スティンガーと!はくぶつかん

とある昼下がり。
自室に三日分の新聞と、広告が置かれていた。
まったく誰だ、こんな面倒なことをする奴は。

といいつつも、カラフルな広告を見るのは、それなりの退屈しのぎになる。
ぱらぱらと捲って流し見をしていると、一際眼を引く広告が一枚。

「AC歴史博物館…ふむ、これは面倒なことになった」
心が弾む。なんだろうか、この胸の高鳴りは。
面倒だ、非情に面倒なことになったぞ。お弁当をつくらなければ。
非情に面倒だが、私を散々邪魔したあのレイヴンと、
憎たらしい無敵MTを駆るサポーターに連絡をつけて、
拉致同行をしてしまおうか。今までに無いほど妄想が活性化する。


「ふん、私も単純馬鹿か」

とりあえず、いそいそとお誘いのメールを作成することにした。



台所でサンドウィッチにはさむ具の下ごしらえをしていると、
「メエエェエェエエル!メエエェエエル!」と受信音が響き渡る。
非情に耳につくのだが、何故か気に入ってしまって変更できないでいる。

「ふむ。奴ら、やっぱりくるのか。私は面倒が嫌いだと知っているだろうに」
と悪態をついてみても、口元の緩みは抑えきれない。
今の心境を例えるならば、テックポットの上に乗って、
「俺は面倒が嫌いなんだー!」と叫びながら滑走するくらいに心が躍っている。
つまり嬉しいのだ。

嬉しさを抑制し、ゆで卵を刻んでマヨネーズとあえ、少量のオリーブオイルを垂らす。
それを焼いたパンに乗せ、もう一枚かぶせ、包丁をいれる。なかなかうまそうではないか。
トマトサンドは手間がかからない。自家製の野菜を適当に刻んではさみ、特性のソースをかける。
ふむ、これだけでうまそうだが、とりあえずパンをかぶせ、丁度良い具合に整える。

「まあ、あとはスミカがもってくるだろう」
ひと段落したところで、旋律が走った。スープを煮込んでいた鍋が、嫌な悲鳴をあげてしまう。

「馬鹿な!燃える、燃えてしまう…ファンタズマ(スープ名)…」
しくじった。これは面倒なことになった。作り直しとは…これは、面倒なことになった。




~AC歴史博物館前~

「遅いわね。あの面倒嫌い」
「彼が時間に遅れたことは無いのだが」

AC歴史博物館前で、メールの送り主を待つこと20分。
集合時間に遅れるとは、何かあったのだろうか。
面倒嫌いとは、慎重かつ効率的な人間がよく口にする言葉だ。
そのような几帳面さを体現するかのような彼が遅刻とは。
脚部でも破損したのだろうか。確かにヴィクセンの細身では、壊れやすそうではあるが。

「大体、なんで私達があいつの誘いに乗らなきゃならないのよ」
「スミカ、君はずいぶんはしゃいでたと思うのだけど」

顔を赤くして、両手をばたばたとせわしなく動かすスミカ。
「馬鹿いってんじゃないわよ、ちょ、ちょうど暇だったというか、
仕事もひと段落ついたから息抜きしたいなーと思ったというか…」

「わかった。もう何も言うな。こっちが恥ずかしい」
相変わらず、私の周りはツンデレばっかりで困る。
素直になればいいのに。

そうして喋りながら、適当な広告を眺めていると、
無愛想な男が片手に大きなバケットを持って近づいてきた。

「全く、お前らのせいだからな」
不機嫌そうである。何があったんだ。

「貴様らのせいで、私のファンタズマが…燃えてしまった」
…状況がサッパリ見えず、私とスミカは彼を呆然と見つめるだけであった。



「そうか、鍋が焦げてしまったのか」
「間抜けね、滑稽ね、まるでムラクモね」

この瞬間、レイヴンの心遣いに感慨を受けたが、
その感動を全てがスミカの罵声で台無しにされた。
こいつらはバランスよく、私にとってのプラス因子とマイナス因子である。

「心配感謝しないこともない、レイヴン。スミカ、貴様には弁当やらん」

「えええ、私なにも持ってきてないのに!」
…全く、忌々しい女だ。弁当をつくってきたのは私だけということか。
面倒なことになった。

「普通、こういうときは女がつくってくるものだろう」
つくってきておいてなんだが。
レイヴンは何とも不憫そうな眼でスミカを見つめていた。
視線に気付いたのか、スミカはがくりとうな垂れる。

