レーダー上から、最後の友軍信号が消える。
―――上の連中は全滅か。
だが、俺は動く事もなくそこにいた。
そして、上に行くつもりもなかった。
死ぬ事が怖くなった訳でもなく。
こちらから出向くつもりはない。ただ、奴が来るのを待つのみ。
――――――そいつは、俺の唯一無二の親友だった男でもあった。
とある孤児院で、少年時代の俺とそいつは出会った。
それは、勉強も運動も人並にできなかった俺を唯一認めてくれた存在。
俺は、たとえそれが同情であったとしても心の底から嬉しかった。
いつも虐められていた俺に、人一倍多く、優しく接してくれる唯一の人間が奴だった。
周りからは「つり合わない」とよく言われたが、あいつは気にもしていない様子だった。
しかし、俺のほうはどうだったのだろう。
何も力のない俺が、奴に何かしてやれただろうか。
ひょっとしたら奴には俺など必要ないのではないか。
奴は勉強や運動もできる。 陽気かつ社交的な性格で周りからも好かれる。
容姿も悪くはない。
しかし自分はどうか。
何も取り柄のない駄目な男だ。
見た目も冴えず、地味で何を考えているのか分からない人間。
(うらやましい)
素直にそう思った。
今思えば、そんな感情が芽生えたころから自分はおかしくなってしまったのだろう。
―――体育の時間。
奴がマラソン大会で新記録をたたき出したときの皆からの拍手。
下の下でゴールインした俺を、奴はどんな気持ちで見ていたのだろうか。
―――他にも奴は、3期連続で試験成績の合計がトップ5に入ったことがあった。
俺はいつも、尻から数えて何番目の順位。
努力もしたし、徹夜もした。なのに。
……いつもいつもそれが続き、俺は皆の笑い者となった。
そんな俺を奴は「次があるじゃないか」と笑って励ましてくれた。
奴の本心は、一体何を思っていたんだろう。
「俺さ、実は彼女できたんだよな~」
ある日、呑気に奴が話しだす。
「…そうか。よかったじゃないか。 泣かすんじゃないぞ」
俺もとりあえずそう返しておいた。
(…そりゃそうさ。お前は何でもできるんだからな…)
その瞬間、『羨み』は『妬み』に変った。
俺は単刀直入に思った事を吐き捨てた。
「…お前には分かるまい。
デキのいいダチを持った何も良い所なしの駄目人間の気持ちがよ!」
そう捨て台詞を置いて俺は歩みを早めた。
奴は追ってこなかった。
それが最後に会った日だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
キサラギ研究所の地下深くに、俺はいた。
愛機『インソムニア』にはどこにも異常はみられない。
…俺は、何もしない。
味方部隊の支援なんか知った事ではない。
俺はただ奴を待つだけ。
俺の過去にけじめをつけるため。
奴を、越えるために。
――時は来た。
正面のゲートが開き、『奴』のACが入ってくる。
黒に近い赤と黒で彩られた細身の中量二脚。
そいつの赤いモノアイがこちらを捉える。
数秒置いて回線が開き、あの頃と比べてやや低くなった、だがどこか懐かしい奴の声が俺に向って何かを叫ぶ。
だが、今の俺にはそんなもの聞こえない。
俺はただ一言だけ、奴に言い放つ。
「越えさせてもらう、ストリートエネミー!!」
―――上の連中は全滅か。
だが、俺は動く事もなくそこにいた。
そして、上に行くつもりもなかった。
死ぬ事が怖くなった訳でもなく。
こちらから出向くつもりはない。ただ、奴が来るのを待つのみ。
――――――そいつは、俺の唯一無二の親友だった男でもあった。
とある孤児院で、少年時代の俺とそいつは出会った。
それは、勉強も運動も人並にできなかった俺を唯一認めてくれた存在。
俺は、たとえそれが同情であったとしても心の底から嬉しかった。
いつも虐められていた俺に、人一倍多く、優しく接してくれる唯一の人間が奴だった。
周りからは「つり合わない」とよく言われたが、あいつは気にもしていない様子だった。
しかし、俺のほうはどうだったのだろう。
何も力のない俺が、奴に何かしてやれただろうか。
ひょっとしたら奴には俺など必要ないのではないか。
奴は勉強や運動もできる。 陽気かつ社交的な性格で周りからも好かれる。
容姿も悪くはない。
しかし自分はどうか。
何も取り柄のない駄目な男だ。
見た目も冴えず、地味で何を考えているのか分からない人間。
(うらやましい)
素直にそう思った。
今思えば、そんな感情が芽生えたころから自分はおかしくなってしまったのだろう。
―――体育の時間。
奴がマラソン大会で新記録をたたき出したときの皆からの拍手。
下の下でゴールインした俺を、奴はどんな気持ちで見ていたのだろうか。
―――他にも奴は、3期連続で試験成績の合計がトップ5に入ったことがあった。
俺はいつも、尻から数えて何番目の順位。
努力もしたし、徹夜もした。なのに。
……いつもいつもそれが続き、俺は皆の笑い者となった。
そんな俺を奴は「次があるじゃないか」と笑って励ましてくれた。
奴の本心は、一体何を思っていたんだろう。
「俺さ、実は彼女できたんだよな~」
ある日、呑気に奴が話しだす。
「…そうか。よかったじゃないか。 泣かすんじゃないぞ」
俺もとりあえずそう返しておいた。
(…そりゃそうさ。お前は何でもできるんだからな…)
その瞬間、『羨み』は『妬み』に変った。
俺は単刀直入に思った事を吐き捨てた。
「…お前には分かるまい。
デキのいいダチを持った何も良い所なしの駄目人間の気持ちがよ!」
そう捨て台詞を置いて俺は歩みを早めた。
奴は追ってこなかった。
それが最後に会った日だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
キサラギ研究所の地下深くに、俺はいた。
愛機『インソムニア』にはどこにも異常はみられない。
…俺は、何もしない。
味方部隊の支援なんか知った事ではない。
俺はただ奴を待つだけ。
俺の過去にけじめをつけるため。
奴を、越えるために。
――時は来た。
正面のゲートが開き、『奴』のACが入ってくる。
黒に近い赤と黒で彩られた細身の中量二脚。
そいつの赤いモノアイがこちらを捉える。
数秒置いて回線が開き、あの頃と比べてやや低くなった、だがどこか懐かしい奴の声が俺に向って何かを叫ぶ。
だが、今の俺にはそんなもの聞こえない。
俺はただ一言だけ、奴に言い放つ。
「越えさせてもらう、ストリートエネミー!!」