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「ちっくしょーーーー!!」
少年は叫んだ。
それが、今の彼に出来る精一杯の発散だったからだ。
その手には一枚の紙。赤い印が散りばめられた、所謂試験の答案という奴だ。
要するに、それが芳しくないわけで。
「いきなり隣で叫ばないでくださいよ……と言うか、近所迷惑ですよ?」
右耳を押さえつつ、大人しそうな少年はそう言う。
歩行のリズムに合わせて揺れるセミロングの金髪が、陽光を反射して眩しかった。
「そうは言ってもよぉ……この調子で俺はこの先大丈夫なのか?もう3年も中盤だぜ?」
ヒラヒラとその答案用紙を眼前にかざす。迷惑そうに腕で退け、冷静に少年は返答する。
「それはあなたがちゃんと勉強してないからでしょうが……私にそんなこと聞かないでください」
チェ、と拗ねたように答案を鞄へと仕舞う。その様子が子供っぽくて、金髪の少年はつい笑ってしまった。
不機嫌そうな目で、ショートヘアの少年は隣の友を見た。
「……どうしました?」
不思議そうな顔で、そう問う。美形と形容しても足りないほどの端正な顔立ちが、目に入る。
とくに恋人がいるといった話は聞いたことが無い。まぁ、ここまで綺麗だと逆に近寄りがたいと言うらしいが。
「……なんでもねぇよ。ところで、これからどこ行く?」
「遊ぶことしか頭にないんですねあなたは……」
「当然!!」
言い切った。

誰がどう見てもデコボココンビにしか見えない二人は、通う学校でも有名な二人組みだった。
金髪でセミロングの少年は、父が大企業の社長、つまりいいとこのお坊ちゃんということで。
茶髪でショートの少年は、どういうわけか彼の幼馴染みとして、常に共に過ごす人間として。
性格も全く合わない二人は、本当にどういうわけか、大の仲良しだった。
「あーそうだ……今度勉強教えてくれよ。お前成績いいだろ?」
「嫌ですよ……それぐらい自分でしてください。私の学習時間がなくなるでしょうが」
こんなやり取りも、二人にとってはいつものことだった。
「そういや駅前に新しい喫茶店が出来たらしいぜ」
「へぇ……行ってみますか?」
二人の日常はこうやって過ぎ去っていく。
高校生活の終わりまで後半年。
彼らはこれからも平穏に生きていく。

いつの間にか会話も無く、二人は帰路をゆっくりと歩いていた。
二人の帰路はいつもこんな感じであり、今更特に違和感は無い。
「ん?」
二人の視線の先に、黒い影が映った。そこは、豪邸。セミロングの髪を持つ少年の自宅である。
その門の前に、一台の黒い車が止まっていた。二人も幾度と無く見た光景である。
「ちょっと行って来る」
それだけ言って、少年は一歩前に進む。取り残されたショートヘアの少年は、ぼうっとその様子を見ていた。
(ミラージュの社長さんか……ほんと、わかんねぇよなぁ……)
そう、今そこにいる来客とは、大企業「ミラージュ」の社長。
この家の主とは非常に関係が深く、度々ここにやってくる。
だから、自然とその隣の家に住む彼も見慣れてしまうのだった。
(……俺には遠い存在だがな)
それでも、その様子をじっと見ていた。友を待つために。