「ああ、造れないのか。使えない奴だな、貴様」
ちょっと私のS心にキュンときたので、鎌をかけてみる。

「そうよ、悪い。どうせ私なんかオペレーティングと情報収集しか出来ない女よ!」
涙を溜めて訴えてくる様子を見て、大いに満足した。
ああ、素晴しきいじりやすさ。レイヴンも何やら口元を手で覆っている。
わかる、わかるぞ貴様の気持ち。

「まあ泣くな。誰にでも得意不得意があることもやぶさかではない。
仕方ない、非情に面倒だが私の弁当を食べるがいい。感謝しろよ女」

それを聞いて涙を止めて喜ぶあたり、現金な女だと再認識した。格安でお願いねとか言うなよ。



~AC歴史博物館内部~

何が印象深いって、入り口のモニュメントが大きな多眼生体兵器だったことだ。
気味が悪いのだが、段々と愛らしく思えてくる。不思議だ。
大そうな造りの門をくぐると、あちこちに凄まじい人だかりが出来ていた。

「わあ」
「これは、なんとも面倒なことになった」
レイヴンはあまりの驚きに声がでなかったらしい。

あちらこちらにMT~ACが飾り立てられ、豪華さはモーターショーの数倍。
そして威圧感と熱気は10倍をゆうに超えていた。
ここまで規模が大きいと、ドレを見ればいいかさっぱりわからない。
とりあえず、配布されたパンフレットに眼を通す。

「ねえねえ、イベント広場で何かあるらしいよ。いってみようよ!」
「スミカ、はしゃぎすぎだ」

まったくだ。子供か。まあ、確かにイベントには興味を惹かれた。
人だかりをかきわけ、イベント広場を目指してくてく歩く。

ふと見れば、いきりたって走っていたスミカが見当たらない。
はて、何処にいったのだろうかあの女。
と思えば、レイヴンもいない。全く、二人そろって迷子とは、面倒な奴らだ。

仕方なくイベント会場へ一人で向うと、左手を誰かに掴まれる。
何事かと思い、咄嗟に左手の方を注視する。

「と、突然ですまない!この人だかりから連れ出して欲しい!」
人に埋もれて、姿が見えない。恐らく、あまり身長の発育がよくないのだろう。
仕方なく手を握り、イベント会場まで引っ張っていくことにした。
まったく、面倒なことになった。



「一応お礼を言っておく、ありがとう」
イベント会場前にまで引っ張ると、人だかりは散り散りになり、
手を掴んでいた主が姿を見せる。なんともはや、年齢不詳な女だった。
顔は童顔、慎重は150前後、胸は身長にふつりあいな発育。何歳だ、こいつ。

「迷子とは、面倒な奴だな。保護者はどうした、女」
「保護者!?私は立派なレイヴンなんだぞ、子供扱いするなよ!」
噛み付かれそうなくらいの勢いだった。なんなんだ、一体。

「まあ、確かに父親と一緒にきたけどさ…はぐれ…いや、置いてきただけだ」
やっぱり迷子か。素直じゃないというか、スミカ二号というか。

「そんなことに興味は無い。とりあえず依頼は果した。さらばだ」
関わっていると面倒なことになるのは見え見えだ。
巷である程度の知名度を誇る恋愛シュミレーションゲームでは、これをフラグだというが、
私はそのような縁やら何やら面倒が嫌いなんだ。そんなものは折るに限る。

「え、そんな、ちょ、ちょっとまってよお!」
いきなりぐずりだし、泣き出す女。おいおい、これはどういった罰ゲームだ。
溜息をつき、片手に持ったバケットからサンドウィッチを取り出す。
そして、大きな口で泣く女の口に突っ込んで黙らせた。

「全く、面倒な女め。父親が見つかるまで勝手についてこい」
そうして、私は妙な女と同行するハメになった。なんて面倒。
それにしても、スミカとレイヴンは何処にいったのだろうか。

そんなことを思っていると、イベント会場のステージの方が騒ぎ出したのであった。




ステージでは、何やら勇ましい男達がレイヴンについて熱弁していた。
中でも「ジャック・O」「エヴァンジェ」と名乗る男達は、
他の人物よりも一際目立ち、輝いていた気がする。

