまだ決めかねている。
リンクス科に残るべきか、レイヴン科に行くべきか…

ガシャン

「ありゃりゃ…」
久しぶりにグラスを割ってしまった。
お金を貰って働いているんだ、バイトに集中しなくちゃな。

お客が来る前にさっさと破片を片付けてしまおう。
ちなみに今BARテックスにはお客が1人もいない、開店休業状態。
閑古鳥が鳴いている…

割れたグラスを掃除しているとマスターに声を掛けられた。
「どうした、悩み事かね?」
俺は感情が顔に出やすいタイプらしい、よく姉さんにも言われる。
自覚もしているぐらいだ。

人生の先輩だし、マスターに相談してみようか。
何か良いアドバイスが貰えるかもしれない。
「実は俺…、リンクス科からレイヴン科に転科してみないかと言われてるんです。」
「2年に進級して早々、随分急な話だな。」

「たまたまレイヴンの適性検査を受けてみたら、見込みがあると言われて…」
ここらへんは暈しておこう。
「なるほど。」
「1年間リンクスになる為に勉強をしてきたのに
 急にレイヴンにならないかと言われて正直戸惑っています。」

「そうだな…、私ならリンクス科で学んだ1年を無かった事として考える。
 人生は長い、たった1年に引っ張られて判断しまうのは愚かというものだ。
 それにリンクスとして学んだ事がレイヴンになった時
 役に立たないとは限らんだろう。
 その上で、自分がどちらの傭兵になりたいのか考えるしかないな。」

リンクス科で学んだ1年に引っ張られるなか…
「ありがとうございます、マスター。」

よし、心は決まった。
「今日、少し早くあがらせてもらってもいいですか?」
「ご覧の通り今日は客がいない。構わんよ、こちらから頼みたいぐらいだ。」
マスターの優しさが目にしみる…
「ありがとうございます。」

俺はいつもより早く店を出て家に戻った。
「ただいま。」

「今日は早かったな、洋平。」
「おかえり、兄さん。」
セレン姉さんとベアトリスは2人とも居間でTVを見ている。

いつもとは違う真剣な面持ちで話を切り出す。
「2人に聞いて欲しい話があるんだ。」

2人はTVを消して、すぐに応えてくれた。
この1週間、俺が転科の事で悩んでいる姿を見てきたので
何の話か直ぐに予想できたんだろう。

 《俺、リンクス科を続けるよ。》
⇒《俺、レイヴン科に行ってみようと思う。》

「俺、レイヴン科に行ってみようと思う。」

「そうか、まあそれもいいだろう。」
意外とあっさりした反応。セレン姉さんは反対するんじゃないかと思ってた。
手放しの賛成という感じじゃないけど、怒ってはいないみたいだ…

「兄さんが決めた事だし、アタシは口出ししないわ。
 ノーマルならu-ACに近いし、アセン関係なら少しぐらいサポートしてあげる。」
ベアトリスはアセンの講師役まで買って出てくれた。
ノーマルの事は殆ど知らないので、この申し出はありがたい。

その後、今後の事を少し話してから、自分の部屋に戻った。
「ふぅ…」
ベッドの上に倒れこむ。

もっと色々言われるのを覚悟していただけに
2人の反応はちょっとあっさりすぎて拍子抜けしたぐらいだ。

正直な所、レイヴン科に移る事に不安が無いわけじゃない。
才能があると言われても、この先どうなるかなんて誰にも分からないんだからな。
俺は2人に勢いで決めた転科を止めて欲しかったのかもしれない…

コン、コン

部屋のドアを誰かがノックしている。
「洋平、まだ起きているか?」
セレン姉さんだ。
「開いてるよ。」

「ちょっと付き合え。バーで働いているんだ、少しぐらいイケるんだろう?」
ドアを開いた姉さんの手にはボトルとグラスが2つあった。

ベランダに出て、姉さんと一緒にグラスを空ける。
夜風が少し冷たい。

そういえばセレン姉さんは酒好きだが、誘われたのは初めてだな…

姉さんがゆっくりと話し始めた。
「憶えているか?お前がまだ小さかった頃、父さんのACに乗っていたのを…」
「嘘ッ、俺そんな小さい時からノーマル操縦してたの?」

「全然憶えてないみたいだな。1人でじゃない、父さんの膝の上に乗せてもらってだ。
 ガレージの周りをよく走らせていたんだよ。」
なんだ、そういう事か…

「母さんが危ないから止めろと言ってるのに、お前も父さんも聞かなくてな
 ガレージの壁を壊したりした事もあるんだぞ。」
下水道で咄嗟にノーマルを動かせたのは身体が覚えていたんだな。

「洋平はACの操縦、ベアトリスは小さいパーツを弄るのがお気に入りだった。」
昔話をしている姉さんはどこか嬉しそうだ。少し酔ってるのかな?

「父さんも2人に色々と教えるのが楽しかったんだろうな。
 ACの事以外は、てんで駄目な人だったから…」
「そうなんだ…」

「お前は知らないだろうが、父さんはかなり優秀なレイヴンだったんだぞ。」
この前、学園長に教えてもらうまで全然知らなかったよ。
「父さんと同じレイヴンを目指す…か…」

「父さんを超えるレイヴンになってみせろ。」
俺は姉さんの言葉に無言で応えた…




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