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おれがやらねば だれがやる。


「これで…解放される…」
赤い焔を上げ、朽ちてゆく赤いACの中で『彼』は一人つぶやく。
『彼』には名前があった。しかし、『彼』は決してそれを口には出さない。
誰かに名乗ることもしない。
『彼』はもはや、人ではないのだから。


半年前、彼がまだ普通の人であったころ。彼のレイヴンとしての全盛期であったころ。
彼には誰よりも頼れる『パートナー』がいた。
当時としては珍しい女性のパートナーで、愛らしい容姿の若い鴉。
しかし、その腕は確かなもので、ベストランカーとも渡り合えるのではないかと思わせるほどの技量を持っていた。
彼はそんな彼女の腕を誰よりも把握し、評価し、信頼していた。
そして彼女もまた、彼を信頼し、深い敬意を抱いていた。
それが、半年前の事。
あの依頼を受けるまでは。


依頼を受諾し、任務遂行のために目的である味方基地に辿り着いた彼と彼女を待っていたのは、
事前情報を遥かに上回る敵の大部隊。
最初から気付いておくべきだった。
表側は、敵に占拠された基地の奪還。裏側は、近辺にある基地からの別働隊による極秘物資の輸送。
典型的な陽動作戦だ。だとすると2人は完璧に『囮』ということになる。
彼は、彼女に撤退するよう言った。自分もいちレイヴンとして、戦場で死ぬ覚悟はできている。
彼女に、少しでも遠くへ逃げてほしかった。
彼女に、少しでも長く生きてもらいたかった。
しかし、彼女は逃げなかった。
ただ、回線を通じて「なに一人でカッコつけてんの。バカみたい」と言った彼女の苦笑混じりの声は、
メスを入れられた脳の片隅に、今もこびりついてはなれない。

彼は、生き延びる事ができた。
彼のACは頭をもがれ、チェインガンはひしゃげ、コアに大きな亀裂が走ってはいたものの
彼は生きていた。

彼女もまた、死んではいなかった。
メインモニターのいくつもの細かな破片が全身を貫いており、すでに意識はない。
しかし、まだ息はあった。

彼女は救急ヘリに乗せられ、最寄りの『施設』に運ばれることとなった。
そこの『施設』の職員は彼にこう告げた。
「極めて危ない状態だ。非情ではあるが強化処置のやり方で手術を行う」
彼は瞬時に承諾した。
彼女と話をしたかった。
彼女と笑いあいたかった。
何より、彼女に生きてもらいたかった。

彼女と……

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『手術失敗』


4日後、その通知は端末を通じて彼の元に届いた。
にじむ視界の中で、頭の隅で小さく思った。
涙を流すなんて何年ぶりかな、と。

声を出して彼は泣いた。


5日間、彼は依頼を受けることもなく、アパートの部屋にこもっていた。
自分の部屋のこの空気を少しでも変えようとテレビをつけてみる。
電源をつけると、画面に名もしらぬ2流芸人が面白くもないトークをぶちかましている。
ここまではよかった。
その数秒後、急に画面が代わった。
そして、テレビをつけた自分を呪った。

「臨時ニュースです。本日午前8時50分ごろ、○○地区のムラクモ施設が一機のACに襲撃を受けました…」

彼はニュースの内容などどうでもよかった。なぜなら、
彼はその地区のその『施設』に覚えがありすぎたのだ。

「なお、このACは基地施設を次々に破壊し、守備隊の抵抗も虚しく…」
そこで、キャスターの後ろの画面にそのACの写真がうつった。


『彼女』のAC。


彼は反射的にネスト専用の端末に飛びつき、ありったけの情報を探した。
彼女の名前はあった。『死亡』扱いとして。
そんなはずはない…否、断じて!
彼は端末が壊れんばかりにキーを叩く。
すると。
『依頼』の欄に1つ着信があるのを見つけた。その内容は。



『暴走被験者排除』

頭のどこかでやめろという声を聞いた彼だが、
身体は既に『受諾』のボタンを押していた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「間もなく目的ポイントに到着するぞ」
ヘリパイロットの無機質な声が聞こえる。
しかし、彼の耳には入らない。
彼は、ただ会いたかった。
生まれて初めて自分を認めてくれた存在に。
こんな自分を。自分のような存在を。


――ACが、投下された。



雨が降っていて視界が悪い。
しかしその場所に、確かに彼女はいた。
こちらを見て、佇んでいる。
彼は、強制的に回線をこじあけ、彼女に話し掛けた。
――しかし、彼が聞いたのは。

「『はカイ…しテぇ」』
『「ワたし…ヲ』」


人の声ではない。ノイズがはいり、ところどころかすれた。しかし、まぎれもなく彼女の声。泣いているんだ。
顔は分からないが、感覚で分かった。
背骨を一気に引き抜かれるような感覚。
その感覚と同時に、涙が流れた。
それからは、あまりよく覚えていない。
ただ、彼女の機体のコアブロックの真ん中に突き刺さったMOONLIGHTが、いやに美しかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

俺は、人をやめた。
彼女と同じ手術を受け、その後、その施設を派手に壊して脱走した。
施設から持ち出した非公式データにより『機密』計画のための列車が存在していることも把握した。
それとほぼ同時期に、とあるレイヴンの噂を耳にした。
新人ながら、その活躍ゆえにイレギュラーとも謳われている存在
彼なら、ひょっとしたら……
一抹の望みを賭けて、音声ソフトを引き出し、ファイルに録音する。