しばらく塀に背を預け、空を見上げていた。過ぎ去る鳥の鳴き声が虚しく耳に届く。
時々ちらりと話し込む人々を見ては、すぐに視線を戻す。彼は至極退屈だった。
「はぁ」
どうしようも無く溜め息はこぼれ、このまま自宅へ戻ってしまおうかとも思った。
だが、それも出来ない。大事な話が、彼にはあった。いや、ある意味で大した話ではないが。
そうしていると、深々とお辞儀をするのが見えた。どうやら話は終わったようだ。
塀から体を離し、少年は歩き出す。向こうからはミラージュの社長が歩いて来た。
その奥では、話す親子の姿があった。それを見て、少年は足を止める。
それと同時に、彼の前に一人の男性、ミラージュの社長が立ちはだかった。
「えっ?」
「君と話すのは初めてかな」
初老の男は、確かにそう言った。彼が自分に話しかけられていると気付くのに、わずかな時間を要した。
背は自分よりも大きく、年齢を問いたくなるほどにガッシリとした体を持つ。
陽光がその巨躯に遮られ、暗がりになって表情を判別するのが若干難しくなった。
「君は、彼を待つときいつもここで見ていたね」
男は語り始める。ミラージュの社長と、一介の高校生という奇妙な組み合わせ。
「幼馴染み……それも高校まで一緒となれば、本当に一生モノの親友だ。大事にしてやってくれ」
最初、何を言っているのか意味がわからなかった。全く脈絡も無く、突然にそんな事を言われてもわけがわからない。
「彼は特殊な環境で育ったからな……君みたいな友人は貴重な存在だ」
バカにしてるのか、それとも何かを期待してるとでも言うのか。
どっちにしろ、少年にとっては全く気にもしたことの無いことだった。
それだけ言って、社長はどこかへと去っていった。少年はその後姿を見やり、すぐ視線を戻した。
「何を話してたんですか?」
「大したことじゃねーよ」
それだけ言って、鞄から一つの手紙を取り出した。
何も言わずにそれを手渡す少年。受け取った方は、キョトンとした顔で尋ねた。
「手紙……?一体なんですか?」
「渡してくれって頼まれただけだ」
今更実感する。やはりこいつは、人を惹きつける存在なんだなと。

草木も眠った深夜。ベッドの中で、男の言葉のことをずっと考えていた。
「一生モノの親友ねぇ……」
本当に、そうだと言えるのだろうか。もう半年と少しで、彼らの高校生活は幕を閉じる。
そうなったら、彼らはそれぞれの道を歩むことになる。
少年にも夢が無いわけではないし、あいつとは住む世界が違うとわかっていた。
恐らくは父の下で修行することになるのだろう。彼は長男と聞いていたし、彼が次期社長になるのは自然なことだ。
自分はそれを応援したいと思っている。住む世界は違っても、彼は唯一無二の親友だ。
ただ、彼がどうしたいかなどと聞いたことは無かったが。
夜は更ける。いつの間にか、彼も眠りの世界に落ちていた。


ちらちらと雪が降る冬。もうほとんどの仲間達は進路が決まっていた。
「私は、結局父の下で修行することになるでしょうね」
彼がそう言うと、少年は「そうか」と生返事一つしか返さなかった。
いつもの反応だったから、変わらぬ金髪をなびかせて彼は視線を戻す。
少年は、まだ進路が決まっていない。
「よしっ!決めた!」
と思った矢先に決まるのは、彼らしいと言えば彼らしい。
でも、やっぱり隣で突然叫ぶのだけはやめて欲しかった。
今からでも間に合うのかわからない。でも、進路が決まったのならばそれは喜ぶべきだろう。
微笑を湛えて、少年の方を向いた。彼は、時に悪いその口でハッキリとこう言った。

「レイヴンになる」

少年は、とりあえず己の耳を疑うことにした。
「……今なんて言いました?」
ついでに再確認もしておいた。
「だから、レイヴンになる」
「……なんでまたそんな危険な仕事に」
とても彼の口から出た言葉とは思えなかった。
でも、止めようとは思えなかった。彼の選んだ道ならそれはそれで応援する気でいた。
「やっぱ金の入りはいいしさ~。……後あれだ、お前のところの会社ミラージュと関わりあるじゃん。
だからヘレイヴンになったら間接的にお前のところに貢献することになるんじゃないかと思ってな」
本当に、そんな理由なのか。甘い考えに聞こえなくも無い。と言うか、これは甘い考えだと思った。
それでも、止める理由は無いのだ。
「そうですか……なら、頑張ってくださいね」
「おうよ!!」

少年達は、それぞれの道を歩みだした。


あれから何年だろう。
大人になった彼は、今戦場にいた。
そう、レイヴンとして。
(そんなに難しい依頼じゃない……)
ランクが高いわけではないが、何とか1人のレイヴンとして頑張っていた。
そして、彼はこれから、未曾有の騒乱に巻き込まれることになる……。

「すぐに終わらせて……なっ!!」

その時、雨が降った。

恐怖と死に満ちた……赤い雨が……。




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