何について語っているかと思えば、上映されたプロモーションビデオについてだ。
内容は過去スポットを浴びたレイヴン達の活躍をまとめたもので、
エヴァンジェは自分の扱いに不満をもったらしく、主宰のジャック・Oに噛み付いたのだ。

「ジャック!よくみておくんだな、私の実力を!」
そういって、なんだかよくわからないドミナント理論を発表しはじめた。
まあ、会場は盛り上がってるから空気は悪くないのだが。

「何よ」
隣で先ほど突っ込んだサンドウィッチを食んでいるこの女の存在が、
なんだかとっても非情に疎ましい。面倒な存在感であった。

まあ、もう考えることはやめようと思う。
エヴァンジェがドミナント理論の発表を終えると、補佐のトロットと名乗る男が、
「隊長かっこういい!最高!ああ、もうめちゃくちゃにしてえ!」と叫ぶ。
一体、何のイベントなのだろうか。

それに対抗してか、ジャックが立ち上がり、エヴァンジェに指さした。
「弱者は信用できんな。その理論、所詮は貴様の妄想にすぎない」
「な、なんだと」
そうして、ジャックの後方から出てきた「ゲド」と呼ばれる男に、
エヴァンジェは連行されていった。ステージ裏から断末魔が聞えたが気にならなかった。

その後は、ゲドとジャックのレイヴンやらないか講座が長々と続いた。
なんとも、濃い内容のイベントだった。
隣の娘はサンドウィッチを食べ終え満足したのか、すーすーと寝息をたてていた。


横で寝息を立てる小娘が眼を覚ます頃には、イベントのプログラムが全て終了した。
プログラム内容は、こんな感じだった。
××:××~ ジャックとエヴァンジェガチンコ討論~ドミナント偏~
××:××~ ゲドとジャックのレイヴンやらないかコーナー
××:××~ ムームお姉さんととガルお兄さんの初心者講座~お助け僚機偏~
××:××~ バーテックスの皆さんによる暗黒舞踏
××:××~ スミカ・ユーティライネンです。(間奏)
××:××~ ジャウザーのレイヴン25~ダガーでアタック・チャンス!~
××:××~ ACビンゴ大会FF

…カオスだった。結局最後まで見てしまい、仕舞いにはビンゴで当たってしまった。
授与の際は、お尻を押さえながら苦しそうなエヴァンジェが、ドミナントとの約束だ」といいながら、
眩しい笑顔でミラージュフレームACの模型を渡してくれた。どうしろと。

「ねえねえお兄さん。他のところいこうよ」
袖を引っ張る謎の女。そういえば存在を忘れていた。
「いや、私は連れを探す。お前は勝手にしろ」
そういうと、また顔を崩して泣きそうになる女。め、面倒すぎる。どうしろというのだ。

「わかった。わかったから泣くな、面倒だ」
そうして、結局よくわからない女と一緒にAC歴史博物館を見て周るハメになった。
わーとかきゃーとか騒ぐわ、無意味にあちこち連れまわされるわ、スミカとレイヴンは見つからないわ。
正直、良いことが無い。こいつの保護者は何処だ。説法をくれてやる。

ぐるる、と腹の虫が声をあげる。どうやら昼時を過ぎてしまったらしい。
恐らくレイヴンとスミカも腹を空かして鳴いているころだ。全く、あいつらときたら。




レイヴンとスミカはあっという間に見つかった。
イベント会場で私を探していたらしいが、結局イベントに見入ってしまったらしい。
「なかなか面白かったよね、特に暗黒舞踏」
この女は正直趣味が悪いと思う。良かったか?あれ。

「で、その子は一体何者だい」
レイヴンが静かに指さす。いつの間にか、私の後ろに回って、二人を睨んでいた。猫か。
「面倒な小娘だ。親とはぐれたらしい。仕方ないから連れている。助けてくれ」
すると、二人が向かい合って、視線をあわせ変な顔をしている。