…酷い声だった。もはや人とは言い難いような声。
気味悪がって即刻消去されるかもしれない。
……でも、たとえ一人になっても。




始めよう、最後の任務を。 }``おれがやらねば だれがやる。``


「これで…解放される…」
赤い焔を上げ、朽ちてゆく赤いACの中で『彼』は一人つぶやく。
『彼』には名前があった。しかし、『彼』は決してそれを口には出さない。
誰かに名乗ることもしない。
『彼』はもはや、人ではないのだから。


半年前、彼がまだ普通の人であったころ。彼のレイヴンとしての全盛期であったころ。
彼には誰よりも頼れる『パートナー』がいた。
当時としては珍しい女性のパートナーで、愛らしい容姿の若い鴉。
しかし、その腕は確かなもので、ベストランカーとも渡り合えるのではないかと思わせるほどの技量を持っていた。
彼はそんな彼女の腕を誰よりも把握し、評価し、信頼していた。
そして彼女もまた、彼を信頼し、深い敬意を抱いていた。
それが、半年前の事。
あの依頼を受けるまでは。


依頼を受諾し、任務遂行のために目的である味方基地に辿り着いた彼と彼女を待っていたのは、
事前情報を遥かに上回る敵の大部隊。
最初から気付いておくべきだった。
表側は、敵に占拠された基地の奪還。裏側は、近辺にある基地からの別働隊による極秘物資の輸送。
典型的な陽動作戦だ。だとすると2人は完璧に『囮』ということになる。
彼は、彼女に撤退するよう言った。自分もいちレイヴンとして、戦場で死ぬ覚悟はできている。
彼女に、少しでも遠くへ逃げてほしかった。
彼女に、少しでも長く生きてもらいたかった。
しかし、彼女は逃げなかった。
ただ、回線を通じて「なに一人でカッコつけてんの。バカみたい」と言った彼女の苦笑混じりの声は、
メスを入れられた脳の片隅に、今もこびりついてはなれない。

彼は、生き延びる事ができた。
彼のACは頭をもがれ、チェインガンはひしゃげ、コアに大きな亀裂が走ってはいたものの
彼は生きていた。

彼女もまた、死んではいなかった。
メインモニターのいくつもの細かな破片が全身を貫いており、すでに意識はない。
しかし、まだ息はあった。

彼女は救急ヘリに乗せられ、最寄りの『施設』に運ばれることとなった。
そこの『施設』の職員は彼にこう告げた。
「極めて危ない状態だ。非情ではあるが強化処置のやり方で手術を行う」
彼は瞬時に承諾した。
彼女と話をしたかった。
彼女と笑いあいたかった。
何より、彼女に生きてもらいたかった。

彼女と……

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『手術失敗』


4日後、その通知は端末を通じて彼の元に届いた。
にじむ視界の中で、頭の隅で小さく思った。
涙を流すなんて何年ぶりかな、と。

声を出して彼は泣いた。


5日間、彼は依頼を受けることもなく、アパートの部屋にこもっていた。
自分の部屋のこの空気を少しでも変えようとテレビをつけてみる。
電源をつけると、画面に名もしらぬ2流芸人が面白くもないトークをぶちかましている。
ここまではよかった。
その数秒後、急に画面が代わった。
そして、テレビをつけた自分を呪った。

「臨時ニュースです。本日午前8時50分ごろ、○○地区のムラクモ施設が一機のACに襲撃を受けました…」

彼はニュースの内容などどうでもよかった。なぜなら、
彼はその地区のその『施設』に覚えがありすぎたのだ。

「なお、このACは基地施設を次々に破壊し、守備隊の抵抗も虚しく…」
そこで、キャスターの後ろの画面にそのACの写真がうつった。


『彼女』のAC。


彼は反射的にネスト専用の端末に飛びつき、ありったけの情報を探した。
彼女の名前はあった。『死亡』扱いとして。
そんなはずはない…否、断じて!
彼は端末が壊れんばかりにキーを叩く。
すると。
『依頼』の欄に1つ着信があるのを見つけた。その内容は。



『暴走被験者排除』

頭のどこかでやめろという声を聞いた彼だが、
身体は既に『受諾』のボタンを押していた。

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「間もなく目的ポイントに到着するぞ」
ヘリパイロットの無機質な声が聞こえる。
しかし、彼の耳には入らない。
彼は、ただ会いたかった。
生まれて初めて自分を認めてくれた存在に。
こんな自分を。自分のような存在を。


――ACが、投下された。



雨が降っていて視界が悪い。
しかしその場所に、確かに彼女はいた。
こちらを見て、佇んでいる。
彼は、強制的に回線をこじあけ、彼女に話し掛けた。
――しかし、彼が聞いたのは。

「『はカイ…しテぇ」』
『「ワたし…ヲ』」


人の声ではない。ノイズがはいり、ところどころかすれた。しかし、まぎれもなく彼女の声。泣いているんだ。
顔は分からないが、感覚で分かった。
背骨を一気に引き抜かれるような感覚。
その感覚と同時に、涙が流れた。
それからは、あまりよく覚えていない。
ただ、彼女の機体のコアブロックの真ん中に突き刺さったMOONLIGHTが、いやに美しかった。

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俺は、人をやめた。
彼女と同じ手術を受け、その後、その施設を派手に壊して脱走した。
施設から持ち出した非公式データにより『機密』計画のための列車が存在していることも把握した。
それとほぼ同時期に、とあるレイヴンの噂を耳にした。
新人ながら、その活躍ゆえにイレギュラーとも謳われている存在
彼なら、ひょっとしたら……
一抹の望みを賭けて、音声ソフトを引き出し、ファイルに録音する。


…酷い声だった。もはや人とは言い難いような声。
気味悪がって即刻消去されるかもしれない。
……でも、たとえ一人になっても。




始めよう、最後の任務を。




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