「先ほど、レジーナアアアア!と叫ぶ初老の男を見かけたのだが」
「もしかして、その子の父親かな?」

後ろで顔を真っ赤にして、わなわなと拳を握っているところを見ると、
どうやら相当の駄目父さんであると理解できた。娘も苦労しているらしい。

「まあ、とりあえず貴様ら。昼飯にしようか」
そういって、片手にもったバケットを二人に見せる。
嬉しそうにおなかをさするレイヴンを見ていると、なんだか幸せな気分になる。
しかし、よだれを一生懸命すすっているスミカを見ると、げんなりする。
なんというプラス因子とマイナス因子。貴様らコンビ組め。名前は磁石。



会場を跡にし、敷地内の適当な芝生に腰をおろす。
良い陽気だ。まさに絶好のピクニック日和と言えるだろう。
シートにバケットを置き、フタを明けると、皆がおお、と声をあげた。
それほどまでに腹が減っていたのか。全く、仕方ない奴らだ。いかん口元がにやけた。

「では、いただこう。貴様らも適当に食えばいい」
そうして、タマゴサンドを食む。うむ、そういえばあのスーパーの卵は質が良かったな。
半熟ゆでたまごを刻んだおかげで、なんともまろやかな舌触りだ。

「さすがスティンガー。うまいな」
幸せを噛み締めた。
「家政夫にでもなったらどう?」
うるさい、女。
「もぐもぐもぐもぐ」
こぼすな。落ち着いて食え娘。


ふむ、なかなか至福の時だ。

食事の時間は穏やかにすぎていった。全く、面倒だが悪くない。
食休みをしていると、キョロキョロとあたりを見回す挙動不審の男がいた。
目が合った。それもすごい形相だ。
ツカツカと早足で近づき、なんだと思ったとたんに胸倉を掴まれる。

「お前、私の娘に何をした、何をした、何をしたのさああああ!」
なんだなんだ、この面倒な具合は。苦しいぞ。



「すいません。本当にごめんなさい」
とにかく謝り倒す、初老の男。間違いだと気付いてくれたのはよかったが、
あと数分遅かったら私の胃から光が逆流するところだった。レイヴン感謝する。

「なるほど、この小娘の父親か。しっかり管理しておけよ」
「キツイ言い草ねえ、面倒男」

まあ、迷子の子供の保護者が見つかったのだ。これで面倒から解放される。
そう思い安堵していたら、ひしりと私の腕にしがみつく小娘。

「私、この人と見て周るんだ!」
さらに力を入れて腕にしがみつく。なんだなんだ、この状況は。
レイヴンはなんだか微笑ましいといった具合で笑顔だ。スミカは笑いを堪えている。
くそう、まだ面倒から解放されないというのか。

「この人も困っているだろう。わがままは駄目だぞレジーナ」
そうだ、もっと言ってやれ。ついでに手から離れてくれ。
「いやだ!泣くぞ、泣いちゃうぞ!」
もう準備万全といった具合だ。目からボロボロと涙が溢れていた。
溜息をつく。どうやら、付き合うしかないらしい。

「わかった。娘の父親よ、しばらく娘を預かる」

父親の返答も聞かずに、小娘をつれて会場へ進む。全くなんでこんなことに。
隣を歩く小娘を見ると、涙で真っ赤になった眼のまま笑顔になっていた。
まあ、面倒だが子守も悪くないだろう。ふん、全く面倒だが仕方ない。



そうして、なんだかんだ面倒が重なったが、全域を小娘と周った
本来ならレイヴンと一緒に感慨に浸りながら、静かに周るつもりだったが。
会場を後にすると、先ほどの駄目な父親と二人が話をしていた。
父親がこちらに気付くと、深々とおじぎをしている。面倒な親子だ。もっと理解しあうべきだ。

「ありがとうございました。娘の面倒まで見てもらい、さらには食事まで…」
「気にするな。とりあえず、年相応の人間性を持たせることをお勧めする」

周りながら聞いたが、小娘はすでに成人をすぎているらしい。
どうみても幼児か小学生レベルの思考回路だった。身体だけ成長したのか。
父親はレイヴンだと聞くし、恐らく愛情不足だろう。全く仕方のない父親だ。

二人で並んで帰る親子を見送る。なんとも、濃い一日だった。
大半があの小娘のせいで台無しになったが、仕方ない。
次はAMIDA博物館に、レイヴンだけ誘っていこうと決意した。

「スティンガー、おつかれさん」
「レイヴン、お前だけだ私を理解してくれるのは」
スミカが微妙な表情をしていたが、私の心は幸福に満たされたのだった。






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